久々のお仕事
ルークたちはようやく、町にたどり着くことができた。
「やっと着いたな……さんざんな目に遭ったが」
それにレドルノフは頷いた。
「そうだな。俺もあんな病気になるのはもう嫌だ」
「あはは、大丈夫よ。もうできるだけ、野宿はしないから」
できるだけ、ということはまたするのだろう。
もう嫌だこの女。
ルークは、そんな心中の言葉を心に秘めながら、リースに向き直る。
「それで、ここに遺物はあるのか?」
目的は、遺物探し。
もうみんな忘れているかもしれないが、ルークたちの仕事はこれである。
「さあ? ま、それを確かめるために調べるのよ」
レドルノフがあくびを一つしながら訊いてきた。
「どういう感じで分かれるんだ?」
「そうねぇ、私とルーク。あんたとシュスの二組に分かれましょう」
ルークが彼女に、露骨に嫌そうな顔をしながら言った。
「ダルい」
瞬間、リースに鉄拳をいただいた。
だが、ルークは負けなかった。
殴られながらも、彼女に反抗する。
仕事をしたくないから。
「俺は、仕事なんて、しないんだ。俺は、負けないぞぉ……」
もう彼は、ニートに認定されるべきだろう。
リースは根負けしたのか、携帯を取り出し、誰かにかけた。
「あ、アンリ? ちょっと、馬鹿の給料半額に……」
「いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
こうして、ルークたちは『宝探し』を開始した。
☆
ルークとリースは歩いていた。
ただし、歩幅に大きな差がある。
ルークの歩幅が、圧倒的に遅かった。
「ルーク、いつまでもウジウジしないの」
「だって、だって」
彼の給料は、本当に半分にされた。
だが、今仕事をしなければ、さらに給料が減らされてしまう。
仕事をしなければ。
「それで、資料探しからやるのか? それとも訊き込みからやるのか?」
この仕事の開始は、二つのやり方がある。
一つは、資料などで調べて、その地の歴史を探って、遺物を見つけ出す。
もう一つは、地元の人間に訊き込みを行って、伝承や噂を調べて遺物を見つけ出す。
「訊きこみから始めましょうか」
「了解」
二人は辺りを見回して、なんかこの人知ってそうだな~、という人を探す。
しばらくそうしていると、アロハシャツのおじいさんに目が止まった。
「リース、あのじいさんなんてのは、どうだ?」
「そうね。年配の人の方が、伝承とか知ってること多いし」
二人が、特に何かをするわけでもなく、ただ立っているおじいさんに歩み寄る。
「「じゃんけんぽん!」」
ルークはチョキ、リースはグー。
「クソッタレが」
じゃんけんに負けたから、ルークがおじいさんに声をかける。
「じいさん」
「どうかしたのか、若者よ」
「ちょっと、ジャンプしてみ」
リースから蹴りをいただいた。
「かつ揚げしてんじゃないわよ」
あんまりだぁ。
こんな扱い、あんまりだぁ。
リースがため息をついて、おじいさんに微笑みながら言った。
「おじいさん、少し訊きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「よかろう。ただし、パフパフさせてギャフン!?」
リースは、おじいさんの顔に蹴りをぶち込んだ。
おじいさんは吹っ飛び、壁にぶつかった。
「エロジジイが……」
「おいおい、あのじいさん、死んだんじゃないのか?」
「大丈夫よ。加減はちゃんとしたから……………………半殺しくらいになるように」
☆
シュスとレドルノフは図書館にいた。
この二人は、資料から調べることにしたらしい。
レドルノフは本を投げた。
「だ~、やめやめ。俺もうギブ」
「おい、まだ開始してから十分経ってないぞ」
「うるせぇ。俺、本読むの嫌いなんだよ」
「弱音を吐くなよ、プロテイン」
「殺すぞクソガキ」
「「ああ?」」
一触即発になりかけたが、二人は同時にため息をついた。
「やめとこ」
「そうだな。こんなのは不毛だしな」
シュスが椅子から立ち上がった。
「ちょっと本探してくる」
「俺も行くか」
レドルノフも椅子から立ち上がった。
二人で図書館の中を歩く。
「あれ、英雄の本が置いてあるの、どこだっけ」
シュスは露骨に顔をしかめた。
「お前、ちゃんと覚えろよ」
「いや、俺ここ来るの初めてなんだけど」
「地図の話だよ」
シュスの案内の元、英雄に関する本が置いてるエリアにたどり着いた。
エリアと言われてわかる通り、この図書館に置いてる本の数は多い。
目的の、英雄に関する本だけで、二百の超えている。
総蔵書数は、八万を超えている。
「なんか目ぼしい本あるか~?」
「いんや、ねぇな」
適当に探していると、シュスが一冊の本を手に取った。
「なんだこりゃ?」
「いいの見つかったのか?」
シュスへと向き直り、
「アウトォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
叫びながら、本を奪い取ろうとする。
シュスは、びくっと肩を震わせて、レドルノフの突進を回避した。
「な、なんだよ。図書館で大きな声出してんじゃねぇよ」
「シュス、いいか、落ち着け。ゆっくりと手を頭の後ろに置いて、その場にうつ伏せになるんだ」
今、彼女が持っている本のタイトルは『「紅の鋼」と鬼』。
それは、レドルノフが主人公の本だ。
脚色はあるものの、ノンフィクション。
なぜ、英雄に関する本がここに置いてあるか?
理由は、なんとなく思いつく。
本人としてはふざけるな、と一蹴したいのが、彼はその昔、各地の暴挙を鎮圧しながら回っていたため、地域によっては英雄視されているのだ。
「シュス、その本を読もうとするんじゃないぞ? 読んだら、俺泣くぞ? 二十一の大の男が、公衆の面前で泣くことになるぞ?」
その本には、レドルノフが一人でクーデターを終わらせたことについて書かれている。
昔、自分で読んだことがあるのだが、恥ずかしさのあまり悶えた。
シュスは読んだら、爆笑するだろう。
レドルノフは泣くことになるだろう。
「いいか? 読むなよ? そっちにその本を取りに行くぞ?」
レドルノフのあまりの剣幕に、シュスは大人しく、
「ええと、なになに」
本を読もうとしやがった。
「うううぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
レドルノフは全力で本を奪いにいった。
☆
四人は喫茶店で合流した。
リースが、コーヒーを口に含んでから言った。
「んー、全員収穫なしか。手がかりくらいは、手に入るかと思ってたんだけど」
ルークはハンバーガーを貪りながら訊いた。
え? 喫茶店にハンバーガーがあるのか?
ありません。
持ち込みました。
「どうする? 次の町に移動するか?」
「んー、出発するなら、早朝がいいわね。その日のうちに次の町に着くし」
「あ?」
少し気になるものを見つけたから、席を立って、露店まで行く。
「お兄さん、ちょっと新聞くれ」
「あいよ、五百円」
「……高くない?」
「お客さん、次値切ろうとしたら、拳をお見舞いするよ?」
無言で五百円を手渡した。
少し涙目になりながら、席に戻る。
シュスが怪訝そうな顔をしながら、訊いてきた。
「どうしてそんなモン買ったんだ?」
「ちょい見てみ」
テーブルに新聞を広げる。
新聞の一面には、こう書かれていた。
『もううんざり! またもや起きた、町規模の集団失踪事件!!』
新聞として、その書き方はどうなの? と思いながらも、ルークは全員に言った。
「そんなに離れてる訳じゃねぇし、今から行ってみないか?」
☆
ルークたちは走って、その問題の町に到着した。
ルークとリースは普通に走り、レドルノフはシュスを抱えながら走った。
町に着いて、ルークはため息をついた。
「あの新聞、ガセだな」
そう言った理由は、簡単だ。
町の住人は、ちゃんといたからだ。
ただし、死体として。
傷口を見て判断すると、住人は食い殺されたらしい。
一同とは別行動をして、犯人がどんな獣か調べていたレドルノフが戻ってきた。
「ああ、ダメだった。手がかりは見つかんなかった」
「そうかい」
誰でもわかることだが、これをやったのは、ただの獣じゃないだろう。
だって、ただの獣が町の住人を全員食い殺すことができるか?
不可能だ。
リースに向き直り、訊く。
「どうする?」
「…………」
リグレット王国で起きたのなら、早急に解決するか、対策を立てなければならない。
だが、ここは他国だ。ましてや、ネロウス皇国は同盟国でもない。
何かをしてやる義理はない。
「犯人が目の前にいるなら話は別だけど、私たちが汗流す義理はないかな~」
彼女はドライに答えた。
シュスが慌て、レドルノフは不満そうな顔をしたが、それを制するようにリースが言う。
「仲間のためならまだしも、顔も知らない人のために危険を冒すのは馬鹿らしいじゃない」
ルークもあくびをしながら頷いた。
「だな。俺も危険なことを首突っ込むの、ごめんだしな」
そして、四人はさっきの町へと引き返した。
☆
「おいおい、嘘だろ」
町に戻って、ルークは開口一番にそう言った。
町は、襲撃を受けていた。
なにが起きているのか把握するために、周りを見回す。
「レドルノフ、どーどー」
「ふー、ふー」
今にも飛び出しそうなレドルノフを、リースがなだめている。
まぁ、こつらはどうでもいい。
シュスは顔を青くしていた。
「おい、シュス、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ちょっと、昔を思い出しただけだ」
彼女の故郷の村は、昔襲われた。
それを思い出したのかもしれない。
「襲撃者は、ここにはいないみたいだな」
ドタドタと、大勢の人間の足音が聞こえてきた。
そちらを見ると、三十を超える不良たちが走っていた。
不良Aが全員に呼びかける。
「いいか!? 竜人なんかに、この町をいい様にはさせねぇぞ!」
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
「ありゃま、相手は竜人か」
竜人。
それは稀に見る、竜の体質を持つ人間のことを指す。
身体能力は人間のそれを凌駕し、皮膚が固く、生半可な攻撃では傷一つつかない。
そして、人間から迫害を受けている。
だから、竜人が町を襲撃することは、たまにあることだ。
当然、一般人がどうにかできるはずがない。
「死ににいくようなモンだな」
そのルークの呟きに、レドルノフは舌打ちをした。
「ああ、馬鹿どもが」
彼はそう言って、騒ぎの中心へと走り出してしまった。
それにリースはため息をついた。
「ああ、あの馬鹿。あいつ、こういう理不尽な暴力見たら飛び出す癖、まだ治ってない」
「ああ、リース、どうする?」
レドルノフは強い。
なにせ、“人の領域”を超えた達人なのだから。
だが、竜人の身体能力も、人のものではないのだ。
さすがの彼も、簡単には勝てないだろう。
「仕方ないわね。あの馬鹿回収するついでに、竜人退治しちゃいましょうか」
「めんどくせぇ」
「文句はあの筋肉に言いなさい」
「だな」
シュスは、ルークを見ながら言った。
「こうやって人助ける方が、俺としてはお前らしく見えるけど」
「気まぐれだよ、気まぐれ」
こうして、三人も騒ぎの中心へと歩き出した。
次回は久々のガチバトルだよ~。