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暗黒童話  作者: 黒和桜
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 アンタは妖怪や幽霊を信じる?


 俺は信じる。


 俺の身に起こった事は全部真実だ。


 誰がなんと言おうと全て。


 生まれてすぐに捨てられた。


 理由なんてどうでもいい。


 事実は変わりはしないのだから。


 俺とあいつは似ていた。


 親に捨てられ村の奴らに虐められ、一人孤独を味わった。


 『出ていけ!お前は疫病神なんだよ!』


 『そうだそうだ!お前が村に来てからというもの毎日毎日日照り続き…作物が全然育たねえだ!』


 『赤ん坊だから可哀想だと育てたオラ達が馬鹿だっただ!』


 村人に囲まれて石を投げられ


 足で蹴られ棒で叩かれ罵声を浴びる毎日。


 彼女はひたすら堪えた。


 石が当たって血が出ても


 足で蹴られて痣ができても


 棒で叩かれ骨が折れても


 村人の前では決して泣きはしなかった。


 夜になり漸く村人から解放された彼女は一人、痛みに耐えながら立ち上がる。


 もう弱い自分はみせないと決めたのだ。


 たった一人の大切な家族を村人に殺された日から。



一年前


 唯一私を可愛がってくれたおばあちゃんがいた。


 おばあちゃんは子供を亡くしている。


 私にその子の面影を感じるのだろうか…


 村人達から忌み嫌われている私を唯一守ってくれた人。


 幼い私はおばあちゃんに甘えていたのだ。


 安らぎを…毎日好きな人と暮らせる喜びを。


 『ババァ!疫病神を匿っているんだろ?そいつをよこせ!』


 日照り続きで怒りが頂点に達した村人達は、おばあちゃんの家に来て怒鳴り散らす。


 『うちには疫病神なんていないよ!可愛い孫が居るだけさ!分かったら帰っておくれ!』


 私は天井裏に隠れて震えてた。


 村人達が私を虐めるのは親がいない孤児のせいだから。


 全て私のせいにして虐めて怒りを少しだけ減らす。


 そんな都合の良い玩具でしかないのだ。


 『可愛い孫だぁ?お前は身よりもねぇ、子供も作れねえクズだ!そんなお前に孫なんて居るわけねぇだろ!』


 大の大人男6人がおばあちゃんに対して凄みを掛けて脅し、酷い言葉を浴びせている。


 『兎に角帰れ!子供相手に惨い仕打ちをするお前らなどと話しとうない!』


 『なんだと!疫病神を匿ってるお前も同罪だ!あいつを出せば命だけは助けてやる』


 『はっ何を馬鹿な事を…疫病神でも何でもないただの子供を罰しているお前らが疫病神ではないか!』


 激しい言い争い。


 私は震えながら天井の小さな穴から覗いて見ていた。


 『なんだとぉ?!』


 おばあちゃんに掴み掛かる男達。


 不意におばあちゃんが私を見た。


 今にもその場から飛び出して、おばあちゃんのもとへ行こうとしている私に


 【来ては駄目…逃げなさい】


 そう言った。


 男に分からないよう口ぱくで


 いつもの優しい笑顔で。


 でもその瞬間




 バキッ




 音がした。


 忘れもしない骨が折れた時の音。


 『ババァの首は折れやすくていけねぇ』


 『まぁ死んでも構わんだろ』


 『天誅じゃ!』


 男達は笑いながら帰って行った。


 狂ってるよ…みんな…。



 男達が帰ってすぐに涙でぐちゃぐちゃの顔でおばあちゃんのもとに走った。


 『お、ばあ…ちゃん?おばあちゃん!おばあちゃん!』


 ぐったりと横たわっていた体を仰向けにさせる。


 顔は酷く苦しんでいるようだった。


 呼吸を確かめても心の臓を確かめても何も聞こえない。


 『いやだ!やだ!おばあちゃん!』


 どれだけ泣いただろう…


 抱きついていて気が付いた。


 あんなに暖かかったのに冷たくなってゆく躰。


 私は泣きながら立ち上がって庭に行く。


 土を掘って掘って掘って…


 何時間も何時間も。


 漸く掘り終わった時は真夜中になっていた。


 掘った穴におばあちゃんを寝かせた。


 大好きだった花を持たせて、私の髪飾りとおばあちゃんの御守りを交換する。


 今でもおばあちゃんの声が聞こえてきそうな気がした。


 【お前は強い子だから泣いてちゃ駄目だよ】


 きっとそう言ってる。


 そう感じた。





 折れた腕を支え、足を引きずりながら家に戻る。


 おばあちゃんの家に。


 縁側に座ってお墓を見た。


 『ねぇ…おばあちゃん…私今日も泣かなかったよ』


 笑って見せた。心配しないように。


 『明日はお花…摘んでくるね』


 家に入り簡単な手当てをした。


 折れた腕に拾ってきた添え木を当てて布で捲く。


 傷口だけを置き水で洗いそのまま眠りについた。


 起きたのは朝方。


 頬に冷たさを感じ起きると雨漏りがしていた。


 急いで盥を置く。


 今日は雨


 恵みの雨


 いつぶりだろうか…


 きっと今日は村人達はこないだろう。


 昨日約束した花を摘みにいく為、山の梺行った。


 きれいで可愛い花を摘んで急いで帰る。


 (早くおばあちゃんに見せてあげたい)


 庭に行ってお墓の周りを花で埋め尽くした。


 きっと喜んでくれるよね…


 そんな事を思いながら家に入ろうとした時、縁側の下に怪我を負った黒猫が目についた。


 体中ボロボロでぐったりしていたその猫を優しく抱き上げ、濡れた体を拭いて手当てをした。


 『お前もいじめられたのかい?』


 未だ目を開けない黒猫に問い掛けながら頭を撫でてやる。


 黒猫はその体の色から忌み嫌われていた。


 漆黒の闇を身に纏い人々に災いをもたらすと…。


 人間は勝手だ。


 色や形で全てを決める。


 自分より下等だと決め付けて人間も動物も平気で殺すのだから。


 私もおばあちゃんもこの黒猫も弱い存在だと決め付けられた者同士。










 今日は散々な日になった。


 朝から雨は降る


 餌はとれない


 村人に見つかって石を投げられる


 全身から血が滲み出して俺はとりあえず雨の凌げる場所を探した。


 雨が体温を奪っていく…


 寒さに震えながら町外れの家の縁側の下にようやく辿り着いた。


 この家に住んでた婆さんは殺された。


 孫は村のやつらから虐められてる。


 まさに俺と変わりがねぇ。


 ここの家なら安全だろう。


 少しだけ眠ろう…少しだけ…


 闇から引き戻されたように目が覚めた。


 縁側の下に居たはずが何故か家の中にいるようだ。


 体がまだ痛んで動かせない。


 ゆっくり頭を持ち上げ自分の体を見ると白い布が捲かれていた。


 こんな事をするのは多分あの孫だろう。


 再び頭を持ち上げた時だ、襖から孫が現れた。


 『あぁ、良かった…首は大丈夫みたいだね』


 そう言って俺の隣に座って優しく頭を撫でてくれる。


 はじめて人に優しくされた。


 はじめて人に抱かれた。


 言いようのない気持ちでいっぱいで


 そのまままたゆっくりと目を閉じた。










 ここ最近は雨が降ったり止んだりしてる。


 恵みの雨


 恵みの太陽


 作物はスクスクと育っていった。


 そのお陰か村人は畑を耕し仕事をし私に構う時間がなかった。


 だから今に至っては怪我は少しずつ回復を見せている。


 黒猫はというと


 看病してあげて捕まえた雀を餌として食べさせたのが気に入ったのか、ずっと家に居ついてる。


 体は徐々に良くなって今ではちゃんと歩けるようになった。


 歩けるようになるとずっと私の後を付いて来る。


 山に山菜を採りに行くときも川の水を汲むときもずっとだ。


 「懐いちゃったの?じゃあこれからは家族だ!名前は…しん!いい名前でしょ?」


 しんの頭を撫でると伝わったのかどうかは分からないが


 にゃあ


 と一つ鳴いた。



 あれから1ヶ月が過ぎ


 またいつものように日照りが続いた。


 すくすく育っていた作物は枯れ果て村人は口々に言う。


 『疫病神のせいだ…』


 村の中でも巫女様と呼ばれ神に最も近い老婆に相談をする村人達。


 巫女はこう言った。


 『あの者を殺して生贄にするのです。さすれば災いから村を守れるでしょう』



 その夜


 8人の若い男達が彼女を連れ去った。


 少女の抵抗も黒猫の抵抗も虚しく村の中央の木に括り付けられた少女。


 暗闇の中、赤々と燃える少女。


 人の焼ける嫌な臭いに悲痛な叫び。


 村人達は宴を開いた。


 貴重な酒を飲み交わし灼け爛れたソレを愉しげに見つめる。


 宴は朝方まで続いた。










 闇から引き戻された。


 蹴られ飛ばされた体は宙を舞いボキリと嫌な音がしたのは覚えている。


 ゆっくり疼く体を起こした。


 骨が折れているのか足に激痛が走り上手く動かせない。


 ヨロヨロと連れ去られた孫を探しに家を出た。


 きっとまたボロボロになって涙を堪えながら家に向かって歩いて来てるのだろう。


 オレを見たら笑顔で抱きしめて強がりを言うんだ。


 そんな儚い思いは直ぐに裏切られた。


 人間の焼けた臭いが鼻をつく。


 嫌な予感がした。


 痛みも忘れて走れば見る影すらない黒こげの肉の塊が一つ。


 ただただ立ち尽くす他なかった。


 もうあの笑顔も見れない


 もうあの声も聞けない


 初めて出来た家族を失った。


 憎悪が襲う


 闇が覆った。


 彼女が何をした?


 一人孤独に耐え


 ひたすらただ必死に生きていただけじゃないか!


 それを虫けらのように命を奪った奴らこそ


 人の皮を被った鬼だ。


 何も見えない。


 ただ雑音が煩かった。


 気が付けば村人は誰一人ピクリとも動かず汚れた血を身に纏い地面に倒れている。


 その表情は恐怖におののいていた。


 知っているだろうか


 憎悪に満ちた獣が辿る道を。


 憎悪が生んだ悪魔を。


 昔から言い伝えられている妖怪とは人間が生み出した闇だ。


 その闇から命を奪われる浅はかな人間。


 黒猫は妖怪になった。


 愛おしい家族の姿


 それを奪った村人の姿


 人間という愛おしくも愚かな姿に変わった黒猫。


 彼は焼け残った黒い塊を彼女が愛した家族の墓へ葬った。


 その後村を焼き払い家へと帰る。


 彼女がよく摘んでいた花を摘み復讐を終え虚しさに打ち拉がれながら…。




 家に戻ると墓の前には見間違えもしない


 あの孫と老婆が笑顔で立っていた。


 『お帰りなさい、しん!』


 『お帰り…さぁ疲れただろ?こっちに来て座りなさい』


 オレに抱き付く孫の感触も体温も幻ではない。


 ひしひしと家族の暖かみに触れながら黒猫は澄み渡った青い空を見上げた。



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