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暗黒童話  作者: 黒和桜
8/9

旅路

 僕には沢山の兄弟がいる。


 僕らはずっとずっと


 誰かが勝つまで競走を止めない。


 いや…止められないのだ。


 もしも途中で諦めたら


 もしも少しの同情心が出来たら


 そこで終わり。


 死あるのみだ。


 それは負けても同じこと。


 生き残るには勝負に勝しかない。


 これはゲームだ。


 生死を賭けた真剣勝負。


 兄弟だろうとなんだろうと


 他人を蹴落として生を掴むしかない。


 みんな真っ暗な洞窟をゴール目指して突き進んだ。


 ゴールの先に何があるのかは分からない。


 でも其処に行かなければならないと本能は知っている。


 どれくらい走っただろうか…


 時間の経過すら分からない。


 兄弟達は我先にとペースを上げてきた。


 このままじゃ負ける…


 洞窟の中で死ぬなんてまっぴらごめんだ。


 それはみんな同じだけど僕だって負けるわけにはいかない。


 走った。我を忘れて走った。


 気が付けば僕の前には兄一人だけ。


 後ろを振り返ると遅れながらにみんな必死で僕を追い掛けていた。


 チャンスは今しかない。


 思いっきり走って兄の隣に着いた。


 一瞬目が合う。



 ドクン…ドクン…



 ごめん…僕どうしても…。



 その後のことはよく覚えていない。


 気が付くと目の前にゴールが見えて、そのまま勢い良く飛び込んだ。


 疲れ果てていたそのまま僕は眠りについた。


 兄さん達は多分今頃死に向かっているのだろう。


 兄さん達の分まで僕が生きなければいけないのだ。


 自分が今寝ているのか起きているのかさえ分からなくなった。


 どれほどの時が流れたのか


 数年なのか数ヶ月なのか分からない。


 温かい水の中でクルクル回っていた。


 心地が良い場所だ。


 勝者だけに与えられた神聖な場所。


 そしてまた勝者のみに与えられるものがある。


 神から授けられた力


 即ち進化だ。


 進化した生物はどうなる?


 より高見へ上り食物連鎖の頂点へ。


 進化し生まれ変わったら、また新しいゴールを目指さなければならない。


 死ぬまで続く新たなゲーム。


 もしかしたらこれは神が自分の娯楽の為に作ったゲームかもしれない。


 けれどこれが僕らの定めなのだから受け入れるしかないのだろう。


 だから次のゲームに備えて今少しだけこの勝利に酔いしれよう。


 いつしか神聖な場所から出て行かなければならないその日まで…
















 おぎゃぁ…おぎゃぁ


 元気に響き渡る赤ん坊の産声。


 『おめでとうございます。とても元気な男の子ですよ』


 看護師は自ら取り上げた赤ん坊を母親に見せ綺麗に洗うと母親に抱かせた。


 『あぁ…なんて可愛い私の赤ちゃん…新しい世界へようこそ。私があなたのママよ』


 今日もまた新しい命が生まれ幸せな家族が増える。


 そう…新しいゲームの始まりだ。

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