17.開演
後書きに、重大発表を書きました。
アンリはテーブルで。
「カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ」
壊れたちゃったような声をあげながら、書類を処理していた。
その様を誰かに見られでもしたら、精神病棟への片道切符を一切合財の迷いなくわたされることであろう。
「ケヒ、ケヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
ナルサスを固有結界に閉じ込めた後、事はトントン拍子に進んだ。
結果から言うと、『教会』はもう存在しないのだ。
☆
時は遡る。
オードルが、自分がリースの兄であることを言った後のこと。
ナルサスを『固有結界』に閉じ込めたアンリが、戻ってきた。
そして、ケイトも意識を取り戻した。
その彼らも、オードルからリースとの関係を話されたに対するコメントは。
「「に、似てない」」
そう思うのは、当然のことだ。
兄とやらは、黒髪オールバックと力強さを宿した黒の瞳に、筋骨隆々とした体躯。
そして褐色の肌ときている。
もう片方の妹は、ピンクのポニーテルに愛らしい青空のような色合いの青の愛らしい瞳に、細い肢体とモデルも裸足で逃げ出すようなプローポションの絶世の美女。
こちらの肌の色は、透き通るような白だ。
共通点を探す方が難しい。
二人のコメントに、オードルは。
「よし、歯を食いしばれガキども」
笑顔で拳を振り上げた。
そんな彼に、リースは疲れたように息を吐く。
「似てないのは仕方ないでしょ。私たち、血つながってないし」
「そうなのか?」
「うん。オードルとは、私が人体実験を施された後に出会ったのよ」
突然の言葉に、アンリたちは目を見開いた。
リースは自分のことを、人体実験被験者だと言ったのだ。
辛かったはずだろうに、死にたくなったことは一度じゃないだろうに、彼女はなんてことのないように語る。
「私が、八歳だったころかな。『教会』に攫われて、人体実験されて、牢屋に入れられてた時に、オードルに出会った」
「ま、そん時から俺たちは兄妹になったって訳だ」
実に重たい過去である。
だが、ここで一つの疑問が浮かんだ。
「なぁ、オードルはその時にはすでに『教会』に属してたんだろ? どうしてその頃、いや今でもだが、『教会』を恨んでたはずのリースと仲良くなれたんだ?」
「あァ、それか」
オードルはバツが悪そうに、頬をかいた。
「その時はな、俺は荒事専門のただの雇われでしかなかったんだ。だから、人体実験のために各地で子供を攫ってただなんて、知らなかったんだよ」
てか、知ってたら一も二もなく潰してたし、なんて笑いながらオードルは語る。
隣のリースを気にしながら。
「最初は、リースは人体実験の研究所から保護した子供って聞かされてた」
「その頃は、私も自分を誘拐した組織の名前が『教会』だなんて知らなかったしね」
リースは、仕方なしといわんばかりの諦観したような態度で、肩をすくめた。
「それで、俺はこいつが暗殺なんて仕事やらされてるって知って、ナルサスの先代だったジジイに殴りこんで、脅されて『教会』に属することになったんだ」
「そっか」
胸くそ悪いことこの上ない話だった。
オードルは、リースに関することで脅されたのだろう。
でもなければ、彼を脅すようなことは不可能なはずだ。
そして当の彼女は、その頃から人質を取られていたのだろう。
やり方がひどすぎて、憤りすら通り越して何も感じない。
「ま、俺たちの話はこんな所でいいだろ? これから、どうするんだ?」
「あぁ」
アンリは思い出したように、こう言った。
「『教会』は潰すよ」
☆
こうして、アンリたちは『教会』の排除に乗り出した。
この時は、楽としか言いようがなかった。
なにせ、リースはオードルも力を貸してくれたのだから。
これは、もう始まる前から結果は目に見えていたようなものだった。
教祖であるナルサスがいなくなることで、精神面での柱は崩れ去った。
『黒い鬼』の寝返り、彼による強襲によって、軍事施設が壊滅することで武力は失われた。
『霧の死神』の手腕により、『教会』の傘下に加わっていた、または資金を援助していた貴族は皆殺しにされた。
こうして、知力・武力・財力を失った『教会』は脆く崩れ落ちた。
「ケヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
そして今、『組織』はアンリという頭を失う一歩手前であった。
☆
「「ぎゃァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
「ははは、その程度かクソガキどもー!」
『組織』の拠点の運動場では、オードルがリュウとケイトをド突きまわしているという光景が広がっていた。
オードルは朝一で二人の首根っこを掴み、運動場へと引っ張り出したのだ。
その名目は。
「よし、ちょいと稽古をつけてやろう」
というものであった。
どうやら二人は、オードルの目に止まったらしい。
その才を磨くために、オードルは二人をリンチ、もとい稽古をつけているのだ。
「はっはっは、さァ、これはどうやって逃げる!?」
「「あァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
二人がその稽古に耐えられるのかは、不明であるが。
☆
アンリの仕事中毒っぷりとオードルが行っているリンチを、リースは高台から見ていた。
「……あれ、死ぬんじゃないの?」
それが彼女の率直な感想だった。
アンリは顔がモザイクがかかるレベルであれだし、オードルの拳は驚く程鋭い。
見るも無残な、地獄絵図。
「ふふふ」
だがなぜか、笑いがこみあげてくる。
別に彼女は、他人の不幸は蜜の味とかという意味で笑った訳ではない。
彼女は、物思いにふけっているのだ。
(こんなに心にゆとりを持ったのは、いつぶりかしら)
『教会』で暗殺者として動き、血と殺しの中で生きる世界で、生きてきた。
いつも心に余裕がなかった。
殺し殺される世界で生きてきたのだから。
「さて、私は、どうするべきかしらね」
アンリに助けられた。
それは認めよう。
力も貸そう。
だが、仲間になることは別物だ。
仲間とは、裏切ってはいけない存在だ。
信頼するべき存在だ。
裏切りをしないことと信頼することができるか、正直自信がない。
「本当に、どうしよう、かな」
「ケヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「きゃあ!?」
「ごふぁ!?」
物思いにふけっていたら突然背後から笑い声が聞こえてきたので、驚いて思わず振り向き様に蹴りを放ってしまった。
その蹴りを受けたのは、金の短髪に宝石のような瞳を持つ青年、アンリであった。
アンリの腹に綺麗に決まった蹴りは、一流の武人もかくやという程だ。
それをもろに喰らったアンリは、地面にうずくまって悶絶する。
「あ、ごめん。ちょっと、思わず」
「死ぬかと思ったァ……本気でマジで死ぬがと思ったァ……」
「えぇと、その、ごめん」
アンリは気持ち悪そうに、こう言った。
「あ、喉まで、きた」
「え?」
「ゲロロロロロロ」
「いやァァァああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
アンリは夜食と朝食の全てを吐き出した。
☆
アンリは屋上のベンチに腰かけていた。
その姿はまさしく、明日○ジョー最終回の、燃え尽きたぜ。真っ白にという言葉を残したボクサーの如く。
「はい、コーラ」
「おぉ、サンキュー」
そんな彼に、リースが呆れた顔をしながらもペットボトルに入ったコーラを持ってきてくれた。
アンリは素直に礼を言って、コーラを受け取る。
「ったく、いきなり吐くとかやめてよね、本当に」
「ははは、すまん」
アンリはペットボトルのキャップを開け。
ブシャアアアアアアア、と。
噴き出してきたコーラをその顔に受けた。
噴き出したコーラは目に入り、激痛が引き起こした。
ていうか、マジで痛ェ!?
「目が!? 目がァ!?」
「ははは、引っかかった、引っかかった」
目がシュワシュワいってる!?
え!? 溶けてるの!? これ溶けてるの!?
床でゴロゴロしているアンリを見ながら、リースは笑う。
性格悪いなこの女!?
「テメェ……」
「さっきの仕返しよ。私としては、これくらいで済ませたことに、感謝してほしいくらいなんでけど」
なんて恩着せがましいんだこの女!?
すわ開戦かと身構えた瞬間、リースは手元に置いておいたペットボトルを渡してきた。
「はい、コーラ。今度は噴き出したりしないから大丈夫」
「……本当か?」
「あのねぇ、悪戯ってのは一回目だからこそ面白いのよ。二回目以降は詰まらない」
そんな当たり前のように言うのやめてくれる?
こっちは悪戯なんて毎日やってる訳じゃないんで。
「あぁ、そうかよ。それじゃ、もらうわ」
プシュッ、と音を立ててアンリはキャップを開けた。
この時実は、音にビビッたのは内緒である。
「それで、どうしたの? 私に何か用?」
「あぁ、ちょっと、答えを訊こうと思ってな」
「答え?」
アンリは、微笑を向けて、こう訊いた。
「お前、これからどうする?」
その問いに、リースは少し顔を曇らせた。
「もうちょっと、待ってほしかったな。まだ、答え出てないから」
「そうかよ。だが、できるだけ早い方がいいんだよな。『教会』を潰しちまった以上、時間はあまり多くはない」
「ま、確かにそうでしょうね」
もうこの組織は、路傍の石だなんて認識を持たれることはないだろう。
『天使』あたりはまだその認識かもしれないが、貴族たちは間違いなくこちらを脅威と認識する。
『教会』を潰し、多くの貴族を暗殺した。
何かしらのアクションが、すぐにでもあるだろう。
それらに対処しながら、革命の準備をしていかないといけない。
こういう平和な時間をゆっくり過ごすことは、あまりできなくなる。
「答えを、訊かせてくれるか?」
「そうねぇ」
リースは、悪戯っぽく笑った。
「条件としては、里帰りのための休暇はもらう」
この時彼女は、なぜ自分でもこう言っていたのかわからなかった。
「やるからには、徹底的にやらせてもらうわよ。あんたたちは、詰めが甘いからね」
どうして、言外に是と言っているのか。
どうして、本気で彼らの手助けをしようと思っているのか。
どうして。
「我儘も、言わせてもらう」
どうして、目の前にいるこの男と共に在りたいと思うのか。
どうして、隣にいたいと思うのか。
「それらの条件をクリアするなら、私はあんたたちの仲間になる」
アンリは嬉しそうに笑った。
子供のように純粋に、屈託のない笑顔になった。
「おうよ、よろしく頼むな」
「えぇ、こちらこそ」
二人は握手を交わし。
バキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャバキャ、と。
アンリの肩からそんな音が発生した。
「ぐぎゃァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
アンリは絶叫し、リースは突然のことに目を丸くする。
アンリは地面にうずくまろうとするが、できない。
なにせ彼の肩は、掴まれているのだから。
びっくりするくらいの、強力かつ凶悪な握力で掴まれているのだから。
「なァ、なにしてるの?」
アンリの背後には、『鬼』がいた。
気を失っているリュウとケイトを肩に担いで、爽やかな笑みを浮かべている。
ただし、その目は微塵も笑っていなかった。
「どうして、お前はリースとデートみたいな空気を作ってるの?」
シスコンのお兄様は、妹が男と仲良くしているのが、気に食わなかったらしい。
ていうか、肩が破壊されちゃう!?
「リース、お願い助けて!」
「さよならーん」
「おいぃ!?」
リースは暗殺者としての能力を総動員し、この場から逃げ出した。
なんてやつだ!
仲間は助けあうものなのに!
「あ、待て、リース! 男と付き合うなんて許さねェぞ!」
「あががががが!? 俺の肩を掴んだまま走り出すな!!」
こうして、『鬼』と『死神』の仁義なき追いかけっこが始まった。
見た目は、なんとも危ないものだった。
筋骨隆々としたマッチョが、美女を追いかけ回しているのだから。
即座に通報されて然るべきだろう。
だが。
本人たちは、どこか楽しそうに笑っていた。
「いや、この事態を収束させてから終わってェェェえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???」
……その笑顔は、一人の苦労人犠牲の上に成り立っていた。
☆
魔術師
竜崩れ
修羅
霧の死神
役者はそろった。
お膳立ても済んだ。
観客も呼んだ。
必要なものは、全てそろった。
ならば幕を開けようではないか。
物語は紡がれた。
『世界』に綴られた物語を、今こそ語ろう。
『世界』という名の、とある神の箱庭で行われた劇を。
多くの命を燃やして、『神の箱庭』は輝く。
さぁ、踊ろうではないか。演じようじゃないか。
匙はもう、投げられたのだから。
今回で、革命編は最終回です。
作者にがトマト、リグレットアーミーズをご愛読下さり、ありがとうございました。
いや、冗談ですよ?
これで終わったら、詐欺ですからね。
だって、始めようとか語ろうとか言ってるもの。
ですが、この革命編が終わりというのは本当です。次回からは本編やります。
じゃあ、アンリたちの物語はここで終わるのか?
ははは、ご冗談を。
別の作品枠? とでも言えばいいんですかね。
リグレットアーミーズ~革命編~ってタイトルでやっていきます。
そこには、これまでのやつは全部載せておきます。
そして、本編と並行して書いていきます。
これで、本編も革命編も楽しめちゃいます!
読者のみなさん、おっとく~。
では、このあたりで。
これからも、リグレットアーミーズをお願いします。
そして、アンリたちよりルークたちのが好きだって方々、お待たせいたしました!!




