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16.二人に一人がちょっとアレ



「だってヴィルカシス君だけじゃないかも知れないでしょ?」

「え」

 ルネの言葉にユニがカシス何某を見てから俺を見る。

「……まあ、それもそうだが! まず口に出す前に俺に相談しろ」

「はーい」

 いつもこいつは返事だけは……。

「でも、とりあえずはそういうことでぇ」

 ニコッとルネがカシス何某に会心の一撃たる笑顔を向ける。ああ、仕事が増えた。

「今度のライブ、一緒に出ようね」

「っ! ぁあい!」

 ユニ、お前も死んだ怪魚の目になってるぞ。アイドルとして顔作っとけ。

 嗚呼これフェルグスに話通さなきゃいけない案件だよな? うわぁ……めんどくさ…………。

 このストレスで俺がハゲたら絶対治療費請求してやる。絶対だ。

「……一曲はオリジナル曲にするとして、他はどうする気だ?」

「んー……。ねぇ、ヴィルカシス君?」

「はいっっっっ!」

「ボク達の曲、どれくらいダンス含めて完コピ出来る?」

「発表済は全部でっすっっっ!」

 こっわ。いや、怖い怖い! 鳥肌立った!

「わぁ! すごーい! そうだよね。だって全通してくれてるし」

「しっ……!? し、しし、知っ、て!?」

「うん。だっていつもライブ先行抽選に申し込んでくれてるし、すっごくライト振ってくれるし、グッズも全種類買ってくれてる履歴あったし、何よりいつもお手紙とお花くれてるでしょ?」

 え。ナニソレ。そしてルネ、お前も何でそこまで知ってる? 俺、今どっちにも怖いって気持ちなんたけど。

 あ。カシス何某が尊死って顔で倒れた。めっちゃキモくて笑顔で怖いわ。

 ルネのファンて二人に一人がちょっとアレだなって思ってたけど本当に半分か? 実は表に出すか否かの違いだけで全員コレだったらどうしよう。怖過ぎるんだが。

 双子のファンは最前列に来る奴らが異常過ぎる性癖なだけで恐らく半……三分の一は適度な普通のファンのはず。俺のファンになってくれてる子? 九割健全だよ。残り一割は実害無いから問題ない。

 ユニ……真っ白になって震えてるけど、振る舞い一つで自分にこんなファンが出来て寄ってくる可能性考えたほうが良いぞ。後で教えておこう。ユニのファンになってくれるのはどんな子達だろうな?

 いくら怖くてもファンからは逃げられないから結構重要だぞ。

「ヴィルカシス君は全部完コピしてるなら、ユニのパートが加わる曲を同じく練習してもらえば良いよね」

「まあそうだけど……身長、わりと差があるぞ?」

 ユニはルネと体格や身長が同じくらいだが、カシス何某は細身ではありつつ身長がある。

 見た目的なバランスから違ってくるだろう。

「そこは色々調整だねー」

「おい、それ俺に丸投げってコトだろ」

「レフ、ファイト!」

「あー……もう、本当に過労死させる気か」

 酷くないか? 俺、わりと馬車馬のように働いてるんだが。

「そういえば」

「ん?」

「レフっていつ寝てるの?」

 こいつ、一度殺して良いかな……?

「あ」

「どうしたの?」

 忘れてた。

 カシス何某である意味思い出した。

「ユニ、ファンの名称と意味覚えて。あとそれを踏まえてファンサ考えておくの宿題な」

「は? ファンサ?」

「そういえば、そこ言ってないね」

 俺達のファンは伴侶星(パートナー)と呼んでいる。だから呼び掛けはファンを自分のパートナーだと思って呼びかけるし、アイドルである間はファンが俺達の恋人であり伴侶。

 ファンからの応援やファンサのリクエストは伴侶からのそれ。であるならば、その返しは?

 ちな、ルネはウィンクして片手の人差し指で投げキッスしたりしてる。

双子はそれぞれ視線を投げて軽く手を振ってたり。俺はまあ、笑顔でなるべく一人一人に手を振りつつかな。

「そんなの、聞いてない!」

「今言ったからねー」

 頑張れユニ。最初は物凄く恥ずかしいだろうけど。

「まあ、そもそもユニはデビューだからまだ固定ファンもついてないだろうから、挨拶だけ考えておけば何とかなるだろ」

 参入の挨拶プラスで、自分に投票してって言う羽目になってるのはご愁傷さまとしか言いようがない。

 さて、投票システムも構築が必要だし……あ、本当に過労死するかも?

 ユニの阿鼻叫喚とかをBGMにそんな事を考えて方々に掛け合って数日。



「――そんな訳で頼むよフェルグス」

「しゃあないのぅ……これは貸しじゃけん、よう覚えときや」

「ありがとう。助かる」

「じゃけぇ、大学部の先輩方の方が話早いんじゃなかと?」

「それが……諸先輩方、ちょっとコミュニケーションはそこまで得意ではないみたいなんだよな」

 つまり、コミュ障。

 まあコミュニケーション力あればあの研究室が予算ジリ貧にはならないのでさもありなん。

 フェルグスもなんとなく察したのか軽く肩を竦めてこの話は終わった。

「ま。ロバートは丁度手ぇ空いとるらしいけん、報酬はずみゃあ受けるじゃろ」

「勿論、フェルグスへも別途紹介料とカシス何某分のアレンジ費用も色つけておく」

「その言葉忘れずに実行せいよ?」

「わかってる」

 ひとまず死なずに済んだ。

 自分の手に余るものはさっさと適材適所に割り振るに限るよなホント。




 一つの面倒事が片付いたと思ったら、何で次のが出るんだ? なに、ベルトコンベア式で面倒事って順番待ちしてんの?

 さてこれから本気で仕上げる為に頑張るか! と思った矢先、練習室で床に倒れたユニを見下ろしていたら、

「失礼します。『ムーントリック』の練習はこちらで合っておりますか?」

 軽いノックと共に顔を出した小柄な女性。

「あ。ミウお姉さん! 久しぶりー!」

「いつもうちのお子様方がご迷惑をお掛けしております、レーティフィバリス様。ご無沙汰しております。エルリュネット様、ヴィリジアス様、ヴァンレーダル様。……あの、そちらの方、大丈夫ですか?」

 ミウさん。うちの母とも親交のある方で、シアンレード領の騎士団にお勤めしている女性だ。見た目は少女にしか見えないけど、母と同じくらいの……。

 頬あたりからウェーブの掛かった短めな緑の髪と瞳、額には薄紅色の貴石がある。シアンレード領騎士団の黒を基調とした制服にスカート、黒いニーハイとブーツという出で立ちから業務中らしい。

「大丈夫ですよ。最近は数秒で起き上がれるようになってますし。所でどうしたんですか?」

「起き上がる秒数の問題じゃ……いえ、何でもありません。少々、次開催のライブに関して発生しましたのでご連絡に」

「え。何ですか」

 イヤな、予感が、する。

 ミウさんの表情も心なしか暗い。

「ライブ開催日時の間に占い警報が発令されました」

 占い警報発令……え。マジ?

「あー……じゃあ、対策必要だねぇ、レフ?」

「ウソだろぉぉぉお!?」

 思わず崩れ落ちた。両手と両膝がめでたく床と熱い再会を果たしてるよ! マジか。

「残念ながら、本当です。現実です」

「うーん。開催はずらせないよね?」

 無理だ。全部そこ目掛けて動いてるし、動かせる期間は過ぎてる。特に前倒しは無理だし、何より……。

「こっちが動かせても、チケットは完売。それは払い戻しも出来るけど、金の問題じゃない。チケット取ったファンは『わざわざその日に予定を空けてる』んだ」

 ずらせば『その日』だから行けた取れたのに、が発生する。それは前倒しも後ろ倒しでも変わらない。何より楽しみにしてくれているその心を悲しませる事になる。

「いや、でも、日時決める時に占いやってもらった時はそんなの出て無かったですよね?」

 ミウさんにそう尋ねると、肯定が返ってくる。

「はい。ですが、あくまでその時点ですから……。それに、異界の事は見通し難いですし」

「それはそうですけどね……」

「あのー、占い警報ってなんですか?」

 床から何とか身体を剥がして起き上がったユニが聞いてきた。そうか。第二階層出身だから馴染がない。

「占い警報ってのは、まあそのままの意味で占いによって出される警報なんだけど、俺達の場合は主に『異界からの侵略』を意味する警報が発令されたって取る。間違って無いよね? ミウさん」

「はい。ちなみに今回の規模は一応、小隊らしいです。魔術は無しですが、銃器はあるだろうと。もし魔術があっても私達で言うなら手品程度ですね」

「なるほど。脅威度は低いんですね」

 そこは助かった。けど、油断してると死傷者出しかねないから気を引き締めよう。

「第一階層は他の階層よりも格段に異界との穴が空きやすいし、他から迷い込んでくる率が高い。故意に繋げようとすると繋がりやすいのも、第一階層なんだ」

 で。今回みたいに異界からの侵略なんかは占いを生業にする一族から警報として届く。

 勿論、俺達だけじゃなく真っ先に領主に届いてそこから各所へ。

 ただ今回は俺達のライブスケジュールがかち合ったからミウさんが個別で知らせてくれたわけだ。なんたって俺達一応、領主令息(ユニ以外)だしな。

 あと、占いって言ってるけどほぼ予言に近い精度なのは添えておこう。

 天気予報より精度高い。

「じゃあ、各所と公式サイトにお知らせだそっか」

「そうだな。返金とかには即対応で」

 ライブはやる。が、来るかどうかは個人の自由。危ないかも知れないという事は周知しつつ、それでも来たいと思ってくれるファンが一人でもいるなら、俺達はやる。

「え。危ないんですよね? 開催するの?」

「うん。危ないって言っても、危険度高くないし。それに……」

「今までもあったけど、結局、誰一人、返金対応に申し込んで来ないんだよなぁ……」

 なんでだ。

 むしろ何か倍率上がるんだよな。この手の告知すると。

 そんなファン心理は俺達にもうかがい知れない何か深淵があるわけだが。

 ユニがドン引きする顔も見慣れた光景になって来たな……。仕方ないだろ。本当にそうなんだから。





     ☆☆☆☆☆



 ミラーリ。正式名称は『ミラーリングマナリアクターフォン』

 これは魔力を動力源にして動作する簡単に言うと魔道具というものだ。

 大体は薄い人間の大人の片手のひらサイズで、黒い黒曜石のディスプレイと本体が合わさって出来ている。それを大きくした、異界で言うならTVやPC等も存在している。異界のそれと違うのは動力源と、他にも出来る事が多岐に渡るというだけで、利用者の楽しみ方は基本変わらない。

 そして、変わらないからこそ、こんな会話もある。



【ムーントリック・ファンクラブ 総合Part.xxxxx】

※総合スレでは冷静に会話しましょう

※誹謗中傷はやめましょう

※悪質と判断した場合はアカウントの停止などの措置を取る可能性があります


[双子LOVE]

てか、公式みた!????


[月の奴隷]

みたー!やっば、一次外れて凹んでたけど、絶対取る!チケットゲットしたるー!


[緑のクマサン]

チケット勝者のワイ、高見の見物


[(^o^)]

煽りやめい。可哀想やろ(チケット団扇で悠々)


[双子LOVE]

いやいや、団扇とかありえんし


[モツ屋]

警邏隊さんコイツです


[(^o^)]

あり得る!あり得るんだよ!

今から全部の申し込みが当選するの!!!!


[緑のクマサン]

幻覚みとるやん。ヤバいってww


[双子LOVE]

なんだ。妄想かビックリしたわ


[双子LOVE]

てか、エグい。あの発表なに

チケット申し込みのサイトすら今、繋がらん


[緑のクマサン]

いやさー、チケットキャンセルするならはなから申し込まんでしょ


[まにゅまにゅ]

いやいやいや、みなさん?

そこじゃないよ??

あっちの方が問題でしょ?

ニュービーよ?

しかも、伯爵wwwwwwwwww

なにあのヒトしれっとww


[月の奴隷]

うらやまうらめしい……


[モツ屋]

いやー……前からヤバいと思ってたけど、予想よりヤバかったね。あのひと。


[密リン]

全体的にビジュ以外ヤバかったもんね


[トモモ@伯爵呪う]

呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる


[双子LOVE]

やめろww

怖い怖い!


[トモモ@伯爵呪う]

あの裏切り者に天誅を!禿げろ!我らの姫に何近寄ってんだ!!!!


[緑のクマサン]

いや、あんまり荒ぶると蹴り出されるよ?

ルネ様板行けよ同士いるだろ


[ひょこヒヨコ]

くままんはどっちに入れる?


[トモモ@伯爵呪う]

ぜっっっっっっっっっっったあ、伯爵にいれないで!!!!!入れたら呪う!!!!!


[緑のクマサン]

ヒヨ、そこは答える訳無いでしょ特にこの場で


あと発狂して脅すな。通報すんよ?


[月の奴隷]

ビジュアルは新しい人、わりと好み


[モツ屋]

絶対ケル様の胃にダメージ入ってるよww

今度の差し入れも胃薬にしとくわ


[双子LOVE]

ケル様ファンの差し入れ揃いも揃って胃薬なの毎回なんでw


[モツ屋]

みりゃわかるやん。あのメンバーよ?

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