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リグレットアーミーズ  作者: にがトマト
『剣聖』編
1/71

『剣聖』と呼ばれた男

初めまして。

にがトマトです。

初めての作品ですが、楽しんで読んでもらえると幸いです。


※七月十五日に書き直しました。

 最早別物www

 原案みたい方とかいたら、コメントまたメーッセジで要望お願いします。

 おすすめはしませんがねぇ、駄作ですし。

 とある町並み。

 どこにでもある、普通の町だ。

 その路上に、一人の男と一台の自動販売機。

 これだけなら、何の問題はない。

 問題は。


 その男はうつ伏せになり、自動販売機の下に手を突っ込んでいることだ。


「あと少し。もうちょい、少し。後二センチ」


 男の指の先にあるのは、一円玉。

 そう、一円玉だ。

 百円玉でも、ましてや十円玉ですらない。

 たった一円のために、般若の如き形相で頑張っているのだ。


「おい、ルーク、もうやめろよ。恥ずかしいし」


 そんな男に、少女が声をかける。

 その少女は深い青い髪に紫の瞳、薄い赤のシャツに白のパーカーを羽織り、紺のスカートを履いている。

 少女、シュス・ウィズダンは諭すように彼に言う。


「たかが一円だろ? 割に合わねェからさ、もうやめろって」


 ルークと呼ばれた男が、一円をやっと掴んだ。

 それと同時に自動販売機から手を引き抜き、くわっと凄まじい剣幕で少女を睨む。



「苦労が問題じゃねェンだ! そこに金があるかが重要なンだ!」



 少女は沈黙した。

 そして数秒。

 少女は、にっこり笑ってこう言った。


「死ね」


 彼女は驚く程滑らかに指を躍らせて、魔法陣を描いた。

 魔法。

 術者の魔力を指先に集めて微量に放出しながら、決められた魔法陣を描いて、決められた呪文を唱えることで、特定の事象を起こす。

 魔法陣を描き終えて、少女は呪文を唱える。


「フレアガン」


 刹那。

 小さい、しかし確かな殺傷能力を持った小さな炎の槍が男を襲った。


「あァァァああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


 男は絶叫をあげて、全身炎に包まれた。

 三十センチ程の長さの槍を直撃して、どうして炎に包まれるか謎ではあるが、男は焼けた。

 こんがり上手に焼けた。


「ルーク、周りの人の視線が痛いんだよ。とっととやめろ。俺の言ってることわかるか? あーん?」

「こ、このクソガキャ……」



 男は、ルークはそう言って意識を手放した。



 剣聖


 武に関わる者であれば、その名を知らない者はいない。

 心境流という剣術の流派を修めた、世界でも屈指の剣士だ。

 また、不殺の活人剣を旨としている剣士でもある。

 一説には世界最強の剣士、『剣神』を師事していたとも言われている者だ。


“人の領域”


 武人には、そう呼ばれる領域がある。

 稀にみる、大天才中の大天才のみが超えられる壁のようなものだ。

 武術の達人は、一般人から見れば十分超人なのだが、“人の領域”を超えた者たちは格が違う。

 文字通りの、超人だ。

 剣聖は、若くしてその超人の中でも名を馳せている大剣豪なのだ。

 そしてその彼は。



「むむむ」


 喫茶店で頭を悩ませていた。

 メニューと睨めっこを繰り広げていた。


「ルーク、お前、とっとと決めろよな……」


 呆れたように言うシュスを、ルークはギロリと睨みつける。


「うるせぇ、少しでも節約しないといけないんだよ。ただでさえ仕送りが少なくなってきてんだからな」

「仕送りで生活って……お前は一人暮らしの学生かよ」

「学生じゃありません~。軍人です~」

「っせぇ! 剣術以外能のないダメ人間!」

「あァ!? てめぇこそ魔法以外能がねェクソガキだろォが!」

「お前は十三のガキに何を期待してるんだ!?」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎ、口喧嘩。

 周りの客は、迷惑そうに二人を見る。

 そんなことになれば当然、店員がやってくる。


「お客様、もう少しお静かにお願いします」

「「うっせぇ!!」」



 バギャ!! と。

 店員はテーブルに指を埋め込んだ(・・・・・・・)



 これを実行するために、どれ程の圧力を指でかければいいのか皆目見当がつかない。

 店員は、笑顔でもう一度言った。


「お静かにお願いしますね?」

「「……はい」」


 満足そうに頷き、彼はテーブルから去った。

 二人は互いにメンチをきりあう。

 店員が見えなくなったことで、二人は口を開く。


「あ~あ~、怒られた~。これだから落ち着きのない子供は嫌なんだよな~」

「あ~あ~、常識ないやつは嫌だな~」


 再び二人の間に険悪な雰囲気が漂う。

 そしてそれを察知した先程の店員が、物陰から彼らを睨みつける。


「チッ、あのゴリラ店員見てやがる」

「てか、なんであんなのが喫茶店で店員やってるんだ?」

「さァ? 家庭の事情かなんかじゃねェの?」


 触らぬ神に祟りなし。

 関わらないのが最良だろう。

 二人は同時にそう判断して、世間話に花を咲かせることにした。


「シュス、今、俺たちが言い争ってる理由を考えてみろ」

「まぁ、金がないからだな」

「その通ぉり」

「お前の仕送りの額が少ないからだな」

「その通ぉぉおおおおおおおおり!」

「お前の財布が氷河期だからな」

「その通りォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおり!!」

「お前が仕事してないからだな」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ?」


 ルークの雰囲気が一変して、険悪なものになる。

 だがシュスはお構いなしに、恐れを知らずに口を開く。


「俺、知ってるぞ。お前の報告書を読む限り、任務全然こなせてないの」

「…………」


 ルークはリグレット王国という国の軍人であり、任務を受けて国外で活動している。

 彼はその働きぶりを報告書にまとめ、本国へと送る。

 それを王様が見て、仕送りの額を決めるのだ。


「だがよ、見てて思ったんだが、馬鹿正直に書きすぎじゃないか? お前のことだから、虚偽の報告の一つや二つしそうなものだがな」

「……俺はできない嘘はつかないんだよ。再現ができないからな」

「へぇ」

「それに、嘘ついてバレてみろ。なにされるかわかったもんじゃねェ」

「え? ちょ、おま、震えてんのか?」


 ルークは震えたまま、口を開く。


「俺さ、自分の剣技が掠りもしなかったのは初めてだったんだ。対するやっこさんは当て放題。あれは闘いじゃなくて、処刑だったよ」

「え? お前が?」


 ルークは人間としてはクズだが、実力は本物だ。

 シュスなんか足元にも及ばないし、単騎で百人単位の集団を殲滅したのを見たことがある。

 そんな彼をして、闘いにすらならないと言わしめる存在など想像すらできない。

 だが彼は表情を一変させて、笑う。


「まぁだが、よかったと思ってるがな。あの負けがなけりゃ、今俺はどうしてたかわかんねぇし」


 どうやら、負けを完全に認めているらしい。

 シュスはそんな彼を見て、率直に思ったことを述べた。



「負け犬根性」

「殺す」



 率直な言葉に、率直な返事。

 ルークは十三歳の少女に、一も二もなくぷっちんした。

 大人げない。


「だって、そうだろ? お前、負けを認めてるじゃねェか」

「こ、殺すぅ!」


 もう殺すしか言えなくなっている。

 語彙力のない、悲しい二十歳である。


「ダサいなァ、お前」

「表に出ようぜ。久しぶりに、キレちまったよ」

「暴力しかないの?」

「殺すぅ!!」



 バギャ!! と。

 テーブルが木片となって砕け散った。



 ルークとシュスが音源へと向き直る。

 そこには、やはりというかなんというか、作り笑顔を顔に貼りつけた、あの恐ろしい店員がいた。


「お客様?」

「「し、失礼しましたぁ!」」


 二人は店の外へと逃げ出したのだった。





 ルークとシュスは、荒野にて笑顔で向き合っていた。

 ただし、清々しいまでの作り笑いであった。


「まぁ、ここなら邪魔は入らねェだろ」

「そうだな」


 二人は戦闘態勢だ。

 もう、本気の本気だ。

 ルークは戦闘モードのまま、こう言い放った。



「これで心置きなく、俺たちを尾けてる連中(・・・・・・・・・・)を叩けるな」



「え?」

「ん?」

「「…………」」


 二人の間に、沈黙が訪れた。

 なんということでしょう!


「シュス、てっめ、尾行者に気づいて演技してたんじゃねェのか!?」

「あァ!? おま、そういうのは先に言えよ! こちとら、お前みたいに気配読める訳じゃないんだぞ!?」

「やっぱお前、後で殺すわ」


 ルークはにこやかぁに、そう言った。

 理不尽である。

 少し生命の危機を感じたシュスは、話を逸らそうとする。


「んで? どうするよ? お前が独りで皆殺しコース?」

「えぇー、めんどくせー。つぅ訳だ。今から俺が指差す方向に、魔法を撃て」

「あいよ、場所は?」

「あそこ」


 シュスは指を躍らせた。





 ルークたちを尾行していた集団は、ルークが寸分違わず自分たちのいる方向に指差してきたを見た。


「なん……!?」



 声をあげる暇さえなく、男たちが業火に身を包まれた。



 ルークは遠目に燃え盛る炎を見て、こう言った。


「あれはやり過ぎじゃね?」

「殺られる前に殺る。これ常識」

「お巡りさ~ん、ここに危険思想の持ち主がいますよ~」

「ちょ、それで本当に来たらどうするんだよ!?」

「……おっと」

「え?」



 ガギャ!! と。

 そんな音がシュスの後頭部に響いた。



「うお!?」

「チッ」


 シュスの驚く声と、舌打ちが一つ。

 状況を客観的に見れば、ルークがいつの間にか抜いていた刀で、シュスを背後から叩こうとした男の棒を受け止めているというものだ。

 ルークがいなければ確実にやられていたシュスは、冷や汗を流した。


「危ねェ」

「シュス、さがってな。後はこいつだけっぽいからな。サクッと済ませるよ」

「舐めやがって」


 男は一度跳び退って、長さが一メートル以上ある棒を構え直した。


「大金のためとついでに噂に名高き剣聖を倒して、名声を得てやる!」

「俺倒すのついでかよ」


 金より名誉。

 なんとも世知辛い世の中である。

オラ(・・)の名前はソーメン(・・・・)! いざ尋常に」

「「ひゃははははははははははははははははははははははははははははははは!!」」


 男改め、ソーメンが名乗りをあげている途中だというのに、ルークとシュスは大爆笑した。

 なんと失礼なやつらでしょう。


「こいつ、一人称がオラ!?」

「しかも、名前がソーメン!?」

「「ヤッベ、超ウケるー!!」」

「うるせぇ!!」


 ソーメンは怒り心頭である。

 棒を怒りに任せて振り回した。

 そこには、型もへったくれもない。

 ルークは涙を指で拭って、口を開く。


「あァ、悪い悪い。だがお前、なにができるんだ?」

なんでもだ(・・・・・)!!」

「うお!?」


 ルークは声をあげながら、柳の枝のよう(・・・・・・)にしなった突きを、身を逸らして回避した。

 それが、たったの一度で終わるはずがない。

 当然、目にも止まらぬ速さで突きを連続で行う。


「杖術は万能だ! 突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、叩けば鎚! つまり死角はない!」


 杖術、あるいは棒術と呼ばれる武術は、一見単純そうで底が深い。

 なにせ棒とは、全ての武器になり得たる武器なのだ。

 木刀、木製の槍、木製の薙刀、広い見方をすればこれらは棒なのだから。

 ソーメンは、それに至っている。



「ふむ、それで(・・・)?」



 白刃一閃。

 常人では目で追うことすら許されない速度の一振り。

 その神速の一刀は、ソーメンの棒と胴を容易く斬り裂いた。


「な、ん?」


 ソーメンは、自分が何をされたのか理解すらできずに、倒れ伏す。

 ルークはそんな彼に、言葉を浴びせた。


「遅い。軽い。脆い。全てが足りないよ、お前は。心技体どれをとっても、俺からすりゃ取るに足りない」

「ぐ、ぉ」

「さて、授業料はお前の命ね」


 ルークはあっさり、殺すと言った。

 そんな彼に、ソーメンは嘲るような笑みを浮かべる。


「クソ、なにが活人剣の『剣聖』だよ。これじゃただの」

「それ、いつの話?」



 ソーメンの言葉を遮って、ルークは一刀で首を刎ねた。





ルークは空を仰いだ。

 彼は、さっきのソーメンという男の言葉を思い返した。


『くそが、なにが活人剣の「剣聖」だよ。これじゃただの……』


 その先の言葉は、わかる。

 彼はこう言いたかったのだろう。『人殺し』、と。


「ははは、まったくだ」


自嘲気味に、乾いた声で笑う。


(だけど、なんでだろうねぇ)


 ルークは、楽しかった。『剣聖』と呼ばれて、もてはやされた時よりも、クズとして生きる方が楽しかった。

 そして、その頃よりも、なぜか多くの人を助けられた。


(ま、全部あいつのおかげかな)


『戯言王』アンリ・クリエイロウ。

 絶対に叶わぬ夢を掲げて、他国からそう蔑まされている男。

 確かに、否定できない。

 彼は、それだけの戯言を語ったのだから。

 多くの人を、戯言で騙っているのだから。

 だが、その彼はルークに道を指し示してくれた。

 二年前の、血の館事件で、アンリとは出逢った。

 その時、彼は手を差し伸べながら、言ってきた。


『はぁ? 自意識過剰になり過ぎだ。それにな、俺たちは、お前と違って強いんだよ。だから、安心して、この手を取れ』


 初めてだった。

 弱い、と言われたのは。

 そして、同時に思った。



 この男だったら、戯言を現実にしてしまうんじゃないか。



 だからその時、ルークは手を取った。

 その男の描く、理想を見たくて。

 その男についていきたくて。


「手伝ってやるよ。俺も、見たいしな」


 一振りで刀の血を払い、鞘に納める。

 そして彼は、天へと両拳を挙げて。



「だから仕送りの額増やしやがれェ――――――!!」



 絶対に届かぬ叫びをあげた。

 その隣で、彼の相棒である少女は、ため息をついた。



 これは、かつて『剣聖』と呼ばれた男と、その仲間たちが描く物語。

こんな具合で頑張っていきま~す。

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