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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
『七つの大罪』編
19/71

『修羅』の実力

これからは、毎週ごとの投稿になるかな~

 ルークとレドルノフは屍と化していた。


「「真っ白に……燃え尽きた……」」


そんな、何もかも燃え尽きた二人は対照に、ピンピンしている男がいる。

このリグレット王国の国王、アンリ・クリエイロウ。

その彼は、二人にため息をつきながら、言う。


「ったく、情けねえなぁ。まだ、十五日目だろうが」


 この男、本気で言っているのだろうか?

 とある馬鹿が徹夜の限界に挑んで、十九日目で気絶したというのを聞いたことがある。

 もちろん、アンリのことではない。

 たぶんこの男は、それ以上の日数を余裕で踏破している。

 …………いや、やったら駄目だけどね。


「仕方ねぇなぁ」


 アンリがため息混じりに言う。

 そして、半眼のまま呪文を唱えた(・・・・・・)


「不可視の神に請う、憐れな我らに癒しの光を」


 刹那、二人の疲れが吹き飛んだ。

 本調子と言っても過言ではない状態だ。

 当然だが、これは魔法ではない。

 アンリは魔法陣を描いていないし、そもそも魔法に疲れを癒すようなものはない。


 これは、魔術だ。


 魔術は魔法陣を必要とせず、魔法と比べれば少しだけ長い呪文を唱えるだけで発動が可能で、魔法よりも効果が何倍も強いという利点を持つ。

 だが、この国はおろか世界中探しまわっても、魔術を行使できるのはアンリだけだ。

 なぜなら、魔術は人間が使っていい代物ではないのだ。

 量には個人差があるが、人間は誰しも魔力を持っている。

 魔力は意識的に生成できるものではなく、無意識的に生命力で還元される。

 生命力=魔力、と思えばいい。

 誤解がないように言っておくが、魔術は魔法と違う点は存在しない。ただの魔法のグレードアップ版だと考えて差し支えがない。

 そしてわかっていると思うが、魔術にはデメリットもある。

 魔術は一度に消費する魔力量が多すぎるのだ。

 その消費する量は、生成されている量ではまかなえないため、生きていくために必要な生命力を全て魔力に還元してやっとギリギリ満たせる。

 当然ながら、生命力が尽きれば死んでしまう、

 だから、魔術を使うことは自殺に等しい。

 なのにアンリは、その魔術をホイホイ使うことができる。

 彼の戦闘スタイルである、背後に武器を出現させて攻撃するというのも、魔術を使っているらしい。


「貴様らには、根性がないぞ!」


 いや、徹夜で仕事をするのに慣れた奴に言われたくない。

 アンリは少しだけ、情けなさそうに言う。


「てかお前ら、リースから聞いたぞ」

「何を?」


 そう問うと、アンリはため息をついた。



「お前ら、弱くなったそうだな」



 それを言われて、二人は思わず目を逸らした。

 しかし、アンリは二人を逃がさない。

 もう、法の番人並みのしつこさで追撃する。


「ったく、平和ボケしやがって。なんですか? トラブルが無かったらサボるんですか?」


 殴りたくなるような笑顔で、アンリは続ける。


「もしかして、俺らがいるから大丈夫、みたいな都合の良い事考えてる? ないわ~♪」

「「死ねェ!!」」


 堪忍袋の緒が切れた二人が、アンリへと殴りかかる。

 だが、アンリは慌てない。

 ただ、最強の魔法の呪文を唱える。


「減給」

「「ぐぼら!?」」


 二人は物理法則を無視して、空中で突然落下する。

 流石は、魔術を極めた者の魔法!

伝説の達人である『剣聖』だろうと『紅の鋼(カリュプス・クリムゾン)』だろうと、一瞬で撃破することなど、造作もないのだ!

 アンリが、あくびをする。


「んまぁ、正直一回見とかないとお前らの今の実力わからないしな」


 それを聞いて、ルークとレドルノフは身構えた。

 こいつは実力を測るために、今から攻撃してくるかもしれないから。

 だが、アンリは二人に苦笑する。


「いやいや、そう身構えるなって。やるのは、俺じゃない」

「「あ?」」


 訝しむ二人を無視して、アンリは虚空へと声をかける。


「ケイト、いるか?」

「チッ、人任せかよ」


 刹那、アンリの隣にケイトが現れた。

 ケイトの仕事は姿を消しながら(俗にいう幽霊モードになりながら)、アンリの傍らに控えて護衛をすることだ。

 アンリに護衛なんていらないと思うが。


「ケイト、現時点でのルークとレドルノフの実力を知りたいから、ボコれ」

「ああ、はいはい。わかったよ」


 勝手に進んでいく二人の会話。

 ああ、嫌だなぁ。

『人間』が『幽霊』に勝てる訳ねぇじゃん。





 このリグレット王国には、強さはもちろん、生物学的にも『人間』をやめた最強の怪物が三人いる。


『戯言王』アンリ・クリエイロウ。

霧の死神(ミスト・リーパー)』リース・アフェイシャン。

『修羅』ケイト・シャンブラー。


 この三人は、本当の意味で化物だ。

『人間』は『神』には勝てないが、この三人は話が別。

 彼らはそれぞれ『神』と契約していて、その力を使って『神』を降すことができる。

 もちろん、その力だけが彼らのすべてではない。

 彼らは、もう既に『人間』じゃないのだ。

 人間をして人間を超えた力を持つ、化物。

 彼らは『至って』いるのだ。

 言うなれば、“人の領域”のさらにその先の領域、


“神の領域”へと。





 ルークたち四人は、執務室から出て王の間へと移動していた。

 どうやら、ここで組手をさせるつもりらしい。

 一応、ここは国の象徴と言っても過言ではない場所なんだが。

 アンリに、本当にここでやるのかと訊くと、


「別に構わねぇよ。俺も革命の時には、ここで前王と一騎打ちしたし」


 なんて返された。

 こいつもそうだが、前の王も馬鹿じゃねぇの?

 城の中でドンパチやらかすなよ。

 王から許可が出たから、組手をする相手へと向き直る。


 ケイト・シャンブラーへと。


 彼は、退屈そうだ。

 張り合いがねぇ~、とでも言いたそうだ。

 その態度は、正直イライラする。

 けどなー、勝てないんだよなー。

 アンリが退屈そうに、というか眠そうに大きなあくびをした。

 寝ろよ。

 あくびをしながら、彼は手をあげ、


「始めちゃって~」


 合図をした。

 と、認識していた時には・・・・・・・・・ルークとレドルノフの顔には拳がめり込んでいた。

 二人は同時にこう思った。


((ああ、やっぱりこうなったか))


 こいつの動きは、二人には反応できなかった。

 リースのように、『縮地』を使ったわけではない。

 こいつがただ、べらぼうに速いだけだ。



“神の領域”に至った三人は、卓越した長所がある。

 魔術を修め、遠距離・待機戦闘では無敵の強さを誇る、アンリ。

 あらゆる武術を修め、世間では神業認定されている技を連発する技術を持つ、リース。

 そして、べらぼうな速さと無茶苦茶な(パワー)を持ち近距離戦闘では無敵の強さの、ケイト。

 いやもうさ~、こいつら強すぎるからハンデほしいな~。

 強すぎてもう私、激怒プンプンなのよ~。



 ルークとレドルノフはぶっ飛ばされたが、すぐに体勢を立て直して地面に着地した。

 殴られた顔は、涙が出そうになるほど痛い。

 遅まきながらも、二人は構える。

 そんな二人に相対するケイトの顔にあったのは、落胆だった。


「おいおい、今は『封』も解いてないんだぞ。あれくらいは見切れよ。本当に弱くなったんだな」


 いえ、貴方が強すぎるんです。


「レドルノフ!」

「おうよ!」


 こちらの呼びかけに応じて、レドルノフは一度腕を引き絞り、


「破ッ!!」


 虚空に向かって拳を突きだし、それと同時に練られていた『気』を放った。

 技の名は、空掌。

 あらかじめ練っておいた『気』を衝撃波とともに放出し、遠方の敵を叩く。

 拳法使いが持つ、唯一の遠距離用の技だ。

 ルークもそれと同時に、行動を起こしていた。

 柄に手をかけて、


「弧月斬!!」


 居合いを放った。

 その斬撃が空中へと放たれ、ケイトへと向かっていく。


「ふん」


 ケイトはつまらそうに腕を横薙ぎに払い、『気』を打ち破り、もう片方の手で斬撃を掴み、握りつぶした。

 言っておくが、空掌の威力と弧月斬の切れ味が未熟なのではない。

 ケイトのパワーが異常なのだ。

 ルークとレドルノフが同時に踏み込む。

 常人では目で追うことすらできないほどの速さで、間合いを潰していく。

 あと五歩で射程圏内に入るところで、ケイトは二人の実力を見切った(・・・・・・・・・・)

 だから彼は、これ以上、組手をやる必要性が感じられなくなった。

 ケイトは手を掲げ、呟いた。



「グングニル」



 刹那、黄金の槍が宙に現れる。

 槍の選定眼があるのなら、即座に判断できただろう。

 アレは、人が扱っていい代物ではないことを。

 アレを持つだけで、人を超えた力を有し、一国の軍隊をも屠れる力を手にできることを。

 そしてそれからの展開は、あっという間だった。


 ケイトと肉薄するまで、あと五歩のところで槍が出現した。


四歩、ケイトは『槍』を手に取った。


三歩、ケイトは「五%」と呟いた。


二歩、ケイトは自分から踏み込み、肉薄してきた。


対応しようとした二人は、その前にケイトに槍で殴られ、意識を手放した。





 ケイトは床に倒れ伏している二人を見て、落胆のため息をついた。

 そんな彼に、アンリが訊く。


「どうだった?」

「こりゃ駄目だ。こいつら、相当弱くなってやがる。昔と同じことしろと言っても、たぶんできねぇ」

「…………マジか~」


 ケイトが言っている、昔と同じこととは、彼らが打ち立てた伝説のことだ。


曰く、『剣聖』は十五人もの“人の領域”を超えた達人を同時に相手をして、勝利した。

曰く、『紅の(カリュプス・クリムゾン)』はたった一人で、オルテピア王国で起きたクーデターを鎮めた。


 今の彼らでは、もうできないだろう。

 アンリは頭を抱えた。


「ああ、くそ、どうしよう」


 国防のために、あの二人には強くなってもらわないと困る。

 確かに、アンリたちがいれば戦争が起きても、その日のうちに終わらせることができる。

 だが、彼らも不死身ではない。

 いつかは死ぬ。

 だから、後世に強者がいないと困るのだ。

 後世とか言っているが、アンリは二十六歳だ。

 ケイトが槍を消してから、言ってくる。


「手っ取り早いのは、『神』との契約だが」

「ダメだ。それは、自分たちの力じゃない」

「…………だよなぁ」


 二人は同時にため息をついた。

 となると、打てる手は一つしかないのだから。


「こいつら、死ぬんじゃねぇのか?」

「いや、大丈夫だろ…………たぶん、きっと、maybe」

「果てしなく不安になるな」


 これから二人に起きることを考えると、憐れで仕方ない。

 だけど、悪いのはこいつらなのだ。

 平和ボケして、弱くなったこいつらなのだ。


「平和ボケ、か」


 まだ、『理想』の実現にはまだまだ遠い。

 理想を叶えるためには、もっと力と仲間がいる。


「さ~て、ルークたちには苦労してもらうかな」


 アンリは意地悪そうに笑った。


「アーメン」


 神に、彼らの無事を祈りながら。

 そんな時、一人の男が王の間に入ってきた。

 亜麻色の短髪に藍色の瞳の男。

 彼の名は、レーネ・ドラニオル。

 このリグレット王国の軍部で、少将を務める男だ。

 彼は倒れているルークたちを見ても、特に驚かずに淡々と報告をしてきた。


「陛下、申し訳ございません。侵入者の侵入を許してしました」


 その報告を聞いて、アンリはため息をついた。

 そして、うんざりしながら呟いた。


「ああ、夢が遠のいていく」





 リグレット王国の王都の地下深くに、黒装束の一団がいた。

 数は全部で、二十人。

 これでも、半分以下に減ってしまっている。

 王都に侵入する際に、たった一人に過半数の仲間が捕まってしまった。

 隣の仲間が、悪態をつく。


「レーネ・ドラニオル、あの実力でも少将かよ。その上は、どんな化物なんだ」


 意気消沈の彼に、励ますように言ってやる。


「確かに、想像はつかない。だが、俺たちがやることはあいつらの始末ではない。召喚を行うだけだ。それで、仇を討つことができる」


 彼らは八年前、リグレット王国に家族を殺された者たちだ。

 仇を討つために、彼らは人間が手を出してはいけないものに手を出した。

 だが、それは仕方なかったかもしれない。

 なにせ相手は、『人間』ではないのだから。

 彼らは、家族の仇をあきらめることができなかったのだから。

 なら、『悪魔』に魂を売り渡すことになろうとも、やらなければならない。


「仇は、『悪魔』が取ってくれる」


 それと同時に、魔法陣が描き終わった。


「それでは、呼び出すぞ」


 これから呼び出すのは、『悪魔』だ。

 比喩ではなく文字通りの、聖書に書かれている悪魔。

 しかも、ただの悪魔ではない。



『七つの大罪』




 最強の七体の悪魔。

 彼らなら、人間では手に負えない化け物たちをも殺してくれるだろう。

「頼んだぞ」

 男は、これから出てくる悪魔に祈りをささげた。


この章では、早めにシリアスくるけど、後半がコメディー

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