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9.誰かに必要とされたい



「何で……そこまで」

「ユニが必要だからだよ?」

 事もなげに。ルネがそう言う。

 ただただ純粋に。自分の欲しいものを、必要としているものを、手に入れる為に必要な事だから。

 俺、思うんだよ。

 ルネの何が一番怖いって、こういうトコだと。

 誰だって、というと違うって奴もいるかも知れないから大体のって言った方が良いか、ともかく結構な割合の奴が、自分自身以外の()()に必要とされたいって思ってる。

 必要とされたい。誰でもじゃなく、お前が、と言われたい。欲されたい。

 そんな無意識の、あるいは意識した欲望を、ルネは真っ直ぐに見据えて手を伸ばしてくる。

 あの赤い瞳の奥にある揺らめく(ほむら)は狙った獲物を逃さない。それは気づいた時には手遅れだ。

「ユニは、ボク達に必要だから」

 それだけの価値がある。そう言われて嫌な気はあんまりしないんじゃないかな。俺はしなかった。


『レフ。アイドルやろう?』

『いやなんで。ヤダよ』

『えー、やろうよー』

『だからなんでだよ』

『だって ――――』


「ひつ、よう……」

 ユニの言葉に記憶の彼方から意識が引き戻される。

 今はこの新たな犠牲者が囚われる所を見ておかないとな。

「うん!」

「ちなみにユニの今いる領地抜ける際の家族全員分の離籍費と、三ヶ月分の生活費、シアンレード領への入籍とか住民登録の手数料、今年度分の納税、引っ越し費用としての転移石も全部丸っと部活とスポンサーから出すから」

「え」

「後で見積もり書渡す」

「そ、それ絶対凄い額に!」

「まあ、だろうな。けど、メンバーだから特別に超低金利で貸すから。具体的には年0.02%くらい」

「いやいやいや、無理!」

「大丈夫だろ。返済期限も長くとって、何なら繰り上げ返済も勿論可能」

 返済するなら早い方がお得。

「いや、繰り上げなんてもっと無理!」

「そんな事ないぞ? まあ、今後次第の所もあるけど、部活動頑張ってファンがつけば」

 今回の額は働いて返して貰う予定だ。

「ユニだけじゃなく、ちゃんと親御さんにも話さなきゃいけないから見積もり持って再度お宅訪問するからそのつもりで」

「頑張ろうねー。ボク達も全力で協力するから! 手始めに、これからは手加減なしでレッスンするね」

「……は? てか、げん? え。今まで」

「手加減してたよ?」

 さも当然のようにルネ(悪魔)が笑う。

 悪魔だ。しかし、真実。

 今までのお試しでもキツいと思ってたみたいだけど、わりと手加減してた。

 そんな驚愕の事実にサーッと顔を青くするユニ。

 尻尾もぶわりと毛が膨らんだのか若干太くなって身体に巻き付いた。

「大丈夫だ。慣れれば死にはしない」

「慣れないと死ぬってこと⁉」

 ノーコメント。ツッコめるならまだ大丈夫だな。

「詳しい話は書面にして持ってくから、明日ユニの家にお邪魔します」

「ユニの父様と母様に伝えてね☆」

 カタカタと震えるユニだが、まあ一応これでざっくり概要は伝えたから、後は明日のご両親への説明と契約締結だけかな。

 もう一踏ん張りだ。

 結構強引に進めてるけど、仕方ない。

 本当に一日も早くお引越しして欲しいんだ。

 それくらい今の第二階層の領地はヤバい。怖い。

 こちとら平和な場所で生まれ育ってるから、無理。よくユニ達あそこで暮らせていけてるよ。

 あの環境に比べたらレッスンの手加減無くす方がよほど安全安心だよ。なので、このまま畳み掛けます。




「こちらの書類を御覧下さい」

 有言実行。機を見るに敏。

 と、言うことで。

 一日明けて放課後現在、ユニのご実家リターンズ。

 あれから帰ってルカさんとかとも打ち合わせして、めっちゃ急いで書類作った。頑張った俺。

 離籍費、今年分の納税資金、引っ越し費用、当面の生活費、引っ越し先の……ある意味で賃貸費用、手続きの手数料とかまるっとして、しめて3,190,000Cです。

 高いと思うか安いと思うか。そこは人それぞれ。

 金額だけ見たら引くかもだけど、内訳見てもらえれば納得だろう値段ではある。

 ぶっちゃけ、良心的だとも思ってる。

 ちなみにさ、一番内訳の中で圧迫してるの、離籍費だから。

 離籍費だけで2,000,000Cこれだから足元見てくる所は……。

 まあ、これユニ達のいるココでは最低額に近いんだけど。家族五人でこの金額だから。

 でも、自給自足で納税すら貨幣で出来ない場合はこんなの払える訳がない。

 引っ越しだって費用掛かるし、諸々費用って掛かるんだから。

 なお第一階層の領地は俺のとことルネのとこ、どっちも離籍費なんて取らない。

 ルネのとこは領都のみ入籍費掛かるけど、そこ以外は入籍離籍共に無料だ。

「ユニカから話は聞きましたが、これは……」

「不明点は遠慮なくおっしゃって下さい」

「何でも聞いてね!」

「ルネ、真面目な話だから少し体裁整えろ」

「はーい」

 ユニのご両親が書類を手に困ったような何とも言えない顔。

 あれかな。俺らが子供だからか。

 いくら丁寧でも子供からこんな話、しかも領地での雇用含めなんて規模の話されても、まあ困惑するよな。わかる。

「先日は申し遅れましたが、私はレーティフィバリス・アクアリウス。こちらはエルリュネット・シアンレードです」

「え゛っ⁉」

 あれ? ユニには名乗っ……あ…………姓名乗ってないかも。

 うっかりうっかり。

「アクアリウスとシアンレード……それって第一階層の領主様んトコの⁉」

 ご両親にも当然何でこんな話が来てるかそれじゃ伝わらないわけだよな。

 失敗失敗。やっぱ報連相しっかりしなきゃ駄目だ。

 ユニとそのご両親が固まり、ユニの弟妹はキョトンとしている。

「まあ、はい。そんな訳でして。ちゃんとしたお話で、ちゃんと執行される契約ですのでご安心下さい。もしまだ不安なら家族を呼びます」

 即座にユニ両親が高速で首を横に振る。むしろ絶対呼ぶなって顔。

 それから恐る恐るという顔で再度書類に目を落とす。

「……有り難すぎるというか、随分な好条件ですね」

 ユニ父君が困惑するような声音でそう言う。

「胡散臭いと思うかも知れませんが、特に裏があるものではありません。融資条件を見てもらうのが早いかと」

 俺の言葉にユニ両親が条件の書かれた箇所を確認した。

「ユニカが借り主となり、部活動へ正式に入部すること?」

「そうです。これはあくまでユニカさんが部活動へ正式に参加する前提、同じ部活動の仲間への融資なんです。現在のユニカさんの生活環境が、失礼ですが不安定と感じられ、部活動仲間のマネージメントをしている立場の私としては早急に改善したいのです」

 わかる。ユニご両親、「たかが部活の為に?」って思うよな普通。

「たかが部活動とお思いですか? 普通の部活動でしたらそれで正しい感覚ですが、私達の部活動は少し規模が大きく、スポンサーとして両親……この場合は私とルネの両親である領主が支援しています。これだけで一般的な小規模事業くらいのものと思って頂ければ」

 あ。ユニが白くなった。

 いきなり引きずり込んだから、規模感わかってなかったか。

「き、きいてな」

「あれ? 言って無かったっけ? ごめーん」

 ルネのテヘペロにユニが白目を剥く。

 だが白目を剥くくらい理解出来たなら問題ない。進めよう。

「そのような訳で、ご家族丸ごと、ご住所ごと安全な場所へ引っ越して欲しい。その費用などは一時的にこちらで建て替えますので、ユニカさんとご家族でゆっくり返済して下さればという契約です」

 ちなみに四十年くらいの返済期間で設定してる。

 ユニが頑張ればそんな掛からないだろうけど、念のためだ。

「これ、お引越し先の写真ね!」

 ルネが薄いファイルノートを取り出して開く。

 そこには引っ越し先の景色を撮った写真がある。

「綺麗でしょー? 夏は涼しいし、冬はちょっと雪も降るから寒いけど、ユニ達のお家の造りはしっかりしてるから暖かいよ! 床暖房も入れてるし」

 四季毎の住居付近の景色、最寄りの村、そしてユニ達の家と見せる。

 ユニ達の家は間取り図もあって、大きな平屋作りのログハウス風だ。

 山脈の中腹辺りにあるのはここと同じ。

 間取りや造りは悪いけどこことは比べるべくもない。

「すごーい! お部屋いっぱーい!」

「わぁ! 壁もお屋根もしっかりしてる! これなら雨漏りしないね!」

 聞かなかったことにしよう。

 ……そっか。雨漏りして隙間風吹いてるのかこの家。

 やっぱ今すぐ引っ越して。

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