バレンタイン特別編
ギリギリで申し訳ない。
書き上がったの、今なので。
バイト辛くて、疲れて、只今にがトマトはハイってやつだァ!
バレンタイン
その日がくると、人間は二種類に分かれる。
女性からチョコをもらい、喜ぶ者。
もう片方は、もらえず嫉妬と羨望に狂う者だ。
さて、そんな話は路傍に置いておいてだ。
リグレット王国の話をしよう。
この国は、アンリ・クリエイロウが国王になってから、他国から三度侵略戦争を仕掛けられてからというもの、平和そのものである。
戦争はおろか、紛争すら起きていないのだ。
それはなぜかというと、この国が大陸一の軍事大国であるから。
一兵士をとっても、他国からすれば精鋭兵クラスの練度を誇り、達人クラスもゴロゴロいる。
極めつけに、“人の領域”を超越した超人こと『剣聖』と『紅の鋼』という単独軍隊までいるときた。
喧嘩をするだけ損なのである。
こんな国でも、もちろんバレンタインというイベントは行われている。
このイベントでは、あるルールが定められている。
なに、たったの一つの、シンプルなルールだ。
将軍階級を持つ者は、この日人を殺してはならない。
これを定めたのは、もちろん国王のアンリ・クリエイロウだ。
さて、どうしてこんなルールを定める必要があったと思う?
それはだ。
☆
「ああ、相変わらず多すぎて嫌になるな!!」
大量のチョコを背中に背負ったレドルノフ・フレラは、そう口汚く叫んだ。
その彼の背後には、まるで死んでいるかのように人の山が折り重なっている。
周囲を取り囲むのは、味方であり、同僚であるはずのリグレット王国軍の兵士たち。
彼らは何かに憑りつかれたように眼を血走らせて、本気でレドルノフを殺しにかかっている。
「モテ男死ねェェェええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
「殺せェェェえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
「元最強の傭兵がなんぼのモンじゃァァァああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
それぞれの武器を手に、縦横無尽に四方八方から踊りかかり、時にはレドルノフの意識を攪乱しにかかる。
普段命を張って仕事を共にしてるだけあって、連携はお手の物。
しかも、個の練度も高い。
最低が他国でいう精鋭兵なのだから、それ以上の妙手や達人も当然ゴロゴロいる。
「今日は皆楽しいバレンタインのはずだろ!? どうしてテメェら、同僚であり上司である俺を殺しにかかるんだよ、クソッタレ!!」
「「「「「楽しいのはテメェらモテ男だけじゃァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」」
リグレット王国軍と言えば、花型の職業なのだ。
その中でも将軍職は、お偉いさんのお偉いさん。
となると当然、モテる。
そう、アンリが将軍職がこの日人を殺してはいけないというルールを定めたのは、男たちが彼らに襲い掛かるからだ。
主に嫉妬と羨望で。
「クソが、どうして俺に刃を向ける!? 俺、人望あるって聞いてんのによ、あれは嘘か!?」
「それとこれとでは、話が別なんじゃ! 女性隊員から人気クソあるだろうが!!」
「そうだな! 今年もビックリするぐらいもらったぜ! ……少し分けてやろうか?」
「死ね! 死ね!! ホントに死ね!!!!!!」
「俺の厚意が踏みにじられた!?」
レドルノフはそんな軽口を叩きながらも、部下たちを千切っては投げー、千切っては投げー。
「どうしてだよ!? 俺はチョコをここにいる全員に配っても余る程あるんだ! これを食って一緒に絆を深を」
「それは遠回しな自殺願望と取っていいんだよな、筋肉野郎ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「何故だ!?」
余談だが、ここにいる隊員の数は軽く百を超えている。
「こいつら、本気で殺しにかかってやがるな……こうなったら、ここにいるやつらを全員」
「今日はテメェを俺の刀の錆びにしてやるよォ、プロテインさンよォ!!」
「テメェもいるのかよ!?」
レドルノフは斬りかかってきた刀使いこと、ルーク・パラシアにそう叫んだ。
「テメェ、今日は将軍職に就いてるやつは人殺しちゃいけないってのを、忘れたのか!?」
「安心しろォ! 俺が斬りかかってるのは、筋肉達磨だ! 人間じゃァない!!」
「テメェだけはブチ殺したるァ外道剣士!!」
レドルノフはルークに対してだけ殺意をもって拳を振るい始めた。
拳と刀の応酬の中、二人は言葉も交わす。
「テメェ、どうしてそっち側にいるんだ!? 確か去年、チョコもらってただろうが!」
「そうですね! だが今年はなぜか、もらえなくなっちまンだよ!」
それは自業自得だ。
去年はまだルークの人となりを知らなかったからであり、それが割れたからである。
外道にアプローチしたい女性など、いないのだ。
「援護するぞ、ルーク中将!!」
「全力で殺せ!!」
レドルノフは、冷や汗をかく。
流石にこの状況はマズい。
並の攻撃であれば、レドルノフの『硬功』を以てすれば無に等しい。
しかし中には、決して無視できない攻撃もあるのだ。
そしてルークの一刀は、その無視できない攻撃の筆頭である。
この状況を打破するには、どうすれば。
刹那。
《剣士さ~ん》
てとてと、と。
年の頃は十二歳で、水色のツーサイドアップに琥珀の瞳の美少女が歩いてきた。
二柱目のパンドラこと、パンちゃんである。
彼女の服装はいつもの蒼色のドレスではなく、茶色と白のチェック柄のワンピースに身を包んでいる。
その彼女の手には、二つの包装がある。
「あ? どうした? 今俺、この筋肉殺すのに忙しいんだが」
《はいはい、いいからこれ》
パンちゃんは、ルークに二つの包装を半ば強引に渡してこう言った。
《ハッピー、バレンタイン♪ シュスの分もあるわよ♪》
時が止まった。
ルークに視線が集まる。
当の彼は、冷や汗をかいている。
そうして。
「皆、話をすればわ」
「「「「「殺せェェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」」」」」
「手を組もうぜマッチョくぅん!?」
「そのまま死んどけ外道剣士が!!」
そう口汚く罵るが、二人は背中を合わせて対抗し始めた。
少しでも楽がしたいが故である。
そのまま十分してからである。
「なァ、ルーク」
「なんだ?」
「これ、本気過ぎないか?」
ふと、疑問に思ったことを口にした。
そう、ちょっとこれは本気過ぎるのだ。
去年であれば、眉間に銃弾をぶち込むだけで終わってた。
それなのに、各々の得物まで取り出してまできている。
こいつらは、銃を使うよりも訓練をしてきた武器を使う方が断然強い。
それをわざわざ取り出してきたのである。
しかもその数は、どんどん増えている。
「って、危ねェ!?」
「チッ、口惜しい」
「おい、今お前なんつった?」
「あ?」
「お?」
レドルノフだって、わかってる。
これは、無礼講なのだ。
これを口実に上司に対する鬱憤を吐きだすための、だ。
それをわかってるからこそ、彼はご丁寧にチョコを背負ってここにいる。
「オラァ!!」
「ぐぼぁ!?」
レドルノフは最も密度が厚い場所に、ルークを蹴飛ばした。
今の彼は、無防備の隙だらけ。
練度が無駄に高い、こいつらが無駄にするはずがない。
「死にらせやァ、ロリコンがァ!!」
「ブチ殺しちゃるァあ!?」
「ぎゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
無事ルークをリンチにさせて、レドルノフは防御と回避に専念する。
そいつで無礼講を楽しんでくれ。
彼がリンチを堪能していること、三分。
「テメェら、無礼講にしても無礼が程あるだろうがァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ルークがブチ切れた。
何人もの隊員が木端のように吹き飛ばされ、ちょっと心配になる。
誰も死んでなければいいが。
「ったく、あいつやり過ぎだろ、が?」
レドルノフはひらりと舞った、紙の一切れを目にとめた。
それには、こう書いてあった。
『中将以上のやつに一発入れたらチョコを、あ・げ・る❤
byリース・アフェイシャン』
レドルノフの中で、熱が急激に冷めた。
あァ、そうかい。
これ、テメェが原因かよ。
ふーん、そうかそうか、成程成程。
「リィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイス!!!!!!」
レドルノフの慟哭が、庭園に響いた。
さて、次回でようやく天界ですな(これ前回も言った)
では、また次回に会いましょう!




