表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/28

18話 碧血の亡霊

血で染まった誓いが、再びその名を呼び覚ます。

「……どういうことかね?」


 レティシアにはアヤナの言葉の真意がわからない。アヤナは続けて言う。


「人斬りという人種はな。ギリギリの局面になったとき、他人よりも自分の力に恃むって習性がある。猜疑心の塊だからね」

「……なんだと?」

「他人のテッポウなんかより自分の剣の方が信頼できるってことさ。同じ穴のムジナだからわかるもんよ……どこのどいつか知らねえが、この粘っこくて、陰湿な気は」


 万衆の狭間を黒い一陣のつむじかぜが吹き抜ける。

 混乱する烏合の衆を歯牙にもかけず、みずちのように低い姿勢は、まるで地を這うかのようだ。

 ヒュンッ、と、何かが駆け抜けていったと思えば、既にいない。もし敵であるならば、すれ違い様に斬られているのだろう。

 股関節を緩め、上体はほとんどねじらず重心移動のみで移動する、独特の歩法。

 "オシタリ"あるいは"チドリ"と呼ばれるこの歩法は、古くは神州淀、1000年前の内乱時代に”シノビ"と呼ばれた特殊部隊に端を発するという。


「ーーーーっ!?」


 音もなく、砦の壁を登ってくる影があった。

 地を蹴る音もなく、壁を掴む気配もない。ただ、空間がわずかに歪み、霊性粒子が一瞬だけ静電気のように軋んだ。


 ——見えない“階”を、踏んでいる。

 干渉波を読み、空間の“たわみ”に、足を乗せて進む、古の神州“シノビ”が使ったという“叢雲足”。


 音もなく、8mはある壁面を一気に駆け登り、その黒衣の剣士は現れた。

 ティシアがわずかに振り向こうとしたその瞬間、斬撃の風が、その背後に走っていた。


「——ッ!」


 干渉波の乱れが、風鈴のように戦場を鳴らす。

 ほぼ反射的にレティシアはサーベルに手を掛ける。しかし、それは間に合わない。

 だが、黒衣の剣士の斬撃が届くよりも一瞬だけ早く、一瞬で詰め寄ったアヤナが、その間に滑り込んでいた。


 ーーーー音もなく、黒衣の剣士の体が宙に跳ね上がった。


 磁力の反発現象のような飛び方。しかし、火導兵装による反応とは明らかに異なる。

 合気。力を止めるのではなく、“流す”。

 体重移動を利用し、アヤナは突進してきた剣士の力を受け流すように捌き、そのまま軸を崩して反動ごと肘を天に跳ね上げた。

 体は連動し、打ち込みの力そのまま、空高く放り投げ出される。


 ぶしゅっ、と、一筋の血液。


 掠めた斬撃が、アヤナの右肩口をわずかに浅く抉り、赤い軌跡を残す。


「……これは、よもやだ。懐かしい名だな」


 その血が空に散ると同時に、黒衣の剣士の身体は宙を舞っていた。

 くるり——と、空中で一回転。霊性足場を利用して、地に接地する寸前に体勢を整える。

 土煙がふわりと舞い、着地の際の靴裏が砦の石を噛んだ音が、やけに大きく響いた。

 浅く抉られた右肩からしたたる血を気に求めず、アヤナは敵に向かい、体勢を転換させる。

 外套の合わせ目がわずかに裂けた一瞬にのぞいた縫い取り。


『尽忠報国 万折不撓 藏其血三年而 化為碧』


「精忠報国・碧血隊。一人残らず玉砕したのではなかったか?」


 幽鬼のように線が細く、それでいて大柄な黒衣の剣士。

 天兵党・筆頭同志、ソウマの携えた淀刀が、血を吸って月明かりに妖しく光った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ