第三章:いよいよ異世界生活っぽくなってきた……
一難去ってまた一難というが、それは本当だ。
身の危機どころか、危うく命を落としかけそうになった。原理は不明だが少女に触れられたことで内側からの力が湧き上がるような、はたまた流れてくる感覚は今でも覚えている。
その時はどうとも思わなかったが、振り返ってみれば不思議な現象だ。
お陰で今、こうして逃げ果せて生きている。
途中でみかけた獣、左前腕が異様に発達したクマと思しき存在。何かに引きつけられるように血走った、狂っているような片鱗があったと思う。
でなければすれ違う獲物に見過ごすような、甘い相手ではない。
他の獣達とは別格で、まるでこの雪原の主とでも言い表せるような存在だ。
出来ることなら、一生関わらずにいたい。
特に今は、分が悪すぎる。
「ねぇねぇワンちゃん」
隣を歩く少女――リルをどこかにある町へと無事に届けてあげないといけない。このまま行動を共にし続けては身の危険を何度も経験、果てには命を落とす可能性だってある。
そうならない為にも、このリルを親元に届けてあげるべきだ。
(どうしたの?)
「グルゥ」
急にリルが立ち止まるで、どうかしたのかと振り返る。
「歩き疲れた!」
(……そう)
「グルゥ~」
困ったように喉を鳴らすも、リルにそれが伝わるわけもなく。
リルはムスッとした表情を浮かべて、スカートの裾にシワを気にした様子もなく両手を強く握り締める。
これで何度目となる、休憩をリルが求めてきた。
(この調子でいいのかな……)
短く息を吐きながら、リルに寄り添うようにして座り込む。
「むふふぅ~モフモフだぁ~」
そうするとダイブしてくるリルは、小さな身体を鈍い銀色の毛皮に埋めるように抱き着いてくる。さらには頬擦りまでしてくるので、相当に歩き疲れていた事を如実に物語っていた。
感情表現が豊かで、素直な気持ちを言葉として発してくる。
それは無意識か、本能的にも全身で表現してくれていた。
(やっぱりまだ子供だもんね)
それくらいリルは気を許していて、安心できて寛げる存在となりつつあった。
(……しばらくなら、大丈夫かな)
スッと目もとを細めて、意識を周囲へと向けた。
依然として変わらない雪原地帯を、一匹の獣と少女が行動を共にする。
ただそれでも一つの共通目的ができ、当てもないというわけではなかった。
(【雪原の魔女】、ねぇ)
リルから告げられた、この雪原地帯に足を踏み入れてきた理由。それだけでも僥倖で、一つの行動力になり得た。
(……雪原地帯のどこにいるのやら)
この環境に身を置くようにしてから自然と、いつからか周囲を警戒するのが当たり前になりつつあった。そのお陰もあって生き残ってこれたが、ここ最近はさらに神経を尖らせている。
それもこれも、リルの身を案じての事。
今まで一匹だった行動が、リルを中心に回りつつある。
そのせいもあって、色々な問題に直面することが増えていった。