第30話 書籍化作業
ノリとお金の匂いに釣られて、わたしは安易に書籍化作業へと取り掛かった。
書籍化のお話があっても、改稿は必須である。
多分、そうだ。
誰だってそうだ。
久美子たちもそういっていたから、そうなのだ。
「お直しがあるからといって、特別にわたしの小説が酷いということはない。みんな直す。多分、そう」
ネットに掲載したものをそのままでは、誤字脱字誤用なんでもアリになってしまう。
わたしは改稿に取り掛かった。
仕事もあるのだ、落ち込んでいる暇はない。
「ノリ大事」
1人で好き勝手に書いていたときとは違って、ある程度、レーベルカラーとか出版社さんの決め事に沿った形で改稿しなければならない。
かといって、クソ真面目に取り組んでいたら、病んでしまう。
「ノリだ、ノリ。ノリ大事」
わたしは携帯電話を使ってポチポチと改稿した。
パソコンが欲しい。
切実に願ったが、父に書籍化のことを話す勇気が出ない。
話したら小説を読まれる。あの父はきっと読む。
そしてわたしをからかってくるに違いない。
わたしには、父の腹にパンチを入れないという自信がない。
だから書籍化作業も密かに進めた。
むろん、久美子と美香には泣きついた。
何度泣きついたかしれない。
そもそも数えてないから忘れた。
本を出すとなると、やらなければいけないことはたくさんある。
マイナンバーカードをこんなところで使うと思ったか?
わたしは思っていなかった。
もっと写真にこだわればよかったと後悔しても遅いのである。
わたしは、マイナンバーカードの写真と目を合わさないようにしながらコピーをとった。
表紙イラストをはじめイラストにもこだわりはない。
こだわりが生まれる前に書籍化が決まってしまったのだ。
二作目にして書籍化決まると思わないだろう。
世の中には一作目にして書籍化決定という方もいるが、一作目で改稿作業なんて大変だろう。
実際、大変だ。
誤字脱字までは、なんとか耐えられる。
携帯電話からの入力なので、てへぺろで乗り切れる。
問題は誤用だ。
指摘されて初めて気づく誤用もある。
人生の短くない時間、誤用しまくって生きてきたということになるのだ。
羞恥でベッドの上を何度転がりまわったかしれない。
でもぶっちゃけ、それら全部どうでもいいといえばどうでもいい。
締め切りというものがあるからだ。
ここを守れないと、多方面にご迷惑をかけることとなる。
責任のある仕事なんてしたことのない何でも屋の事務を生業としているわたしは、責任にビビった。
締め切り以上に大人として守るべきものがあるだろうか。
いや、ない。
だからコイツを倒せたら、勝者なのだ。
わたしは変なテンションのまま、すべてを忘却の彼方へ流しながら書籍化作業を進めた。




