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二人の生活が始まる

翌日の朝。俺は、黒塗りの高級車の後部座席に乗せられ、今まで約一か月間入院していた病院を後にした。

この車の向かう先は、昨日の美少女…――月神美咲の自宅。

「遂に、長かった入院生活ともおさらば………か」

なぜ俺が入院していたのかというと、一か月前に目覚めた俺は、それ以前の記憶を全て失ってしまっており、いわゆる記憶喪失というやつになってしまったからだ。

体は健康そのものだったが、記憶喪失になってしまったせいで、自分の名前や帰る場所などが一切分からず、結果的に、一ヶ月以上病院でお世話になってしまったという訳だ。

「なぁ、本当に俺が、美咲の付き人になって良かったのか?」

俺は、右隣の席に座っている昨日の美少女、月神美咲に尋ねた。

美咲は、昨日と似たようなデザインの、漆黒のワンピースを今日も着ている。

「私から付き人になって欲しいってゴンベイに頼んだんだから、ゴンベイは何も気にしないでいいって」

色々な事が起こった昨日の夜、俺は美咲から自分の付き人になって欲しいと頼まれた。そして、俺はその頼みを、紆余曲折あったものの、その頼みを了承し、その結果、俺は今日から美咲の家で、住み込みで働くことになったのだ。

ちなみに、なぜ俺が付き人になるように頼まれたのかというと、美咲本人曰く、俺が面白い顔をしているかららしい………。はっきり言って、意味不明すぎる………。

「でも………美咲は面白い顔って言うけど、俺って、こんな不気味な顔付きなんだぞ………」

俺は、車の窓に僅かに映っている自分自身の顔を見た。

俺には顔が無い。正確に言うと、目と鼻、それと髪が無い。一応、口と耳は残っているのだが、不気味で妖怪のような顔つきであるということに変わりはない。

昨日は勢いで付き人になることを了承してしまったが、冷静に考えてみると、こんな顔の俺が本当に、いかにも金持ちそうなこの少女の付き人に成っても良いのだろうか?

「もう! だから気にしなくていいってば!」

「お、おう」

美咲は、その美しい顔をしかめて俺を叱る。

なるほど………。美少女から叱られるのはこの上ないご褒美だ! という人間が一定数いるのも納得だ。

「それにしても、本当にすごいよね、このドローン。科学の凄さをつくづく感じるなぁ」

「あ、ああ。もう一か月以上お世話になってるけど、俺もまだまだそう感じるよ」

美咲が言うドローンとは、俺の周りを、目線よりも少し高い位置で飛んでいるドローンのこと。

このドローンは、正式名称を視覚補助ドローンという。

その名の通り、視覚を失った人が使う、最新技術盛り合わせのドローンで、このドローンに付いているカメラが、俺の脳にあるマイクロチップと繋がって、脳に視界を届けてくれるのだ。

このドローンがあるおかげで、俺は目を失ってもなお、景色を認識できている。

「このドローンって、ゴンベイ君が念じるだけで動かせるんだっけ?」

美咲は、車内で音もたてずに飛んでいるドローンを指で突っつく。

「ああ。ほぼタイムラグ無しで、俺の思った通りの動きをしてくれる」

このドローンにはいわゆる、最先端テクノロジーの、完全思考型操作と言われるものが備わっており、俺が念じるだけで自由自在に動かすことが可能だ。

「なるほど。でもそれって………ちゃんと動かせるの?」

「最初の内は上手く動かせなかったし、視界をとらえる位置が目からカメラに変わる訳だから、違和感が半端なくて色々苦労したけど、二週間ぐらいで慣れたな」

「へぇー。すごいねゴンベイ。案外器用?」

美咲は微笑んで俺を真っすぐ見詰めてそう褒める。

「案外は余計だぞ」

「じゃあ、そのドローンの代金分、しっかり働いてよね」

「お、おう」

俺の里親になった美咲は、丸一ヶ月分の治療費や、ドローンの代金などといった、俺の借金を全て肩代わりしてくれた。

なんでも、俺の借金は合計で二千万強あったらしく、入院費用だけでおよそ百万。残りは、最新技術盛りだくさんのドローンの費用。

それを、なんの迷いもなく肩代わりしてくれた美咲は、超が付くほどの大金持ちと言って良いだろうな。

「美咲の家って、やっぱり金持ちなんだな」

まぁ、付き人を雇おうとしている時点でそうとう金持ちの予感はしていたのだが………。

「なんか、金持ち令嬢の付き人になるって考えると、急に緊張してきた」

「もう、そんなに緊張しなくていいのに」

「だって、もし美咲の両親とかに、この家にお前はふさわしくないとか言われてクビになったらどうしよう。俺、知り合いとか一人もいないし。借金だけ背負って、路頭に迷うことになっちまう」

「大丈夫だよ。今から行くのは私専用の家で親とかいないし」

さっきまで微笑んでいた美咲の表情が、急に曇る。

「専用?」

「私の親は忙しくて世界中を飛び回ってるからさ、今から向かうのは、私と私の使用人しか住んでいない家なの」

「………なるほど?」

「とどのつまり、今向かっている家で一番偉いのは私ってこと。だから私が直々にスカウトしたゴンベイを、無理やりクビに出来るのは私しかいないから。だから心配しなくて良いよ」

そのことを語る美咲の態度は、どこか悲しそうだった。

金持ちにも、金持ちなりの悩みがあるものなのだな………。

その後も色々なことを話していると、目的地に着いたようで、車が停止した。

車から降りると、二〇階建てくらいの、ビジネスホテルのように四角い建物が、俺の目の前にそびえ立っていた。

「この建物が丸々私の家だから」

「どうせ豪邸なんだろうとは思ってたけど………想定と違う」

まるで小さいお城のような家を想像していたのだが、まさかこういうタイプの豪邸だったとは………。

家の中に入ると、濃い赤色のカーペットが床中に敷かれていて、天井にはいくつものどでかいシャンデリアがつるされている。内装はさながら高級ホテルそのものだ。

「この建物………何階建てなんだ?」

「地上二十階、地下一階だよ」

「………ほぼタワマンじゃねぇか………」

予想の斜め上を行くような形の豪邸に、俺は終始開いた口が塞がらずにいる。

「ここは数年前までホテルだったんだけど、色々あってこの建物ごと買って、私の家にしちゃったんだ」

やはり、この建物はもともと高級ホテルだったのか。

「ついてきてゴンベイ、君の部屋に案内するよ」

美咲に付いて行き、案内された俺の部屋は、最上階である二十階の角部屋で、部屋の位置と内装ともに、中々に良い部屋だった。

「あとこれ、素敵なプレゼント」

そう言うと美咲は、黒色のスマートフォンを俺に手渡す。

流石に、現代人にとってスマホは必需品なため、事前に用意してくれたらしい。

「ちなみに、この部屋の隣は私の部屋だから。この部屋意外と壁薄いし、エッチな動画とか見ちゃだめだよ~。最悪の場合、即刻クビにしちゃうかも」

「安心しろ。俺は紳士だから。性別を超越した存在だから」

「………いじりをボケで返すのはルール違反」

「なんのルール?」

そんなくだらない会話を少し続けたあと、美咲は俺の部屋から去っていき、新しく俺の部屋になった角部屋に、まるで仙人のような立派な白髭を生やした老人の執事が訪れてきた。

その執事は、俺の仕事内容や給料なんかの話をしてくれた。

執事さんから説明を受けた仕事内容は超シンプルで、美咲に言われたこと全てを行うということ。四六時中常に美咲の近くに居る必要は無いらしく、とどのつまり、俺の役職はくらいの高い雑用係といったところだ。

まぁ、面白い顔をしているという適当な理由で雇われたのだから、就任できるのは、雑用係で関の山だっただろう。

執事の人が部屋から去っていった後、俺は特に理由は無いが、折角の最上階ということもあり、何となく窓を開けてみることにした。

「さすがは最上階。かなり高いな」

窓の外の景色は、何の変哲もないような普通の街の風景しか見えない。

だが、この建物の周りには特に高い建物が一切無く、かなり遠くまで街並みを見渡すことが出来き、それゆえに、景色そのものは決して悪くはない。

「この建物、いくらぐらいしたんだろう………?」

いくら都心でないとはいえ、この建物はかなり大きい。何億とか、そんなレベルの値段ではないことだけは分かる。

「………美咲の親って、想像以上にヤバいのかもしれないな………」

俺はその場で早速、美咲に貰ったスマホを使い、彼女の苗字である月神と検索すると、

月神家という富豪一家と、それに関する色々な記事が出て来た。

月神というのは、中々に珍しい苗字であるため、美咲はこの月神家の人間で間違いないだろう。

その後、記事を読み進めて何となく美咲の両親について知ることが出来た。

どうやら彼女の両親は、日本ではナンバーワン、世界的にもトップクラスの大富豪で、美咲はその一人娘らしい。

超絶美少女で超大富豪の令嬢…――それが月神美咲という人間。

それを知った時、俺には美咲がさらに遠い人間に感じてしまった………。

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