34.アトラクションも度が過ぎれば脅威
なんだか、久しぶりな気がします。
にがトマトです。
もっと投稿頻度増やしたいなー。
けど、コメディ苦手だから、筆が進まないです。
では、どうぞ。
お化け屋敷の外で、リースとルシファーは憔悴しきっていた。
片や“神の領域”に踏み入れた人間最強一角に、もう一人は『魔王』。
人間が挑めば、次の瞬間には存在ごと消されてしまうであろう埒外だ。
そんな彼らは、お化けがとにかく苦手だったのだ。
精も根も尽き果てて、げっそりとする程度には。
「次、行くわよ。この遊園地にある『大天使の剣』は、残り二つだから」
ルシファーの力が封じられているという、『大天使の剣』。
剣なのになぜか球状であり、十に分かれているという意味不明な武器である。
「そういや、現世で三つ。地獄はルシファーが全部集めたらしいが、天界には何個あるんだ?」
「言ってなかったわね。天界にあるのは、四個よ。ルシファーが最も行きにくい場所に、一番多い個数をばら撒くあたり、やったやつの性格の悪さが透けて見えるわね」
一行は、移動を開始した。
☆
一行がたどり着いた場所は、コーヒーカップであった。
ルークは、胡散臭そうな目でリースを見る。
「おい、リース、本当にここなのか?」
「レーダーが故障してなければ、ていう言い訳をするつもりだったけど、その必要はないわね」
「あ?」
リースはコーヒーカップの皿の中心を指差した。
そこにはケーキの置き物があり、てっぺんには件の玉があった。
「……なんであんな所に」
「さぁ?」
ため息をついて、玉を見る。
そして、その周囲をほぼ音速で不規則にぐるぐる回っている、コーヒーカップを。
《なぁ、あれ、客は大丈夫なのか?》
「……技術の無駄遣いだとは思うけど、大丈夫なのよね、これが」
《いやいや、あれ空気抵抗で消し炭になるだろ》
「あれに限った話じゃないんだけど、この遊園地にあるアトラクションはね、国が総力を挙げて作ってるものなの」
《…………?》
リースは、憂鬱そうに言う。
「時速が、えぇと、二百キロだったかな。その速度になったら、人間の視界には景色が溶けてるように見えるの。あれは、一般人にもその先の光景を見せようってものなのよ」
《最早ジェットコースターじゃねェか》
武人の到達点たる“人の領域”を超えた達人であれば、音速以上で動くことができる。
だがそんな彼らが、消し炭になったり内臓や眼球を大気にプレゼントしないのは、心得があるからだ。
心得でなんとかなるのか、と思うかもしれないが、なんとでもなるのだ、異論は許さない。
「音速で動いて人間が死ぬのは、気圧差と空気抵抗のせいなの。あのカップは、空気の流れを裂くような構造なの。だからあれは、一種の室内のようになって、気圧が一定に保たれる上に乗っている人間には空気抵抗がかからないの」
《……技術の無駄だな》
その技術、もっと別のところに使えよ。
具体的に言うと、俺たちを楽にさせるとかさ。
リースは、解説は終わったと言わんばかりに、玉を指差した。
「それじゃ、あんたたち。あれ今すぐ取ってきなさい」
「「《はァ!?》」」
ルーク、レドルノフ、ルシファーは、そんな声をあげた。
なぜこの三人かって?
リースの目がロックオンしてるからです。
「園員に言って、玉取る間だけ機械を止めてもらえばいいだろうが!」
「迷惑かける訳にはいかないでしょう」
「俺たちがコーヒーカップに撥ね飛ばされたら、そっちの方が迷惑でしょうが!」
「音速で動けるんだから、避けなさいよ」
《そもそも俺が一言いえば回収できるでしょが!?》
「無理よ? アンリが不思議な結界を張ってるし」
「「《アンリィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!》」」
三人の絶叫が木霊する。
リースは、話は終わったとはいわんばかりにシュス、ミラ、ラルに向き直って小銭を渡した。
「はい、これ。あんたたちも乗ってきなさい」
「わーい」
「俺、ちょっと遠慮したいんだが」
「はいはい、我儘言わないでね~」
シュスが音速コーヒーカップを見て、頬を引きつらせながら辞退しようとするが、ミラが手を引いて連れて行く。
ラルはそんな二人についていった。
それにルークが、がしぃ、とリースの肩を掴む。
「待て待て待て! 俺たちもあれに乗ってれば、玉取れるんじゃねェのォ!?」
「あんた馬鹿? カップに乗ってて、中心にあるケーキに手が届く距離まで近づけると思う?」
「ぐぬ……!?」
正論をぶつけられて、言葉に詰まる。
え? マジで? 行かなきゃいけないの?
あ、でも、アトラクションが止まってる間に全力で走れば……
「ちなみに、アトラクション止まってる間に動いたらボコボコにします」
「「《クソタッレ!!》」」
理不尽の権化だこいつ!
安全かつ楽な道のりを選ぼうとして、なにが悪いんだ!?
「あ、動き出したわね。ほらほら、行ってくる」
「お、おのれ!」
「理不尽の塊め!」
《俺の屍を越えて先に行け!》
「「テメェもくるんだよ馬鹿野郎!!」」
《ノーン!!》
そうして三人は、コーヒーカップに向かって走り出した。
☆
ミラの引率のもと、ラルとシュスはコーヒーカップに乗った。
「おぉ、これが遊園地の遊具かぁ」
このうきうきとした声の主は、ミラである。
彼は竜人であるため、今まで遊園地なんてきたことがなかったのだろう。
引率する人間が一番はしゃぐのはいかがなものかと思うが、シュスとラルは苦笑するだけにとどめた。
「お化け屋敷はリースが過剰にビビってたから、全く怖くなかったしね~……こっち見んな」
今のはミラを凝視していたリースに向けたものである。
「あ、なんか、三人がリースに文句言ってる」
「大方、無理難題を吹っかけられてんじゃねェの? こっち見んな」
そこそこ距離が離れているはずなのに、どうしてこっちが言ってることがわかるんだ。
妖怪かよ、だからこっち見んな。
「私たちは、玉を回収しなくていいのかな?」
「言われてみりゃ、そうだな。そもそも俺たち、あれ回収するためにここにいるんだしな」
「あぁ、そのことだけど」
ラルが思い出したように口を開いた。
忘れていた、というか余り受け止めていなかった故だろう。
「リースからの伝言でね」
彼は始終不思議そうに、こう言った。
「そんな余裕ないだろうから、気にしなくていいって」
ギュオッッッッッッッッッッッッ!!!!!! と。
遊具にあるまじき唸りをあげて、カップは回転しながら爆発したように行動を始めた。
☆
ルーク、レドルノフ、ルシファーは走り出した。
ルークとレドルノフは、人間とはいえ“人の領域”を超越した伝説にして真の達人だ。
ルシファーは近接戦闘は得意ではないとはいえ、腐っても『悪魔』にして彼らの頂点に立つ『魔王』だ。
カップとは名ばかりの音速兵器を掻い潜ることなど、造作もない。
あいつが余計なことをしなければ。
「ここにちょちょいっと」
グリンッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!! と。
急に方向転換し、まるで生物の如く、不規則な軌道を描きながらルークの腰に突進した。
突進をその身に受けたルークは、くの字になって横へと吹き飛ばされた。
「《ざまァ!!》」
「てめェら心配すらしねェのか!!」
流石は天下の『剣聖』である。
音速アタックを受けて、しばらく腰痛に悩まされるだけで済むのだから。
しかし。
「お客様、お一つ追加でーす」
音速カップの追加がやってきた。
こんな喫茶店潰れてしまえ!
刹那、全方位からカップが我先に押し寄せてきた。
「嘘つきィ!!」
「ははは、今更~?」
瞬間、ルークの脳裏に、事態を打開するための名案が浮かんだ。
「だが、ナメるなァ! 俺には、最強の盾があるのだァ!」
ルークはあるものを掴んで、こう叫んだ。
「馬鹿ガード!!」
「《お約束☆ グボア!!!???》」
盾にされた二人の馬鹿は、あっさり吹き飛ばされた。
それを目で追いながら、ルークは悲痛そうにこう叫んだ。
「チッ、役立たずが!」
こいつらに仲間意識というものがあるのか、甚だ疑問である。
血まみれになりながら、錐もみ状に吹き飛んでいる二人は、鷹の如き鋭い双眸で、憎しみ一杯の視線でルークをこれでもかと睨みつけているのだから、なおさらである。
「ちょちょいっと」
刹那、ルークも錐もみ状に空を舞った。
それを見た、レドルノフとルシファーは。
「《は、ざまァ!!》」
満面の笑みでそう叫んだ。
☆
「お疲れ様」
リースは、ボロボロになっているルーク、レドルノフ、ルシファーにそう言った。
彼女の手には、一つの玉がある。
「『大天使の剣』、無事入手できたわね」
大変だった。
妨害してくる音速コーヒーカップに、役立たずどもの攻撃から逃れながら中央に行くのは。
なんてやつだ!
仲間を攻撃してくるなんざ、こいつら本当に人間か!?
「これで、現世にある玉は残り一個ね」
「もう帰りたい……」
「堕天使だけでやってくれればいいのに……」
《待って。見捨てないで》
大の男三人が人目もはばからず涙を流す。
なんとも情けない。
「あ、ミラたちも戻ってきたわね」
コーヒーカップに乗っていたシュス、ミラ、ラルの三人が戻ってきた。
…………ん?
なんだか、顔が青いが。
「「「おええぇぇぇぇぇええええええええええええ」」」
「「《ぎゃァァァああああああああああああああああああああああ!!!???》」」
三人はリバースしやがった。
ちゃんと離れていたリースは頷いて、こう言った。
「三人とも、三半規管がまだまだ弱いみたいね」
あの女、いつか殺す。
今回は、短めでしたね。
次回は、もちょっと長くします。
では、また次回。




