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42.何事も分相応が一番

どうも、にがトマトです。

これにて、大天使の剣編はお終いです。


では、どうぞ。

『やっと自由になれたって言うのに、殺されて堪りますかってんですよ! 逆にぶっ殺すぞ!』


 そんな無機質で、やけに高い声が王の間に響き渡った。

 その発生源は、宙に浮いている一振りの儀礼剣。

 銘を、大天使の剣。

 それを見て、アンリが。


「よし、こいつは俺のコレクションだ」


 背後から無数の鎖を出現させて、『剣』を縛り付けた。

 それをされた『剣』は、失笑を返す。


『おやおや、どなたかは存じ上げませんが、お馬鹿さんですねぇ~。私を縛るなど不可能です。こんなものすぐに…………あれ!? 解けない!?』

「馬鹿はお前だ。たかが剣一本を縛る術を、俺が持たないとでも思ってんのか? 伊達に『神が如き者(ミカエル)』殺してねェよ」

『おや。あの方、亡くなられたんですか。くは、ざまァ!』


 なんともひどい叫びを、『剣』はあげた。

 あげたのだが、いやいや、と言わんばかりに身じろぎする。


『と言いたい所ですが、騙りも程々した方がよろしいですよ? あなた、人間でしょう。人間が上位存在、それも最高位といっても過言ではない、ミカエルに勝てるはずもない。ルシファー、はあり得ないでしょうし、けど他に誰が……』

「だから、俺だっつってんだろ。それに、あながち騙りじゃねェぞ? なにせ俺の血の半分は、『原神』のものだ」

『いやいや~、また御冗談を~』

「「「「「「《《……………………………………》》」」」」」」

『え? マジなんですか?』


 剣の表情など、当たり前だが読み取れない。

 だがもし、人間と同じ構造を持っていれば、間違いなくこの『剣』は冷や汗を流しているだろう。


『あ、いや、その、ナメた態度とってマジすんませんした。お、お願いだからお命だけはご勘弁を……』

「ははは、破壊なんてもったいないことするかよ。お前はこれから、俺の固有結界の中で飾られるんだ。無造作に」

『それコレクションとは言いませんよねぇ!?』


 全コレクターに謝れと言いたくなるような言葉であった。

 ま、そもそもこいつはコレクションとやらを武器として無造作に投げつけて使っているのだ。

 アンリを正確に表すのなら、コレクターというよりは収集家が正しいだろう。

 集めること自体が目的であり、手に入ってしまいさえすれば欲求が満たされる。

 故に『蔵』と呼べる彼の『固有結界』の中では、超がつく程の一級品の山が誇り被って乱雑に管理されているらしい。


「お前もその中の一本になる。どうだ? 嬉しかろう?」

『嬉しくなる要素がどこにもねぇ!!』


 仕方ない。

 暴君は、人の気持ちはわからないのだから。


《ま、待つんだ、アンリちゃん……》


 ルシファーが、生まれたての小鹿のように足をプルプルさせながら立ち上がり、アンリを制した。


《俺の力のこと、忘れてない?》

「あ、すまん、すっかり」

《お、お前なぁ……》


 アンリの頭の中から、ルシファーのことは完全に消去されていたらしい。

『剣』が動いたことが余りに衝撃的だったのだろう。


《た、頼む。力を返しておくれ……》

『それは困りますねぇ。私としては、これ程までの力を失うのは惜しいですし』

《そ、そこをなんとか。ないと俺が困るんです》


 平頼みしているルシファーに、リースが声をかけた。


「意外ね。あんた、さっきまで破壊しようとしてたのに」

《ああ、それはこいつに意思がないと思ってたからだよ。けど、こうして知能もあるし、心もある。それを壊すってことは、そいつを殺すってことだからな。そりゃ、躊躇いはするさ》

「だ、そうよ?」


 リースのその突然の発言に、なぜかルークとレドルノフは慌てた。

 そう、なぜか慌てたのだ。

 何もやましいことはないはずなのに、なにかを背中に隠すような動作をしたのだ。

 なーんか怪しいなぁ?


「あんたら、少しは見習ったら?」

「うるせぇ! こちとらイライラしてるんじゃない!」

「めんどくせぇからぶっ壊して何が悪い!」

《剣士さん、それ蛮族のやり方じゃない?》


 ルークの隣に立っていたパンちゃんの発言が、彼らの心を大きくえぐり取った。

 衝撃のままに片膝をつくが、誰も気にも留めない。

 その姿は哀愁を誘った。

 されど周りは彼らを他所に話しを進める。


『基を正せば? えぇ、確かに、これは貴方の力です。ですが今は、私の内にある。これでも、儀礼剣の端くれ。儀式によって内包した力を、無償で他者に譲り渡しては、面目丸つぶれ、恥さらしも良いところ。存在意義の問題なんですよ、これは』


 声音は少しばかり、ふざけたものであるが、その中には確固たる信念あるいは譲れぬものがあることが窺えた。

 それを悟ったのか、ルシファーは諦めたように肩をすくめた。


《そいつもそうか。タダで返してもらおうってのも、虫が良すぎる。それじゃあ、そいつに見合うだけの対価を差し出せばいい訳だ》

『理解が早くて助かります~。私も意固地になるつもりはありませんよ? 要は、リターンの話なんですからね』


 この『剣』、剣のくせにやけに実利的である。

 その在り方は、控えめに言って、引いた。


《てゆうか、お前を開放したって言う借りで十分じゃね?》

『それは違うでしょう。これでも外界に干渉できなかったというだけで、外の様子は見ることができてたんですよ? 私を開放してくださったのは、そこな方々によるところが大きい。その借りは、別の形でお返ししますよ』


 チィ、と凄く忌々しそうな顔をルシファーがした。

 余りにアレ過ぎる顔であったので、自主規制がかかっちゃうくらいの代物である。


「仕方ないなぁ。俺のコレクションに加えるという栄誉を」

『んなもんバットで全力で打ち返してやりますよ』

「ははは、不敬罪で打ち首にすんぞ」


 アンリの提案を、『剣』はにべもなく切り捨てた。

 うむ、中々の度胸である。

 自分が今、アンリの鎖で縛られていることを忘れているのではないだろうか。


「絞まれ」

『痛たたたたたたたたたたたたた!! と、取れます! 取れます! 取れちゃいます! なにかがなくなっちゃいます!!』


 暴君に慈悲はなかった。

 金属と金属がこすれ合う音が響き渡り、皆の心を不快にさせていく。

 例えるならそう、スプーンとフォークを擦りあわせるかのような音が一番妥当かもしれない。


《そうだなぁ。なら、俺のコレクションに》

『うるせぇ! 却下じゃボケェ!』

《なんて言い草!?》


 そりゃ、同じ提案をすればこうなる。

 それすらわからぬとは、やはり馬鹿。

 ルシファーは肩を落とし、なにかを決めたような顔になる。


《仕方ないな》

『おや? もしかして、諦めます?』

《いいや、違うね。奥の手を遣うのさ》


 ルシファーはニヒルに笑う。

 そして何故か、ミラの肩を抱き寄せた。


《ミラを好きにする権利でどうだ?》

「はぁ!?」

『お返しします!』

「お前ら勝手に話を進んめんな!!」


 ミラはルシファーの発言に素っ頓狂な声をあげ、勝手に進められていく話に異議を唱えた。

 それにルシファーは肩をすくめ、彼に耳打ちをする。


《いいから、ここは俺の口車に乗せられとけって。このままいけば、あれはお前のになるんだから》

「……む?」


 真意を図りかねたミラが、彼に続きを促す。

 ルシファーは、したり顔で続けた。


《いいか? このままいけば、『大天使の剣』はアンリちゃんのになる。無駄、つぅか肥やしになるってのがわかってるなら、契約者候補であるお前を強化する方が良いんだよ》

「なんで? アンリの手数、という観点なら、十分な強化になるんじゃ」


 ルシファーはその言葉に苦笑した。


《ンなの必要ねェよ。なにせアンリちゃんは、もう十二分に強い。なにせ確実に勝てるのは、『原神』か全盛期の俺だけだ》


 やはりこの『魔王』をして、アンリの力は脅威らしい。


《そんな訳だ。構わねェか、アンリちゃん?》

「そう言われて、断れるかよ」


 アンリの目下やるべきことは、リースやケイトを除いたルークら仲間の戦力強化。

 自身の強さを、彼ら三人はよく自覚している。

 彼らの力は、人間相手に全力で振るうには大きすぎる。

 となると、ルークたちくらいが丁度いいのだが、彼らより強い達人超人はいる。

 その点、ルシファーの言い分はそれに適う。


《てな訳だ。俺の力を返してくれ》

『えぇ、いいですとも! 契約は此処になりました!』


 いつの間にやら鎖から解放された『剣』はそう言って、勢いよく跳ねて、空中で一度静止し。



『チェストー!!』

《なんで!?》



 また勢いよく刃を向けてルシファーに突っ込んだ。

 それをルシファーは、間一髪回避に成功。

 息を荒くして、彼は叫ぶ。


《いきなりなにすんだ!》

『いえいえ、ですから、力をお返ししようと』

《今俺、刺殺されかけたよね!?》

『なーに言ってるんですかぁ』


『剣』は空中で、くるりと一回転。

 そして無機質だが、妙に高い声を響かせる。


『私があなたの力をどうやって奪ったのか、お忘れですか? 私は貴方の体を差し貫いてから、力を奪ったのです。ならば変換も、そうするというのは、当然の帰結であり、容易く予想できたのことでは?』

《ぐぬ》


 どうやら『剣』の言い分は真っ当だったらしい。

 ルシファーはなにも言い返せないのが、なによりの証拠。


《わかった。じゃあ、次はかわさない。ただ奪われる時は痛くなかったけど、返してもらう時はどうなんだ?》

『そりゃあ、もう』



『滅茶苦茶痛いです♪』

《なんで!?》



『剣』は無駄に良い声でそう言った。


『風船がありますよね? 自分の力が全部ある時ってのは、風船で言うなら、空気が詰まった状態です。ここから空気を抜く、というのは力がいらないでしょう? なにせ穴を空けるだけで、勝手に抜けていきますからね。私はその抜けた空気を回収してるに過ぎません』

《そ、それで?》

『ここからなんですけど、風船に空気を入れるとなる、力が必要になります。空気を送り込む力。風船が元に戻ろうとするのにかかる力を押し込めて、中に留まる力とね。それが痛みとなって、あなたに襲い掛かるんです』

《恐ろしい解説ありがとうございました、こん畜生!!》


 ルシファーはヤケクソになって叫ぶ。

 そうしてから、ゆっくりと深呼吸をした。


《わかった。だがせめて、覚悟を決めさせてくれ。だから、少し待ってくれ。自分から刺さりに行くから、お前は動くな》


 宙に浮いている剣に自分から刺さりに行くとは、中々どうしてシュールにして猟奇的な絵面なのだが、本人は気づいているのだろうか。


《だからお前ら、押すんじゃないぞ? 絶対に、ぜぇったいに俺の背中を押したりくれるんじゃあないぞ?》


 それに一同は頷き。



「「「「「「《《振りなんですね、わかります》》」」」」」」



 ルシファーの腹を蹴飛ばしてやった。

 彼は蛙が潰れたような声をあげて、後方へと飛ぶ。

 そして、ぐさ♪ っと『剣』が彼の胸を綺麗に貫通した。


『は~い、それじゃ、力を注ぎま~す♪』

《え、ちょ、ま、おんぎゃァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???》


 ルシファーの口から、赤子の泣き声のような悲鳴が発せられた。

 彼があんな声を出すということは、よほど痛いのだうろう。

 うるさい、というかぶっちゃけ騒音レベルである。

 どれ程時が経ったのか、『剣』は自分で、ルシファーの胸から己を抜いた。


『は~い、これで終わりました~。力はバッチリ、元通りですよ♪』

《痛い……痛い、痛いよ……》


 ルシファーが子供のように、地面にうずくまって静かに泣いていた。

 一同はそれを少しだけ憐れに思うも、すぐに忘れる。

 シュスがアスモデウスに向き直って、訊いた。


「それで、どうよ? 力は元に戻ったか?」

《えぇ、バッチリでーす☆ これは正しく、絶好調☆ 正真正銘、全盛期アッっちゃんの再誕でーす☆ んっんー、ちょっと精力湧いたので、誰かお相手願いまーす☆》


 最後の戯言を華麗に聞き流し、ルシファーを注視した。

 視線を感じた彼は、嗚咽を漏らしながらも立ち上がり、一同に向き直り。


《ちょっと待ってって言ったのになんで押したんだよ、馬鹿ァ!!》


 涙声でそう叫んだ。

 一同は再びドン引き。


《すっごく、痛かったんだからな、馬鹿ァ!!》

『そうは言いますがねぇ~』


『剣』が宙を舞いながら、能天気な声音で言う。


『私が蓄えた力を、第三者に渡した時の方が、凄く痛いんですよ?』

「どういうことだ?」


 シュスが興味深そうに訊いた。

 この中で最も弱い部類に入る彼女だからこそ、なのかもしれないが。


『いえですね、さっき例えに風船を出したじゃないですか? それと同じですよ。ある程度膨らんだ状態の風船に、さらに空気を入れたら、無理がたたるでしょう? しかも悪いことに、あまりに不釣合いの力を流し込んだ場合、風船が破裂する、みたいにその第三者は死ぬことになる』


 余りにも恐ろしい説明に、ミラが顔を青くする。

 そう言えば、これの所有権は彼に渡るのだった。

 うん、こんな恐ろしい武器使いたがるやつはいないだろう。


『そ~んな訳で、以上が私の性能です。これからよろしくお願いしますね、ミ~ラさん♪』

「ひぃ!?」


 宙を漂ってきた『剣』に、そんな声を漏らしてミラは後ずさった。


『いいですね~、いいですよ~。その反応は、私の嗜虐心をくすぶります!』

「わ、私は男だよ!」

『フォォオオオオオオオオオウ!! 詰まり男の娘なんですね!? 最ッ高じゃないですか!! グレートですよ、あなたは!!』


 この『剣』、間違いなく変態である。


「やだぁ! 誰か、これもらってよぉ!」



 そして、ミラによる『大天使の剣』の押し売りが始まった。

 されど受け取る者は、誰もいなかった。


さて、次からはみんなを強化していきます。

それらがずっと続いていき、後は革命編をフラグをガンガン回収していきます。

そこからが、面白くなっていきます、いえ、面白くしていきますとも。


では、ここで。

また次回に!

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