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プロローグ

冬の夜。俺の病室には月明かりが窓から入り込み、少し薄暗くはあるものの、深夜の割にはかなり明るい。

そんな病室の中の、何の特徴も無いベッドに座っている俺の前には、漆黒のワンピースに身を包んだ、白髪の美少女が笑顔で立っている。

「私の付き人になってくれない?」

その美しい少女は、まだ出会って数分しか経っていないはずの、水色の病衣を着た俺にいきなりそんなことを頼んで来た。

「………分かった。なるよ。お前の付き人に」

俺の了承の返事を聞くと、少女は嬉しそうに目を細め、笑顔を深める。

「そういえば、君の名前って何?」

「名前………そういえば俺ってまだ名前無かったな」

…――考

えてみれば、俺には未だに、特定の名前は無い。

いや………無いというよりも、忘れてしまった、の方が適切か…――。

「名前無いんなら、私が君に名前をつけてあげようか?」

「………え?」

その美少女は、病室内の唯一の窓の前に移動し、窓から見える三日月をバックにして、俺に可憐な微笑みを向けた。

彼女の腰元まである白色の髪が、少し開いている窓から入ってきた風になびく。

同時に、美咲が着ている漆黒のワンピースのスカート部分もまた、風に揺らされた。

窓から見える三日月、彼女の美しい容姿、風になびいている白髪と漆黒のワンピース、俺の視界に映っている景色はまるで、一枚の精錬された絵のように美しい光景だ。

「そうだな………うん。君の名前はゴンベイ…――。ゴンベイにしよう」

その瞬間、俺は世界がより明るみを増したような感覚を覚えた。

夜空に浮かぶ三日月は先ほどよりも強く輝き、深夜にもかかわらず目の前に立つ少女の全てを鮮明に認識できる。そしてなにより、少女が浮かべる可憐な微笑みが、先ほどの何倍も美しく見えた。

当然これは俺の錯覚のはず。だが、不思議なことに一向にその錯覚が治る気配が無い。

「私の名前は美咲。月神美咲だよっ。これからよろしくね! ゴンベイ」

美少…――美咲は、微笑みを満面の笑みに変え、俺の名前を呼ぶ。

美咲の笑顔を見て、俺の心拍数は急上昇し、一つ一つの心臓の鼓動が、まるで太鼓のように激しいものへと変わる。

心拍数が上がったせいか、俺は突然心臓に締め付けられるような苦しさを覚えた。

が、不思議とその苦しさに、不快感は一切ない。

むしろその苦しさが心地よいまである。

これはもしかしてアレか………? まさか恋というやつなのだろうか………?

俺は改めて、美咲の顔を冷静に見た。すると先ほど以上に胸が苦しくなり、顔を中心として、俺の体中が熱くなっていく。

「お、おう。よろしく」

………こ

の日、俺は月神美咲に恋をしてしまった。

だが………この俺が恋をして本当に良かったのだろうか?

相手はまるで天使なのではと思えるほどの美少女。

かたや俺は…――まるで妖怪の、のっぺらぼうのような顔つきの変人…――いや、奇人。

そんな俺と、この月神美咲と言う美少女は、まるで月とスッポンのよう。

いやもはや、月とスッポンだとか、天と地ほどの差、そういったレベルを遥かに超えている程の差が、俺と美咲との間には存在していると。

…――せ

めて俺が、顔のある普通の人間なら………。

俺はただ、自分の顔を憎むことしかこの場では出来なかった…――。

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