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1.拾って来たのは新メンバー

 この作品はカクヨム様に掲載したものを統合編集などしてアップしています。内容は同じものです。




 数多ある、観測者がいるのとは別の世界。

 これはその中の一つの世界の、一つの可能性のお話である。




 この世界は七つの階層に分かれていて、住まう者は他の世界で魔族と呼ばれることもあるらしい。

 俺達が通う学園、その四年制中等部があるのは第四層。

 尖塔を抱える城のような校舎、周囲には緑を絶やさぬ針葉樹が林となり取り囲み、校舎から正門までは幅広のタイル舗装された路が延びる。

 その道の先。正門に佇む人影。

「ルネ」

 まばゆいばかりのハーフアップツインテールな金髪に白い肌。猫のようにキュッと上がったまなじりが囲むのは、ザクロのように紅く、昇る暁の空のように煌めく赤い瞳に長い睫毛。背には処女雪のように白い翼が一対。

 オフホワイトを基調とした中等部のブレザーとシャツの間には黒いホルダーネックのカマーベスト。

 紺地に白と金のチェックが入ったキュロットスカート、白いニーハイと飴色のローファー。

 呼び掛けに応えて振り向くのは自分の幼なじみ。

「レフ。おそーい」

 高めの音だが、耳にキンと来ないのは大したもの。

 鈴が鳴るようなと言えば良いのか。

 待ってたんだよ? と無邪気な笑顔で言われれば大抵の男は落ちるだろう。

 しかし、だ。

「いや、日直押し付けて先に逃走したのお前だろ」

「テヘッ☆」

 これである。

 今日、俺とコイツは日直だった。

 しかし、逃げやがった。

「だってぇ、チョークとか触ったら粉とか飛んで制服汚れるかもだし」

「この制服じゃそもそも白いチョークの粉なんかついてもわかんねーだろ。てかそんな理由じゃないのは知ってんだよ」

「だよねー。面倒だっただけ」

「そういう所だ!」

 自由過ぎる。

 そんな幼なじみだから、大抵の事には耐性が出来てる自信が()()()



「今日からメンバーになる、ユニです。ヨロシク☆」

「ひっ!」

 幼なじみがやらかす大抵の事には耐性がある自信があった俺だけど、

「おい。どこからさらってきた!」

「ちょっとそこの体育館裏から!」

 人拐ひとさらいは流石に耐性ねーよ!

「元の所に返してこい!」

「やだ。ちゃんとお世話するから!」

「お前な! そうやって人をペット扱いすんのやめろよ!」

「ぺ、ペット!?」

 怯えたように拐われてきた生徒が後退あとずさる。

 逃げろ逃げろ。今のうちに。

「だーめ」

「ひうっ!?」

 しかしそうは問屋がおろさない。

 幼なじみがスルッと両手で後退った生徒を横から肩の辺りで抱き締める。

「せっかく拾ってきたんだもん。それに、こーんなにボクと背丈が近くてステージで並んだ時にバランス良い子めったにいないし」

「あのなぁ……」

「それとも、レフがユニの代わりにステージ上がる? ボクはそれでもかまわないよ?」

「よし。君、悪いけどヨロシク」

「待って!?」

 悲鳴が上がるが幼なじみは言い出したら聞かない。可哀想だがなすがままに身を任せてもらうしかないだろう。

 俺はそっと二人から視線を外す。

 すると部室兼楽屋として利用している部屋の壁に掛かった大きめ楕円だえんの鏡に映る疲れた顔の自分と眼が合った。

 父譲りの淡い銀を帯びた波打ち際の水泡のような色の髪とそれよりは水色が濃く出た眼。母譲りの側頭部から生えた一対の灰色の角。

 ちょっと疲れが出たのか、肌がいつもより白く見える。

 この学校、制服は一応デフォルトがあるが、アレンジも自由なので……と言うか種族によって適す適さないがあるので、わりとあってなきようなもの。

 ようは生徒手帳という名の小型端末タブレットさえ所持していれば良い。

 閑話休題。そんなわけで俺の着ているのは幼なじみに拐われてきた新メンバーと同じオフホワイトのブレザー、黒のカーディガンと薄い水色に格子模様のシャツ。

 ブレザーと同色のズボンと黒いローファーだ。

 新メンバーと紹介されたユニ君は、まず頭に生えた丸っこい獣耳が目を引く。

 雪のような白に黒いわっかみたいな模様。髪は長く腰まであるんじゃないか? ちなみに前髪も相当長い。前見えてるのか? いや生活できてるんだから見えてんだろうけど。

 部屋のすみっこまで待避してぷるぷる震えて散歩嫌がる犬状態になってる今だが、さっき幼なじみと並んでた感じでは身長そこまで高くない。幼なじみと一緒くらい。でも幼なじみより細く見えるから相当華奢だ。

 幼なじみだってどっちかと言えば華奢だからな。

「大丈夫大丈夫。一度やっちゃえば気持ちよくなるから」

「おい。言葉を選べ」

 部屋の角に追い詰めて囁く言葉ではない。

 何かいかがわしい。

「とりあえずお着替えしよー?」

「え。ひっ! や、やめっ」

「やめろバカ」

 咄嗟に俺は手近にあった鞄の平面で幼なじみの頭を沈めるように上からぶっ叩く。

「いったーい! レフ、暴力はんたーい!」

「じゃあさせるな。こんなことさせるお前が悪い」

 頭を両手で押さえて上目遣いでブーブー抗議してる所からして、そんなダメージ入ってない。

 まあ、一応加減したし。

 ちゃっかり「痛いぞーぷんぷん」なフリをキメられるくらい余裕という事だ。もう少し強めでも良いだろう。

 角はやめとくけど次回もうちょい強めにしよう。

父様とうさまが「いや」は「良いバッチこい」の意味だって言ってたもん」

「お前の家庭ではともかく、世間一般ではそのままの意味だヤメロ」

 もうこのバカは一旦放っておこうと思った。

「大丈夫か? えっと、ユニ……君」

 隅で丸い耳がペタッとなって、長細い尻尾が自身の身体を抱き締めるように巻き付いている被害者に声を掛けて、手を差し伸べる。

「は、はひ……はい」

 一瞬幼なじみのバカのせいで俺までビクッとされたが、被害者ユニは差し伸べた手を取ってくれた。

 相当怖かったのかヨロヨロしつつもユニが何とか立ち上がる。

 心細そうに揺れてはいるが、尻尾は巻き付きをやめていた。

「うちのバカが悪かったな。改めて。俺はレーティフィバリス。で、このバカがエルリュネット。俺もこのバカも長いから適当に呼びやすい感じにして良いから」

「もー! ボクはバカじゃないもん! レフのバカー!」

「何ならこれは『バカ』って呼んで良いぞ」

「良いわけないでしょ! レフの意地悪ー!」

 抗議するバカもといルネのド頭を掴んで押し留める。

「あ……え、と。ユリティニカ・パンス、です」

 おずおず頭を軽く下げるユニことユリティニカ。

 改めてその全身を見て、ルネが引きずり込んだのを納得した。

 丸い獣耳は何となく獅子とか豹を思わせる。黒いわっか模様があるし、豹の獣人かな。

 前髪も含めて長い髪はただ見ると手入れが荒くて白いだけだが、きっと丁寧にブラッシングすれば雪原みたいに白銀めいてくるだろう。

 顔立ちも悪くない。前髪が邪魔でハッキリしないが、輪郭はすっとしてるし、鼻梁びりょうは整っていそう。

 前髪から覗く瞳は空の色。

 華奢で身長はまだそこまで高いわけじゃないが、雰囲気と顔立ち総合してイケメンと呼べる。

 ルネが甘い可愛い元気な雰囲気なら、ユニは爽やかカッコいい静かな雰囲気で、狙ったような正反対だ。売れそう。

 あ。何気にマロ眉か。ギャップ。売れそう。

(手段はともかく、目は良いんだよな)

 目敏いと言うか。

 裏方業務を仕切る俺としても、メンバーに欲しい人材だ。

 と言うわけで。

「頑張ろうな」

「ひぇ!?」

 満面の笑顔でユニの両肩をガッシリ掴んだ。逃がさん。

「じゃ、早速口上考えよー!」

「はい!?」

「新顔は早く覚えてもらわなきゃ」

「確かに。イメージが一発でつく挨拶は大事だよな」

「こ、口上って挨拶の、こと?」

 ルネが楽屋に設えた長ソファの片側に腰掛け、俺はその隣に同じく座っている。両隣にはそれぞれ一人掛けのソファ。

 そして向かいに同じく長ソファ。

 今そこにはユニが心細そうな雰囲気で腰掛けて縮こまっていた。

「そう! みんながユニのこと一発で覚えるような、すっっっごいのにしようね!」

「ひえ……っいや、いえ、いえ! 待って下さい。そもそも、メンバー、やるなんて一言も」

「えー……。やらないの?」

「や、やらないです」

「ふーん? じゃ、またいじめられて過ごす?」

「そっ……れ、は」

「待て。何の話だ。聞いてないぞ」

 やるやらの話になったので聞き流していたが、何か不穏なワードがルネから聞こえてきたので止めてみる。

 パスタと似た感じの細い棒クッキーにチョコを掛けたスナック菓子をいつの間にかポリポリしつつ、ルネが口に入れたのと別の、新たな一本をパッケージから引き抜いて魔法の杖か指揮棒の如く振る。

「えー……言ったじゃない。体育館裏から拾ってきたって」

「それだけでわかるか!」

 なにそのお約束だから説明いらないよね感。要るよ。報告連絡相談(略してホウレンソウ)大事だろ!

「仕方ないなー。じゃ、説明するね」

「何さも俺がわからないのが原因みたいな雰囲気出してる。お前だろうが原因」

「もー。レフ細かいよー。カルシウム足りないんじゃない?」

「お前がおおざっぱ過ぎるんだよ!」

 疲れる。

 そんな問答をしていたら、部屋のドアが静かに開いた。

「兄様、お疲れ様です」

「兄様、何のお話しているのですか?」

「リジー、レー」

「兄以外のその他には挨拶なしか双子」

 顔を出したのは俺達より一学年下の少年二人。ルネの弟達だ。

 顔の造りはルネと違い二人とも父親似。肌の色も褐色で翼もない。

 ルネにリジーと呼ばれたのが『ヴィリジアス』で、月のように白い短髪に左右が赤と青のオッドアイ。

 レーと呼ばれたのが『ヴァンレーダル』でこちらはルネと同じ金の短髪、リジーと同じくオッドアイだ。

 双子だけあってよく似ている。正直、カラーリングが違って良かった。制服の着方も同じだから時々それでも間違えそうになる。

「レフ。いたの」

「兄様の光りが眩しくて気づかなかった。ごめんね」

「お前らの兄貴は発光物か? どっちも結局言ってること同じじゃねーか!」

「まあまあ。ボクが光り輝かんばかりに可愛いのは事実」

「ちょっと黙ってろ」

 チョコ菓子をルネの口に押し込めて黙らせる。食ってる間は静かだからな。

「こいつはともかく、一番上のお兄さんはいつも何て言ってる?」

「……」

「……」

 双子が互いに目を見合わせる。それからペコリと頭を軽く下げた。

「ごめんなさい。こんにちは、レフ」

「こんにちは」

「よし」

 ルネの上には一人お兄さんがいる。身体がよわ……と言うか心因性の胃痛持ちで、薬が手放せないが中身は至って普通で穏やかな人。

 そう。中身がまとも。

 双子はルネの方が歳が近くてちょっとだけルネが面倒みてた時間が多かったからか、一番ルネになついているが、ルネも昔はお兄さんにベッタリだったから、必然的にルネを見習うと一番上のお兄さんの言うことをきく。ほんと良心。

「ところで」

「それ、なに?」

 双子の目がソファで小さくなっているユニに向く。

「ひっ! あ。えと、あの」

 ユニよ。気持ちはわかるが「ひっ!」は我慢だ。

「ルネが拉致してきた新メンバーだ」

「人聞き悪いー。助けたって言ってよ」

 そうだ話が逸れてまだ聞けてなかったな。

「ここに来る途中で外を見たら、メンバーに良さげな子が体育館の裏で殴ったり蹴られたりしてるの見つけて、とりあえず拾ってきた。それがユニ。以上!」

 簡潔でわかりやすいな! けど待て。

「お前、ケガは?」

「するわけないじゃない。ボクのこの可愛い顔に傷でもついたら世界の損失だよ?」

 ん。聞いた俺がバカだった。問題なし。

「話戻すけどー、ユニもその記章からして二年でしょ? あと二年、耐えて過ごすつもり?」

 学園は初等部から大学部まであるが、初等部と中等部は四年制。

 見た目と実年齢が一致するとは限らない種族がわんさかいるし、いつどの課程から始めても良いから年齢での区分はしてない。

 現にルネの兄貴は現在高等部から通い始めた。

 俺とルネは初等部からで、ブラコン双子は中等部から。

「その、つもり、だけど……」

「ふぅん。じゃあ、せいぜい死なないように頑張って?」

 この世界、あらゆる意味で力があるものが正義。

 力がないものは何をされても、殺されても何ら不思議はない。

 勿論、逆に仇討ちも復讐もありだ。やれるのならば。

 つまり殺すなら殺される事も覚悟すれば良いだけ。

「そう毎回助けなんて入らないぞー。ルネも次は見てもスルーするだろうし」

「まあ、そうだよね。だってメンバーにならないなら、ボクが助ける必要ないし」

 加えて言うなら、ユニ自身が耐えるつもりって言っちゃったから余計。

 長く伸びて顔を隠す前髪の奥で、マロ眉をハの字にして泣きそうなユニの顔が見えたけど、こればっかりはどうしようもない。

「ほんとに耐えられるのー?」

「……だ、って」

 ルネの問いにユニの声がついに震え始める。

 お菓子をもしゃりながらルネは脚を組み、膝の上で拳を握るユニを眺めた。

 うーん。これ、何か俺らがいじめてるみたいじゃん。仕方ねーなー。

「とりあえず、お試し加入してみれば?」

「お試し……」

「ほら、そもそもついてこれないかも知れないし」

 ダンスや歌も、結構練習きつい。加入しても練習についてこれなきゃ、結局メンバーになれないんだから、やらないと同じになる。

「やれたらそれこそメンバーになって、あと二年を少なくとも今より快適に過ごせるよ? うちのメンバーになれば、暴力ふるわれることはまず無い」

 どころか、本当にメンバーって認められたらいじめようとした奴らがむしろ身の危険あるだろう。

 力は何も暴力だけじゃない。

 人気や魅力も力だ。

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