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37.人は恨みを中々忘れない

 ルーク・パラシアは、死んだように地面で伸びていた。

 全身ボロボロで、死にかけである。

 彼をここまでボコボコにした犯人ことリースは、彼の頭を足で踏んでいる。

 ……おい、そこで羨ましそうに見てるやつ、代わってやろうか?

 額を地面に擦りつけるの、凄ェ痛いぞ?


「ねぇ、ルーク。私はねぇ、よくわからない国出身の三人組を身元保証人に引き渡してきたばかりなの。それなのに、なーにあんた仕事増やしてくれちゃってるのかしらー?」

「ご、ごめんなさい……」


 ルークはここで、乱闘騒ぎを起こしていた。

 狼の獣人と赤髪の少女が相手だったのだが、ルークはほぼ一人で大立ち回り。

 シュスも序盤は参加していたのだが、パンちゃんに首根っこ掴まれて戦闘から強制退場させられた。

 惜しかったなぁ、もう少しで勝てたのに。


「リースが乱入さえしなければがががががががががががががががが!?」

「え~? なんだって~?」

「なんでもないです! ごめんなさい!」


 件の狼の獣人と赤髪の少女は、リースが乱入するなり逃走した。

 自分たちを打倒しかけた男を、あっという間に無力化するような人間が来たのだから、仕方ないかもしれないが。


《そんなことより、そろそろ行こうぜ? 力が俺を待ってる!》

「そうね。けど、思わぬ足止めを喰らっちゃったわね、ほんと」


 ルシファーはリースの言葉に、ガッツポーズをする。

 ちなみにルシファーとレドルノフだが、なぜかリースが捕まえたよくわからない三人組の身元保証人とやってきたことで合流したのだ。


《それじゃ、俺のこと護ってね! 転移!》

「え? やだ」

《え?》


 刹那、七人の姿はその場から消えた。





 天界は言うなれば、お伽噺のような世界だった。

 雲のような大地に、神殿のような建築物が多数存在している。


「うーわ、なんだこれ、すっげ。雲なのに、足場としてしっかりしてる」


 ルークは雲を踏みしめながら、そう呟いた。

 感触としては、中身がしっかり詰まった固めの綿に近い。


「天界って、『天使』だけが住むにしては優良過ぎる物件だな」

「ああ、それは違う。『天界』に住んでいるのは、『天使』だけではなく『神』もよ。『天使』というのは元来、『神』の手足なんだからね。まぁ、今は自我を持って独立している状態だから、住み分けがされてるんだけど」

「つぅことは、『神』も探せばいるの?」

「いるらしいわね。天界にいる(・・・・・)『神』には会ったことないけど」


 そんな会話を交わし、一同は無視し続けていたことにようやく目を向ける。



 挙動不審に陥って周りを見回しまくる『魔王』に。



《ヤベェよ、天使がいっぱいだぁ》

「「「「「「いや当たり前」」」」」」


 ルシファーは『天敵』たる『天使』がたくさんいる場所なのだ。

 護ってくれると信じていたリースは、まさかの護らないよ宣言。


《どうして私を護ってくれないのよ!?》


 お前に『魔王』としてのプライドはないのか。

 生娘のような絶叫を挙げたルシファーに、リースはこう言った。


「馬鹿ねぇ。私一人で、『七天使』をまとめて相手できるはずないでしょ?」

「あの、さらっと俺たち戦力外通告されたんだが?」


 ルークは頬を引きつらせている。

 そんな彼にリースが向けたのは。


「はっ」


 嘲笑であった。

 それはあんまりじゃね?


「三割しか力を発揮できてないルシファーに負けるあんたが、どうして戦力に数えられるの?」

「ぐぬ!?」

「という訳で、ルシファーは自衛頑張って」

《いやいやいや!? 『七天使』のあの三人相手ならともかく、『四天使』のうちの一人と会ったらそれで俺詰みなんですけど!?》

「それなら悲報なんだけど、私はその『四天使』の一角にこれから会いに行くから」

《Nooooooooooooooooooooooooooooooooooooon!!》


 ルシファーは崩れ落ちた。

 そして、それがいけなかったのだろう。



 しゅるり、と。

 荒縄で作られた輪が、ルシファーの首にかけられた。



《なにこれ?》


 ぎゅっ(ハート) と優しく、されど力強くルシファーの意思を無視して輪が彼の首を絞めた。

 ルシファーは蛙が潰れたような声をあげる。

 刹那。


《ヒャッハー!!》

《イヤッフー!!》


 モヒカン頭と言う『天使』にあるまじき世紀末ヘッドの天使二人組が、奇声をあげながら輪に繋がった荒縄を手に走っていく。

 そうなると当然。


《ふぇぶ!?》


 ルシファーは物理法則に従い、荒縄輪っかに首を絞められながら地面を引きずられていく。

 ふむ、二人掛かりとはいえ成人男性を人力で引きずっていく膂力は見事。


《お助けェェェええええええええええええええええええええええぇぇぇ……》


 ルシファーの声はとうとう、聞こえなくなった。

 そして、視界に捉えることができなくなる程の距離まで、連れて行かれてしまった。


「あれ、本当に助けなくていいのか?」

「いいでしょ。どうせ三下じゃあいつを殺すのは無理だしね。最後には、天使長のところに持っていくはずよ。そこで引き取ればいい」

「成程…………天使長のミカエルって、アンリが殺したんじゃ?」





 天界に存在する、神殿に一人の『天使』がいた。

 流水が如くまっすぐ腰まで伸ばした光沢すら浮かぶ程の艶を持った金の長髪に、宝石を思わせる青の瞳を宿した、女の天使。

 顔立ちは恐ろしい程までに整っており、作り物とすら錯覚するほどの黄金比だ。

 服装は、深いスリットが入った貫頭衣だけという簡素だが、理想的とまで言えるスタイル故どこか背徳的な色気を醸し出している。

 彼女の名は、『神の力(ガブリエル)』。

神の如き者(ミカエル)』亡き後、天使長として後釜に据えられた天使である。

 彼女が天使長に据えられた理由は単純明快。



神の力(ガブリエル)』が『神の如き者(ミカエル)』の次に強いから。



『四天使』は元来、火、水、木、風の『四大元素』のそれぞれを司っているというイメージがある。

 確かに、それは正しい。

 しかし『天使』には、与えられた役割と言うものがある。

 例えば、魂を導く先導役、罪人に沙汰を降す断罪役、神に仇なす者への破壊役など。

 もちろん、『四天使』にもそれは存在し、その一角たる『神の力(ガブリエル)』もその例に漏れない。

 して、その彼女の役目とは、神の意志を届けるメッセンジャーだ。

 荒事に向いていないのでは、と考えるかもしれないがそうではない。

神の力(ガブリエル)』は一晩のうちに、神に暴虐を働いた者たちの町を壊滅させたのだから。

 そんな彼女は今。



 爆睡していた。



《zzz……zzz……しゅん……………………zzz》


 ガブリエルはテーブルに突っ伏し、それはもう幸せそうな寝顔で爆睡している。

 そんな彼女を。


《……………………(←無言で額に青筋を浮かべている)》


『四天使』が一角、ウリエルが見ていた。

 ガブリエルと同じ美しい金髪を逆立てており、虹色の瞳を宿しており、服装は下半身は袴のような構造をした貫頭衣。

 彼は書類仕事の手伝いをガブリエルから頼まれて、こうしているのだが、頼んだやつが手伝ってるやつを置いて寝るとはどういう了見か。

 ウリエル?

 聞いたことがないだと?

 仕方ない、解説してしんぜよう。



神の火(ウリエル)』。

 彼もまた『四天使』の一角であり、司る属性は『土』。

神の火(ウリエル)』なのに司る属性は『土』なの? と思うかもしれないが、『火』は『神の如き者(ミカエル)』に取られてしまっているのだから仕方がない。

 彼の『天使』としての役割は、罪人を火で焼き払うこと。

 話は変わるが、『七天使』や『四天使』とは、ただの呼び分けに過ぎない。

 他の『天使』たちとは一線を画す七人の天使を『七天使』と呼び、さらにその中でも力が強い四人の天使を『四天使』と呼ぶ。

 そしてその呼び方の中に、『三天使』というものがある。

『三天使』として数えられるのは、『神の如き者(ミカエル)』、『神の力(ガブリエル)』、『神の薬(ラファエル)』。

 そう、『神の火(ウリエル)』ははみ出てしまっているのだ。

 故に彼の知名度は低いのだ。

『神の火』なのに土を司っているから、『神の火(笑)』と呼ばれちゃうのだ。

『三天使』に比べて知名度が低いのだ!



 そんなウリエルは、ガブリエルを見て腹を立てていた。

 故に。


《少し、悪戯をしてやるか》


 先に言っておくが、いやらしいことは一切やらない。

 やったら殺されるからである、いや、冗談抜きで。

 だからノリとしては、寝起きドッキリ程度だ。


《よっこいしょ》



 パキン、と。

 ウリエルは刹那の間も置かずに氷漬けにされてしまった。

 そう、さながら、琥珀の中に囚われた蚊のように!



《zzz……すぅ》

《………………………………》


 ウリエルはこう思った。

 こいつ起きてるんじゃないか? と。

 でないと、窒息しないように氷の中に自分が空洞に覆われている理由がわからない。


《ゴラァ!! 出しやがれェ!!》

《zzz……zzz……》


 因みに、ウリエルの声は外界に響かない。

 氷の中にいるんだから当たり前である。


《ん?》


 ウリエルは何か気づいたのか、そんな声をあげた。

 正確には、ガブリエルに近づく影を見て。

 そして、にやりと天使にあるまじき邪悪な笑みを浮かべる。

 その笑みは、言外にこう語っていた。

 我が意を得たり、と。



 パァン!! と。

 クラッカーがガブリエルの眼前で爆発した。



《よっし!!》

《きゃあ!?》


 突然の爆音にガブリエルは驚き、椅子ごと後ろへと盛大に転んだ。

 余程驚いたのか、その拍子にガブリエルの氷も砕け散る。

 脱出できたことと、ガブリエルの鼻を明かした二重の喜びでウリエルはガッツポーズ。


《いたたたた……》


 腰を強かに打ったのか、腰を擦りながら涙目の上目遣いでクラッカーを爆発させた犯人を睨みつける。


《なにをするんですか、リース!》

「あは、寝起きドッキリ♪」





 ガブリエルとウリエルが出したお茶をいただきながら、ルークら五人は天界に来た理由を彼らに説明した。


《ルシファーの力を封印した、『大天使の剣』を探しにですか?》

「そ。ここには、十個の内の四個があるの」


 正直に説明したリースに、ルークたちはぎょっと面食らう。

『天使』と『悪魔』は仲が悪い。

 ていうか、不倶戴天の怨敵のはずだ。

 しかしリースは、それを否定する。


「それは誤解よ。『悪魔』っていうのは、司っているものが『悪』なので、存在そのものが『悪』っていう訳ではないの。まぁ、『天使』も『善』っていう訳でもないけどね」


 リースの含みのある言い方に、ガブリエルとウリエルは苦笑した。


《あれは与えられた役目を全うしていただけですよ》

《そうそ。だから俺たち、人間の政には不干渉だったろ? 俺たちは、ただ上層部に食い込んでただけだよ》

「まぁ、わかってるけどねぇ」


 リースは口をとがらせながら、ルークたちに向き直った。


「話を戻すわよ。存在そのものが『悪』でないし、『善』でもない、いわゆる中庸ってやつ。『天使』と『悪魔』ってのは、『神』から役目を与えられた歯車でしかない。けど、歯車が意志を持った。そして、別に敵対しなくてもいいってことに気づいたの。まぁ、個人的に仲が悪かったりするけどね」

「ん? それなら、どうしてルシファーはここに来たがらなかったんだ? 別に敵対してる訳じゃないんなら、危険はないだろ?」

「ああ、それはね」



《ぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???》



 簀巻きにされてズタボロにされたルシファーが、部屋に投げ込まれた。

 彼をリンチしたであろう『天使』たちが、涙目で叫ぶ。


《返せよ! 返せよ! お前がヘマして吹き飛ばした俺の研究成果を返せよォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!》

《私が集めてたコレクションも返しなさいよォ!!》

《お前のせいで彼女と破局したんだから、責任取れやァ!!》


 恨み辛みを叫んでいた。

『天使』のイメージが総崩れである。


「とまぁ、こんな感じに『天使』時代に馬鹿した時の報復を恐れてたって訳」

「…………」


 ルークはガブリエルとウリエルに向き直る。


「もしかして、お前らも?」

《まぁ、当然》

《あるに決まってるだろ?》



『四天使』の二人が、『魔王』に恨みを晴らすべく席を立った。

むーん、難しいです。

革命編のことがあるから、下手なこと言えないってのが難しいです。



では、また次回。

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