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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
『剣聖』編
2/71

進撃のマッチョ

二話目です。

 ルークは内心舌打ちした。


(それにしても、また来やがったか。俺が入隊してからもう来なくなったから、諦めたと思ってたんだがな)


 彼は、世界最強の剣士『剣神』の弟子だ。

 そのお師匠様が、昔なにかしでかしてくれたおかげで、ルークは賞金稼ぎに狙われるようになってしまった。

 心当たりはないわけではない。

 てか、多すぎた。

 心当たりを探している途中で、思考を打ち切った。

 賞金稼ぎが来たのなら、また返り討ちにすればいいだけなのだから。

 ルークは伸びをした。

 そして、ルークがシュスに対して、提案した。


「なんか腹減ったし、飯食いに行かねえか?」


 元々、さっきの店では食事をし損ねていた。

 だってあの店員さん怖かったんも~ん。


「賛成」





「う~ん、なに頼もうかな」

「コーラやオレンジジュースだったら却下だ」

「なんでだよ~」

「お前、今の自分の貯金を見てみろ」


 シュスにそう切り捨てられ、バツの悪そうな顔をする。

 そしたらいきなり、さっきいた、店員がめちゃくちゃ怖い店の中から、声が聞こえた。


「お客様、困りますよ。代金を支払っていただかないと」


 お客さん、どうやら手持ちがないらしい。

 よりによってその店で。……運のない人だ。


「いやいや、そう固いこと言うなよ。そうだツケだ。ツケといてくれ」


 その客の声を聞いて、ルークの顔がひきつった。

 なにせ、その声には聞き覚えがあったから。


「はぁ……致し方ありませんね」

「ちょっと店員さん? どうしてそんなに大きなハンマーを取り出してるのかな?」

「ああ、じっとしていてください。ご安心を。すぐに痛みもなく耳と腎臓(じんぞう)を剥ぎ取って、換金するだけです」

「安心できるか! ちょっと誰か警察呼んで! ここにマ○ィアがいます!」

「大丈夫でちゅよ~、ちゃんと痛みは感じるようになってますちゅよ~」

「いやぁ! 侵されるぅ! 食べられるぅ!」


 中からドン、バキ、ドゴなどのより取り見取りの鈍い音がハーモニーを奏でている。

 ……めんどくさそうな雰囲気になってきた。


「シュス、大急ぎでこの場から離れるぞ」

「了解」


 二人は踵を返し、脱兎の如く、その場から急いで離れ……


「この臭い、ルークか」

「シュス、全力で走れ!」


 だが、全てが遅かった。

 二人が走ろうとする前に、二人の前には一人の大男が立っていた。


(やっぱり)

男を見て、ルークはため息交じりに、そう心の中で呟いた。

 その男が、ルークに対して、言った。


「同僚を見捨てるとは、ひどい野郎だ」





 大男は、燃えるような赤のオールバックに同色の瞳を持ち、革ジャンにGパンという格好をしていた。

 体格は鋼、と評価するのが適当な、鍛え上げられた肉体だ。


 ルークが、その大男に話しかける。


「見捨てる? 何言ってんだ? 俺はお前が危機に瀕していたなんて、知らなかったんだが」

「この野郎、あくまですっとぼける腹か」


 大男が額に青筋を浮かべるのを尻目に、シュスが、ルークに尋ねる。


「こいつ知り合い?」

「こいつの名前はレドルノフ・フレラ。俺と同じ国の軍人で、階級も俺と同じ中将だ」

「え、お前そんなに偉かったの!?」


 ルークとは知り合って間もないから、そんな立場があるとは知らなかった。

 レドルノフがルークに訊く。


「ルーク、そのガキ誰だよ? お前まさか、ロリコンに目覚めたのか?」

「死ね!」


 ルークは太刀を振るった。

 その速度はすさまじく、シュスには見切ることが全くできなかった。

 だが、レドルノフはそれにちきんと反応して、全て紙一重で回避をした。


「ほれ、お返しだ」


 レドルノフはそう言うと、拳をルークに向かって放つ。

 ルークは太刀で拳を滑らせるようにして、受け流した。

 さっきの攻防でわかった。

 ルークは“人の領域”を超えた達人だ。

 そして、このレドルノフという男もまた、その同じ“領域”にいる達人なのだと。


「おい、ルーク、今お前、なにをしてんだ?」

「ああ? わかんねぇのか? 任務だよ。俺としては、お前が何をしてるのか聞きたいくらいだ」

「……飲食代の持ち合わせがねぇから、仕方なく、店員さんに黙って、店を出てきたところだ」

「あはぎゃはっ☆ かつて、オルテピアの英雄と呼ばれてた男が無銭飲食かよ? 堕ちたもんだなぁ、マッチョくぅぅん?」


 おい、主人公がしていい笑い方じゃないぞ。


「るせぇ! てめぇこそ、今では人斬りジャックだろうが! 『剣聖』も堕ちたもんだなぁ!?」


 子供の口喧嘩だな。


「おいおい、話を逸らすなよ英雄(笑)くぅぅん。今重要なのは、君が無銭飲食を働いたことじゃないのかな? な?」


 う、うぜぇ。


「全然重要じゃねぇしー。どうでもいい部類だしー」

「よくないしー。君はさっきの店の店員さん、どうしたのかな? かなかな? あはぎゃはっ☆」


 それに彼は顔を伏せ、なにかを押し殺すかのように言った。

 それは怒りではない、と願いたい。


「仕方ないから、気絶させたよ。本気で俺を……てめぇ! その言い方、やっぱさっき俺が生命の危機に晒されてたこと知ってやがったか!!」

「そうだよぉ、ムキヒストくぅぅん。俺、実は、腹ん中で大笑いしてもしたよぉ。分かってくれたかなぁ。これだから脳筋は」


 レドルノフがため息をついてから、ルークへと問いかけた。

 どうやら、話の流れを変えたいらしい。


「ルーク、話を戻すぞ。今お前はなにをしてんだ?」

「だから、任務だよ」


 そう言われて、レドルノフはこちらを指差した。


「ならそのガキをどうして旅に同行させてる? 俺たちの攻防を、見ることすら満足にできてなかった。明らかに、足手まといだろ」


 どうやら、見ただけでこちらの実力を判断したらしい。

 かなりムカつく評価だが、事実なので反論できない。

 なにせ、魔法の勉強をしていただけで、戦闘経験など、ルークと初めて会って行動した時以外、全くの皆無なのだから。

 レドルノフの質問に、ルークが肩をすくめる。


「こいつは魔法専門だ。体術には期待すんな。こいつは固定砲台なんだよ、アンダスタン?」

「お前、相変わらず、いちいちムカつくな」


 そう言って、レドルノフはまた、ため息をついてから、言った。


「それじゃ、その魔法試してみるかな」


 刹那、とてつもない殺気がシュスに向かって放たれた。

 常人なら、射すくめられてうごけなくなってしまう程だ。


「ッ!」


 そして、反射的に魔法陣を描く。

 数は全部で十。

 全てが火の初級魔法『フレアガン』。


「……フレ……ッ!?」

 気づいたら、レドルノフは視界から消えていた。

 魔法陣を描いていた、わずかな隙に、視界の外に出たのだろう。


(つっても、せいぜい一~二秒だぞ!? そんな短い時間に視界の外に完全に出るとか、どんだけ速ぇんだ!?)

「馬鹿が! 後ろだ!」


 ルークの怒声を聞いて、振り返ろうとしたが、やめた。

 殴るか、蹴るかはわからないが、攻撃してきているのは明らかだ。

 そして、避けることはできない。

 だから、魔法陣を少しだけ描き換えた。

 火の玉が魔法陣から飛び出る方向を、前から後ろへと。

 ついでに細工も少々。

 そして、トンと、足で地面を叩いた。



 刹那、十の魔法陣から一つずつ火の玉が後方へと撃ち出された。



 通常では、ありえないことだった。

 魔法とは、魔法陣を描き、呪文を唱えることで発動できるのだ。

 だが、シュスは魔法陣の構成をいじることによって、呪文という手順を、地面を叩くという行為で代用したのだ。


(親父のはもっと凄かったけどな)


 シュスの父親は、高名な魔道学者だった。

 この魔法発動短縮技術は、その父の研究の一端だ。

 正直これで短縮できる時間は、一秒にも満たないだろう。

 だが、レドルノフほどの達人相手との闘いでは、それは大きな時間だ。


「へぇ」


 振り返って確かめてみると、レドルノフは七~八メートル、距離を取っていた。

 彼は、別段驚いたような顔をしていなかった。

 イレギュラーな事態が起きているのに、まったく動じていない。

 ただ、感心するだけ。

 それは強者の余裕か。それとも……


(もっと凄いモンでも見てんのかね)


 それにレドルノフは、答えた。


あいつら(・・・・)を見たら、ンな程度のことで驚く気にはなれねぇな」

「あ~、確かに」


 それにシュスは苦笑しつつ、


「お前ら、もっと驚けよな。これ、論文とか出したら魔道学者は卒倒もんなんだぞ?」

「「へ~」」

「うわ、ムカつく~」


 そう言って、次の魔法陣を高速で描く。


「いいねぇ、中々面白くなってきやがったぁ」


 レドルノフが手で手刀を作って、こちらに向かって、正面から突っ込んでくる。

 やはり、速い。

 七~八メートルなど、あってないような間合いだ。

 だが、レドルノフがシュスの下に到達する前に、魔法陣を描き終えた。

 それにレドルノフは愉快そうに笑う。


「馬鹿の一つ覚えで、また『フレアガン』か!?」

(あ、こいつ、魔法陣もロクに読めない馬鹿か……)


 恐らく、彼は魔法に疎いのだろう。

 今、シュスが展開している魔法陣は、火属性最強の魔法『クリムゾンフォール』。


(つっても、素人目でもわかるくらい、構造違うはずなんだけどなぁ)

 この魔法は威力抜群☆

 ゴキブリだろうがクマムシだろうが、一発で黒焦げだぁ☆


「死んだら自己責任でよろしく!」


 そう叫んで、トン、と地面を叩いた。

 レドルノフの頭上に、突然、高熱の炎の塊が現れた。


「ッ!」


 レドルノフが、頭上の炎の塊に気づく。

 だが、もう遅い。

 勝負は、この魔法が発動しているときから決していた。

 炎塊が落下してくる速度は、音速とほとんど変わらない。

 不可避の攻撃、と称するに相応しいものだろう。


「はっ!」


 レドルノフは愉快そうにそう笑ってから、炎にその身を包まれた。

 それをシュスは確認して、安堵の息をついたのも、束の間、一つ、忘れていたことがあった。

 それは……


 熱波が周りにも及ぶこと。


「やば!?」


 周りのことが見えてなかったシュスは、対処法を用意していなかった。


(ほのお)ノ太刀」


 ルークがそう呟き、太刀を振り下ろした。

 刹那、炎は両断されて、鎮火した。

 それを確認して、今度こそ安堵の息をついた。


「おいこら、シュス。周りへの配慮がなさすぎだろ」


 ルークにそう言われて、何も言えない。


「はは、まあまあ、まだ子供なんだから、大目に見てやれよ」


 突然聞こえた声の主は、先程の魔法を直撃したはずの、レドルノフだった。

 彼を殺さずにすんだというのは、喜ばしいことだが、シュスには冷や汗が流れる。


「今のを避けたのかよ?」

「ははは、違う違う。そうじゃねぇよ。そういうのは、本気(・・)()戦闘(・・)の時にやることだろうがよ」


 どうやら、レドルノフは音速に近い攻撃を避けられるようだ。

 化物だな。


「それじゃあ……」


 どうして? と聞こうとして、ルークが遮って、言ってきた。


符術(ふじゅつ)だよ」


 それにレドルノフは、にやりと笑った。


「やっぱ気づいてたか」

「たり前だろ。離れてたトコから見てたんだから、見落とすわきゃねえだろ」

「ははは、ま、そりゃそうか」


 置いてかれ気味のシュスが、二人に問う。


「なぁ、符術ってなんだ?」

「ん? まあ簡単に言うとだな……」

「おっと、ルーク、尺がないから、説明は次回だ」

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