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16.黒い鬼

どもども、にがトマトです。

バイト、大学が忙しく、最近執筆ができません。

別に、サボってるわけじゃないんだからね!


どうぞ。

 アンリは目を覚ました。

 自分は、気を失っていたのだと、遅くれて気がついた。


 どうして気絶に至ったのか、記憶をさかのぼってみる。


 アンリはリースの説得に成功してから、その直後の記憶はない。

 成功したことにより、気が抜けてしまったのだろう。

 それで気を失ってしまうのだから、我ながら情けない。


「起きたみたいね」


 頭上から、女の声がした。

 そちらを見ると、リースの顔があった。

 女性特有の甘い臭いが鼻孔をくすぐる。

 後頭部には、柔らかい感触。

 ……………………ん?


「俺、今どういう状況?」

「私に膝枕されてるって状況」


 おお、なんたるご褒美。


「あれ? なんで泣いてるの?」

「いや、気にしないでくれ」


 今まで女とロクな縁がなかったアンリにとっては、この上なく嬉しかった。

 絶世の美女といっても過言ではない女性に、膝枕されているのだ。

 凄く嬉しかったのだ。


「……なぁ、俺が気絶してから、どれくらい経った?」

「そうねぇ。大体、三十分(・・・)ちょっとって所かしら」

「うわ、かなり経ったな」

「そうね…………あ」

「ん? どうした?」


 リースが思い出したように言葉を止めて、震え始めたのだ。

 それにアンリは、訝しげな顔をする。

 しかし、彼女にはそれに構っている暇はなかった。


「アンリ、早く戻りましょう。下手すると、あんたの仲間、皆殺しにされてるかもしれない」





 リュウは肩をぐるぐると回して、満足そうに頷いた。


「よし、終わったな」


 彼の周りには、五十の黒ずくめの男たちが倒れ伏している。

 殴り倒された者や、射殺された者など様々だ。

 事切れた者以外は、縄で拘束されている。

 その中には、ナルサスもいた。

 意識があるのは、リュウ、ケイト、ナルサスの三人のみ。


「ば、馬鹿な。人体実験被験者ではないものの、全員が精鋭なのだぞ……」

「相手が悪かったな。周りが強すぎるだけで、俺だってそこそこ強いんだ」


 本人は謙遜しているが、彼の強さは世間から見ればそこそこどころではない。

 アンリ、デュレン、『破壊卿(ジェイソン)』、『修羅』、『霧の死神(ミスト・リーパー)』、『黒い鬼(オーガ・シュバルツ)』。

 彼らは、強すぎた(・・・・)

 得意分野、強さの程度は違えど、彼らは雑兵が束になってかかろうと歯牙にもかけない程の実力をゆうしている。

 彼らの前ではリュウの実力は霞んでしまうが、彼は得意な間合いであれば達人並の強さを発揮できるのだ。

 黒ずくめたちは精鋭とはいえ、『兵』の域を出ない者たちだ。

 そんな程度の者たちなら、己が土俵に引きずり下ろすことは容易だった。


「リュウ、お前、意外と強かったんだな」

「なんだよ、意外って」


 ケイトの言葉に、リュウは苦笑した。


「つぅか、アンリ遅いな。もう三十分経つぞ(・・・・・・)?」

「言われてみりゃ、そうだな。ったく、なに手間取ってんだか」

「お説教タイムなんじゃねぇの? あいつ、説教になると長いんだよなぁ」


 リュウがしみじみといった感じ息を吐いた。


「リュウ、お前の率直な意見を聞かせてくれ。アンリは、リースの説得に成功すると思うか?」

「あぁ、あいつは底抜けのお人好しだが、馬鹿ではない。あれでも頭はかなり回る」

「成功確率は?」

「……俺の私的な意見でいいか?」

「構わねェよ」


 なら、と区切って、リュウは断言した。


「百%だ」


 そこには一分、いや、一厘もの疑いはなかった。

 それにケイトは、ふっと笑う。


「そうかい」


 後は、アンリが戻ってくるのを待つだけ。

 二人は、安堵の息を吐いた。



 だが彼らは(・・・・・)知らなかった(・・・・・・)



 三十分。

 その時間が意味するものを。

 その時間に、彼らはカタをつけるべきだったのだ。

 なにせその三十分とは。



「どうなってるんだ、これ?」



『鬼』を檻から出てくる時間だったのだから。


黒い鬼(オーガ・シュバルツ)!?」

「オードルか!」

「ンだと!?」


 三者三様の反応であった。

 戸惑い、歓喜、驚愕の声があがった。

 だが『鬼』は、彼らの反応など歯牙にもかけずあたりを見回す。

 どうやら探し物(・・・)は見つからなかったらしく、ようやくそこで人間たちを意識の中に入れた。


「ナルサス、リースはどこいった?」

「さ、先程の金髪の男とともに、どこかに消えてしまった」

「…………あァ?」


 不機嫌そうに、オードルは言葉を放った。

 そこには、言いようがない威圧感があった。

 人間を喰らう『鬼』の威圧感。

 それを纏ったまま、リュウへと視線を向けた。


「おい、そこの銀髪」

「なんだ?」

「その金髪のガキと、リースは今どこにいるかしらねェか?」

「アンリの、『固有結界』の中だよ。俺たちじゃ、手が出しようがないぞ」


 嘘をつこうなどとは、思わなかった。

 嘘とは、人間に対して使うものだ。

 人外に対して使うものではない。


「そうか。それじゃ、待つとしよう」



 ズギャッッッッッッッッッッ!!!!!! と。

 博物館の床と壁に無数の亀裂が走った。



 それは衝撃の負荷に耐えきれなかった証左。

 そしてその衝撃は、オードルが足に力を込めただけで起きたものだと誰が信じられようか。


「ま、リースが同年代に負けるとは思えねェが、保険としてお前らを人質に取ってからな」


 淡々と、そう言った。

 できて当然と言わんばかりに。

 自分ならそれができて当たり前なのだと言わんばかりに。


「そこの銀髪は、一秒もかからないな。『修羅』は動けないし、動けたとしても問題にはならないが」


 オードルは、殺気など放たない。

 なぜなら彼にとって殺気など、虚仮脅しに過ぎない。

 そんなことをしている暇があるのなら、さっさと殴り倒してしまった方が早い。

 口ではなく、実力で事を済ませる。

 それが彼の哲学であり、覇者の哲学。


「おいおい、こんなの俺じゃ無理だぞ」

「だァ、仕方ねェ! リュウ、俺のポケットに入ってる薬を俺に飲ませろ!」

「はァ!?」

「いいから!」


 叫ぶケイトの剣幕に呑まれ、リュウは急いで彼に駆け寄り、ポケットに入っていたカプセルを取り出した。

 決定的な隙のはずなのだが、オードルは首を傾げるだけで何もしてこない。

 チャンスだ。


「よし、口を開けろ」


 ケイトは言われた通り口を開け、リュウはカプセルを放り込んだ。

 刹那。


 ゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキ!! と。

 そんな音が辺りに響き渡った。


「ッてェェェえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」


 ケイトはそう叫んで、跳ね起きた(・・・・・)

 それに、三人は目を丸くする。

 それもそのはずで、彼は全身の関節を外され、中には骨折もあり、動けない状態のはずだったのだ。


「あァ、クッソ! これ、めちゃくくちゃ痛いから使いたくなかったのによォ!!」


 ケイトは口汚くそう叫んで、腕を掲げる。


「グングニル!!」


 刹那。

 黄金の槍が、ケイトの手元に現れた。

 彼はそれをすぐさま掴み取り、構える。


「ほう、よくわからないが、闘えるようになったみたいだな」

「まァな。憂さ晴らしついでに、あんたを喰ってやるよ」

「よし、いいだろう。身の程ってのを教えてやる」



 最初に動いたのは、ケイトであった。



「グングニル、百%!!!!!!」


 それは正真正銘、掛け値なしの全力。

 ケイトの『修羅』としての全力に、『戦神』の加護をフルに得た。

 それを、たったの一撃。たったの一手。ただの一度の刺突に込めた。

 その速度は、風を。音を置き去りにしていた。

 誰も、意識すらも追いつかない。

 そう。



 ただ一人を除いて。



「ほう」


 パンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!! と。

 乾いた爆音が辺りに弾け、衝撃波を生んだ。

 その衝撃波は暴風となり、リュウやナルサスを襲う。

 その中心点で、彼らは見た。

 オードルが。



 ケイトの(・・・・)()の柄を掴んで刺突を(・・・・・・・・・)止めているのを(・・・・・・・)



「マジかよ」

「ふむ、これがあいつの加護の全開か。確かに凄いが、使い手がこれじゃあなァ」


 ケイトの膂力は、人間という物差しでは測ることすらできない。

 ならばそれを止めているオードルの膂力は、如何程か。

 それは、考えることすら無駄なことなのだろう。


「おいおい、マジかよ。全く動かねェぞ」

「そりゃ、掴んでるからな」


 力比べは勝負にすらなっていないようで、『槍』は一ミリ、一ミクロンたりとも動かない。

 これが、純粋なまでの格の差。

 そこには運の要素が介在する余地すらなく、覆しようのない純粋な実力差だ。

 オードルは空いている方の拳を握りしめ、掲げる。


「まァ、歯ァ食いしばれ。死ぬかもしれないが、そんな時は自己責任で」

「あァ、遠いねェ。今の俺じゃ無理だわ」

「そういうことだ。これが、身の程の違いってやつだ。勉強になったか?」

「クソッタレ……」


 ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッ!! と。

 ケイトの頭にオードルの鉄拳が叩きこまれた。

 ケイトは床に叩きつけられ、沈黙した。

 床には亀裂が走り、壁は崩れ落ちる。

 それらにオードルは一片もの感慨を抱かずに、リュウへと向き直った。


「さて、次はお前だな。なに、安心しろ。死にはしないから」

「はぁ、やだなぁ。やるしかないんだから、嫌になる」

「ほう、勝てないと知っても挑むその度胸は褒めてやるよ。無謀だが、そういうのは嫌いじゃない」


 リュウは両手の拳銃を握りこむ。


「そいつはどうも。それじゃついでに、わざとやられてくんね?」

「それはそれ。これはこれ」

「だよなぁ」


 リュウは息を吐き、まっすぐオードルを凝視する。

 集中し、目を凝らす。

 瞬きなどしない。

 目が乾き、痛みすら生まれてくるが、瞬きを堪える。


(雑念を消せ。あいつをしっかり見ろ。一挙一動見逃すな。全てを見切るんだ)


 リュウはこの時、人生の中で最も集中していた。

 思考は深く、澄み切っている。

 雑念は全て取り除かれ、あるのはオードル・シリアの動きを『観る』ことのみ。


 この時彼は、武術の一つの真髄に至っていた。


 観の目

 武術に置いて、いや、武人には二種類の目がある(・・・・・・・・)

 それは、『見の目』と『観の目』と呼ばれている。

『見の目』は、武人ではない常人ですら持っている。

 それは、目で見ている視界のことだ。

 だが、『観の目』は違う。

『観の目』とは修行の果てに得る、武人たちが扱う『気』や功夫と呼ばれるものを観る目のことをさしている。

 だが『観の目』で観えるものは、それだけではない。

『観の目』は、武人が修行の果てに得るものだ。


 その真髄は、相手の挙動の先読みにある。


 これを極めることができれば、『気』の流れを読むことができるようになる。

 その深淵に至れば、相手が動き出す前に、相手がやろうとすることがわかるようになり、攻撃の軌道が読めるようになる。

『観の目』を極める。それは大袈裟に言ってしまえば、未来予知を会得することと同義なのだ。



 その深淵の一端を、リュウは浅い武術の修業で垣間見たのだ。



 リュウは紛れもなく、天才だ。

 観るということにおいては、追随を許さない程の才能を持っている。

 だが。



浅いぞ(・・・)



 ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッ!! と。

 リュウの頭に鉄拳が叩きこまれた。


「ゴ、ァ!?」


 慢心など、油断など、驕りなど一片もなかった。

 そんなものは、排除していた。

 だがそれでも、届かない。

『鬼』には、『黒い鬼』には、オードル・シリアには届かない。


「そこの『修羅』と似たような速さなら、今のでもなんとか足りた。だが、お前じゃ駄目だ。お前みたいな薄ノロなら、億手先は見据えろ。それでようやく、対等だ」


 オードルは、『人間』の範疇を超えている。

 超人なんて生易しいものではなく、『座』そのものが『人間』ではなくなっている。

 鍛錬で、練磨で、精進で、修行で、苦行で、難業で――彼は人間という壁を超えた(・・・・・・・・・・)のだ。

『鬼』へと至ったのだ。

 天賦の才能があろうと、無限の努力を積もうと、両方があろうと、『人間』では超えられない。

 ましてや、付け焼刃では尚更。


 これが『黒い鬼(オーガ・シュバルツ)』。

 これがオードル・シリア。

 人の身で、『人』を踏破した者。


「ま、こんな所だろ。まだ意識があるようだが、動けないだろ。さて、ナルサスを開放して……」

「「スト――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ップ!!!!!!」」


 オードルが動き出そうとした一歩手前で、男女の叫び声が聞こえた。

 それにオードルは目を見開き、声へと向き直る。

 彼にとっては、男の方の声は無価値だった。

 だが、女の方は違った。

 それこそが、最初にしていた『探し物』なのだから。


「おぉ、リース! 無事だったか!」

「無事だったかじゃなーい!」

「あがぁ!?」


 歓喜の声をあげたオードルの顔面に、リースの拳が叩きこまれた。

 完全に気が抜けきっていた『鬼』は、拳をその鼻っ柱で受けて、後方へと吹き飛ばされた。


「あぁ、もう! アンリ、ナルサスを『固有結界』にぶち込んで!」

「わかってるよ。我が精神が喰らうは現」

「なん……ッ!?」


 刹那。

 アンリとナルサスの姿が、忽然と消えた。


「ンぁ? ナルサスとあの小僧、どこいった?」

「アンリの、固有結界? だって。それで、ナルサスを閉じ込めてもらったのよ。これで、あの子たちを……」

「そっか。それじゃ、もうあいつに従わなくていい訳だ」

「まあね」


 オードルはリースの頭に手を置いた。

 それに彼女は、むすっと不貞腐れたようにそっぽを向く。


「子ども扱いしないでよ」

「くくく、俺からすりゃ、お前はいつまでもガキだよ」

「……また昔みたいに噛むわよ?」

「やめろよな。痛いんだから」

「ふん」



(あの、これ、どういう状況?)



 まだ意識をなんとか保っていたリュウは、心の中でそう思っていた。

 状況を整理してみよう。


 自分はオードルに一発K.O.された。

 アンリとリースがいきなりやってきた。

 アンリはナルサスと一緒に消えた。

 なんかオードルとリースが仲良さそうにしている。


 うん、訳がわからないよ。

 確認のために、なんとか声を絞り出す。


「あの……二人は、どういう関係? それと、あの馬鹿は……なにをしようと……?」

「ん? あぁ、殴って悪かったな。お前らがリースの敵にならないのなら、俺はもうお前らの敵にはならない」

「……なん、で?」


 オードルは微笑み、こう答えた。



「俺はこいつの、兄貴なんだ」



 全然似てねェ。

 リュウは心の底からそう思い、意識を手放した。

最近の悩み~。

リュウ、キャラが薄い。

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