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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
『剣聖』編
3/71

軍人のお仕事

もう書き溜めを今日で全部放出してやるぜぇ!

 レドルノフは、シュスに説明を始めた。


「符術はな、俺が最も苦手とするモノの一つだ」

「じゃあ、なんで使ったんだよ!?」

「使えるからに決まってるだろ」


 当たり前だろ? と言わんばかりの顔をしている彼に、シュスは怒りをなんとか抑えている。


(超殴りてぇ)


 怒りを堪えるシュスに、ルークが言ってくる。


「んまあ、こいつが使ってる符術に必要なものは、符と魔法陣だ」

「魔法陣?」


 ルークは一度頷いてから、説明を続けた。


「幻属性の魔法だよ。こいつ、なぜか幻属性の魔法だけは使えるんだよ」


 魔法には、いくつもの属性が存在している。

 火、水、風、土、雷、幻、光、闇の八つだ。

 あとは、どれにも分類されることのない、簡単な初級魔法だ。

 因みに、習得難度は、後ろに明記されているものほど高い。

 幻属性の魔法には、『有幻覚』という、幻覚に実態を持たせるものが存在する。

 恐らく、符術に描きこまれた魔法陣は、その術式だろう。

 戦闘中に本体とその幻覚が入れ代わって、高見の見物をしていたのだろう。


「符術ってのはな、符に爆薬を仕込んで投げつけるのがセオリーなんだがな、こいつはアレンジ加えてんだよ」


(加え過ぎだろ。ほとんど用途変わってんじゃねえか)


 内心でそう突っ込んでから、レドルノフに向き直る。


「他の属性は使えないのか?」

「ああ、俺、要領が悪いからな。一つの属性しか習得できなかった」

「でもなんで、幻属性なんだ?」

「まぁ、俺は師匠に徹底的に叩き込まれたんだよ」


 武人にとって師匠という存在は、とてつもなく大きい。

 我流で達人への領域に至る者もいるが、それは特例中の特例といえるだろう。


「それでだ」


 ルークが、話題を変えるために、区切りをいれてきた。


「お前はこれからどうすんだ?」

「もちろん、ついていくさ。俺、今仕事行き詰ってんだよ。それに、ここで会ったのも、なにかの縁だろ」


 それにシュスは顔を僅かに歪めた。

 それも至極当然のことで、さっきまで戦っていた相手が旅に同行するのは、あまり良い気分にはならない。

 だが、相当な実力者であることは間違いないので、特に反対する理由もない。

 レドルノフは、頭をかきながら、シュスに向き直った。


「まあ、これからは仲間なんだしよ、さっきのことはお互い水に流そうぜ?」

「まあ、それもそうだな」


 そして、お互い握手をした。



 全身全霊、全ての力をもって。



「「いってぇえええええええええええええええええええええええ!?」」

「お、茶柱が立ってる。今日は良いことありそうだな」


 ルークは、目の前の現実から目を逸らして、不安だ、という言葉を呑み込んだ。





 三人は騒ぎを起こしてしまったので、場所を変えた。

 ルークは、シュスに金属製の板を渡した。


「なんだこれ?」

「iPho……」

「おいちょっと待てぇ!」

「なんだよ?」

「なんでこんなんあるんだ?」

「あるモンはあるんだから、そこは割り切れよ。それにこの携帯通信機はな、レドルノフも持ってるぞ」


 そう言われて、レドルノフが携帯通信機を掲げた。


「ついでだから、番号交換しとくか?」


 仕方なしに、レドルノフと番号を交換する。

 それを確認して、ルークが言ってくる。


「俺の番号はすでに登録してあるから、いつでも連絡が取れる。そんじゃ、手分けするか」

「あ、ルークちょっと待て。訊きたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「これ、色々ヤバくね?」

「なんでだよ? なにかこのIPho……」

「だからそれ言うんじゃねえ!」


 そう叫んで、シュスは高速で魔法陣を描いた。


「ちょ、おま、それはシャレにぎゃぁあああああああああああああああああああああ!?」





 ルークとレドルノフの仕事は、彼らの所属する軍の隠語で言うと、宝探し。

 宝とは、古代遺物だ。

 その古代遺物とは、その昔栄えた文明の道具のことで、逸話などで活躍する英雄が扱っている武器は古代遺物であることが多い。

 例を挙げると、竜殺しの大剣『アスカロン』。決して折れない名剣『デュランダル』。人の血を吸って固く、鋭利になる吸血武器『フルンティング』。

 彼らが所属している国だけでなく、大陸中の国々が躍起になって探している。


(まぁ、はっきり言って、大した脅威にはならないだろうがな)


 確かに古代遺物は強力だが、使い手が凡庸だとたかが知れてるのだ。

 ようは、使い手次第ということだ。


「ま、戦争っつうのは勝てる、と思い込んだら始まっちまうしな」


 そう呟いて、空を見上げる。

 彼はこう思った。

 ダルい。


「ああ、そろそろ聞き込みを始めっかな」


 こうして、ルーク・パラシアはようやく仕事を始めるのだった。





 この町には、首飾りの遺物があるそうだ。

 足でしらみつぶしに探すよりも、聞き込みで情報収集した方が効率がいい。

 ちょうどいいところに、二人の町民がいた。


「すみません」

「あ? なんだよクズ野郎」


 頑張れ俺~。


「お尋ねしたいことがあるんですが」

「てめぇに話すことなんざ、なにもねぇよ」


 次の瞬間、町民たちはボコボコにされていた。

 きっと天罰が下ったんだな。うん。

 ルークは、できる限り優しい口調で訊いてやる。


「さぁて、クズども、質問するがいいよなぁ? お前ら、この町でなんでもいいから、奇妙なことや不思議なことがあったら言ってみろ」


 ああ、なんて優しさに満ちた御言葉なのでしょう。

 町民たちも、感激のあまりブルブル震えています。

 震えているのは、今ルークが柄に手をかけているからでは決してない。


「最近、この町に赤い甲冑を身に纏った、死神が現れたらしいです」

「死神?」

「はい。なにかを探していて、夜な夜なさまよってるらしいです」

「ふーん」


 ルークの対応を見て、二人は情報が足りないと思ったのか、まくしたてるように言ってくる。


「ほ、他にも怪獣とか現れたそうですよ!」


 うさんくさくなっていく情報源。


「一つ質問なんだが、お前らはソレをみたことがあるのか?」

「「ありません」」

「ダメじゃねかぁああああああああああああああああああああ!!」


 町民二人を全力で殴り飛ばしてやった。


「「ぎゃぁああああああああああああああああああああ!!」」


 肩で息をしながら、彼はぼやくように、


「ああ、アホらしい。とっととあいつらと合流しよう」


 そう呟いて、彼は歩き出した。





「赤い甲冑を身に纏った死神スか? アレは死神なんかじゃないスよ。あれは、人間ス」


 ルークは、レドルノフ・シュスと合流する前に、情報屋に、『死神』について訊いていた。


「まぁそれでも、死神と呼ばれても不思議はないっスね。なにせ、そいつらの名前は、『鉄鬼隊(てっきたい)』ですから」

「ああ、『鉄鬼隊』ね」


 大陸中でも、有名な部隊の名前だ。

 ある意味、『剣聖』、『紅の鋼カリュプス・クリムゾン』、『剣神』、『黒い鬼(オーガ・シュバルツ)』などと並ぶ知名度を持つ。

 やったことを(かんが)みれば、とうぜんのことなのだが。


「ふ~ん、成程ねぇ。これはちょっと、俺たちにも無関係じゃなくなってきたな」


 そう呟いて、彼は今度こそ仲間と合流することにした。

 建物を出る前に、その情報屋は、今度はルークに尋ねた。


「そういえば、旦那は元気なんスか?」

「元気じゃないとでも?」


 そう答えて、ルークはその場を後にした。





 ルークは、レドルノフ・シュスと合流した。


「それじゃ、それぞれ集めた情報を整理するぞ」


 ルーク:この町には、死神と怪獣が現れたらしい

 レドルノフ:この町オススメ! 絶品料理店(本人が選択)!

 シュス:スプーンの簡単な曲げ方


「全部関係ねぇじゃねぇか!」


 シュスが叫んだ。


「てめぇが一番関係ねぇだろうが!」


 レドルノフが、二人の肩に手を置いた。


「まぁまぁ、ここで俺たちが言い争ってもなんにもならねぇだろ」

「「うっせぇアホ顔赤毛! ダセぇ顔と髪型しやがって!!」」

「ぶっ殺されてぇのかてめぇら!?」

「「その店の料理不味かったらわかってんだろうな!?」」

「食いに行く気なのかよ!?」


 当たり前でしょうが!

 誰でも美味しいものは食べたいに決まってるでしょうが、まったくもう。


 どこかオネエになってる、ルークであった。





 三人は、レドルノフが太鼓判を押す、中華料理店に来た。

 今、ゴチになってま~す。


「チャーハン美味! 餃子美味!」

「すいませ~ん、杏仁豆腐おかわりくださ~い」


 最初は文句を言っていた二人が、料理に病みつきになっているのを見て、レドルノフは心中でため息をついた。

 シュスが思い出したように、二人に尋ねた。


「あ、お前らさ、なんで古代遺物集めてるわけ?」


 それを訊かれて、レドルノフはため息をついてから、ルークを睨みつけた。


「ルーク、お前、ちゃんと話してなかったのかよ」

「ん? あ、やっべ」

「あ、やっべ、じゃねぇよ!? お前アホか!? 時には命がけのときもあるだろうが!!」

「それはこいつも承知の上だ。俺は、本人の意思関係なしに、命がけになるようなことはさせねぇ」


 レドルノフがシュスに向き直る。


「シュス、本当に死ぬかもしれないっていうことは、理解してるのか?」

「ああ、俺はそれを承知の上でルークに同行してるよ」

「なら、いいや。ルーク、お前が説明しろよ?」

「わかってるよ」


 ルークがめんどくさそうに、ため息をついてから、シュスに語り始める。


「お前はさっき、こう訊いたな。どうして古代遺物をあつめるのか、と」

「ああ」

「それはな、どこの国もやってることなんだよ。例え話をしようか。A国とB国があります。A国がB国など、すぐに潰せるようなとんでもない軍事力を持っています。さて問題です。B国はどうすると思う?」

「そりゃまぁ当然、A国と同等か、それ以上の軍事力を手に入れるしかねぇだろ」

「そうだ。そして、古代遺物はその点において色々と都合がいいんだ。なにせ、どの国も開発不可能な兵器を『探索』という手段のみで、手に入れることができる。それに、所持国ですら開発できないから、技術が漏れるという、どんな兵器も孕んでるリスクも排除できる。……おい、レドルノフ、てめぇはどうして笑ってやがる?」


 レドルノフは、笑いをこらえて悶絶していた。


「いや、だって、リースならともかく、お前が軍事の話を、真面目にしてんだぞ? 似合わなさすぎるだろ」

「てめぇ……」


 ルークの額に青筋が浮かぶ。

 ちゃんと話を聞きたい、シュスが彼をなだめる。


「まぁまぁ、今はさっきの話の続きをしてくれよ」

「……わかったよ」


 彼は、不機嫌になりながらも説明をする。


「さっき話したのが、大陸中の国が古代遺物を躍起になって集めてる理由だ」

「じゃぁ、お前らの国は違うのか?」

「ああ。俺たちが集めてる理由はな、邪魔だからだ」

「邪魔? 古代遺物がか?」

「そ。アレがあるとな、ウチの王の理想にとっては、妨げにしかならねぇんだよ」

「お前らの王の理想って?」

「それはおいおい話すよ」

「ふーん」


 そして、彼はさっきとは打って変わった怒気が溢れ出さんばかりの声音で、叫ぶ。


「さぁて、切り裂きショーの時間だぜぇ!?」


 彼が向き直った先には、笑い過ぎて窒息死しかけているレドルノフがいる。


「こいつが……シリアス……腹痛ぇ……」

「人がちゃんと真面目に説明しているのに、笑うような不届き者には、きっちり罰を与えてやんよ!」


 レドルノフが窒息状態から立ち直る。


「いいぜぇ、かかってこいよ、人斬りジャック!」


 二人が臨戦態勢に入り、


「店の中で暴れるんじゃねぇ!!」

「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………はい」」



 シュスの一喝に縮こまってしまった。

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