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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
『七つの大罪』編
25/71

25.事後のアレコレ

書き溜めが、亡くなっていく。

※誤字ではありません

 リグレット王国王城の王の間。

 そこでは五十人もの黒服に身を包んだ男女が、土下座をしていた。


「「「「「「「すみませんでしたぁ!!!!!!」」」」」」」


 黒服たちに謝罪されている、玉座に座っている男、アンリは頭をかいた。


「あ~、べつにいいって。今回はほら、死人も出なかったことだし」

「し、しかし!」


 黒服の言葉にアンリは鬱陶しそうに手を振る。


「うるさいうるさい。被害者が許すって言ってんだから、気にするなよ。謝罪もいき過ぎると、ただの迷惑だぞ?」

「う……」

「なぁ、みんな、もうこれでお終いでいいよな?」


 アンリが傍らで待機しているルーク、レドルノフ、ミラ、ケイトへと向き直ってから訊く。


「ああ、オドレふざけとんのか!? わいの腕いてもうとるんぞ!? 指詰めて賠償金をヴォクッ!?」


 余計なことを言おうとしたルークの腹を、ケイトの拳が光の速度で打ち抜いた。

 一発KOである。

 ケイトは拳をさすりながら黒服へと向き直った。


「気にする必要はないんじゃないか? 怪我に関しては、弱かったこいつが悪い」

「お、鬼めガッ!?」


 まだ何か言おうとしたルークは、頭をケイトに押し潰された。

 ルークのようにはなりたくないレドルノフとミラは、口をつぐんだ。

 二人は別に怒ってはいないが、怒っていると思われている可能性があるため、口を開けば物理的に口を塞がれる恐れがある。


「賠償金をお望みなのなら、お支払いしますが」

「だ~か~ら~、いらないってば」


 アンリとしては気にしていないが、黒服たちの気が収まらないようだ。

 ここは一つ、賠償金を……ケ、ケイト何をする!? ごふ!

 とどめを刺されたルークのことは、もうみな無視することにした。


「ならば、せめてお礼をさせてはいただけませんか? あなたは、家族の仇を討ってくれたのですから」

「礼、か」


 謝罪ではなく礼といわれると、断りにくい。

 しばらく考え込み、アンリは何か思いついたように顔を輝かせた。


「それじゃ、手向けのための花をくれ」





 黒服たちは、アンリが要求した最高の手向けの花を探すために王の間を飛び出していった。

 アンリたちはそんな彼らを見送り、大きく息を吐く。


「疲れた~。ケイト」

「なんだ?」

「今回での被害、悪魔込みで教えてくれ」

「わかった。

 まず、こちらの被害は、ルークの右腕がダメになったのと、レドルノフとミラが軽傷を負ったくらいだ。

『七つの大罪』はちょいひどいな。ルシファーは自爆。サタンは頭部損傷。マモンは捕食された。

あと、アスモデウスが全身の骨を折ってたくらいだな。こいつ、なんで生きてんだろうな」


 被害状況は、ひどくない。

 むしろ、よくこの程度で済んだものだと思う。

 だが、アンリは不満げにため息をついた。


「やれやれ、殺しちまったな。……てか、サタン殺ったのお前だろうが。お前、恩を仇で返すとか、人としてどうなの?」

「覚えてねえなぁ、そんな昔のこと」

「お前もお前もだが、リースも大概だな。ラルが怪我しそうになったからって、キレてウロボロスに食い殺させるとか」


 レドルノフは思い出したように首を傾げ、訊いてきた。


「そういや、リースはどこにいるんだ?」

「ああ、今はそのラルとシュスと一緒に別室で待機中」


 リースが契約している『神獣』ウロボロスの代償は、丸一日蛇になってしまうことだ。

 蛇になった彼女は、はっきりいって何もできないので別室にて待機してもらっている。

 先程様子を見にいってみたら、子供二人と一緒に昼寝をしていた。


「お~い、連れてきたぞ~」

 ルークとミラが、捕虜となっている『七つの大罪』を連れて王の間に戻ってきた。

 彼らに『七つの大罪』をここまで連れてくるように頼んだのだ。


「元気かなーん、悪魔諸君」

《《《《どの口が言ってんだ》》》》



 当然の突っ込みが入った。





『七つの大罪』たちの拘束は解かれ、中央に座っている。

 アンリはそんな彼らを見下ろし、黒服たちの誤解が全ての原因であること懇切丁寧に説明した。


「てな訳なんだが、わかってくれたか?」

《ああ、理解したよ。とてつもなく馬鹿馬鹿しいということは》


 この場にいる全員を心を、ベルゼブブが代弁した。


《それでだ。貴様、我らをどうするつもりだ?》

「いや、別にどうもしねぇよ。俺としては、とっととお帰り願いたい」

《言われなくても、そうするつもりだ。

 あの馬鹿どもを生き返らせてからな》


 アンリとケイト以外は、目を見開いて驚く。

 だが二人も、驚かなかったというだけで無反応ではなかった。

 ケイトは顎に手を置き、アンリは興味深そうに訊く。


「蘇生か。本当にできるのか?」

《嘘をついてどうする。まぁ、できるのは我だけだがな》


 どうやら悪魔蘇生は、ベルゼブブの専売特許らしい。


「なぁ、人間も生き返らせることもできるのか?」

《なぜそんなことを訊くかは知らんが、不可能だ。我は、悪魔しか生き返らせることしかできん》

「…………そうか」


 アンリはあからさまに落胆したような顔になった。

 わざわざ玉座から立ち上がって、床に体操座り。

 そしてなぜか、床に指でのの字を書き始めた。ガキかよ。


《それでは、始めるか》


 ベルゼブブが二等分に分裂した。

 その片割れが、ミリ単位の大きさになるまで分裂する。

 ルークがアスモデウスに訊いた。


「あいつ、何してんの?」

《蘇生のヴォク!?》


 なんかテンションが気に入らなかったから、ルークは渾身の右ストレートをアスモデウスにかました。

 彼は感触から、二十年の人生の中でベスト5に入る拳だと思った。

 拳の感触に満足したルークに、呆れ顔のリヴァイアサンが代わりに説明をする。


《蘇生の儀式。悪魔を生き返らせるには、供物として悪魔の『魂』が必要になる。で、ノーリスクで『魂』を捧げることができるのは、『分裂』の能力を持つ、ベルゼブブだけなの》

「つぅことは、お前でもできんの?」

《できないことはないけど、捧げるのは『肉体』ではなく『魂』だから。腕とかじゃダメだし、間違いなく死ぬ。しかも、『魂』捧げたら、蘇生の儀式でも生き返らせることはできなくなる》


 つまり実質、蘇生の儀式を行うことができるのはベルゼブブだけ。

 ベルゼブブはとてつもなく重要なポジションということだ。

 ミリゼブブが整列して、魔法陣を三つ描いた。


《それでは、呪文を唱えよう。

 ウナバル~ラ、ウナバル~ラ》

「え。何そのふざけた」



 ピカッ!

 魔法陣が光った!



「そんな呪文で本当にいいの!?」


 光が収まり、視界が晴れる。

 三つの魔法陣は消え、それらがあった場所に四人の人影立っていた。


《ああ、クソ。はめられた。まさか、自爆させられるとは》


 金の長髪に銀の瞳。背中には一対の漆黒の翼を持つ、へんてこな服を身に纏った悪魔、『魔王』ルシファー。


《ぐ、まだ頭に痛みが残ってる》


 青い短髪に青の瞳の、肌が青白い、長身の不健康そうな悪魔、サタン。


《うわ~ん、生き返れたよぉ!》

《助かったぁ!》


 肩まで切り揃えた緑の髪に赤と緑のオッドアイの男と、セミロングの赤の髪にこちらも赤と緑のオッドアイの女が抱き合っていた。

 …………誰?


「誰?」


 ルークの呟きに、ベルゼブブが怪訝そうな顔で答えた。


《誰って、マモンだが》

「えぇ~。炎の体をした鳥って聞いてたんだが」

《ヒューマンモードだ。我ら悪魔は人間に近いヒューマンモードと、一目で人外とわかるアニマルモードがある》

「メリットとデメリットは?」

《疲れるか疲れないかだが?》

「一生ヒューマンモードでいろよ、お前ら」

《あァ――――――――――――――――――――――ーーーーーーー!!」


 ルシファーがミラの顔を見て、素っ頓狂な声を上げた。

 ミラはビクッと体を震わせて、レドルノフの後ろに隠れる。


《ハハ、ははははははっはははははははははははははははははははははは、ハーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 俺がご存命の間に御尊顔を仰ぐのは先程ぶりですねェ、ミラ・ディストリアさん!!!???》


 生き返ったばかりなのが原因なのか、ルシファーのテンションが最高にハイになっている。

 なんでフルネーム知っているのか、不明である。


《テメェ、さっきはよくも俺を自爆させやがったな!》

《確保~》

《《《《《サー、イエッサー》》》》》


 ベルゼブブの気の抜けた指令に、他のメンバーも気の抜けた返事を返した。

 だが気が抜けているのは返事だけであり、行動は迅速であった。

 わずか、二秒。

 ルシファーを取り押さえて、簀巻きにするのに要した時間である。

 惚れ惚れするような手並みであった。


《て、テメェら何しやがる!? これを解きやがれ!》


 地上に打ち上げられたエビの如く、ビッタンビッタン。

 そんな動きをしているルシファーを、みな無視。

 これ以上、事態がこじれるようなことは誰も望んでいないのだ。

 もうみんな、シリアスには疲れたのだァ!!

 お家に帰って、縁側でゴロゴロしたいのだァ!!

 そんな訳で、ルークが峰でルシファーを滅多打ちにする。

 和太鼓の達人のように、連打する。


「アヒャヒャヒャ☆ ンッ―――――――――――――☆ 楽しいッ」


 主人公にあるまじき邪悪な笑みを浮かべちゃっているが、そこは許容範囲である。


《ゴホッ、ゲフッ!? ヤヴァい、殺されるゥ!! お願い誰か助けて!!》


 ルシファーが助けを求めているが、みんなシカトまっしぐらである。

 ルシファーは言葉一つで現実を歪めて、望む事象を起こすというふざけた力を持っている。

 それをもってすれば、ルークをボコることも、簀巻き状態から脱することもできるのだが、そこまで思考がいかないらしい。

 ニューロンの働きが本当に残念である。


「アハ、ゲヒャァ☆」

《ねぇこいつ、ラリちゃってない!?》


 ルシファーの訴えは、やはり無視。

 精神異常者に関わりたい人間など、ここにはいないのだ。

 レドルノフがアスモデウスに訊く。


「お前ら、どうやって帰るの?」

《ルシファーに、『煉獄』につながる扉を開いてもらいま~す☆ 我々で帰るための準備を整えてもいいんですが、それだとどうしても時間がかかっちゃうんです☆》

「へ~、ルシファー、死ぬかもよ?」

《生き返らせて、それで終わりで~す☆》


 流石は悪魔。

 血も涙もないとは、このことだ。

 一心不乱に刀を振るうルークに、視線が集中する。


「ア~~~~ン――――――☆ ○¥△※~□×」


 もはや何を言ってるのかわからない。

 これはもう、見捨てる一択だろう。

 みな、ルシファーを見捨てることにした。だが、



「ルーク、もうやめなよ」



 ミラだけは、ルシファーを見捨てることはしなかった。

 もう、悲惨な光景を見て見ぬふりをすることができなくなった。


「○~△$□¥※☆×♪」

※いいや、俺はもう止まれない、と言っています。

「何言ってるのかわかんないや、神鳴」


 刹那、炎を纏った白い雷がルークを撃ちぬいた。

 洒落にならない勢いでぶっ飛ばされ、壁に激突。

 それっきり、ルークは動かぬ人となった。


「ルシファー、大丈夫?」

《…………お前、どうして俺を助けた? 俺はさっき、お前の髪の毛を全部引っこ抜こうとしたんだぞ?》


 レドルノフが聞き捨てならないといわんばかりに、前に出る。


「お前、なんてことしようとしてんだ! 髪は女の」

「神鳴!!」

「ゴファノリゼンダ!?」


 なんかすごい断末魔をあげて、レドルノフは吹っ飛んだ。

 ミラはルシファーに向き直り、にこりと微笑んだ。

 その微笑みは、可憐な一輪の花の如く。


「もう敵じゃないんでしょ? なら、助けあうのは当然だよ」


 ルシファーは口を開けずに、絶叫した。


(惚れてまうやろォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)


 ルシファーはもう、ミラの顔を直視できなくなってしまった。

 彼の今の心情は、恋する乙女のそれである。

 アンリは半眼になりながら、ミラに言う。


「お前、()なのにそういうのやめろよ」



 ルシファーの恋心が砕けた。



 失恋だった。

 完全無欠な失恋であった。


《………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………》

 はらり、と一条の涙が頬を伝う。


「ルシファー、どうしたの?」

《少し、独りにしてくれないか? 男には、醒めたくない夢というものがあるんだ》

「?」


 ルシファーは心の中で、砕けた恋心の欠片を必死にかき集めている。

 見苦しい限りである。

 ルシファーは芋虫のように這いながら、王の間を出ていった。


「お~い、行っちまったぞ?」

《☆(←輝かしい笑顔)》

《…………(←せっかく体の一部を犠牲にしたのにって、絶望した顔)》

《…………(←のど乾いたな~って顔)》

《…………(←どうでもいいという顔)》

《…………(←めんどくさいという顔)》

《《…………(←諦めてって顔)》》


 ケイトの問いに、悪魔たちはそんな顔で答えた。

 ケイトは半眼になりながら、彼らに言った。


「お前ら、これからどうすんの?」

《仕方ないから、もうしばらく観光していきま~す☆》


「「「「「もう頼むからお前ら帰れよォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」



 王の間にいる人間は同時に、そう叫んだ。





 ルークは家のベッドで寝ていた。

 アンリは、さすがに疲れただろうという言葉とともに、二日の休暇を与えた。

『七つの大罪』事件が終了した日と、その翌日の二日間。

 その初日は寝て過ごし、今は二日目の朝。

 ルークは突然、カッ! と目を開け。


(ギャァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???)


 突如襲われた筋肉痛に悲鳴をあげた。

 筋肉はミシミシと鳴っている。

 あれ? もはや筋肉痛じゃなくね?


(パンドラァ!!)

《…………なんだ?》


 元凶であろうパンドラの名を叫ぶと、頭に声が直接響くようにして、パンドラから返事が返ってきた。


(全身筋肉痛なんですけどォ!?)


 確かに、昨日は大事件が起きた。

 それを解決するために、ルークは頑張った。

 だが、指一本動かせないような筋肉痛になる程ではない。


《ふむ、おそらくそれが最初の『不幸』なのだろうな》

(はァ!?)


 ルークの素っ頓狂な声に、パンドラは鬱陶しそうに答える。


《お前、今日はどういう日だ?》

(…………珍しく、休暇ですけど)

《それが原因だな》

(な、なんですとォ!?)

《お前は昨日、我と契約して『運』をなくした。そして、『七つの大罪』との戦闘。この二つの要因が重なり、この休日を潰すためにアレがアレしてアレしたのだ》

(最後がひどく抽象的なんですけどォ!?)


 パンドラは思い出したように、言う。


《お前、あごの筋肉も動いてないから、ちゃんと声を出せていないからな?》

「…………」



 その日。

 ルークはパンドラに慰められて、一日を過ごしたという。

ルシファーは失恋したのであった。

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