第20話 師走に相談
年末か年末ではないか微妙に審議を必要する時期。
わたしは再び久美子の部屋を訪れていた。
今日はお気に入りのケーキ屋さんのケーキを手土産として持参している。
大人だ。
久美子の旦那さんは今日も仕事だ。
美香も来ているから、いつもの感じである。
だがわたしはいつもの感じではない。
経験豊富な2人の前にノートを差し出して教えを乞う。
「で、今週も書いたけど9万文字に届かなかった、と」
「はい」
久美子に問われて、わたしはコクンと頷いた。
わたしは久美子宅のリビングの椅子に座っている。
正面には久美子と美香がそれぞれ椅子に座っていて、テーブルに置かれたパソコンを覗き込んだり、ノートをチェックしたりしていた。
テーブルの上にはよい香りの紅茶と、わたしの持ってきたケーキが置かれている。
今日のわたしは大人なので、ちゃんと旦那さんの分のケーキも買ってきたよ。
旦那さんにはクラシック・オペラ、久美子には小さなマカロンも飾られた可愛いイチゴショートケーキ、美香にはシンプルな見た目ながらも手の込んだミル・クレープ、わたしのは賑やかにフルーツの乗っかったフルーツタルトです。
付き合いが長いから、みんなの好みは把握済み。
ほかの人のが気になって一口頂戴も織り込み済みです。
「久美子、ここさぁ……」
「……あー、そうねぇ~」
美香と久美子は投稿サイトの画面をパソコンで追い、わたしのノートを眺めと各種チェックを進めていた。
旦那さんの分のケーキは冷蔵庫で冷えている。
わたしは冷や汗で冷えている。
「で、どうかな?」
わたしは恐る恐る聞いた。
「私はいいと思う。久美子は?」
美香は久美子を向いて聞いた。
「私もこれでいいと思うわ」
久美子はパソコンの画面を覗き込みながらウンウンと頷いている。
どうやら大丈夫のようだ。
わたしはホッと息を吐いた。
久美子は言葉を続けた。
「ただアレね。ここからもう少し盛り上げたほうがいいと思うの」
「それは私も思った―」
久美子の意見に美香も同意した。
そうですか。やっぱりねー。
わたしは痛いところを突かれて、テヘヘと苦笑いした。
「まだ新着ランキングの上のほうにいるし、更新は急がなくてもいいから。じっくり書いてみたら?」
「そうそう。しっかり書けば、書籍化のお声がけがあるかもよ」
「書籍化⁉」
わたしは思わず大きな声を出した。
コクコクと頷く美香と久美子は、わたしのやる気スイッチを入れたいようだ。
「初投稿でいきなり書籍化はないよー。無理無理」
にゃははと笑うわたしに、2人は真顔で言う。
「そんなに無理なことではないわよ、明日香」
「そうよ、美香の言う通り、無理じゃない。せっかく10万文字近く書いているのだから頑張ってみるといいわ」
「そうかなー?」
2人の言うことを疑うわけではないが、そこまでトントン拍子に行くとも思えない。
わたしは懐疑的に首を傾げる。
「まぁ、最初だからビギナーズラックかもしれないけど。ビギナーズラックならビギナーズラックで利用しない手はないわ」
「そうよ、美香の言う通りよ。一冊出すと、それが名刺代わりになるから、次の仕事に繋がるのよ」
「えー、そんなものなの?」
美香も、久美子も、イケイケドンドンな雰囲気で攻めてくるが、わたしにとってはお世辞にしか聞こえない。
「そうよぉ。私なんて最初は箸にも棒にも掛からなかったからねー。最初っからランキング入りとか、明日香は凄いのよ」
「んー、そう? まったく実感がない」
美香に力説されるも、おだてられているようにしか思えない。
「ふふ、本当に明日香は欲がないんだから。お金を稼ぎたいんでしょ? もっとガツガツいかないと」
久美子に笑われてしまった。
確かに稼ぎたいなら、ガツガツいくべきかもしれない。
美香がパソコンの画面とノートを見比べながら聞く。
「まだ書き溜めてある分があるんでしょ?」
「うん。今は6万文字ちょいくらいまで公開したから……2万文字くらいは書き溜めた分がある、かな?」
美香は顎の下を右手で支え、パソコンの画面から目を離さずに言う。
「この調子なら、1日1話ずつ公開していっても、そこそこ読者さんがついてくるとおもうわ。ゆっくりペースのほうが読者さんには見つけてもらいやすいから、稼ぎやすいかもね」
「そうなんだ」
わたしは美香の話を聞きながら頷いた。
久美子がノート片手に聞く。
「それで明日香。続きはどうするつもりなの?」
「んー、こんな感じにするつもりだけど……これだと盛り上がりに欠けちゃう?」
「そうねぇ。ちょっと淡泊かもしれないわね」
「どれどれ……」
ちょっと悩んでいる久美子の横から美香が覗き込む。
「これならねぇ……」
わたしは久美子と美香からアドバイスを受けながら、右手にペンを握った。




