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44.師としての証明

どうも、トマトです。

どう始めたものか、と悩んでいたらあな不思議。

こんなに時間が経っていました。

ごめんなさい。

では、どうぞ



 ルーク、レドルノフ、ミラの三人は木を伐採していた。

 自然破壊以外のなにものでもない行為だが、別にこれは彼らが好き好んでやっている訳ではない。


「うん。まぁ、広さとしてはこんなものでしょう」


 木を伐採したことによってできたスペースの広さに、一人頷くリース。

 なにを隠そう、この自然破壊をルークたちにさせたのは、彼女である。


「それで、なにするつもりだ?」


 ルークたちはアンリとのあの会話の後、すぐに旅支度を整え、国を出たのだ。

 しかし、その一日もしない内にリースは歩みを止めさせて、木の伐採を彼らにさせて、今に至る。


「組手よ、組手。今回のこの出張(?)の旅の目的は、三つよ。一つ目は、『古代遺物(アーティファクト)』の回収。まぁでもこれは、優先度は一番低いわね」


 確かに、その通りだ。

古代遺物(アーティファクト)』の回収は、アンリが王になってから早い時期に始めている。

 要するに、ルークたちがやらなくても進捗が遅れるだけ。


「二つ目は、上位種と契約をすること。けどこれも、私からすれば優先度は低いかな。あんたらにはまだ早いと思うし。アンリもそう思ってたはずなんだけど、焦ってるんでしょうね」


 これは、彼らからすれば面白くない話だ。

 分不相応の力は、身を滅ぼす。

 それはわかっているのだが、面と向かってそれを言われては面白くないのもまた事実だ。


「そして最後の、三つ目。あんたらを鍛える。これは最重要かつ、急務よ」

「それはわかったが、どうして組手なんだ?」


 稽古をつけるのは納得できる。

 何かを教えるのなら、そうするのが手っ取り早いからだ。

 だが、組手はおかしい。

 彼女は現時点でのルークたちの実力を把握している。

 なのに、実力を確かめる意味合いを兼ねた、組手をするのか。


「まぁ、確かに。私はあんたらの実力を把握してる。けど、あんたらは、私の実力を知らない(・・・・・・・・・)でしょ?」

「……あぁ、とどのつまり」

「そ。私の実力の一部を(・・・)、あんたらに教える」



 ぷっちん、と。

 何かが切れる音が、聞こえたような気がした。



「自分が師事する人間の実力位、知っておきたいでしょ? それと、私があんたらの師匠たりえるものも持ってることを、証明する」


 先の、なにかが切れる音を発したであろう原因の二人を、シュス、ミラ、ラルは見る。

 ルークとレドルノフを。


「そんな訳で、説明タイムはお終い。先手は譲ってあげるから、かかってきなさい」


 ルークとレドルノフは、“人間の領域”を超越した、一角の武人だ。

 頂点などと戯言をのたまううつもりは毛頭ないが、目の前にいる女こそがその頂点の一角を担う存在であることはわかっているが、それでもプライドはある。

 一角であるという自負がある故に、己が真っ当の常人では一生かかっても到達できない高みにいるという、自負があるから許せない。

 頂点にいる存在からすれば、貴様は全力に値しないなど言われれば。



 怒りの一つ、覚えるのは道理なのだ。





「「ぶち殺したるァ、クソ女!!」」


 ルークとレドルノフが、それぞれ全力で踏み込んだ。

 ルークは抜刀の構えを、レドルノフは全身に『気』を漲らせながら。

 それにリースは。


(乗せられやす過ぎ!? 煽り耐性ゼロか!)


 ちょっと愕然としていた。

 やる気を出してもらうために、挑発は確かにした。

 けど、これは酷すぎやしないだろうか。

 露骨すぎる挑発に、ここまでわかりやすく乗ってくるとは。


(そのあたりも、直さないとね)


 成程、確かに、誇りは大事だ。

 誇りなき強さは、軽い。

 そんなものに、意味はない。

 意味なきものには、価値がないのだ。



 だが、驕慢と誇りは違う。



 思い上がるなよ、小僧ども。

 この身は『神殺し』の資格を得た、摂理の超越者だ。

 未だ“人の領域”の外で足踏みしている半端者が、一端の誇りを持とうなどとは烏滸がましい。

 驕慢を正す方法は、至極単純。



 その驕慢の在り処を暴き、砕けばいい。



 幸いにして、在り処は割れている。

 己の実力の裡に在る自信こそが、驕慢の正体。



 そのような武骨なものが己が砕くものだというのならば、全力出さずして正面か(・・・・・・・・・・)ら討ち倒すの(・・・・・・)みで事足りる(・・・・・・)





 ルークとレドルノフの実力は、衰えているというのが現状だ。

 彼らに匹敵、あるいは上回る使い手は、世界を見渡しても数えるほどしかいない。

 故に彼らは、師が不在と言うのもあるが、停滞してしまった。

 そして武人にとって、停滞とは後退と同義。

 ずるずると下り坂を滑り落ちていき、本当に衰えてしまったのである。



 されど、侮ることなどできはしないだろう。



 なにせ一度は、“人の領域”を踏破した使い手。

 衰えたと言っても、それはその埒外の範囲の話。

 超人と名乗れる程度の実力はある。


「俺は右!」

「じゃあ、俺は左だな!」


 並走していたルークとレドルノフが、弾かれたようにそれぞれ左右に分かれる。

 そして、刹那の間も置かずにリースの両脇を取った。

 その速度たるは、音の壁を超えており、人の身を超越した者たるものだ。


散流一閃(ちるいっせん)

「おらァ!!」


 右からは、『剣聖』からの抜刀術を極限まで凝らされた斬撃。

 左からは、『紅の鋼(カリュプス・クリムゾン)』からの『気』を籠めた全霊の拳。

 並の達人はおろか、超人ですらこの攻撃を凌げるものはそうはおるまい。


「考えなしの突貫、舐めてるの?」


 しかし、リースは『神殺し』の資格を得た、“神の領域”に至った怪物。

 彼女は両の上腕をそれぞれの攻撃に、そっと添える。

 そして、くるりとその腕を回した。



 がくっ、と。

 ルークとレドルノフの体勢が崩れ、両者の攻撃が空を切った。



 化勁の技巧。

 敵の気を吸化し、流れを御し、体勢を崩させる妙技だ。

 そしてリースは、その崩す体勢すら御している。

 二人の顔が、リースの掌に覆われた。


「っふ!」



 パン!!!!!! と。

 二人の顔のど真ん中に、寸勁が撃ち込まれた。

 寸勁は、言うなればゼロ距離で放つ正拳突きだ。

 体重移動や姿勢、力の発し方などの応用によって放たれる、只の正拳突き。

 技を凝らした奥義や秘儀の類などではなく、超人の域に至らない身体能力の女の一撃。

 その取るに足りない、少なくとも、超人の域に至った者からすれば、一撃無防備にもらったとしても、問題にはならないのだ。



 ()



 ルークとレドルノフは、糸の切れた人形の如く、地に伏した。

 四肢は、痙攣するだけで、それ以上は動かない。


「どれだけ強くなろうと、所詮は人間の体。ちょっと脳を揺らせば、こんなもんよ」

「い、いてぇ」

「は、吐き気がする」


 しかし、意識が刈り取られた訳ではない。

 首から上だけは、まだ動くらしい。

 脳を揺らす、というのはある程度の技があれば誰でもできることだが、体の一部だけを未だ動かせるようにする。

 左様な絶技にして、ある種無駄を(・・・)修得している人間が、どれだけいようか。

 これを難なくしてのけるのが、リース・アフェイシャンなのだ。


「ほーら、そこの三人も突っ立ってないで、掛かってきなさい。そこの筋肉達磨には、拳士としての格の違いを見せてやったけど、そこの外道剣士にはまだ、剣士としての(・・・・・・)格の違いは見せてないんだから」


 その発言に、場にいる誰もが驚愕した。

 誰もリースが剣を握っている姿を見たことはなく、無手、あるいはナイフこそが彼女のスタイルだと思っていた。

 それ故に、驚愕する。

 まさか、剣士としても、超人以上の実力をゆうしているのか、と。


「ほ~ら、おいで~、おいで~」


 リースが手招きしてくる。

 それに三人は、こう思った。


(((い、行きたくない)))


 今地に伏している二人は、シュス、ミラ、ラルより強い。

 その二人が、二手で負けたのだ。

 降伏が許されるのなら、今すぐしたい気分だ。


「あ、降参したらお仕置きだから」


 ですよねー、というのが共通の心の叫びだった。


「ラル、私と一緒に突っ込んで。シュス、魔法で援護よろしく」

「うん」

「わかった」


 刹那、三人は動き出した。

 ミラは踏み込み、ラルがそれに少し遅れる形で追走する。

 シュスは一歩さがり、状況把握に努めた。


「一番強い人間を一番前に置き、次点を援護に、遠距離攻撃の手段を持つ人間を後方。定跡通りね、悪くない」


 リースは、そう評価を下した。

 だが、と付け加えて。



詰まらない(・・・・・)



 ミラは上段蹴りを見舞う。

 しかし、リースは指一本で止めた(・・・・・・・)

 ミラの蹴りは、常人はおろか達人ですら止めることは困難だろう。

 それを、たったの指一本で、止めたのだ。


「フィジカルは悪くないけど、あんたは所詮素人なのよ」

「りゃあ!!」


 説法をしていたリースに、ラルが横合いから殴りかかった。

 しかしそれを彼女は一瞥もくれずに、体を少し傾けるだけで回避してしまう。


「そーんな温い攻撃は、見る必要もないわよ。ていうか、気流の変化や音だけで位置は特定できるしね」


 確かに、とルークとレドルノフが頷いているが、できちゃうお前らはおかしい。

 つくづく化物だ。


「という訳で、ごめんな、二人とも」


 トン、と。

 既にいくつもの魔法陣を描き終えていたシュスが、足で地面を叩いた。



 刹那、視界を覆い尽くす程の紫電が、雨霰とばかりにリースを襲った。



 まさしく、絨毯爆撃。

 無論、そんなものが放たれれば、ミラとラルも巻き添えだ。

 故に、極限まで殺傷能力は削ぎ落としている。

 傷はつくが、絶対に死にはしないからそう言い張らせてもらう。


「……これ、実戦じゃ使えないからね?」


 リースはそう嘆息して、片腕を高く上げ、手刀の形を作る。

 そして、紫電が彼らに到達する直前に、手刀を振り下ろした。


「無手・雷霆乃太刀」



 スパッ、と。

 擬音が聞こえる程に、滑らかに、綺麗に雷が斬れた(・・・・・)



「嘘、だろ」


 シュスはもう、笑うしかなかった。

 ミラとラルは、間抜け面で口を開けている。

 それにリースは、微笑んだ。


「なに驚いてんの? 雷斬るくらい、ルークだってやってるでしょうに」

「……は、はは、そういうことか」


 ルークが、全てを悟ったかのように呟いた。

 今、彼の目にははっきりと、リースの手に一振りの刀が握(・・・・・・・)られているのが(・・・・・・・)観える(・・・)

 もちろん、今の彼女は無手だ。

 しかし、彼女は今、しっかり刀を持っている。


「剣は常に己の肉の裡に在り、ってね。私の、剣のお師匠様の言葉よ」


 剣士とは、斬ることしかできない莫迦を指す。

 故に彼らは、常に帯刀する。

 無手となったら、彼らは無力だからだ。



 だがそれは、二流までの話だ。



 一流の剣士は、人を斬るのに剣など必要としない。

 己の腕一本さえあれば、十二分。

 無論、剣を持ってこそ真価を発揮できるのが、それでも人を斬ることは容易い。

 それ故に、リースが一流の剣士たる証左。


「確かに、こいつぁ、剣士としての格は、俺以上だな」


 ルークはあっさりと、白旗を上げた。

 彼では、無手で雷を斬るなどという芸当は不可能だからだ。

 剣聖と謳われ、天狗となっていた己が恥ずかしい。

 無手で人しか斬れない(・・・・・・・)己が、師と仰げる人間が、『剣神』以外いないと息巻こうなどとは。


「さて、三人とも、まだやる? 私を師匠としては認めないってなら、そこで地べたで無様に寝そべってる二人と同じことになってもらうけど」

「「「降参でいいです……」」」

「素直ね~」


 次元が違う。

 だが、だからこそ、学ぶ甲斐があるというものだ。


「それじゃ、最初は反省会からね。あ、移動しながらね。ルークとレドルノフは、そのままの状態でついてきてね」

「「悪魔かお前は!!」」



 ただ、鬼も泣いて逃げだすようなスパルタのようではあるが。

次回からは、物語を動かす前の修業パートです。

では、また次回会いましょう!

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