26.トリック・オア・トリック
いたずらしませう
ルークは目を閉じて、リグレット王国王城の庭園に立っていた。
彼は現在、人を待っている。
ルークは複数の気配が、ここに向かってきているのを感じ取り、目を開ける。
「きたか」
ルークの視線の先には、シュス、レドルノフ、ミラ、ラルの四人がいた。
四人とも、自分がどうして呼び出されたのかわからない、という顔をしている。
「よっす。お前らに、ちょい手伝ってほしいことがあるんだ」
「手伝ってほしいこと?」
シュスの問いに、ルークは神妙な顔でうなずいた。
「復讐だ」
「誰に?」
ルークは一度大きく息を吸った。
「アンリ、リース、ケイトのクソ上司たちにだァ!!!!!!」
そして、大絶叫した。
「あいつら俺をコケにしやがって! 仮にも俺剣聖様なんですよォ!? 仕事押しつけてくるわ、いじめてくるわ、暴力振りかざしてくるわもう限界なんだよ!! 俺の長くもない堪忍袋の緒は、昨日の休日潰されたことでブッチしたんだ!! もう、ダメだ!! 我慢できねぇ!!俺は、あいつらに復讐を果たしてやるんだァ!!!!!!」
四人の目は、馬鹿を見るそれへと変化した。
だが、ルークは気づいていない。
けたけたかたかた笑いながら、呟き続ける。
そんな彼を見かねたレドルノフが、訊いた。
「で、具体的にはどうやってやるつもりなんだ? まさかとは思うが、実力行使とは言わねぇよな?」
ルークは“人の領域”を超えた、超人の域に至った達人だ。
だがあの三人は、『人』を捨てて“神の領域”に至った化物だ。
超人といえど、所詮は人。
『人間』は『神』には勝てない。
「あぁ、ンな無謀なマネはしねェよ。俺がやろうとしてることはな……」
「ドッキリだ」
ルークのその言葉に、四人は初めて興味を示した。
「もう作戦は立てた。準備も整えた。あと必要なのは、人手だけ。乗るか反るか、今すぐ決めてくれ」
☆
ルークが四人を集めたその日の夜。
アンリは夜の森を独り歩いていた。
彼が独りで森を歩いているのには、訳がある。
アンリが向かっているのは、昔からの知り合いのところである。
というか、昔から世話になっている医者のところである。
小屋のドアを開ける。
「うぃーす」
「む、ようやく来おったか」
アンリのあいさつに、女の声が返ってきた。
腰にまで届く白の長髪を背中で結った、黄色の瞳を持つ白衣を羽織った女性。
彼女は、『キツネ先生』と呼ばれている。
そう。キツネ先生だ。
そう呼ばれる理由は、彼女にはキツネの耳が生えているのだ。
この世界には、竜人はいるのに獣人はいない……はずなのだが、彼女は例外というべきだろう。
「ようやくってことは」
「うむ。もうリースもケイトも来ておるぞ」
「うわ~、俺が最後か」
アンリの軽口に、キツネ先生は呆れたように息を吐く。
「どうせ、また仕事ばかりしておったのだろう。あまりやり過ぎると、前みたいにベッドに縛りつけるぞ」
「そ、それは勘弁してください。仕事だけは取らないで」
「……一度、本格的に隔離するか」
「先生? 今、不穏なこと言いましたよね?」
「気にするな」
しれっと言ってから、勢いよく立ち上がる。
その際にキツネ先生の豊満な胸が揺れ、アンリは少し視線を逸らした。
どうでもいい話なのだが、アンリが見た中ではキツネ先生は一番の巨乳の持ち主なのである。
彼女はアンリの行動を気にせず、白衣を翻して歩き出す。
「ほれ、ゆくぞ。あまり人を待たせるな」
「はいはい」
アンリは苦笑しながら、彼女の後を追った。
☆
ルークたち五人は、小屋のリビングを魔法でモニタリングしていた。
彼らは、キツネ先生とアンリが入ってくるのを確認した。
彼らがいるのは、キツネ先生の小屋の天井裏だ。
ルークは不敵ににやりと笑う。
「さて、始めるか。点呼を取るぞ。コード『マジック』」
「おう」
「コード『ショタ』」
「はい……ねぇ、ショタってなに?」
「コード『ドラゴン』」
「は~い……ラルにはまだ早いよ。てな訳で、ルーク後で話が」
「コード『マッチョ』」
「おう……これ終わったらマジ殺す」
点呼は終了しルーク、いや、コード『ジャック』は笑う。
「さァ、始めようか! 合言葉は!?」
「「「「トリック・オア・トリック!!」」」」
その意味は。
なにしようがイタズラしてやる、ということである。
☆
アンリ、リース、ケイト、キツネ先生の四人はリビングで酒を飲み交わしていた。
「先生、俺たちがここに来たの、いつぶりでしたっけ?」
「ふむ、八ヶ月ぶりではないか? 貴様ら、めっきりせんようになったしのう」
いたたまれなくなり、三人は彼女から目を逸らした。
そんな彼らに、キツネ先生は苦笑する。
「別に怒ってる訳ではない。貴様が暇ではないことは、妾も理解しておるつもりじゃ」
「「「すみません」」」
「やれやれ、怒ってないと言っとるのに」
彼女は億劫そうに息を吐いてから、一つの小瓶を胸元を漁った。
ケイトはその時、目を逸らしたがアンリは凝視する。
刹那、リースに目潰しされた。
アンリはごろごろ転げまわる。
「お、あった」
キツネ先生が取り出したのは、一つの小瓶だった。
『脱禿宣言!』というラベルが貼ってある。
アンリは顔を青くし、リースとケイトは懐かしそうに笑う。
キツネ先生は瓶を手で弄びながら、三人に言う。
「懐かしいのう。これで、貴様らは大騒ぎして妾に泣きついてきおった」
快活に笑うキツネ先生に、アンリは恐怖にゆがんだ顔で後ろに逃げた。
話を逸らしたかったアンリは、彼女に訊く。
「先生、今日は確か相談があるんですよね?」
「おお、そうじゃった」
キツネ先生は居住まいを正して、三人に向き直る。
彼女はできるだけ低い声で、語る。
「実はな、最近、妾が寝ておるときに、聞き覚えのない声が聞こえるんじゃ」
それは、彼ら三人を怖がらせようという魂胆が見え見えだった。
だから三人は、失笑する。
「先生、怖がらせようたってそうはいきませんよ」
「そうそう。私たちも子供じゃあるまいし」
「くだらねぇよなぁ」
「ふむ、その虚勢。せめて体の震えを止めてから言え。ガタガタうるさい」
この三人、実はオバケが大の苦手なのだ。
キツネ先生はおもむろにため息をついて、立ち上がる。
「まぁ、妾の頼みは簡単だ。祓い用の塩を買ってくるまでの間、留守を頼みたい。ていうか、やれ」
最後は命令だった。
彼女はそう言い残し、踵を返して、
「「「先生おいていかないで!!」」」
「む!?」
三人にしがみつかれた。
「えぇい、離せ! 鬱陶しい!」
「いや、離しません! お願い、三人にしないで!」
「三人いれば十分であろうが!」
キツネ先生は、あらん力の限りをもって抵抗する。
しがみつく三人は、あらん力の限りをもって彼女をこの場に留めようとする。
軍配は、キツネ先生に上がった。
三人は振り解かれた。
その隙に、玄関に走る。
一度振り返り、抵抗の際に乱れた白衣を直してから、三人に言う。
「よいか、できるだけすぐに戻ってくるからな!? それまで留守を頼んだぞ!」
そう言い残して、彼女は逃げるように走り去った。
そして後には、ガタガタ震える大人三人だけが残った。
☆
「「「「「…………………………………………」」」」」
三人をモニタリングしていたルークたち五人は、沈黙していた。
彼らの目にあるのは、困惑だった。
アンリたちは、ルークたちをして歯が立たないほどの化物だ。
事前に聞いていたとは、ここまでとは。
「「「「「…………………………………………(←おもちゃを見つけた悪魔の顔)」」」」」
故に、口の端を吊り上げる。
ルークは、愉快そうに言う。
「なァ、皆の衆。これは、好機ではないか」
「お前、口調が変になってるぞ」
シュスがそんなことを言うが、無視。
「それではまず、手始めに」
ルークが天井から垂れているヒモを掴み、引っ張った。
☆
ガシャン!! と。
突然、アンリたちがいる部屋でそんな音がした。
「「「~~~~~~~~~~ッッッ!!」」」
声にならない悲鳴をあげて、三人はそれぞれ動く。
アンリは頭を抱えながら土下座のような姿勢でふすまに突っ込んだ。
リースはテーブルの下に潜り込んだ。
ケイトは壺に入った。
惚れ惚れするような早業である。
そうしてから、数十秒後。
「「「…………」」」
三人は無言でテーブルの周りに座った。
そして、三人の気持ちは一致していた。
「「「…………帰りてぇ」」」
だが、そうすることはできない。
なにせ、さんざん世話になってきたキツネ先生からの頼みなのだ。
むげにはできない。
だから三人にできることは、彼女が早く帰ってくるのを祈ることだけだ。
二十分経過
突然、リースは足をもじもじさせ始めた。
アンリとケイトは首を傾げる。
「どした?」
「ちょっと、トイレに行きたくなっちゃって」
「「へ~」」
二人は早急に視線を逸らし、話聞きませんよオーラを醸し出す。
リースはそれを無視しした。
「お願い、ついてきて」
「「いやだ」」
即答であった。
「だが断る!」
「「それはこっちの台詞だ!」」
だが、リースも諦めない。
しつこく二人にくらいつく。
「本当にお願い! 独りにしないで!」
「「こっちくんなァ!」」
テーブルの周りをぐるぐる、三人は追いかけっこを始める。
よくもまぁ、飽きもせずぐるぐる。
それは、五分ほどで幕を閉じた。
もうそろそろ我慢の限界らしいリースが、二人を恨みがましい目で一瞥して部屋を出た。
「あんたら、あとで覚えてなさいよぉ」
彼女が部屋を出たのを見て、二人は安心したようにその場にへたれる。
「「助かった」」
☆
ルークは指を鳴らす。
「コード『ショタ』。リースにはご退場願うとしよう」
「は~い」
ラルは全身を覆い隠せるほどの大きさの白い布をすっぽり被った。
左右にゆらゆら、柱に頭をぶつける。
段差でこける。
((((大丈夫か?))))
四人は、不安がこもった目で見送った。
☆
リースはびくびく震えながら、トイレへと向かっていた。
電気は消えいぇいて、真っ暗である。
「うぅ、心細いよぉ」
ひた、ひた、と。
足音がした。
びくっと体を震わせながらも、聞かなかったことにする。
「聞いてない。私は何も聞いてない」
ひたひたひたひたひた。
足音が加速を始めた。
「ッッッ!!」
この場を早く離れなければ。
そう心では思っているものの、恐怖で足がすくんだ。
リースは子猫のように体を丸める。
「あう、うあ、おにい……」
「ミ、ツケ、タ」
ばさり、と。
なにか白い布のようなもので全身をおおわれた。
「きゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
アンリとケイトは、びくっと体を大きくふるわせた。
二人は、ゆっくりと顔を見合わせる。
「今の、リースだよな?」
「間違いないな」
ケイトは立ち上がった。
そんな彼に、アンリは大きく目を見開く。
「お、お前、まさか」
「ああ、ちょい、リースがどうなったのか見てくる」
「そうか。いってら」
アンリは再び寝転がった。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おい」
「いやさ、だって、怖いじゃん?」
「てめぇなぁ」
「それに、これはたぶん、幽霊の仕業だ」
「まァ、人間がやってたらリースはぶちギレて、間違いなくそいつ殺すだろうしな」
「だから俺は、お前はなんとかなると思ってんだ。なぁ」
アンリは含みのある笑みを浮かべて、こう言った。
「幽霊元帥」
「死ね」
ケイトはそう吐き捨てて、部屋から立ち去った。
☆
ケイトは廊下を歩いていた。
「お~い、リース、いるか~?」
いつも通りにふるまっているように見えるが、足はがくがくふるえている。
まるで生まれたての小鹿のようだ。
「どこにいるんだ? ったく」
※めっさ足震えてます。
「やれやれ、今頃あいつ、子猫みたいにうずくまってんじゃねぇの?」
※しつこいですがめっさ足震えてます。
「あ~、めんどくせぇ」
※くどいようですが(略)
リースの姿は見えない。
「……あいつ、マジでどこ行った? こうなったら、気配でも探って……」
「……ぃ、ちゃん……」
「…………あ?」
ケイトの動きが止まった。
動きどころか、震えまでも止まっている。
今のは、女の子の声だった。
「…………」
耳をすましてみて、音を拾う。
「……ぉ…………ぃ……ゃ…………」
「こっちか」
音源へと近づいていく。
ある一室の扉の前に立つ。
どうやら声は、この部屋から聞こえてきているらしい。
「……お兄ちゃん……」
はっきりと、そう聞こえた。
「…………ティア?」
そう呟いてから、扉を開ける。
部屋には、なにもなかった。
憂鬱そうに息を吐く。
「だよな。ンな訳ねぇよな」
踵を返し、
「バァ!!」
目の前に骸骨がいた。
「………………………………………………………………………………………………」
恐怖心が天元突破し、ケイトは意識を手放した。
☆
ルークはケイトが気絶したのを見て、笑っていた。
「くくく、ここまでことが上手く運ぶとは」
※主人公です。
ルークはにやにや笑いながら、モニター越しにアンリを見る。
「さァ、残るは、お前だけだ」
※くどいですが主人公です。
ガバッ、と。
後ろを振り返り、同志たちを見る。
「いよいよ作戦も大詰めだァ。さて、点呼を取りますよォ」
興奮しすぎているせいか、キャラが変わちゃっている。
「一ィ」
ルークが挙手をした。
「二」
レドルノフが挙手をした。
「三」
シュスが挙手をした。
「四」
ミラが挙手をした。
「五」
ラルが挙手をした。
《六で~す☆》
「「「「「なんでお前がいるの!?」」」」」
なぜかアスモデウスが挙手をした。
《いやですね、実は》
少しだけ恥ずかしそうに、アスモデウスはこう言った。
《暇でしたので☆》
「「「「「帰れ!!」」」」」
今は、重要な作戦を決行しているときなのだ。
しくじったら、(多分)命はないだろう。
「いやさァ、お前まじで帰れよ」
《こ~んな面白そうなイベントをしているのに、指をくわえて見てろというのですか~☆》
「「「「「まったくもってその通りだよ!」」」」」
《いやで~す☆ 私だって、面白い催し物には参加したいのです☆》
ルークは頭をかいて、仕方ないと言わんばかりにため息をついた。
「仕方ねぇな。ただし、邪魔はしないでくれよ?」
《合点承知で~す☆》
アスモデウスはもう無視することにした。
邪魔さえしなければ、もうそれでいい。
「さて、者ども、準備せぇ」
「「「「Sir yesir.」」」」
ルークを含めた五人が、それぞれの仮装衣装を身に纏った。
《あれ? 私の分は?》
「ありませんよ?」
☆
アンリは部屋で独り、心細そうにケイトの帰りを待っていた。
「ケイト、遅ェな。まさか、リースみたいに」
しばらく黙りこんで、笑う。
「ンな訳ねぇよな。あいつに限って」
笑うが、空しいだけである。
大きくため息をつく。
「こ、こんな時は、歌を歌おう」
「あんな全知いいっな♪ こんな全知いいっな♪ こんな全知あんな全知いっぱい、あるけど~♪」
部屋の周りで待機していたアスモデウスを含む六人は、歌を聞いて吐きそうになっていた。
アンリは、すごい音痴だった。
ジャイ○ンよろしく、ボエ~とかゴエ~とかにしか聞こえない。
本人はドラ○もんの歌を歌っているつもりなのかもしれないが、微妙に違う。
ルークはアスモデウスに話しかける。
「アスモデウス、いけ!」
《いや私、仮装してないんですけど☆》
「お前は悪魔だから大丈夫ッ! (たぶん)バレない!」
《本当ですね☆ 嘘ついたら、性交千回ですからね☆》
そこは針千本じゃないのか?
やけにテンションをあげて、アンリに跳びかかり、
「あれ? アスモデウス、何してんだ?」
《…………》
一発で正体を看破された。
「バレてんじゃねぇか役立たず」
しかも、バレないと豪語したルークにダメ押しされる始末だ。
あんまりだァァア。
《…………………………………………………………………(←今にも泣きそうな顔)》
「うわわ、アスモデウス、泣くな!」
慌てたレドルノフが、アスモデウスに声をかける。
他の面々も、大なり小なり慌て始める。
チッ。役立たずが。
やっぱり足を引っ張りやがったか。
「仕方ない。全員、突撃だ!」
「「「「おう!」」」」
仮装に身を包んだ五人が、オバケのような動きでアンリとアスモデウスに接近する。
「《ああァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!》」
((((いや、なんでお前までビビってんの!?))))
五人の仮装、前もって見てたよね!?
こういうドッキリだって、知ってたよね!?
「《~~~~~~~~~~~ッ~~ッ!!!???》」
二人は声にならない絶叫をあげて、パタリと倒れ伏した。
気を失ったようだ。
「「「「「…………………………………………………………………………」」」」」
五人は無言で倒れた二人を囲む。
シュスがアスモデウスを指差して、
「こいつ何しに来たんだ?」
「さぁ?」




