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10.方針の話し合い

一週間以上、経ってしまった。

不覚でごんす。


どうぞ~。

 アンリはケイトの手から離した。


「そいじゃ、戻るぞ」

「俺もそうしてほしい所だが、どうやって? ……あ、なんかデジャヴ」

「こうやって。我が精神は我が器に収まる」


 刹那、景色が切り替わった。

 そこは、二人が固有結界に入る前の場所だった。

 そこには当然。


「お、アンリ、戻ったか」

「おうよ」


 リュウは椅子に寝ていた。

 この野郎、こちとら十回も殴り飛ばされてたのに寝てやがったのか。

 なんてやつだ!


「てめぇ、一人だけ楽しやがって!」

「は?」


 理不尽極まりないことを言われ、リュウは間の抜けた声を出した。





「は? 今のメンバーって、俺たちだけしかいないのか?」


 現状をありのままに伝えたら、ケイトはそんな風に言った。


「ありの~ままの~♪ 現状を話すの~よ~♪」

「やかましいわ」


 アンリは微笑み、ケイトの肩に手を置く。


「数より質」

「お前革命をナメてないか?」


 ケイトの額に青筋が浮かんでいる。

 あと少しで爆発しちゃうだろう。


「まぁまぁ、落ち着けよ。これからは仲間を集めることに集中するんだからさ」

「チッ、それで? 具体的にはどうやって仲間を集めるつもりなんだ?」

「あぁ、それなんだがな」


 アンリは地図を取り出し、テーブルに広げた。

 その地図には、リグレット王国の地形が記されていて、所々に×がついていた。


「なんだこれ?」

「この×印がついてる場所には、人体実験の研究所がある」

「「な!?」」


 アンリの言葉に、リュウとケイトは驚いたような声をあげた。

 だが今は無視して、説明を続ける。


「ウェーズさんも言ってたが、人体実験被験者に対する普通の人間の(・・・・・・)心情ってのは決して良いものじゃない。むしろ、悪いんだ」

「…………ふむ、それで?」

「だから最初は、研究所を叩き潰して被験者たちを仲間にするって方向でいこうと思ってるんだ。どんな実験施されようが、俺たちなら(・・・・・)悪い感情は浮かばないだろう……ま、傷の舐め合いみたいなモンだがな」

「ふむ、悪くないんじゃないか? 人体実験被験者なら、そこいらの住民集うより戦力的にも心情的にも手っ取り早いだろうしな」


 リュウはケイトに指を指した。


「なぁ、アンリ、こいつかなりドライじゃね?」

「まぁまぁ、今からやることを考えたら、これくらいが丁度いいだろ」

「そういうもんかねぇ……」


 リュウは目を細めて、テーブルに広げている地図を叩いた。


「それにしてもアンリ、これ、どうやって手に入れた?」


 リュウの疑問ももっともだ。

 人体実験は当然だが、秘密裏に行われている。

 そんなもの公にやったら、即刻デモか革命が起きて国ひっくり返るだろう。

 ということはつまり、これは機密情報の一つなのだ。

 そんなものを、アンリが簡単に手に入れられるはずがない。


「ウェーズさんからもらった」

「お前、いつの間に……」

「なにか役に立つかもしれないからって、渡されてたんだよ。で、受け取った時思ったね。これだ! ってさ」

「やれやれ、お前は相変わらず、馬鹿なのかそうじゃないのか判断が難しいな」

「お? 喧嘩売ってる?」

「ははは、かかってこいよ不良青年」

「ははは、泣かしてやるよチャラ男」


 ガゴン、と。

 鈍い音が二人の頭から響いた。

 音の正体は、拳骨。

 ケイトが彼らを止めるために、拳骨をお見舞いしたのだ。


「「い、痛ェ……」」

「ったく、しょうもないことしてる場合じゃないだろうが。それで、その研究所にはどうやって行くんだ? まさか徒歩とか言わないよな?」

「「え? 違うの?」」


 ケイトは頭を抱えた。

 仲間になったのを後悔しかけそうになってしまう程に。


「お前ら馬鹿か。徒歩で研究所を潰して国中を周るとか、根回しだけで何年もかけられるかってんだ」

「準備は大切なんだぞ~?」

「そうなんだぞ~?」

「うっわ、やべぇ、ここまで人に殺意を覚えたのは初めてだ~」


 ケイトは殺意をぐっと飲み込む。

 ここで手を出したら負けだ。


「いいか? 俺たちがやろうとしてることは、クーデターだ。これには、用意しなきゃならないものがたくさんある。人員、武器、情報、拠点とかな。お前らは、その内のたった一つに数年もかけるのか?」

「武器ならサイクロプスが用意してくれるさ」


 アンリの答えに、ケイトは目を細めた。


「情報は?」

「ウェーズさんにもらう」

「拠点は?」

「良さそうな物件探す」

「資金は?」

「募金を呼びかける?」

「他力本願かつ行き当たりばったりじゃねェか」


 無計画にもほどがあった。

 ×の数は数百は下らないだろう。

 この国ではそれ程の数の非道なことが行われているのかと思うのと同時に、徒歩で周り、仲間になるように説得する。

 考えただけでも気が遠くなる。


「つぅ訳で、頼れる保護者に意見を求めるさ。オーディン」


 刹那、頭からつま先までローブで隠した素顔はおろか、男か女かすらわからない者が現れた。

 伝承通りなのならば、筋骨隆々とした体躯にひげを蓄えたおっさんなのだろう。


《どうした?》

「ちょいこの地図を見てくれ」

《ふむ、この国の地図か……この×はなんだ?》

「×印が書いてある場所に人体実験の研究所がある。ここを効率的に周りたいんだ」

《……そこの小僧》

「ンぁ? 俺?」

《お前、移動魔術は使えるのか?》

「あぁ。まぁ、呪文は知ってるんだが、上手く飛べなくて。使いきれないんだ」

《そうか》


 オーディンはアンリに向き直る。


《いいか。移動魔術の地点指名には、二通りある。一つは、マーキングをつける。もう一つは、行きたい場所を暗喩で呪文に混ぜることで示して言霊を込めるんだ》

「う~ん、どうやって?」

《…………》


 オーディンは黙ってしまった。

 助けを求めるかのようにケイトを見る。

 だが彼は、目を逸らすだけで何も言わなかった。


《地点指定は簡単だ。呪文は、わ、わわわ、我は望む。こ、ここに居場所を。ここに安住を》


 なんだか恥ずかしそうだった。


「なぁ、なんでそんなに声小さくなったんだ?」

《恥ずかしいからだよ……厨二っぽいし》

「…………」


 なんか言われてみると、凄ェ恥ずかしくなってきた。

 呪文を涼しい顔で呟くの、傍から見るとかなり滑稽に見えてるのでは。

 リュウとケイトを見てみると、彼らは目を合わせようとしなかった。

 ていうか、必死に笑いを堪えてる。


「てめぇら、こっち見ろよ」

「「いや、無理……くくく」」


 アンリの額に青筋が浮かんだ。

 刹那、彼の背後に二本の槍が現れた。


《まぁまぁ》


 ぽんぽん、と肩が叩かれる。

 向き直るとそこには、オーディンがいた。


《そうカリカリするな。やることをさっさと済ましてしまえ》

「やること?」

《マーキングだよ。この町にマーキングをして、いつでもここに戻ってこれるようにする。そうすればここを中心に研究所を周ることができる》

「おぉ。我は望……」

《待て待て、こんな所にマーキングするな。せめて屋内にしろ》

「わ、わかった」


 四人は屋内に移動して、アンリはマーキングを終えた。

 呪文を紡ぎ終えた彼は、オーディンへと向き直る。


「なぁ、暗喩の方はどういう感じでやればいいんだ?」

《そう難しいことではないさ。重要なのはイメージなのだからな。お前が行きたい場所を頭で思い浮かべながら、暗喩でそこを例えればいい》

「おぉ、これでサイクロプスの所まで一っ跳びだな」

《お前が魔術を使いこなせれば話だがな》

「し、辛辣だな」


 オーディンはそこで踵を返した。


《さて、この位でいいだろう。ケイト、俺は帰る》

「おう、サンキューな…………ん?」


 ケイトは突然、訝しげな声を出した。


《どうした?》

「いや、お前の足下……」

《足下?》


 オーディンだけではなく、アンリとリュウも彼の足下を見た。

 そこには、ムカデがいた。


《うおわぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???》

「げぶら!?」


 オーディンは素っ頓狂な叫び声をあげて、ケイトに抱きついた。

 彼は受け身すら取れず、無様に押し倒される。

 そしてアンリとリュウは一瞬で、パルクールのような動きでテーブルの裏に回った。

 今まで動きからは考えられない程の俊敏さであった。

 ケイトはオーディンを引きがすことに成功した。


「てめぇ、いきなりなにしやがる!?」

《う、うるさい! 足下にあんなのがいたら誰でも驚くだろう!》

「お前神様だろ!」

《ああ、その通りさ! だがな、お前なんか忘れてないか? 俺は元々人間だったんだ。オーディンとは、『人間』から『神』になった者なんだよ》

「つまり?」

《つまり》


 オーディンはムカデを見て、指を差した。


《俺はムカデのキモさと怖さを知っている!》

「やかましいわ」


 ケイトの突っ込みにオーディンは気を悪くしたらしい。

 手を伸ばして、頬をねじ切らんとばかりに引っ張った。


《馬鹿か貴様は。ムカデに咬まれたら、腫れて激痛を伴い、ひどい時は潰瘍化などやリンパ管炎、リンパ節炎が起こる。ムカデの持つ毒によるアナフィラキシーショックで死ぬ可能性すらあるんだぞ!?》

「おふぁえ、ふぁふぇにふわふぃいな!?」

※お前やけに詳しいなと言っています。


 オーディンは多少気が晴れたのか、頬から手を離した。

 先程までの怒った様子から一変して、怯えたようにムカデを見る。


《俺は、噛まれる訳にはいかないんだ。そしたらアナフィラキシーショックが……》

「お前一回噛まれてるのかよ!?」


 ケイトはアンリとリュウを見た。

 アンリは背後に三十もの剣や槍や斧や槌を出現させ、リュウは腰の拳銃を引き抜いていた。


「お前らもかよ!?」

「「《ムカデがキモいんだよ!》」」

「いいからその物騒なものをしまえ!」


 一人増えている。

 いつの間にかオーディンは、『グングニル』を出していた。


「待て待て待て! お前はやめろ! この町吹き飛ばすつもりか!?」

《うるせぇ、全部塵にしてやる!》

「「その通りだ!!」」

「あれ? 冗談かと思ったが、こいつらまさか本気か!?」


 カサカサ、と。

 ムカデこちらに近づいてきた。


「「うわァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」


 ズガガガガドドン!! と。

 凄まじい勢いで武器が地面に突き刺さる爆音と、発砲音が響く。

 そして。


《消えろ多足類!!!!!!》


 乾坤一擲の一撃といわんばかりに、オーディンはグングニルを投擲した。

 音はない。

 ケイトのように、音より速かったわけではない。


 破壊力が凄まじかったのだ。


 世界が震えた。

 最高峰の『主神』が放った、全力の一撃。

 全てを薙ぎ払い、森羅万象を破壊せしめん一撃。

 それは。


「……やり過ぎだろ、これ」


 辺り一帯、いや、町一つを焦土と化した。



 その日、リグレット王国の地図から町が一つ消えた。

 珍しく、人体実験関係によるものではなかった。

 建築物は尽く吹き飛ばされ、大地は焼けて、水は干上がった。

 正体、原因共に不明な災害として処理された。

 奇跡的に、人的被害は皆無だった。


 代わりに、昆虫やムカデといった多足類はその町から一匹残らず消えたという。





 とある貴族の館に、そこには白のビジネススーツに身を包んだ、身長は二メートル程の大男がやってきた。

 彼の名は、ウェーズ・レオパルド。

 裏の世界では、『破壊卿(ジェイソン)』と呼ばれている男だ。


「センダート伯爵、ウェーズ・レオパルドが馳せ参じました」

「おぉ、ウェーズ!」


 彼の下に、大慌てで腹に醜い脂肪をでっぷりと蓄えた男が走り寄ってきた。


「伯爵、何故わたしを呼び寄せたので?」

「う、うむ。実は、予告状が届いたのだ」


 センダート伯爵は怯えながら、ウェーズに手紙を一枚手渡した。

 彼はそれを受け取り、中を読む。

 そこには、こう書かれていた。


『今夜、貴方の命を頂戴しに参る。

 命が惜しくば持っている全ての権力を放棄するか、「教会」の傘下に加わるか選ぶがいい。

  霧の死神(ミスト・リーパー)より』


「………………………………」


 霧の死神

 裏の世界にいる者であれば、知らない者はいない。

 だが知られているのは、名前だけだ。

 彼なのか彼女なのか知る者はいない。

 まさかそいつが。


「……『教会』に属しているとは」


 教会

 その組織の名を思い出しただけで、ウェーズの中に怒りが燃え上がる。

 この国で人体実験を行っているのは、こいつらなのだから。

 生徒たちの仇。

 もしそいつらが目の前に現れたら、正直、自分を保っていられる自信がない。


(約束、守れるかな……)


 ウェーズはセンダートに向き直った。


「伯爵、いかがなさるおつもりですか?」

「お主を呼んだ時点でわかっていると思うが、権力を手放すつもりも傘下に加わるつもりは毛頭ない」

「つまり?」

「『霧の死神』を、殺すのだ」

「…………承知しました」


 ウェーズは頭を垂れた。

元々はムカデ出すつもりはありませんでした。

なぜ出したかって?

昨日自宅でムカデが出現したからです。

家族全員でビビってました。


感想、要望、質問、矛盾点、誤字などお待ちしております。

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