43.そろそろ働け、蟻ども
お久しぶりです、トマトです。
どうやって再会しようかと悩んでたら、こんなに長くなってしまいました。
けど、ここから先はある程度具体的に決まっているのでもう少し早い投稿ペースにできるかと思っております。
では、どうぞ
リグレット王国
絶対王政を敷いている、暴君が治める小国の名だ。
今から六年前、現国王であるアンリ・クリエイロウがクーデーターを起こし、新王へとなった国の名でもある。
何故か不自然なほど、毎年豊穣であり、鉱山資源が富んだ国。
そんな国が、周りの国から狙われない理由があるだろうか?
あるはずがない。
昔は、大小問わず様々な国から戦争を吹っかけられたという。
されど、国土が踏み荒らされることは、一度もなかったという。
曰く、あの国は『天使』に護られている。
曰く、あの国は神の加護を得ている。
曰く、あの国は人外魔境である。
などと、どれもこれも現実性に欠くものばかり。
馬鹿馬鹿しい、と一蹴されるべきものである。
されど、彼の国が一度も侵略を受けていないのも、また事実。
故に今を生きる者たちは、いや、アンリ・クリエイロウが王になるまでは、彼の国はこう呼ばれていた。
聖国、と。
そんな聖国だが、いつの世にも斯様な神秘を孕むものを、土足で踏み荒らそうとする、不届き者は必ずいる。
リグレット王国、王都の中心にそびえ立つ白亜の城。
この国の王が住まう、王城だ。
その中に、黒衣を纏う一団。
「準備は?」
「万全だ」
当然、彼らはこの国の人間ではない。
そんな彼らが、この国の最重要施設にこんな夜遅くに侵入している。
方法は無論、不法侵入である。
「しかし、この国の圧倒的なまでの武力の正体。タネが割れてしまえば、拍子抜けだったな」
「世の中なぞ、往々にしてそんなものだ」
この国の警備水準は、とてつもなく高い。
なにせ関所一つとっても、最低一人は常識の逸脱の代名詞たる達人が詰めている。
警戒レベルが最大である、王城はもちろんのこと、それの非ではない。
「となると、『剣聖』や『紅の鋼』も、その実俺たちと同じ、人外共の力を借りてただけってか? くはッ、拍子抜け」
「かもなァ」
彼らは別段、声を潜めることなどしていない。
衛兵などの心配は、していない。
なにせこの回廊には、彼らしかいないのだから。
「お前、何人殺った?」
「……無駄口を叩くな」
「へいへい」
見る者が見れば、わかるだろう。
彼らの足運び一つをとっても、彼らが尋常な使い手ではないということが。
その彼らは、目的地へと到着した。
「よぉし、それじゃ」
「彼の『戯言王』とご対面だッッッ!!」
この国の王がおわす、王が詰める執務室へと。
その後の、すぐに戦闘が開始された。
しかしその直前に、こんなやり取りがあった。
「……お前ら、上位種の契約者か」
「そゆこと。けどさァ、ここの警備ひどくないか? 衛兵、一人もいなかったぞ?」
「迂闊の極み。これで、最高の警戒レベルとは片腹痛い。余程死にたいらしい」
「阿呆か。俺がここにいる。それがこの国で一番安全な場所だ。それと」
「俺の仲間を侮辱しておいて、ここから生きて帰れると思うなよ?」
☆
「う、うわァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
とある日の昼時。
リグレット王国の王城で、アンリ・クリエイロウの悲鳴が響き渡った。
「……聞いたか?」
「ああ、聞いた」
「これ、ヤバい、よね?」
その悲鳴を確と聞いたのは、三人。
ルーク・パラシア、レドルノフ・フレラ、ミラ・ディストリアの三人である。
この城の主の、ただならぬ悲鳴。
なにかがあったことは、想像に難くない。
もしかすると、襲撃かなにかも知れない。
それが事実だとすると、由々しき事態にして、ルークたちではどうしようもないことだ。
なにせ、アンリはこの国で最強を担う一角であり、その実力は彼らを歯牙にもかけない程なのだから。
「うし、行くか」
「応よ」
「うん!」
しかし、それが駆けつけない理由にはならない。
一応、ミラは違うが、ルークとレドルノフは軍人だ。
そしてそれ以上に、彼らには恩義がある。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか!!」
ズダン!!!!!! と。
音を置き去りにして、彼らは回廊を突っ走る。
途中ですれ違う衛兵は、その光景に驚くどころか、お願いしますとばかりに頭を下げる始末である。
仕事しろ、お前ら。
「着いたよ!」
「気ィ、引き締めろよ!?」
「わかってらァ!!」
アンリの執務室に到着し、彼らはドアを勢いよく開け放つ。
刹那、彼らは見た。
アンリが自分の机の前で項垂れているのを!
彼には外傷はない。
それどころか、疲労もなさそうだ。
「……おーい、どうしたんだ。あんな声出して」
「どうしたんだ、お前ら。揃いも揃って」
い、言えない。
こんな顔をしているやつに、助けにきたぞー、なんて言えない、
言ってもこいつ、首を傾げるだけだろう。
もちろん、殴りたくなるような顔で。
「ねぇ、どうしてあんな悲鳴みたいな大声を出したの?」
「あぁ、あぁ! それなんだよ! 見てくれ、俺の机を!」
言われて、三人はアンリの机を見る。
そこにあるのは、ペンや判といった書類を処理する道具しかない。
「…………?」
「「あ」」
ミラは首を傾げるが、ルークとレドルノフはそんな声をあげた。
いや、よくアンリと一緒に書類仕事をしている二人だからわかったと言うべきか。
「そうか、書類がねェ!!」
「……ああ、成程!」
言われて、ミラも気づいた。
アンリは、超重度の仕事中毒だ。
彼の隣には、ほぼ常に書類がある。
そんな彼の机に、書類がないのだ。
まさしく、異常事態だ。
「それで、同じくらい異常事態なんだが、なんだあれ?」
レドルノフの指差した方向には、ドデカい風穴が幾つも空いた壁があった。
穴の大きさは、直径二メートルにも及ぶ。
一応言っておくが、この城は非常時の際籠城ができるよう砦と言っても差し支えない程の頑丈な壁となっている。
これ程の破壊を引き起こすのは、並の達人でもとてもではないが難しい。
「ああ、これか? なんか、昨晩やってきた暗殺者御一行様を地獄への片道切符を押し売る時にやったモンだ。些事だよ、些事」
「おい、王様? それ、普通に問題だからな? 危機管理しっかりしろ」
「うわぁ、血糊べったりじゃねェか。これ、掃除のおばちゃんに叱られるぞ?」
「あ、やっべ。そこ忘れてた」
「待て待て待て待て待て待て待て待てぃ!!」
和やかに会話をする三人に、ミラが待ったをかけた。
「え、その、アンリ、その人たち、殺したの?」
「ん? まぁな」
「殺すしか、なかったの?」
「いいや。別に、捕縛もできたな。はっきり言って、あいつら弱かったし。俺を殺したいなら、あれの万倍の兵力はないとな」
さらっと彼の規格外さを感じると同時に、ミラは思う。
だからと言って、命をあっさり奪ってしまっても善いものかと。
確かに、難易度の上での話であれば、アンリは口先指先一つで、人の命を簡単に摘み取れる。
しかし、それをなんの躊躇いもなく実行するのとでは、話は別なのだ。
アンリは、命を軽く見ているのではないか?
「ミラ、そいつは違うぞ」
その考えを否定したのは、レドルノフだった。
「こいつは、命を軽く見ている訳ではない。けど、その価値観よりも、身内の方が大事なんだ」
「どういうこと?」
「大方、仲間の誰かの悪口を言われたんだろ。それをこいつは、我慢できなかった。身内に関しては、こいつの琴線は驚く程緩いからな」
「てゆうか、そんなやつでもなけりゃ、あんなふざけた理想を掲げないだろうよ」
「違ぇねェ」
「お前ら……」
二人の言い様に、アンリは顔を引きつらせる。
ミラは彼らの会話の、ある単語に首を傾げた。
「理想……?」
その呟きに、ルーク、レドルノフ、アンリは顔を見合わせる。
それから、アンリは頷き。
「そうだな。俺の書類もなくなったし、潮時だ」
☆
「そろそろ働け蟻ども」
アンリの開口一番の台詞は、それだった。
ここにいるのは先の三人に加えて、リース、シュス、ラルの三人もいる。
その面子に向かって、アンリはそう言い放ったのだ。
それに真っ先に反応したのは、ルークとレドルノフだ。
「あァン!? なに言っちゃってるんですか、クソ暴君!?」
「俺たち、お前と一緒に完徹で書類仕事してただろうが! これ以上どう働けってンだ!」
「肉体労働もプラスしてやるぜ!」
ここの労働環境はブラックというのも生温い劣悪なものだ。
ぶっちゃけ、人としての領域を踏破してしまったルークとレドルノフでなければ、とっくのとうに過労死している。
「ははは、アンリ。それ、私に対する宣戦布告かなにか?」
リースが黒い笑みを浮かべている。
実際、この国の中核を担っているのは彼女だ。
諜報、防諜、内政に外交に渡って彼女が回しているのだ。
……本当に人間なのか怪しくなってきた。
「あ、ごめんなさい。だからその手にあるナイフをしまってください」
先程までの強気はどこへやら。
完全に尻に敷かれている王の姿がそこにあった。
傀儡の王である。
「俺が、お前らに与えてた任務、覚えてるか?」
「まぁ、最近はご無沙汰だがな。『古代遺物』の収集だ」
古代遺物とは、現代の技術では再現不可能な強力な力を持ったオーパーツとも呼ばれるものである。
それは兵器と呼んで差し支えない存在であり、それが他国に存在、というより戦争をしようと考える阿呆の手にあるのは彼の理想の実現には邪魔なのだ。
「なぁ、その、アンリの理想ってなんなんだ?」
シュスが、その疑問を口にした。
それにアンリは、特に気負うまでもなく簡単に口にする。
「恒久的平和だ」
「「「は?」」」
余りにも、青臭い、子供のような夢。
そんなことは、不可能なのだ。
そんなことは、子供であるシュスとラルですらわかる。
いや、過酷に過ぎる出来事があったから、とも言える。
「まぁ、そんな目を向けられても仕方はないな。だけど一応これでも、具体的な方法はとってるぞ?」
「それが、古代遺物の収集って訳?」
「それは、やってることの一つに過ぎないな」
アンリは一部肯定し、一部否定した。
「俺が具体的にやってることは、三つだ。一つ目は、古代遺物の収集。二つ目は、人体実験を叩き潰すのと同時に、被験者の保護。そして三つ目は、“人の領域”を逸脱した超人たちのスカウトだ」
「あ、だから、ルークとかレドルノフとかいるのか」
彼らはこの国の出身ではないと言っていた。
詰まる所、彼らはスカウトによって引き抜かれたのだろう。
「そゆことだ。これらの意味、わかるか?」
「武力の集結、かな?」
「惜しいな。そもそも、人は何故争う?」
アンリの問いに、シュス、ミラ、ラルは頭をひねる。
突然な哲学的な問いだが、彼らは彼らなりの答えを出した。
「「「邪魔だから?」」」
「お前ら思考がひねくれてるな……」
アンリは彼らの答に、顔を引きつらせる。
しかしすぐに気を取り直し、答えを言ってやった。
「単純だ。『欲しい』からだ。もっと言うなら、欲望があるから」
「それだと、もう人類根絶しか方法がなくないか?」
シュスの発言に、アンリは頷いた。
「極端だが、それも一つの手だ。だから俺も、今極端な手に打って出てるだろ? 詰まる所、戦う力を奪うことでな。俺の狙いは、欲しいとすら思わせない状況を作ることに在るんだからな」
「流石暴君……」
「聞こえてるぞ、ラル」
本人としては、聞こえないように声を潜めたつもりらしいが、残念。
この部屋、案外声が響くのだ。
「けど、それだと他国が困るんじゃ……」
ミラの発言に、アンリは頷く。
「そうだな。だけど、それがどうした?」
「「「ッッッ!?」」」
アンリのその発言に、三人は息を呑む。
「はっきり言うぞ。俺はな、仲間さえ生きて笑えてりゃそれでいいんだ。他のやつらなんざ知ったことか。敵を気遣うことは、俺は一切しない。無理矢理、強制でもされてないなら、話は別だが」
アンリは、ただのお人好しではない。
これでも、一国の王だ。
能力なぞ、それこそ徹夜で書類仕事をすることと戦闘力しかないだろう。
だけどそれでも、仲間には恵まれている。
だからこそ、彼らは懸命に仲間に尽くすのだ。
甘いだけの男に、これだけ我の強い連中が集うはずもない。
理想に手を貸してもらえる、はずもなかったのだ。
「お前ら、このエゴイストに本気で協力しようってのか?」
シュスの問いに、ルーク、レドルノフ、リースは一も二もなく頷いた。
「面白いだろ? 少なくとも、俺はこいつを置いて他に実現できるやつを知らない」
「デカいことやろうとしてる。男なら、そいつが気に入ってるやつで、恩人の仲間であるなら協力するのが筋だ」
「この国を、一度ひっくり返してるんだから、それくらいはできるわよ」
清々しいまでの即答。
三人は、呆れる。
そんな彼らに、アンリは笑って問う。
「お前ら、俺の理想に手を貸してくれないのか?」
三人は考えようとして、やめた。
なにせ、他にやることも行くところもないのだから。
「俺は、手伝うよ。やり甲斐は、ありそうだし」
「私もー。面白そう」
「僕も。それで、泣く人が少なくのなら」
三人の答に満足そうに頷くも、アンリは神妙な顔をした。
それに三人だけではなく、ルーク、レドルノフ、リースも怪訝な顔をする。
「けど、最近になって、俺のやることに四つ目ができた」
「……それは、あんたが昨晩に殺した刺客に関係あるの?」
「まあな。そいつら全員、上位種の契約者だったんだよ」
「あー、配備するのまだ先だと高括ってたけど、思ったより早かったわね」
上位種とは、人間よりも『位階』が上の存在だ。
人外、と呼ばれる類の存在でもある。
例を挙げるのならば、ガブリエルがルークが知る中でも最強クラスだ。
「つぅ訳で、そろそろルークとレドルノフに古代遺物の収集と、もう一つ任務を与える。ここにいる全員、なんかの上位種と契約して来い。リースはまぁ、その上位種に適切なやつを選んでやってくれ。跡、修行もな」
「はいはい。やってやるわよ」
この会話を、内心ほくそえみながら聞いている人間がいた。
それは。
((これで、やっとデスクワークから解放されるんだッッッ!!!!!!))
デスクワークよりフィールドワークが得意な超人二人であった。
次回から、他国に出ます。
これにて、日常編はおしまい。
これから続く、シリアス祭りのための準備かつ修行と思ってください。
ふっへっへ、これからシリアス書けると思うと、涎が、おっと失礼。
後、革命編のフラグもバンバン回収していきますよ、そのシリアス祭りでは。
では、これにて。
また次回会いましょうー。




