27.大事なのは……過去でしょ!?
今回は、短いです。
そいでちょいシリアスって感じですかね。
ルークたち六人は、正座をさせらていた。
彼らは今、怒られているのだ。
彼らの前に仁王立ちしているのは、素晴らしい笑顔のキツネ先生である。
「貴様ら、限度という言葉を知っておるか? 気を失うまでやるとは、もうここまでやったら笑い事ではすまされんぞ」
「「「「「…………」」」」」
彼ら五人は、気絶した三人+変態悪魔を見た。
アスモデウスは本当に何しに来たのだろう。
キツネ先生の額に、青筋が浮かぶ。
「しかも妾のふすまに大穴を開け、壺にヒビを入れて、テーブルの脚はずれておる。これはどうしてかのう?」
「それは、あの三人が」
「いい訳は無用!」
ぴしゃりと叱られる。
五人は縮こまる。
「妾が出かけとる間に、そこの三人と見知らぬ男が気絶してるのを見た時は、己が目を疑ったぞ」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
「ところで貴様ら、どうする気じゃ?」
「どうする、とは?」
キツネ先生は呆れ顔になった。
目の前に常識が全くなってない人間に対して向けるような顔だ。
「ネタバラシに決まっておろうが」
刹那。
五人はハッとした顔になった。
滝の如く冷や汗を流す。
いや、洪水というべきか?
「……貴様ら、まさか考えてなかったのか?」
キツネ先生はあきれ果てて何も言えなくなった。
だが五人は、彼女の言葉など耳に届いていなかった。
さァ、考えてみよう。
ドッキリで一番恐ろしいものが何か。
ほとんどの方が、途中でターゲットにドッキリがバレること、と思うかもしれない。
それも一つだ。
だが、彼らが考えていることはまったくもって違う。
彼らが怖れていること。
それは。
(((((殺される……ッ!!)))))
ターゲットがキレることだ。
ターゲットが怒っても、普通は怪我するだけで済むだろう。
だが今回のターゲットは、“神の領域”に至った怪物だ。
一方的に蹂躙されて、人生に幕を引くことになりかねない。
ガタガタ震えている五人に、キツネ先生はため息をついた。
「やれやれ、仕方ないのう。妾からあやつらに説明しておこう」
五人の顔に花が開いた。
「あやつらは妾に頭が上がらんからのう。強く出れないのじゃ」
キツネ先生は愉快そうに笑う。
五人は顔を青くする。
あの三人に頭をあげさせないとか、この人何者?
もしかしたら自分たちは、ヤバい人に『借り』を作ろうとしているのではないか?
五人の顔から考えを汲んだのか、キツネ先生は微笑む。
「なに、借りと思う必要はない。妾も、楽しませてもらったしな」
五人は首を傾げた。
そんな彼らに、彼女はいたずらっぽく笑う。
「実はな、少しばかり離れた場所で、アンリらと貴様らの行動を見とった……なぜアスモデウスが入ったかは、妾にもわからんが」
キツネ先生は、しっしっと手を払う。
「そんな訳で、貴様らは帰れ。あやつらを説得しようにも、怒りの根源がいては敵わん」
「「「「「はい。失礼しました」」」」」
そう言い残して、五人は小屋を去った。
気絶しているアスモデウスを引きずりながら。
☆
アンリ、リース、ケイトの三人はルークたち五人が去ってから一時間後に目を覚ました。
それは奇しくも、三人同時に。
「……あれ、ゴーストパレードがいない」
「……小柄の布お化けがいない」
「……骸骨が消えた」
「「「……………………」」」
三人は思い思いに発言し、沈黙した。
彼らは、こう思っているのだ。
あれ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~? と。
それもまぁ、当然のことだろう。
まずは、三人の辿った軌跡を整理してみようではないか。
オバケが出た!
凄く怖かった!
気絶した!
目が覚めた!
そして、なにもいなかった……
首を傾げるのも、仕方のないことなのである。
三人の沈黙は、障子がスライドする音で破られた。
彼らは音へと向き直る。
そこには、キツネ先生がいた。
「おぉ、目が覚めたか」
「「「先生~~~~~」」」
「くっつくな、鬱陶しいッ!」
跳びかかった三人を、キツネ先生は手で制した。
なんという反応速度。
「うむ。まずは単刀直入に言うとするかの」
「「「?」」」
三人は首を傾げた。
そんな彼らのことなど気にせず、彼女は言う。
「先程の心霊現象だがな、あれは『どっきり』じゃ」
「「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」」」
三人は間の抜けた声を揃ってあげた。
だがキツネ先生は、そんな反応は予想できていたので、畳み掛けるように言う。
「なに、ちょっとした余興じゃよ。妾から、貴様らの今の仲間たちに依頼したんじゃよ。名前は、えぇと、確か、るーくだったかの? そやつと愉快な仲間たちに頼んだ」
「「「殺す」」」
何も感じられない、淡々とした口調だった。
それ故に、本気だということが分かる。
「まぁ、待て。しばきあげるのなら、妾にせよ。頼んだのは、妾だしな」
「「「へ?」」」
三人は再び、間の抜けた声をあげた。
「当然じゃろう。妾が頼んだのだぞ? ならば制裁を受けるとすれば、妾じゃろうて」
「「「…………」」」
これがルークだったら。
レドルノフだったら。
ミラだったら。
三人は一切合財容赦せず、即座に向こうから殺してくださいと土下座で頼むような恐ろしい『仕返し』をしたことだろう。
だが相手は、あのキツネ先生だ。
三人は、彼女に返しきれないほどの恩がある。
だから。
だから。
だから!
「「「畜生ォ……」」」
三人は膝をついて、項垂れたのだった。
☆
アンリたちとキツネ先生を加えた四人は、酒を飲んでいた。
「くっくっく、愉快だったぞ、貴様ら三人が泣きわめく姿を見ておるのは」
「「「やだこの人ドS」」」
「今さらじゃろう」
キツネ先生は、本当に楽しそうに笑う。
三人はわかっていた。
これは彼女なりの、『仕返し』なのだと。
彼らは『彼』が死んでから、ここに来る回数がめっきり減った。
アンリは申し訳なさそうに言う。
「これからは、来る回数増やします」
「ふ、まぁ、楽しみに待つとしようかの」
キツネ先生は、優しく微笑んだ。
☆
アンリは黒服たちから、手向けの花を受け取っていた。
「陛下、どうぞ」
「ん。サンキュ」
赤三本、青三本、黄色三本の花束だ。
リグレット王国では、この三色に三本、計九本の花束を死者に供えるのが風習となっている。
花の種類は問わない。
自分か、あるいはそいつが好きだったものを供えてしまえという先人なりの優しさなのだろう。
「綺麗な花だな」
「もったいない、お言葉」
「とにかく、ありがとな」
まぁ、あいつは花が好きだなんてキモい趣味はしていなかっただが。
そう思いながら、アンリは微笑を浮かべる。
目を閉じて、思考に沈む。
それは、五秒ほどだった。
「それじゃ、お前らは晴れて解放だ」
黒服たちは、困惑したような顔をしている。
こんな程度で許されていいのだろうか、とでも考えているのだろう。
アンリは苦笑した。
「だから、いいんだよ。怪我したのは馬鹿どもだけだしな」
「はぁ」
アンリは立ち上がった。
遠い目をしながら、その手に花束を持って。
黒服は首を傾げながら、彼に訊く。
「陛下、その花は、一体誰に?」
「あぁ」
アンリは、ふっと笑う。
その顔は、どこか寂しげな雰囲気を醸し出していた。
「ちょいと、俺の親友にだよ」
☆
リースは王の間へと訪れた。
扉を開ける。
「アンリ~」
しかし、王の間には誰もいなかった。
「あれ?」
「アンリだったら、今は出かけてるよ」
刹那、ケイトが入口の壁に寄りかかっている姿勢で現れた。
前触れもない出現に、リースはまったく動揺しない。
こんなことで一々騒いでいたら、身が保たないと言わんばかりに。
「え~、それなら、どこ行ったの?」
「やめとけ。あいつ、今、墓参りに行ってるから」
「そう。あいつの?」
「他に誰がいるんだ?」
「そう、よね」
ケイトから視線を外し、窓を見る。
そしてすぐに、彼女は顔を曇らせた。
「あの、バカ」
リースは小さく、そう呟いた。
☆
アンリは王都のはずれにある丘へと来ていた。
手には、先日黒服たちからもらった花。
丘には、一つの墓石。
その墓石には、『リュウ・アストレイ』と刻まれている。
それは、アンリの親友の名前。
「よう、リュウ。あれから、六年もたった」
アンリは六年前、革命を起こした。
そのせいで、リュウは死んでしまった。
彼は、どんな想いで逝ったのだろう。
そう考えなかった日は一日としてない。
「ははは、早いよなぁ。お前が死んで、俺が王様になってから、六年」
誰よりも、隣にいてほしかった。
一緒に笑っていてほしかった。
「俺、まだなんもできてねぇ。理想にはまだ遠い。てか、ちゃんと近づいてるかすらわからねぇ」
墓石に花を添える。
「けどさ、どんだけ時間がかかっても、どんなことしてでも理想は叶えるよ。約束だからな」
墓石に刻まれた字を、親友の名前を指でなぞる。
「あぁ、できることならさ、十年くらい前に戻りたいなぁ」
もう赤みがさしている空を見上げて、『戯言王』はそう呟いた。
さぁ、今こそ語ろう。
戯言王と呼ばれる男が描いた、『物語』を。
はい、こんな感じで『七罪』編は終了です。
次回からは、革命編というのが始まります。
お察しの通り、主人公はルークではなくアンリになってしまいます。
ルークたちが好きな人たちは、ごめんなさい。
ルーク、マッチョ、ミラ、シュス、ラルは出ません。
けど、これは絶対に必要な章なんです。
設定的にも、世界観的にも、登場人物的にもね。
そんな訳で、これからもよろしくお願いいたします。




