36.あー、困ります、汚客様。あー、困ります
どうも、にがトマトです。
みなさん、お久なのですよ。
バイト、辛たん。
癒しをくれーい。
ルーク、レドルノフ、ルシファーの三人が泣き止んだ所で、リースは言う。
「それじゃ、そろそろ天界に行くわよ」
《……どうかタコ殴りになりませんように》
ルシファーは切に願いを呟いた。
そんな時であった。
「またお前か、もういい加減にしろ!!」
「我が姫、どうして俺の愛を受け止めてくれないのです!!」
「わぁ、待つんだ、ナナ!! 流石にその威力はこの場でぶっ放すのはマズい!!」
乱闘騒ぎが起こっていた。
いや、乱闘というか、女性が一方的に攻撃して、男が逃げ回ってるというべきか。
「……身のこなしは拙いが、ありゃ実戦を知ってる動きだな。どうする? 園員じゃ手が余るぞ?」
この遊園地の園員はある程度の荒事を解決できるだけの、腕っぷしがある。
だが、それは所詮チンピラやゴロツキを制圧できる程度でしかない。
実戦を潜った戦士が相手となると、荷が勝ちすぎる。
リースはため息をついた。
「私ができるだけ穏便に済ませしょう。それまであんたたちは、そうねぇ、適当に遊んでなさい」
《え!? それじゃあ、遅れが生じるんじゃねェの!?》
ルシファーが異議を申し立てるが、ルークとレドルノフは内心ガッツポーズをした。
短い間とはいえ、休むことができるのだ。
これを逃す手はない。
「それじゃ、俺は適当にアトラクション周るぜー」
ルークはそう言って、さっさと歩き出した。
それに、シュスが慌ててついていく。
「俺は、その辺ぶらつかせてもらうわ。堕天使、テメェもこい」
《え!? なんで!?》
リースに余計なことを吹き込む前に、レドルノフがルシファーを連れて行った。
彼らを見送ったリースは、ミラとラルに向き直る。
「あんたたちも、どこか遊んできなさい。後で迎えに行くから」
「うーん、私はリースについてくよ」
「僕も~」
リースはため息をつく。
「わかったわよ。危ないかもしれないから、手を出さないように」
「「は~い」」
リースは少し歩きだし、乱闘の現場の近くに立つ。
そして。
パァン!! と。
乾いた音が響いた。
その音に意識が持っていかれた、乱闘の原因となっている三人はリースに向き直る。
柏手と呼ばれる、神道における作法の一つだ。
邪気を払うなどの意味があり、動作は拍手と変わらない。
まぁ、大きな音を出すための工夫がいくつかあるのだが。
なにはともあれ、意識を自分に向けさせることに成功したリースは、三人に向かってこう言った。
「周りの人の迷惑になってるから、ちょっとこっちにきてくれる?」
有無を言わさぬその笑みに、三人は気圧されて大人しくリースについていくのであった。
☆
ルークとシュスは、無言で歩いていた。
しかし、沈黙しているという訳ではない。
なぜなら。
《剣士さ~ん、どうして黙ってるの~? ねぇ~ねぇ~》
ルークの肩に乗っている幼女が、彼の髪の毛を引っ張ったりしているからだ。
年の頃は十二歳で、水色のツーサイドアップに琥珀の瞳の美少女である。
二柱目のパンドラこと、パンちゃんである。
彼女の服装はいつもの蒼色のドレスではなく、茶色と白のチェック柄のワンピースに身を包んでいる。
《ここ、遊園地なんでしょ~? なにかアトラクション~》
「うるせぇ! それと髪の毛引っ張るな!」
「…………はぁ」
そんな三人だったのだが。
「ほんと、最低ね! さっきから幼女ばっかり見て!」
「落ち着け、ロジィ」
言い争いが耳に入った。
言い争いの原因は、一組の男女。
男は長身で、黒のコートとズボンという服装の組み合わせに、顔立ちが整っている。
なにより目を引くのは、男の頂点に生えている獣耳。
キツネ先生以外で、動物の耳が生えてる人間初めて見た。
あの耳は、狼だろうか。
「もしかして、浮気を疑っているのか? だとしたら誤解だ。俺はロジィ一筋だし、心は浮ついてない」
……どうやら、根っからのロリコンらしい。
「美形が勿体ない」
女は黒い猫耳のような突起がついた帽子を被り、カッターシャツの上にエプロンドレスを着た幼女である。
髪は紅のように赤く、腰まで伸びており、瞳は宝石のような赤を宿している。
名前はロジィというらしい。
幼女こと、ロジィは男の言葉を鼻で笑った。
「いけしゃあいけしゃあとは、まさにこのことね! まずはその鼻血を止めてから言いなさいよ!」
「くっ、これは違う。チョコを食べすぎただけだ」
「そんなに血を垂れ流すとか、一体どれだけチョコ食べたのよ!?」
……うん、これは、あれだ。
関わってはいけない類だ。
関わったら最後、ずるずると面倒くさいことに巻き込まれるパターンだ。
踵を返して立ち去ろうとした、刹那。
「む、美幼女の気配!!」
狼獣人が、がばっとこちらを向いた。
正確には、ルークに肩車されている、パンちゃんをロックオンしたのだが。
だがどちらにしろ、巻き込まれかけてることには変わりない。
「き、貴様……ッ」
狼獣人が、ルークをばっちり見てそう憎々しげに言ってきた。
あーあ、完全に巻き込まれた。
狼獣人は一足でこちらとの間合いを踏み潰してきた。
(お、中々速いな)
恨まれるような筋合いも挑まれるような覚えもないが、そっちがその気ならやってやろう。
ルークは腰の刀に手を伸ばし。
「そんな美幼女を肩車できるなど羨ましい!!」
ずるり、とこけそうになりながら刀を抜くのをやめた。
「貴様、どうやってその幼女を虜にした!? その方法を是非教えてくれ、同志よ!!」
「誰が同志だ!?」
ルークがそう叫ぶと、狼獣人はふっと笑った。
「誤魔化さなくていい。お前は、俺と同類なのだろう?」
「テメェと一緒にするなロリコン狼」
「ちょっと、やめなさいよ、ロリ!」
先程言い争いをしていた、ロジィとやらがこちらにやってきた。
いきなりこちらに向かってきた男を追いかけてきたのだろう。
それにしても。
「ロリ? お前のことか?」
「失礼ね、こいつ!? 私は十七で、立派な淑女よ! それと、ロリっていうのはこの狼獣人の名前よ!」
ロリ、て。
そのネーミングセンスは、壊滅的過ぎるだろ。
ルークは男ことロリに向き直り、こう言った。
「お前の親に会わせてくれよ。そのネーミングセンス笑ってやるから」
「うるさい、黙れ。それと、俺の名前を馬鹿にするな。これは俺の恩人がくれた名だ」
ロリは腕を組んでから、ルークと彼の肩のパンちゃんを交互に見る。
そして頷いてから、ロジィに向き直った。
「ロジィ、やはり羨ましいから、肩車をさせてくれ」
「いやよ!? どうして十七にもなって肩車をされなくちゃならないの!?」
「おいおい、無理をするな、お嬢ちゃん。それと、十七って靴のサイズか?」
「年齢よ、ね・ん・れ・い!! 私は正真正銘、十七歳なの! ほんと失礼ね、この男!!」
きゃんきゃん喚くロジィを尻目に、パンちゃんはロリに訊く。
《ねぇ狼さん。シュスには反応しないの? 私とはベクトル違うけど、可愛さ負けてないと思うけど?》
「ん? なんだこの威圧感……まぁ、いい。それと、そこの幼女は、駄目だな。目が濁ってる」
「どういう意味だゴラァ」
まぁ、シュスの怒りももっともである。
初対面の男に、目が濁ってるとか言われて心穏やかでいられるはずがない。
「もう許さない! 痛い目遭わせてやる!」
「お、なんだやるか、ロリっ子? 軽くひねってやるからかかってこい」
「十三の純粋な子供捕まえて、目が濁ってるとか、ふざけんなロリコン狼!!」
「純粋? ふっ、笑止」
こうして、本日二回目の乱闘騒ぎが幕を開けた。
奇しくもそれは、二対二という構図になったという。
☆
リースは、迷子センターで回収した三人の話を聞いていた。
「じゃ、確認するわよ?」
まず、青のアホ毛に琥珀の瞳を宿した少年。
「ライト・リュクスリード。十九歳。ユニック王国出身……なにその国名?」
「いや、ほんとにあるんですって!」
「……嘘を言ってるようじゃないから、困るのよねぇ。そんな国聞いたことないし」
次に、藍色のサイドテールに青と赤のオッドアイの少女。
「ナナ・アルクス。同じく十九歳。で出身国は……またユニック」
「そう言われてなもな。嘘は吐いてない」
「ふ~ん。態度悪いから減点っと」
「態度!? そんなもので決められるのか!? ……ていうか減点ってなんだ!?」
最後に、銀の長髪に金の瞳の青年。
「ランド……あれ? ファミリーネームは?」
「拒否する。知られるくらいなら死んだ方がマシだ」
「……ふ~ん。ま、いいわ、五十点減点で許してあげる」
「減点デカいな!?」
「で、年齢は二十歳。あんたもユニック王国出身ね」
「……そうだ」
「あ、それ以上こっちこないでくれる? うちのミラが涙目で鼻摘まんでるから」
「この人ツナ缶臭いよぉ」
「……貴様らまとめてブタ箱にぶち込んでやろうか」
リースは笑顔で封殺する。
彼女の威圧的な笑みは、本能が訴えてくるのだ。
逆らったら、大変なことになると。
「それで、どうしてああなったのか聞きましょうか」
「こいつだ! こいつが私を追いまわしてくるからいけないんだ! 私はストーカーを滅殺しようとしただけなんだ!」
「なにを言うのですか、我が姫。俺はただ、あなたに愛を詩を紡いだだけでございます」
「やめろお前ら! なんかこの人の笑顔が陰りを帯びてきてるから!」
話が進まないと思ったのか、リースは口を開く。
「ストーカーは、注意するに留めるしかないのよね。私みたいな赤の他人より、近しい人に叱ってもらうに限るわ」
「そんな手間は取らせない。私がこいつをコンクリバケツに埋めて海に沈めれば済む話だ」
「我が姫よ、水責めですか? (私に)痛みが伴うプレイは苦手なのですが」
「口を挟むな、ストーカー」
リースは、疲れたと言わんばかりに天井を仰ぐ。
そんな彼女に、ラルは優しく背中を叩いた。
そんな彼に優しく微笑んで、リースは手を叩く。
「それじゃ、身元を保証できる人を呼んでくれる? その人に引き取ってもらうから」
「いや、待ってくれ。俺たちは、十九歳と二十歳だぞ? 身元保証人なんて必要ないだろ」
「え? だって、精神年齢が」
「うるせぇ! 余計なお世話だ!」
☆
「クソー、二連敗か~」
長い金髪を後ろで結い、帽子を深くかぶった男はそう呟いた。
青のジャージに茶色のズボンという組み合わせの格好である。
彼は、ナンパを繰り返していたのだが、二連敗中なのである。
「少し座って、休むか」
よっこらしょっと近場のベンチに腰を下ろした。
刹那。
(な、なんだ?)
なんだか、気まずい空気に包みこまれた。
周りを見回してみると、自分は二人の男に挟まれていることに気づいた。
(うわ、なにあれ、仮装か? だとしたらイタいな)
金の長髪に銀の瞳を宿し、貫頭衣をこれでもかと改造しており、背中に一対の漆黒の翼を生やした男である。
顔立ちは整っているのだが、不機嫌ということをこれでもかと前だししているから台無しだ。
クッチャクッチャ、と口の中でガムを噛み、ガム風船を膨らませ……あ、破裂した。
もう一人の男を見る。
(ま、マッスルだ)
赤のオールバックに赤の瞳、白のTシャツに革ジャンを羽織ったジーパンの男。
体躯は鋼のようであり、贅肉はおろか脂肪の全て筋肉に変えていそうな体だ。
顔は、全てに絶望したとでも言わんばかりの、疲れ切ったような表情である。
言うなれば、今すぐにでも自殺を決心しようとしているサラリーマンの顔だ。
(居心地悪ィ……)
これじゃ、おちおち足を休めることもできない。
(よし、仲を取り持ってやるか)
まず、ビジュアル系堕天使に話しかけてみる。
「よぉ、どうしたんだよ? あそこの男と不仲なのか? オレが間を取り持ってやろうか?」
《ん? あぁ、クッチャックチャ、いいよ、大丈夫だから。クッチャクッチャ、あいつ脳みそ筋肉だからさ、クッチャクッチャ、あいつが悪いんだ》
「くちゃくちゃガム噛みながらしゃべるな」
駄目だこいつ、早くなんとかしないと。
教育がなってない。
助けを求めるかのように、マッスルに話しかける。
「よぉ、筋肉の旦那。こいつ、なんとかしてくれない? 腹が立って仕方ない」
「誰が筋肉の旦那だ。俺の名前は、レドルノフ・フレラだ」
「そうか、オレはレイン・ローレシア。よろしくな」
男改め、レインはそう言った。
その時であった。
ピン ポン パンポ~ン♪
「あ?」
「ん?」
《お?》
園内放送が始まった。
『あ、あ、マイクテス。マイクテス……ねぇこれ、ちゃんと声入ってるの?』
『入ってるよ! 入ってるから、リース、ちゃんとやって!』
『ねぇ、ラル、このボタンなに?』
『あ、ミラ、それは触っちゃ……』
ブツン、と。
放送はそこで途切れた。
「「《……………………》」」
ピン ポン パンポ~ン♪
また放送が始まった。
『迷子の案内です。迷子の案内です』
《まるで何もなかったかのように話し始めたぞ、あいつ》
「流石の面の皮の厚さだな」
「ん? もしかして、知り合い? 良い声してるし、かわいいんだろうなぁ」
「《やめとけ、命が惜しいなら》」
「どゆことだよ」
レインは手に持っていたコーラを飲む。
『ライト・リュクスリード君、ナナ・アルクスちゃん、ツナカンマン君がお待ちですので、レイン・ラフレシアさん、迷子センターまできてください』
ボタボタ、と。
口からコーラをこぼした。
レドルノフとルシファーは、レインを見る。
「あれ、お前のことじゃねぇの?」
「し、知らない。オレはそんなやつら知らない」
コーラをなもこぼしながらも、レインはそう言った。
『ちょ、そんな名前じゃないですよ! マジ勘弁してください、給料が! 給料が!』
『あいつの名前、きちんと教えただろう!』
『陛下の名前を間違えるんじゃない!』
『くっさ! ツナ缶くさ! こっちこないでくれる!?』
『ああもう、グダグダ!! もう切るからね!!』
『レイン、早くきてくれェェェえええええええええええええええええええええええ!!』
プツン、と。
放送が終わった。
「……………………」
レインは遠い目をしながら空を仰いだ。
そんな彼に、レドルノフは憐みの視線を向ける。
「元気、出せよ。好きなだけ、ここにいていいからさ」
「……ありがとう」
☆
ここに、奇妙な縁が結ばれた。
これが再び結ばれるかは、神のみぞ知ることであろう。
今回は、黒狐作『トリップダンス【真・改稿版】』とクロスオーバーさせていただきました。
楽しめていただけましたか?
これを機に、向こうの作品も覗いてみてください。
コメディに関しては、あちらの方が上手ですので。
トリップダンス【真・改稿版】 http://ncode.syosetu.com/n8399cy/
では、また次回。
……やっと天界だ。




