奴隷ってなんだっけ?
よろしくお願いします。
「自由を下さい」
奴隷制度が定着しているこの日本国で、まさかこんな事を言ってくる奴がいるとは思わなかった。僕は奴隷の首に繋がった鎖をじゃらりと音を立てて掲げた。
「そんなに自由が欲しいの?」
「はい」
真剣な顔で頷く奴隷。僕は思いっきり悪い顔をして答えた。
「じゃあ、お前は代わりに何をくれるんだ?」
「私のナニをあげます」
「いらん」
下ネタは、いらん。
「女の子がナニなんて言っちゃだめだ」
「じゃあ、処女をあげます」
「それもダメ」
「えー」
……どうしてこうなった。
彼女が家に来たのは僕がまだ十歳のころ。両親が誕生日の祝いに買ってきたのがこの子だ。当時のこの子は人形のように大人しかった。
「どれい?」
「そうです。私はあなたのものです」
「僕の?」
「はい。ですから、何なりとお命じ下さい」
「よくわからん」
「はい」
「お前の話は難しい」
「えっと……」
当時の僕は奴隷というものがよく解っていなかった(どう考えても両親の怠慢だ)。
こうして僕らの主従(?)関係は始まった。そして、すぐに終わった。
家が、没落した。
両親は夜逃げして、残された僕は大量の借金を抱えてしまった。あわや奴隷生活、となった時にすべてを解決したのがこの女奴隷だ。なんかじこはさんとかみせいねんほうとかよく解らん小難しい話をして借金取りを黙らせてしまった。そのあとも生活費とかそういった生きるためのもろもろを彼女にやらせてしまって、早三年。
こうして今に至るわけだ。
(とうとうこの日が来たか……)
なあなあで全部任してきたけど、正直いつ見捨てられてもおかしくなっかった。一応奴隷と主人っていう体で話してるけど、パワーバランスは完全に向こうに振り切れてる。僕の側に拒否権とかそういうかわいらしいものは一切ない。なら、最後までこの関係を貫き通すのが僕の唯一の意地だ。
「じゃあ今僕が一番欲しいものを持ってきたら自由をあげるよ」
「一番欲しいもの……」
「わかるか?」
「成長期ですからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「身長の話はしてない!」
奴隷――170センチ、僕――169センチ
いつか負かす。
「僕の欲しいもの――それは」
「それは?」
「金」
「……(じと)」
「その、私はそんな風にあなたを育てた覚えはないと言いたげな目をやめろ」
「お金って……お小遣いならあげてきたでしょう」
「ふふん。僕が言っているのはそんなはした金じゃない。もっと沢山だ」
「えっと、今月はお小遣いはいらないということでしょうか?」
「いや、それとこれとは話が別じゃないかな」
欲しいものは、欲しい。
「とにかく、お金だ」
「……わかりました」
「当てがあるの?」
「まあ…。では、しばらく暇をもらいますね」
「え。ちょっと待て、しばらくってどれくらい?」
「んー、1か月強?」
「僕干からびちゃうんだけど!」
「では」
そういうと奴隷は荷物をまとめて出て行ってしまった。鉄の首輪からじゃらじゃらと音を立てる鎖を引きづりながら。
2か月後――
「1か月で帰ってくるって言ったじゃんか!」
「申し訳ございません」
僕は何とか生きながらえていた。もう、カップめんは見たくもない……。
「遅いよ。遅すぎるよ……」
「申し訳ございません。ですが、お金の方は何とか工面できました」
そういうと彼女は懐から大きな袋を出して、じゃらじゃらと中身を出した。
10000000純貨。
「……ほんとに用意しやがった」
「まあ、ざっとこんなもんですかね」
何でもなさそうにいう彼女だが、勝ち誇ってるのが透けて見える。
こ
「どうやってこれだけの額をあつめたんだ?」
「はい、秘密です」
「うん、いい返事だけどね」
「ですが……そうですね。良いことと悪いことを半分半分といったところでしょうか」
「うん。僕はなにもきいてないから」
それにしても、すごい額だ。これだけの金額を集めるのに苦労が無いわけない。
なにしろ、これだけあれば――
「ではご主人さま、約束を」
「――ああ」
僕はポケットから一錠のカギを取り出す。なんだかんだと理由を付けて結局渡せなかったものだ。
「今日からお前は」
彼女の首に付いた鉄の首輪の鍵穴にそれを差し込み――
「自由だ」
――回す。
ガチャ
「……あっけないものですね」
「……だな」
「では、さようなら」
「……ああ」
そういった彼女はその場から一歩も動こうとしなかった。
「引き止めないんですか」
僕は首を振る。僕にそんな権利は無い。
「ねえ」
「……」
「貴方はそのお金で何を買うつもりなんですか?」
僕は答えられない。
「当ててあげましょう。――あなたは、家を復興するつもりです。そして、失踪したご両親が戻ってこないかと期待している」
「……」
「でも、それは多分かなわないでしょう。あなたはこれからも一人で生きていくことになる。ねえ、どうして私が自由を欲しがったかわかりますか?」
「わからない」
「鈍い人ですね。きちんと私の意思で貴方の傍にいると、貴方にわかってほしかったんです」
「……いいの?」
「はい。なにしろ私は貴方のパートナーですから」
彼女はにっこりと笑った。
ありがとうございました。