13話 "あかつき"の干渉士
次から次へと、敵兵は津波のように押し寄せてきた。
目の前には、霊導騎兵を擁するトゥライナ王国の精鋭部隊。彼らは火装兵の機能不全に乗じて、ここを崩壊点と見定めていた。
中世より“信仰と戦術”を両立してきたトゥライナ王国軍は、火導兵器が全盛を誇るこの時代においても、あえて火装の全面採用を拒み、霊導兵科と信仰騎士団の強化に注力してきた軍勢である。
火装の技術を独占するカルミナと明確な対立構造にあるという外交上の理由が主ではあったが、それをおいても、個々の将兵の練度は侮れぬものがあった。
その汎用性も発動までの速さも、速習性においてもラムダの力を効率よくエネルギーへとテクノロジーで変換する火導兵器には、本来及ぶものではない。
しかしながらーーーー熟練の術士による霊導砲の火力は、一群の敵を薙ぎ払うに十分な威力を持っていた。
「ぐおっ!!」
「チキショウ、こっちが弾幕張れねーのをいいことに無茶苦茶しやがる!!」
霊導砲兵部隊の行う、ラムダ干渉により対象地点に爆裂反応をもたらす攻撃は、“聖詠”による発動までの大きなタイムラグはあるものの、威力自体は咆哮管の砲撃に匹敵する。
ただでさえ数で劣り、普段の力の発揮できないレティシア軍の将兵は、その一発で簡単に戦列を崩されてしまう。
「もはや火の時代ではない……!!」「沈め、カルミナ! 火は終わったッ!!」
霊性の残響をまとった煽り声が飛ぶ。炎の次は声で打ちのめす。戦闘の基本をよく押さえていると言えた。
「……チッ。なーにが、“火が沈んだ”だよ。ハウリングさせやがって、うるせェっての」
煙の中を突っ切った一人の少女。
爆音、轟音の中をずかずかと無造作に歩みよりながら、榴弾の信管を、歯で引き抜いた。
キンッ、という音とともに、煙と血で泥に塗れた顔から、牙を思わす犬歯を覗かせる。
「沈もうが黙ろうが……アタシの火は、しけらねぇんだよ!! 舐めてんじゃねえぞトゥライナァァ!!」
干渉制御なしでも極めて正確に敵軍に向かって投擲された火導式起爆榴弾が、陣形を組んだ霊導砲兵部隊を吹き飛ばした。
「マグネリア中隊長!!」
「オラァ、てめえら、舐められっぱなしで終わるんじゃねえぞ!! 退がんなクソがァ!!」
白煙の中から、切り裂くように火導式干渉ライフルを撃ち放しながら敵に突進し、味方を鼓舞する。
軽装ジャケット。黒の火導繊維性タンクトップ。破れた強化軍用パンツ。
小柄なその体躯に、溢れるほどの闘志とエネルギーを詰め込んだ“歩く火薬庫”こと、中隊長を務めるマグネリア・ワークス中尉が咆哮した。
◆
「オラァ、抜かれんじゃねェぞ!! 死ぬ気で塞げ、馬鹿野郎ども!!」
爆炎の中、ライフルを振り回して味方の士気を底上げする。
「近えぞテメェ、ライフルってのはなあ、ぶっ叩いても痛えんだよ!」
戦線を抜けてきた敵兵を、ライフルを棒のように振り回して薙ぎ倒した。
しかしどれほど気を吐こうとも、数の差は歴然である。
「おい、やべえぜ中隊長! 戦線の踏ん張りが利かねェ!!」
「んな事ァわかってる!! だがここでアタシらが崩れたら全体総崩れなんだよ、死んでも抜かせんなァ!!」
将兵一人一人の気迫をもって脅威的な粘りを見せていたが、さすがに一人当たりの守備範囲に、10名近い敵に殺到されては防ぎようがない。
(……チッ、マジでやべぇな、こりゃ)
マグネリアも強気な言葉とは裏腹に、はっきりとした劣勢を悟っていた。
このままでは崩れるのは秒読み。しかしこの戦場が崩れれば、敵勢を考えれば一気に本陣ごと飲み込まれることもありえた。
敗北がよぎった次の瞬間——中空に、雷鳴にもにた一筋のノイズが走った。
周囲に霊性粒子のうねり。濁った干渉波が、空気を一瞬だけ歪ませる。
(……なんだ?)
一瞬の違和感ののち、正体は轟音となって戦場を切り裂いた。
「なん------ッ!!?」
戦場全体を揺らすほどの爆音ーーーー単体の爆発ではなかった。いくつかの爆発が連座して誘爆し、殺到するトゥライナの軍勢を吹き飛ばしたのだ。
灰と光と風が、一斉に舞い上がり、敵陣に張られていた霊性場も一気に崩壊する。
(爆撃じゃねェ!! 何かが来たーーーー!)
火装による爆撃ではなかった。とはいえ、このような波状の爆撃は霊性兵装による爆撃でも見たことはない。
「……ちょっと火力が強かった。舌噛んでねえか? アスコ」
「〜〜〜……!!」
「……噛んだか。すまん。だが、悶えてる暇はないぜ」
マグネリアの目が、わずかに見開かれる。
煙が割れた中心に立っていたのは、聖女のように美しい、金髪金眼の少女を抱きかかえた一人の男だった。
「ありゃあ、確か……」
(……"あかつき"の干渉士……!?)
風が切れる音の中で、アヤナの白髪の混じる黒髪が炎を照り返す。
戦場は、次の呼吸で──まったく別の相を見せ始める。




