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4話 麗人とアップルパイ

「あーあ、しかしすげえよなぁ。俺たちがガキの頃なんて、“火装”なんて影も形もなかったのにさ」

「親父が昔よ、火打ち石でカチカチやって、薪で炎を育てて湯を沸かしてたって。今じゃ信じられん」

「でもまあ、なんでもかんでもラムダ頼みじゃ危ねえぞって言うオッサンもまだいるな」

「無理だろ。火装に慣れたらもう戻れねぇって。便利さには敵わんよ」

「そうそう、火装鉄騎だってさあ、なかった時代の移動って、馬だぜ、馬!」

「いま中央府まで出張しろって言われたら、火装鉄騎なしだと何日かかるかわかんねえよ。火装空駆での空便配送なかったら買い物だってままならねぇしな」

「……それを思うと、やっぱ“火”は手放せねえな」


兵士たちが火導工具を使い、現場の再点検や配線の最終チェックをこなしていく。そこに、カチッ、と整備完了の小さな音が鳴った。


「よし、あとは終了印を押して報告出して、終わり、っと……」

「そういえば、姫様は?」

「ひめ?」

「少将閣下だよ、さっき執務室にハンコもらいに行ったらいねえでやんの」

「ああ、麻辣湯屋にいくって言ってたぞ」

「なんで麻辣湯? いつも軍府なかで食ってるじゃん」

「知らん」

「それA区の路面店だろ? いーなー、俺もそこがよかったなー……」



「ぬ……くっ。ダメだ。やはり前が閉まらん。しかし今日は日差しが強いな……」


アヤナとアスコが麻辣湯屋の店先から出ると、軍帽を片手に日差しを避けつつ、ひとりの軍人が佇んでいた。

警護に囲まれながら、椅子を用意されていたが、律儀に立って待っていたようだ。


「ああ御二方、いきなり押しかけてこんな格好だが、大変失礼する。あいにく胸が大きすぎて上着のサイズが合わんのだ。かといって胸に合わせると袋をかぶったようになってしまってみっともなくてな」


蒼の軍服の前合わせをどうにか留めようとしていたようだが、二人が店を出てきたのをみて、にこやかに振り返った。


「B+干渉師の『あかつきの修理士』のお二人だな。しかし、報告を見るにその実力はおよそBクラス上位の火装士のそれではないと見受ける。いつかお会いしたいと思っていた」

「……そりゃどうも。なんであんたのような大物が直々に?」


アヤナは即座に表情を引き締め、軽く腕を組み、低い声で応じる。


(なぜここにいることがわかった……? そういや、さっきのトコで麻辣湯がどうとか喋っちまったか。しかしそれだけで、か……こいつの『庭』は、油断も隙もねえな)


「それほど警戒しないでくれたまえ。気持ちはわかるが。私が大物かどうかはさておき、軍府としてはラキトナでの事案処理における“特異干渉”の件、正式な報告を受けていてな。関係者として、いくつか確認させていただきたいことがある」


レティシアの声音はあくまで柔らかい。


「軍府まで同行いただければ、こちらで正式な謝礼もご用意するつもりだ」

「あいにくだが、お断りだ。せっかくご足労いただいたのにすまないが、どう考えても不自然すぎるぜ」


アヤナはぴしゃりと拒絶した。

言うが早いか、ほんの少しーーーー見た目では悟られぬほど微細に、背中と膝が湾曲した。

猫がいつでも飛び退けるが如き重心の起き方だ。警戒の程が見てとれた。


レティシアはふむ、と顎に指を当てて少しだけ沈黙したあと、小さく笑った。


「そうか……ならば仕方がない。実は副官がアップルベリーパイを焼いたのでな。よければ是非、焼きたてのうちにと思ったのだが……致し方ない、急に押しかけて悪かっ——」

「詳しくお話をお聞かせ願えますかっ!?」


アスコが弾けるように一歩前に出た。ウィッグがずれかけているのも構わず、目が輝いている。レティシアの目がぱちりと瞬いた。


「……?」

「私、アップルベリーパイ、大好きなんです! よ、よろしければ、ぜひ焼きたてのうちにっ……!」

「おいィ!!?」

アヤナの突っ込みが入るが、すでに遅い。

ぶっ、と——形の良い唇を吹き出し、レティシアがおもしろげに笑った。


「それはありがたい。面白いお嬢さんだ。ぜひ案内しよう。是非情報交換を兼ねて親睦を深めさせてくれ、修理士どの」

「……ったく、このバカ……」


天を仰いでみせたアヤナだが、いや、どのみちーーーーこの状況では軍府に赴くしかないのだと言うことをすぐに悟った。


(一体どういうわけでこんな展開になってるんだかわからねえが、力ずくで連行する気ならとっくにそうしている)


こんなに簡単に居場所を突き止められるのなら、領内にいる限り逃げることはおよそ不可能だろう。

思惑はわからないにしても、どうせ逃げられないならむしろこちらから円満に乗り込んで行った方がいい。

アスコもわかっているに違いなかった。道化を演じながら、肝心の金色の目は全く笑っていなかったことが、アヤナにはわかった。

それに――少なくとも、今のところ。


(あの女からは、敵意も、邪な気配も、感じられん。何考えてんだかは全くわからねえが……)

麻辣湯……美味。

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