13.そこまで⁉
「双方の立つフィールドを同じに、かつ段差無く同じ位置に立たせる。段差を無くすのがハンデだったり決闘方法だったりな」
「公の機関が条件の確認や締結、審判を担うから出た結果には双方文句は言わせない」
「うちの領地は人間が多いから。人間が魔族に、特に他階層の貴族に何かされたらこれを使わないといけなくなる場合がある」
あー。そういや、最近は……ここ数百年は人間VS魔族では使用されてないけど、昔は何回かあったらしいな。お隣の領地で。
うちは水棲の種族が主で、そもそも領地に人間ほぼ住んでないから人間と魔族の諍いで使用された事ないけど。
「人間同士でも使うけどね」
「大切な人を殺された遺族が、それでも裁判で命は取られなかったりすると申し込んでる事もある」
「え」
まあ合法的に自らの手で復讐する機会にもなるからな。決闘以外にもきちんとした法律はあるから、当然殺人とかしたら捕まって裁かれる。それでも時には納得がいかない結果が出るのは仕方ない。
そんな時に決闘法が使われる事は珍しくないんだ。
ちなみに殺人が法に触れるのは、基本的に領民は領地に属し、領地は領主の所有だから。領民も領主のもの。外部の奴が手を出すのは勿論、同じ領地の領民同士であろうと、互いに領主のモノである事は変わらない。他人の所有物に損害出しちゃダメだからな。そもそも他人の命は他人のモノだ。
領主だけは領民をどうこうする権利を有してるけど……無体を働けばそりゃどうなるかは言わずもがな。領民が領主を領主たらしめているわけで、その支持が無くなれば領主は挿げ替えられる。
そしてどうこうする権利と同時に、領主には領民と領地を保護する義務がある。権利だけを行使することは許されない。世の中、絶妙なバランスで成り立っているのだ。
「ここまでが決闘法の存在意義。で、これがどうしてユニに関係あるかだけど、双子が言ったようにユニの所属する領地では常識として浸透してるし、さっきみたいに一方的にボコられるのを避ける、うちのグループの評価を守るためにも絡まれたら公的審判に掛けられる決闘法を行使する必要があるからだよ」
「申し込む側は何で決闘するかを決められるから」
「ユニ的に平和に解決したいなら最適でしょ」
俺の後に双子も続けて同意する。
ぶっちゃけこの決闘法なら弁論対決とかも可能だからな。口だけで解決出来る可能性だってある。
確か過去に結構くだらない決闘方法やった事例が……いいや、くだらない事例は急いで無いし放っておこう。
「なる、ほど……」
「移籍したばかりでまだわからない事もあるだろうから大変だけど、第一階層の領地は基本的にわりと人間寄りの法があるから少しずつ覚えて活用するのが良いと思うよ」
と。非常事態で時間ロスしたな。
「さて、練習に戻るぞ。ルネも待ってるだろうし」
おい、双子いつの間にいない?
音もなく廊下走って行かなかったか? 廊下は走るな!
「……ユニ、行こうか」
「あ。はい」
「敬語禁止」
「うっ」
「次やったら敬語の禁止を賭けて決闘申し込もうか?」
「そこまで⁉」
そこまでしないとやめないなら仕方ないよね?
そこまでさせないで欲しいなぁ。
「ユニ、明日は伯父様が衣装持ってきてくれるから、楽しみにしててね!」
「は?」
レッスン後。今日も今日とて床に汗の水溜り作って死にそうなユニに笑顔のルネがそう言った。
あー……そう、だな。衣装。ユニの衣装な。あの人来るのか……。
うちのグループの衣装はルネの伯父上作である。
いや、ルネの伯父上が嫌な人って訳では無い。訳では無いのだが、俺はちょっと苦手。主にルネ達に絡んでる時のテンションが。それ以外はまあまともなんだけどなぁ……。
「あ。そうか。て事は宣材写真の撮影手配とか装身具の手配も確認しないといけないか」
装身具は衣装が出来てからだからまだ発注してないし。今掛けてるのはインカムマイクとグッズの発注だけだな。
うーん……そろそろ俺の手にもあまるくらいになってきたかも。表から抜けるか、裏を誰かに任せるかしないとキャパ超えるなぁ。
キャパ超える前に対処するのが仕事の基本。わりと優先度高めに進めとかないと。
表から抜けるのは……。
「どうしたのー? レフ」
ダメだな。ルネが絶対反対する。ルネが反対したら芋づる式に双子も反対するだろ。無理。
「なんでも無い」
「?」
だとするとやっぱマネージャーを探すべきだよなぁ。どっかに良いの落ちてるか転がってるかしてないかな。
俺もルネがユニ拾ってきたみたいに掘出し物探すか……。
「レフ、レフ」
「ん?」
「はい。あーん」
思わず口開いちまった。
コロンと舌の上にちょい大きめのツルッとしたものが。舌の体温で溶け出すそれは甘い。
が。
「ひっ⁉」
ユニがドン引きして後退ったぞ⁉ 何これ⁉ 飴だと思ってるんだが⁉
慌てて鏡張りの壁へ目を向けたら……俺の口の中に青い『目が在った』んだが。
「あ。レフのは青……探しもの、転がってくる、だって!」
コレあれだ。飴なのは間違いない。
占い目玉飴。やたらリアルな作りだからユニもびっくりするか。納得。
「ユニにも」
「い、いらない! いらないです!」
「美味しいよ?」
原因がわかったので俺は口を閉じて飴を転がす。
最初はただの白い玉だけど、口に入れるとその人の魔力とかバイオリズムによって虹彩が出てくるんだよ。その虹彩の色によって占う。いわゆる駄菓子。
「ユニは見たこと無い? 占い目玉飴」
「な、ない」
コロコロと口内で飴を転がす。甘さがしみる〜。
駄菓子と呼ばれる菓子だけを集めて売っている駄菓子屋と呼ばれる店舗では、この飴が大きな瓶に詰められて売られているんだが……。ああ、でも第二階層じゃ駄菓子屋が無いか。物価おかしいし、あそこ。ユニ住んでたの山の中だし。今度、皆で駄菓子屋行くか。
「じゃあ、ユニにはコレ!」
「ひぇっ、今度は何ですか……?」
そう言いつつも律儀にルネが差し出した、三角錐の形に葉っぱみたいな緑の持ち手がついてる手のひらサイズの菓子を受け取るユニ。そして俺は耳を塞ごう。
「その緑の部分を引っ張って出してね」
「こう、で――」
『きぃぃぃゃゃやぁぁぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁあああああ! 雪』
うん。耳塞いでいて正解。
マンドレイクチョコなんて防犯ブザー代わりの代物を出すんじゃない。ちなみに叫び方で超大吉から虚無までを占える。最後に呟かれるのはラッキーアイテムだ。
「わぁ。ユニ、末吉だって!」
「…………」
引き抜いた格好のままユニが固まってるな。可哀想に。
「ルネ」
「なぁに?」
「今日持ってきてるおやつ全部見せろ」
思った通り全部駄菓子。
「持ってき過ぎ。あと駄菓子ばっかこんな食べるな。買い過ぎ」
「えー。だってコレとかアレとか新作だよ? 一度は食べないと。あっちのはリニューアルだし!」
「いくらお前が食べたそばから魔力に持ってかれる体質でも太るかも知れないだろ⁉ 肌とか荒れたらどうすんだ」
「太らないし、荒れないもん。うちの領の錬金術師たち優秀だし!」
「知ってるけど流石に想定外の量だよ彼らも!」
自制出来ないなら没収すんぞ!
「それに全部食べるんじゃなく、ユニに分けたげようと思って持って来たんだよ」
そう言いながらテキパキと可愛いラッピングをした小袋三つを固まってるユニの膝にそっと置く。お供えものかな?
あー……疲れた。まあ今日はもう帰るか。明日の俺、任せた。
「ユニ、おーい、ユニ」
昨日の俺に任された今日の俺。今は絶賛、白くなって燃え尽きたユニの眼前に手を出して振っている。
放課後にうちの衣装を作ってくれてるルネの伯父上が来て、衣装合わせをしていった。ちなみに終わった今はルネと双子が親戚水入らずという名の接待をしている。
「終わったぞー。もう終わったから帰ってこーい」
「……っは!」
悪夢から覚めたようにユニが覚醒した。
衣装合わせとはいえ、グッズ用の撮影も一緒にやったからなぁ。疲れたんだろう。
しかし流石にあちらは手慣れているな。衣装量から考えると凄い短時間で終わった。
「ちょっと帰りに大学部に寄ってユニの衣装預ける所があるから、衣装持ってついて来て」
学園の大学部とはいえ、それなりに離れた距離に敷地があるので陣を使う。
学園の玄関である大広間に隣接した部屋にある陣がそれ。部同士を繋ぐ陣に乗り、瞬き一つの間で大学部に到着した。
目指すのは研究棟と呼ばれる校舎の端にある場所。大学部は初等、中等、高等のどれよりも広大な敷地と規模が桁違いの校舎を持っている。
本校舎自体が無駄に広いうえ、構造も複雑なので同じ敷地内にもかかわらず要所要所で陣を設置した部屋が存在するくらいだ。
他世界の例にするなら、電車とかがある世界で、校舎内にその電車と停車駅がある感じとかになるかな。
陣を乗り継ぎ、お目当ての棟、お目当ての階にあるある研究室の前に到着した。
軽くノックしてから白い塗装された金属扉の銀色のノブを回して開く。
「諸先輩方、お疲れさ」
「だ〜か〜ら〜! 変身ベルトとかナンセンス! 時代はさり気なく実用性も抜群の変身アクセサリとかに決まっておろう!」
「はぁ〜っ? 頭わいてるの貴様! このベルトの機能美がわからないと? ついに老眼拗らせたか?」
「老眼はお前だろこの脳筋戦隊オタク!」
「だれが脳筋だ! このエセインテリ風情のネクラ野郎!」
「はあぁぁぁぁ? お前に根暗いわれる筋合いはないぞ、この駄犬」
うん。ソッ閉じするよな。
んー? んんー? えーと……。
あはは。俺ったらうっかりさんだなぁ。
ノックはもっとしっかりしなきゃ駄目だよな。いやーうっかりうっかり。
と、いうわけで。
「おほん。すぅー……はぁ……」
しっかり拳を握り、
「お疲れ様でーす! 諸先輩方! お願いしたい事があり参りましたー! 開けますよー! 十数えて開けますよー? はーい、いーち、にい、さん…………なーな、はーち、きゅーう、じゅう! はい!」




