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6.ご家族って?




「あれがそうー?」

 数メートル先に小屋が見える。うん。悪いけど小屋だ。

 一階建て、所々に苔のある木造、オブラートに包むと木こりの山小屋、包まない場合はあばら家って言う。

「…………」

 心なし、ユニの顔が暗い。

「そう言えばユニのご家族って?」

「父と母、それから弟妹が一人ずつです」

 ユニ入れて五人家族かぁ……。五人で住むには狭い気がする。

「ユニカ?」

 そんな事を考えていた所に背後から怪訝そうな声が掛かる。振り向くと、雪豹の獣人らしき男性が一人。

片手に大きな魚を引っさげていた。

 ゴツくて顔の見えるユニって感じか。

「ユニのお父さんですか?」

「そうですが……あの、ユニカはどうしたんでしょう?」

「申し遅れました。ユニさんと同じ部活のレーティフィバリスです。そちらはエルリュネット」

「こんにちは!」

 ルネがとびきりの笑顔で手を振る。ここで大方の場合は警戒心が溶ける。

場合によってはぐずぐずに溶け崩れる。恐ろしい。わかっててやってるからな。

 ユニのお父さんはまだ若干戸惑っているが、やはり子供の部活仲間と聞けば警戒は緩む。

「すみません。部活で熱を入れ過ぎて、魔力が底を尽きてしまったみたいで」

「そりゃ、ご迷惑を」

「いえ、むしろこちらが申し訳なく……。ユニさんの伸び代が予想以上だったので、ついつい止めるのが遅くなってしまいました」

 ルネと一緒に頭を下げる。

何かユニ、絶句して固まってる気配だけど気にしない。

「いやいや、そんな。ああ外で立ち話も何です、狭い我が家ですがどうぞ」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 家の中へ入れてもらうと、だだっ広い部屋が目に入った。

壁には色々な道具類と隙間を塞いでいるらしき織物のタペストリーや補修の跡。

 掃除は行き届いているので清潔感はある。

 玄関兼居間兼食堂のようだ。

「ユニ、お部屋は?」

「……ここです」

 おっと、どうやら寝室も兼ねてる?

 部屋の真ん中にテーブルと椅子、部屋の壁際全体にチェストが備え付けられてるけどもしかして……。

それ以外だと床……。

「おかえりなさいあなた……とユニカ? どうしたの。それに」

「ユニカの部活仲間のお二人だ。部活を頑張って倒れたらしい」

「あら。まあ。ふふ。元気ねぇ」

 おっとりとした優しそうな獣人の女性。ユニのお母さんだな。

 そう思っていると、何やらバタバタと足音がして俺達が入ってきた扉が開いた。

「お父さんお腹すいたー!」

「見て見て! ベリーこんなに採れたの!」

 わお。想像してたより小さいな。

 ユニの弟妹と思われる子供が二人、元気よく入ってきて、見知らぬ人✕2(もちろん俺達)に動きを止めた。

「わー。美味しそう! 一つ貰って良い?」

 約一名、自分より幼い子供にベリーをねだってるがな!

「わぁ……」

 食い意地の果てしない一名に、弟妹が口をポカンと開けて一拍。

ユニ妹の方が先に我に返り、手にしていたベリーの入ったバスケットから一掴み分をそっと捧げ持つ。

「どうぞ!」

「ありがとうー!」

 ホクホク顔でルネはそれを受け取って、一つ摘んで口に入れると美味しさに声を上げた。そして一つ摘んでユニ妹へ。

「お返し。はい、あーん」

 反射的に口を開いたそこへベリーを入れる。

「ぼ、ぼくも!」

「良いよー。はい、あーん」

 チミっ子の心を鷲掴みにしたらしいルネはもう放置で良いか。

「すみません。うちのルネが」

「いやいや、子供達は喜んでいますから。それにユニカにお友達が出来たなんて」

「部活もいつの間に? あ、昨日帰りが遅かったのもそれでなのね? やだ、早く言ってくれれば良いのに。でも良かったわ。ユニカったら全然学校のお友達の話してくれないし、友達いないのかと心配してたのよ」

 ユニ母の言葉の何かしらにダメージを受けたのか、ユニが気まずげに顔を逸らした。

友達がいないどころか、いじめられてたもんな。

「ママー。あんね、おねーちゃんがね、面白いのみせてくれるって!」

「みてきていい?」

「あら。何かしら?」

 とりあえず警戒心ゼロで快く送り出すユニ母。

「ルネ、何しようとしてる?」

 一応、何しようとしてるか確認しないとな。

「ん? キラキラな感じでふわふわさせようかなーって」

 ちょっと何言ってるかわかんないよな普通。

「あ、そう。なら、まあ」

「え。ちょ、弟妹達に何かする気ですか」

「あー、大丈夫。いわゆる魔術使った、高い高い、だから」

 ユニが警戒心バリバリだ。無理もない。

 でも、多分これは大丈夫だから。

「心配なら見ていると良いんじゃないかな」

「そうします」

 よほど心配なのか家の外へ追っていくユニ。この落差よ。そして追いかけられる程度には回復したのか早いな。ぐう優秀。

「どうぞ。立ち話も何ですから座って下さいな」

「ではお言葉に甘えて」

 席に着き、ユニ母の出してくれた蜂蜜水を頂く。一枚浮いたレモンの輪切りが良いアクセントだ。

 甘酸っぱくて疲れがとれる。

「美味しいです。ありがとうございます」

「気に入ってくれて良かったわぁ」

 空気もほどよく和んで、自然とユニの話(部活)になる。

「ユニカとは別のクラスなんでしょう?」

「はい。先程のエルリュネット、私達はルネと呼んでいるのですが、ルネがユニカさんに声を掛けまして」

「あらあら」

「私達の部活は人前で歌やダンスをするので、やはり気恥ずかしいようなのですが、ひとまずはお試しでとお願いして仮入部して頂いています」

「なるほど。ユニカには良い経験になりそうだ」

 可哀想に。本人がいたら必死に辞めたいんだと訴えそう。

 俺は笑顔で話してるけど。

「良かったら、次の発表会を観に来て下さい。私達の部活は外部公開を行っているので」

「あら。嬉しいけど……」

「そうだな。出来るなら観に行きたいが、学園は第四階層だからな……」

 ユニの両親の顔が曇る。

 やっぱりか。

 ユニの転移石は、()()()()転移させられない仕様だった。

 普通の販売されている一番安いやつは触れてさえいれば数人まとめて転移させられるのに。

 公開されている術式は最初期のもので、当然そこに便利な機能や拡張が組み込まれて市販品は出来ているから、お手製ではよほどそういうのが長けている者が作らない限り市販品より劣るのは仕方ない。

「いえ、発表は第一階層で行います。シアンレード領で場所を貸して貰えるのと、もしご気分を害したら申し訳ないのですが、私達の発表は人間も観られるようになっているので……」

「ああ、それは大丈夫だよ。でもそうか……第一階層なら一月かければ」

「そうね。馬車の手配をお願いしてみんなで行くのもありね。発表っていつくらいなのかしら? 手配が間に合うと良いけど」

 この言い方……あれか。

「えっと、門間馬車(ゲートウェイ)でお越しになる感じですか?」

 門間馬車。これは階層と階層を繋ぐ路を往く馬車で、魔獣に引かせた馬車で一月くらいかけて移動するものだ。

 馬とは限らないから本来は獣車(じゅうしゃ)と呼ぶべきだろうか。

 普通に考えれば自前で移動した方が早い。

 が、しかし。門間についてはそれが()()()()()()()

 そもそも、階層と階層を繋ぐ門というものが存在している事それ自体が、ある意味で意味がわからない。

 どうして、どうやって、いつから、何のために、そんなものがあるのか。

 そんな意味不明なものとものの間、二つを繋ぐ路は基本一本道だ。そこまでは色々疑問は無視して良いとしよう。

 だが。

 何故、個人によって踏破に掛かる時間が異なるのか。

 これが本気で意味わからん。

 同じ路だぞ? なんでそんな差が出る。

 固まって動いている間は同じ進み具合だが、離れれば途端に個人で進捗が異なる。

 大学部の方では解明しようという者もいるらしいが、未だに成果は上がっていない。

「ええ。門間馬車なら家族で観に行けますから」

「家族旅行もたまには良いわね」

「……その間、お仕事などは」

 往復だけで二ヶ月。馬車に乗ってるだけとは言え移動だけで二ヶ月だぞ?

「元々、ほぼ自給自足な暮らしですからそこは何とでも」

「それ、失礼で申し訳ないですが、税とかどうやって……」

 領地に住む領民は納税義務がある。

 領地によって税率や納めなくてはいけない税の額は異なるのだが……ぶっちゃけ第二階層はわりと重いと聞いてる。

「ああ。私達は山のこの辺の管理を請け負っているのと、徴兵があれば応じる形で支払っているから」

 なる、ほど。聞いてる以上にブラック。

 一見、労働で支払っているので優しく見えるが、それ上限とか無いよね?

 回数とか、合計時間とかじゃなく、無条件に年がら年中いつでも都合良く使われても文句言えないし、現金報酬なしだからいつまで経っても自給自足から抜け出せない、抜け出せないからそのまま同じ条件でタダ働きし続けるしかない……わお。

 やっば。無理。

 一番ヤバいのはこの仕組みにこの人達が危機感持ってなさそうな所か……。もしくは諦めてるのか。

 うっわ、面倒くさ……。けど、なぁ。

 とりあえず顔には当たり障りのない笑みを浮かべて話に相槌うちつつ、さてどうしたもんか。

 だってルネはユニが欲しいって言ってる。

 このグループに入れると言ってる。

 つまり、ユニを定着させるのはマスト条件なんだよ。

 最悪は代わりになる人材を捕まえなきゃいけない。

 代わりって軽く言うみたいだけど、本当に簡単ならとっくに入れてる。

 それが出来なくてやっとユニを見つけて入れたわけで……。

 能力として申し分なくても、ルネが無しって判断したらそれまでだしな。

 つまり、だ。

 これはどうにかしなきゃいけない懸案事項と。

 メンバーの管理、メンバーが最大限のポテンシャルを発揮できる環境を作るのも、俺の役割。

「ママー! ルネおねえちゃんのお歌観に行けるの⁉」

「お父さん、行ける⁉」

 話早いなどうなってる⁉

 ユニの弟妹が遊びでテンションMAX状態で家に入ってくる。その後ろから両手で顔を覆うユニ、満足げなルネという構図。

 うん。ルネしかいないな犯人。

「そうだな、観に行けそうなら行こうか」

「そうね。日程教えてもらえるかしら?」

「あ。はい。えーと……ちょっと確認してから改めてご連絡しますね」

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