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【完結】私は彼女の生命線  作者: 天井 萌花


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第1話 大好き

 私には、とっても愛してやまない人がいる。

 別に恋人じゃない。家族でもない。ただの友達。

 だけど私は、彼女がどうしようもなく好きなのだ。


 彼女とは小学1年生からの付き合いだ。

 休み時間に絵を描いていた彼女がとても素敵に見えて、私が声をかけた。


 彼女は、絵を描くのが好きだった。

 私は絵を描く彼女が好きだった。

 そして、彼女が描いた絵が好きだった。


 絵を描くのが好きな彼女と、絵を描く彼女が好きな私。

 すぐに仲良くなった。ずっと一緒にいるようになった。


 私は毎日のように彼女の家に遊びに行って、彼女が絵を描く姿を眺めていた。

 肩あたりまで伸びた黒髪。色白の肌。

 少し色素の薄めの茶色い瞳。

 迷いなく走るペンを制御する、包帯の巻かれた腕。

 一生懸命で綺麗な彼女と、そんな彼女が描く同じく繊細で綺麗な絵が好きだった。


 彼女はいつも両腕に包帯を巻いていた。

 その包帯は、時折頭や脚に伝染した。

 頭や足の包帯は数日で取れるのに、腕の包帯だけは、365日、ずうっとついている。



 3年生の時。彼女が初めて、私のために絵を描いてくれていた日。

 私はすごく重い怪我なのかと尋ねた。

 私が聞くと彼女は絵を描く手を止めて、ペンを置き、顔をあげて、こちらを見た。

 きょとんとしたような、不思議がっているような顔で私を見た茶色い瞳は、次に腕に巻かれた包帯を見た。

 じっと包帯を見ていた彼女は、にこりと笑って、歪なピースのような変な形にした手でポーズをとった。


「これはね、右手には闇の力が、左手には光の力が封印されてるの。だから外せないの。」


 彼女の答えを聞いた私は、ぷっと吹き出した。

 嘘だと思った。厨二病じゃん。と笑った。

 すると彼女もポーズを解いて、本当だよ。と笑った。


 ひとしきり笑い終えると、彼女は再びペンを取った。

 私も笑うのをやめて、彼女のペン先をじっと見つめた。


 Gペン、というらしい先が剥き出しの金属になっているつけペン。

 力加減によって線の太さが変わるらしいが、彼女はその特性を使わない。

 細い線だけで絵を描いていた。


 サッサッと糸のような線が紙の上に舞い、それが何本も束になったり、1本だけで踊ったりして、綺麗な少女を作っていく。

 顔をあげた彼女はペンを置き、その紙を私に渡してきた。


「はい。どう?イメージ通りかな?」


 漫画原稿用の少し分厚い、丈夫そうな紙を受け取って、生まれたばかりの少女をじっと見つめる。

 繊細な細い線で描かれた、柔らかそうな長い髪。

 にこりと微笑んだ唇、ぱっちりとした大きな黒目がちな目。

 まさしく少女漫画の主人公、といった可愛らしい少女。


「うん、とってもイメージ通り!頭の中の里砂ちゃんまんまだよ。」


 私が答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「やった。じゃあこのまま描いちゃうね。」


 私が頷くと、彼女は新しい紙を取り出す。

 Gペンをシャーペンに持ち替えて、定規で線を引き始めた。

 彼女は漫画家だ。

 別に漫画家という職についているわけではない。ごく普通の小学生だったけど。

 彼女はこの日、私のためだけの漫画家になった。


 そして私は、彼女だけの原作者になった。

 私は妄想が好きな夢見がちな少女で、頭の中に、違う世界を持っていた。

 私は彼女に、その世界の話をする。

 その世界に住んでいる、可愛い子達の話をする。


 すると彼女はペンを取って、その子を紙に起こしてくれる。

 そして、その世界で起こったその子の物語を漫画にしてくれる。


 そういう約束だった。

 彼女は私が休み時間に話した、別の世界の話が気に入ったらしかった。

 続きを聞かせてほしいと言った。

 面白い話を聞かせてもらうお礼に、その話を漫画にしてあげようと言った。

 思い立ったら即行動の彼女は、早速帰りに文房具屋さんに寄って、少ないお小遣いを出し合って漫画の原稿用紙を買った。


 私は紙に描かれた可愛い女の子――“里砂ちゃん”をじっと見つめる。

 この子は私の子。私が考えた、とっても素敵な、憧れの女の子。

 里砂ちゃんはとっても可愛くて、魔法が使えて、好きな人のために一生懸命になれる、とっても優しい自慢の子。


 ずっと前から私の頭の中に生きていた里砂ちゃんが今、目の前にいた。

 私が大好きな彼女の絵で、私が大好きな里砂ちゃんが描かれていた。


 里砂ちゃんのことは一旦置いておいて、彼女の方に視線を戻す。

 定規でコマ割りを終えた彼女は、シャーペンで下書きをしていた。

 私はGペンで本番描きをする彼女が1番好きだが、下書きをする彼女を見るのも勿論好きだった。


 シャーペンで描かれた薄い丸が、だんだん人の形になっていく。

 顔のない、誰かわからない人の形が、だんだん里砂ちゃんになっていく。

 その過程を見るのは、楽しそうに手を動かす彼女を見るのは、とっても楽しかった。


 彼女はその漫画を、里砂ちゃんの始まりの物語を、1週間ほどかけて完成させた。

 12ページの、彼女が生まれて初めて描いた漫画。

 大人の目で見ると、決して上手くない、何も知らない初心者が見様見真似で描いた、めちゃくちゃな漫画だった。

 けれど当時の私にはとても上手で、どんな漫画よりも素敵な漫画に見えた。


 私はその漫画を初めて読んだ時の気持ちを、今でもはっきりと思い出せる。

 私が考えた物語だ。先の展開はわかっているはずなのに、とてもワクワクする。

 綺麗な絵で描かれた可愛い里砂ちゃんへのときめき。

 これは私と彼女の合作なのだ。私と彼女が作り上げた、世界最高の物語を読んでいるのだという、どうしようもないくらいの胸の高鳴り。

 その漫画は、気持ちごと全部、今でも私の宝物だ。

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