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11.蛍の光より弱々しく



「じゃあ正式に歌うっつーことだな?」

「そいうこと」

 昨日の電撃引っ越しから一夜明け、休み時間に俺はフェルグスと飲み物を買いに購買に来ている。

 うん。自販機の釣り銭口を確認してから買ってるフェルグスに何か微妙な気持ちになる通常運転。別にフェルグスってユニと違って全然困ってないはずなのに。種族柄しかたないのか。

「お。当たりじゃ」

「良かったな」

 軽快な音をさせて自販機の操作パネルがエフェクトを出す。もう一本貰えるのを選ぶフェルグスを横目に、透明樹脂の入れ物に入った冷たい紅茶のフタを開ける。

「それで、作ってもらった曲なんだけど、これキーとかは」

「あ? 原曲キーしか認めんが?」

 真顔で言うな。

「だよな。りょーかい」

 他の誰かが歌うならいざ知らず、フェルグスは作った対象が歌う時は完璧にそのまま原曲で歌う事を要求してくる。これは相手が俺でも同じ。

 自分の作った曲に絶対の自信と矜持を持っているからこそ、歌う側にも一切の妥協は許さない。

 他のグループから聞こえてくる噂では、良いものを作るが、曲に関してだけは気が狂ってるくらいの熱度だからおいそれと発注出来ない、と。わかりみ。納得しかないな。職人てどっか狂ってるの多いから普通とも言えるけど。

「で。いつから見に行ってイイんじゃ?」

「うーん。今日の放課後から作ってもらった曲を伝えて、レッスンに組み込む予定なんだけど」

「おし。今日から行くわ。楽しみじゃけぇのぅ」

 あ。ユニ大丈夫かな。ファイト。

 ヤバくなりそうだったら止めよう。

「ところでフェルグス」

「おん?」

「もらった曲、名前無かったけど」

「それなぁ、ちぃとばかし悩んどる」

「そなの? 珍し」

「幾つか候補はあるんじゃけどな。だから実際歌とぉるとこ見て決めたいんじゃ」

 ユニ用に書き下ろされた曲、今まで作ってもらってた俺達のと毛色違うからなあ。

「了解。今日は小ホール貸し切って練習してるから」

「おう。あんがとな」




「と、言うわけで。ユニが正式に加入した記念すべきレッスン。今日から歌の練習を入れます」

 歌詞つきの楽譜とダンス概要をプリントアウトした紙を配りつつ、モニターに実際踊ってもらった映像を流す。振り付けとデモダンスはプロに頼み、それをお手本としてイメージを描く。

 小ホールの舞台の上で円形になりミーティング中だ。

 フェルグスは客席で前の席の背もたれに抱きつくようにしてこちらを見ている。圧が凄い。主にそれユニに向いてるから、ユニは何か顔色悪いな。

 ストレッチなど準備運動は済んでいるし、早速始めよう。

「ユニ」

「は、はい」

「試しに歌ってもらうからよろしく」

「あの! ちょっと待っ」

「ちなみにあんまりな感じだと、フェルグスの特別強化レッスンに切り替わるからそのつもりでね」

 フェルグスの特別強化レッスンは俺達でもつらい。ちな全員一回はやられてる。一回でこりて次から死にものぐるいになる、とも言う。

 そして三時間後のユニがこちら。

「…………」

「もっと腹から声出さんかおどりゃあ!」

「……は、ぃ」

 舞台の上には今にも吐きそうな顔のユニとフェルグス(鬼講師モード)、そしてユニ以外の俺達メンバーは客席の一番後ろの列に立っている。

 手には音に反応して光る音量測定球を持って。

 今のところ、蛍の光より弱々しくしか光らない。

「フェルグスー。ユニあんまいじめちゃダメだよー?」

「いじめとらんわ!」

 ルネの一言に間髪を入れず返すフェルグス。相当イライラしてるな……。

「んー……。リジー、レー。これお願い」

 ルネが自分と俺の持っていた測定球を双子に預け、舞台へと近づいていく。

「?」

 スタスタと近寄って来るルネにユニが首を傾げた。

「えいっ!」

「っみゃあああああぁぁぁぁぁ⁉ なっ、にすんですか!」

 叫び声から間をおかず、寸前までルネのいた場所を斬って空振るユニの平手。

 何をしたか? 答え。ルネがユニの尻尾を掴んだ。

「あ。ほら、光ってるよ。やれば出来るじゃない、ユニ」

「〜〜っ」

 ブチッとユニの何かがキレる音が聞こえた気がする。

「ふっ……ざけるなあぁぁぁぁっ! いきなり尻尾掴んどいて何言ってる⁉ いい加減にしろ! いつもいつもいきなりワケわかんない事して! 貴族は何しても許されるとか思ってるなら大間違いだから!」

 おー……。光ってる光ってる。音量測定球、めっちゃ光ってる。

「なんじゃ。やっぱやりゃー出来るじゃねぇか」

「アンタも! この間はいきなり首締めてくるし何なんですか!」

「カリカリすんな。じゃかあしゃあ」

 フェルグス。いくらどうでも良いからってそんな耳ほじりながら対応しないで。うちのメンバーなんだから。

「しっかし、まあ、クックッ……いいじゃねーか。活きがこれだけええなら、この曲はぴったりじゃあ。さすが儂。さす儂。目に狂いはねかった」

 フェルグスが満足そうに片手で自身の顎をさすり、ドヤァな雰囲気で腕を組む。ルネといい、フェルグスといい、自信に満ち溢れていて羨ましい。

「レフ、儂ぁ帰るけん、後はようやれや」

「ああ。了解。もう気が済んだのか?」

「おう。曲のタイトルも決まったわ。あと少しアレンジ入れるが、ダンスと歌詞は変わらんから心配すなや」

 イライラから一転、ウキウキでフェルグスはホールから出て行った。

 さて、俺は未だに息の荒いユニとそれをケラケラ笑ってかわしてるルネの方をどうにかするか。





 ユニがルネとフェルグスにブチギレた件から数日。困ったことが起きている。

「「…………」」

 双子からの、無言の圧力に身を縮こませるユニ。

 ルネは所用で遅れてくると連絡のあった放課後現在。いや双子の目が怖いわ。

「ヴィリジアス、ヴァンレーダル。やめて差し上げろ。圧かけんな」

「レフには関係ない」

「レフは黙ってなよ」

 いやいやいや。関係なくない。やめろ。

「おい。俺はお前達の大好きなお兄様の幼なじみで友人だぞ。少しは敬え」

「兄様は大好きだけどそれとレフに何の関係が?」

「レフは兄様じゃないから関係ないよね?」

「真顔で言うな」

 何言ってんの? って顔されると腹立つ。

 双子の視線を遮るように間に立った。

「ほら、ダンスレッスンやるぞ。ユニも」

「う。……は、はい」

 双子とユニが距離を取ったのを見計らって、投影装置(プロジェクター)のスイッチを押す。

 鏡張りのレッスン室、眼前にテストダンスの映像が映し出される。

 俺もそんなに激しくないけど踊る必要があるからやらないとな。

「う、わ、うわ」

 あ。ユニ、ステップ間違った。正しく踏まないとバランス崩すんだよなー。それでも持ち堪えた所から体幹の良さが(うかが)えるが……。

「付け焼き刃」

「にわか」

 うん。この双子は見逃さないよな。まるで小姑。

「レフ、そこ間違ってる」

「何でズレるの」

 ち。見逃さなかったか。

 リズム感とかダンスに関しては双子がメンバーの中でダントツで上手い。完璧に踊りながらこっちも見る余裕がある。

「いつもサビの一拍前で軸足が不安定になるでしょ」

「他人気にしてる場合じゃないと思うけど」

 ザックザク言ってくるなぁ。いつもの事だけど。

 しかもこいつら兄以外への表情が基本、無なんだよ。少しは愛想つけろよ。

 うちのファンにも基本そこ変わらないからな。

 ……まあ、()()()ファンはそこが良いっていう集まりだから良いのかも知れないが。

 だって団扇に書かれてるのが『罵って』とか『ゴミを見る目』とか『冷笑して』なんだ。おかしいだろ。アイドルのファンだぞ? 推しに罵られたいってなに。

 若干双子も引いてるけどその反応にますます喜ぶファンていう構図だしわけわからん。

 それでも実際、双子のダンスは完璧だしアドバイスも言い方はともかく的確だから慣れるしかないんだけどな。

 そんなこんながあった翌日。

 何か放課後にユニを迎えに行ったら集団に連れてかれるとこを現在目撃したんだが。とりあえず様子見つつ尾行しよう。

 人気(ひとけ)のない空き教室に数名に囲まれて入って行こうとするユニ。

 ……仕方ない。止めるかぁ。

 本当は、自力でどうにかして連れ込まれる前に逃げて欲しいんだけど、今回は助けよう。

「何してるの」

「ユニの分際で兄様を待たせる気?」

「何だお前ら」

「一年じゃねーか。邪魔ださっさと退け」

 おっとー……? 双子乱入……。

 助けようと思ったけど見守り続行。事によっては双子の方を止める必要が出てきたなう。

 え。これ被害大きくなる確定演出? やっぱ俺が止めときゃ良かった。くそぅ。

 しかも双子、ユニしか見てない。他、ガン無視してるし。

「おい! 無視してるんじゃない!」

(しつけ)のなってないガキだな」

 あ。

「躾……?」

「それって、兄様を馬鹿にしてる?」

 ヤバいヤバいヤバい。あぁあ、何であの手合いって容赦なく地雷踏み抜くんだよ!

 既にカウントダウンするように何かが凍るような細かな音と慌てる声、小さい悲鳴が聞こえる。

 そこに不自然なほどハッキリ聞こえる、静かな双子の声。

「兄様だけじゃないんじゃない? 母様と父様も侮辱してるのと同じだと思う」

「ふぅん……」

「これは、もう――」


「「殺すしか」」


「ストーッッップ! 待て待て待て! ストップだストップ!」

 爆速で走り込んで間に入る。床、めっちゃ滑った。だって凍ってる。

「何やってるの、レフ」

「居たならレフが止めなよ」

「そうだな今度からはそうするよ! あと、今すぐその威圧引っ込めないとルネとルカさんに言うぞ!」

 途端、スン……と。双子から放たれていた威圧が消えて、凍っていた場所も人の一部(主に足)も元通りになる。

 告げ口カッコ悪い? 上等だ。俺は後々面倒事になるくらいならカッコ悪くて良い。

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