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竜の民  作者: とんぼ
二章

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97/152

『終わらせよう』



時は少し戻って、廃墟の砦に押し入った後。

日が高い内ではあるが、ミグによれば連絡をしたから隠れることなく降りて良いと言われたので、荷物を下ろすべくノード城へ一直線に向かった。

半日もすれば太陽が真上を通り過ぎて、街が一番賑やかになる時間となる。

当然、城にいる人たち以外に街に住む人たちの目にも入る訳で。


本当にこのまま城に降りて良いのかと思ったけれど、連絡をされているのは街をぐるりと囲む壁から矢も火の魔法も飛んでこないことから分かったので、念のためより高く飛びながら城に降りた。

今回は中庭に降りれば丁寧に整えられた生け垣を壊してしまうと思い、唯一上から入れそうな鍛練場に降りた。


幸い、騎士たちは休憩中だったようで、人はいれども姿はまばらだ。

ざわざわどよどよと鍛練場の外と中からさざ波のような声はすれど、鎧を身につけている人も剣を抜く人もおらず、ズメイを見て怖くなったのか小さな足音が駈けていく音が目立ったぐらい。

私の姿を見留めて安心したのか、何人かが地面に下ろされた木箱を端に寄せていった。

上司らしき姿はないのに、指示されずとも動くとは真面目な人たちである。


「よく戻った、シシー!ジークハイン様たちはご無事か!?」

「ヘルマン騎士団長」


集まり始めた人たちがサッと左右に分かれたかと思えば、ずんずんと大股でこちらに近づいてくる大柄の男、ヘルマン騎士団長だ。

真っ先に主人…といってもその息子だが…そちらの心配をしてくる辺り、彼も真面目である。


(いや騎士ってやつはそういうものなのかな…?)


主人に仕えることで爵位を貰う、と説明もされたし、主人がいなくなったら、あるいは機嫌を損ねたら爵位が無くなるのでは。

そう考えたら職を失うに等しいことである。無事かどうか心配するのも当然のような気がした。


「ジークハイン様たちは無事だ。今こっちに戻ってきてる。荷物が多いから、運びきれない分を持ってきた」

「そうか。死傷者は?砦はどうだった?ミグからの連絡では人数が増えるということだったが、捕虜か?急いでいたのか詳しいことは聞けず仕舞いでな」

「ほりょ、ほ、りょ、…ああ、捕虜。合っては、いると思う。協力してくれるらしいけど。『ししょうしゃ』って何だ?」

「死傷者とは死んだ者や怪我人のことだ。捕虜がいるなら牢を開けておこう」

「その『死傷者』か…怪我人は二人。でもあっちでだいたい治したから、戻る頃には回復してると思う」


ズメイから降りている最中にも矢継ぎ早に飛んでくる質問。

その中に紛れる聞き慣れない単語。

本で読んだことのある単語と照らし合わせ、それでも分からない単語を聞き返しながら砦であったことを話していると、辺境伯様が遅れて現れた。

傍には後ろに撫でつけた白髪を乱れないように抑えているエミールさんもいる。


私がヘルマン騎士団長に話していたところまでを、辺境伯様にかいつまんで分かりやすく報告する姿を『かっこいい』と心の中で拍手していると、ズメイが『シシーも似たようなものだ』と突っ込んできた。

言葉が足りないだけで、話し方は似ているらしい。


『…なんかバカにされた気がするな?』

『気のせいだ、気のせい。それより水をくれ。降りる時に欠伸をしたら小鳥が入ってきた』

『むせてたのはそれか!』


どうりで降りている時に小刻みに揺れたはずである。

辺境伯様とヘルマン騎士団長が話し込んでいる内に水場へ案内してもらい、たらい一杯に水を注ぐ。

零さないように気をつけつつ、たぷり、と水の重みに揺れるたらいを抱えてズメイの元に戻り、大きく開く口めがけて水を注ぎ込んだ。

ごっきゅごっきゅと大きな喉仏を上下させて気持ちよさそうに舌なめずりをした相棒に満足していると、周りがやけに静まりかえっているので首を回せば、まるで見てはいけないものを見なかったことにしたように視線を逸らされる。

解せない。何かおかしいだろうか。


「あー………シシー?今、話せるか?ドラゴンと取り込み中か?」


なぜか一歩離れた場所から口に手を添えて呼びかけてきたヘルマン騎士団長に『話せる』と返せば、苦笑交じりに手招きされた。

なぜだか辺境伯様も苦笑いである。エミールさんは笑っているのかただ固まっているのか分からないが、微動だにしていない。


「?…さっきのでだいたい話した。一度山に帰りたい…です」


なぜ二人は苦笑いなのか。

疑問に思えど、ちょっと考えても理由が分からなかったので、気を取り直して希望を伝えてみた。

さすがに辺境伯様もいるので無理やり敬語にする。


目の前の二人も気を取り直したのか、野太い咳払いを一つしてから、これからどう調査が進むかを話してくれた。

書類関係は、ズメイに運んでもらったもの以外にもあるので本格的な調査は全て揃ってからになるが、今ある分をこれから読み込んでいくこと。

同時に、薬品についても調べていくらしい。

ヒュミル山脈には帰っても良いが、なるべく早くノード城に戻ってきて調査に加わって欲しいこと。

そして、なるべくズメイの姿を人目につくよう飛んで帰って欲しい、と言われた。


「組織がビザンチンから始まっているというならこの街のどこかに密偵か、連絡係がいるはずだ。ならばドラゴンがこちらの味方についていると敵に分からせる。敵以外にも伝わるだろうが、遠慮などしていられん。それだけ執念深い敵と見た」


剣の切っ先がごとく目つきが尖った辺境伯様が、私の肩に両手を置く。

目つきは悪くなったが、耳の奥まで届くような静かで低い声が、どことなくお館様に似ている気がして怖くない。

これは何かを決めた時の声、だと思う。


「あちらが何を企んでいるにせよ、君だけがいち早く気づき、君だけがいち早く妨害したことだろう。国境近くに住まう者として、君の貢献に感謝する。…これからは我々がついている」


終わらせよう


その言葉に『終わりが来たのか』と肺が温かくなった。

やっと終わる。

最初、協力しないと言った人が今は全面的に協力してくれているから。

やっと終わる。

もう夢の中で竜たちの痛ましい声を聞かなくて良くなる。

やっと終わる。

手を返り血で染め、暴れる竜たちの角や体に取り付いて、目の前で叫びを聞く日々が、終わる。


それはつまり、いつかズメイも捕まるかもしれないと不安に思う日々も、終わるということ


震える指先で辺境伯の手を取り、そっと相棒を振り返った。

何も気負っていない、きょとんとした黄色い二つの目を見つめ直し、ふうー、と気合いの息を吐く。


「目立って帰ればいいんですね?」

「ああ。屋根の近くも飛んで良い。住民には『竜の民が戻ってきた』と伝えよう。そうすれば誰も攻撃してこないはずだ。…人攫いはしないでくれると助かる」

「旦那様、ドラゴンは人を食べないそうですよ。好物は魚なんだとか」

「何!?そうなのか!?」

「そうですよね、シシー様?」

「はい。人は骨が多そうで不味そう、だそうです」

「「不味そうなのか…」」


エミールさんの耳打ちに『今までの恐怖はなんだったのだろうか』と言わんばかりに、同じことを言いながら遠い場所を見つめた辺境伯様とヘルマン騎士団長。

仲が良いなと思った。


そうして山に帰るとなった時、盛大に目立って良いし、建物を燃やさないなら火を吹いても良いと言われたズメイは大喜びで翼を広げた。

飛び立つ際に何人かが翼から起きた風に後ろに倒れたのは、言うまでもないし、街の人たちが私たちを見て指を差し、逃げたり追いかけて来たりと騒がしくなったのも、言うまでもない。



山に戻ってきて三日。

慌ただしくやらねばならぬことを済ませて、何着かの着替えと、これまで書きためてきた『黒い硬貨』の奴らがいた場所についての紙束を鞄に詰めた。

もっと山にいたい。

が、これからノード城に泊まり込んで、砦で得た書類やら薬品やらを辺境伯様率いる人員で調べるのだ。

私が山にいない間はズメイだけ山に戻り、怪我をしている竜たちの様子を見る、と話し合って決まったけれども、それでも心配は尽きない。

ノースデインから聞いた『神の僕』と『ルー』の話もそうだが、なにより。


(あらかた治ったとは思うんだけど…)


熱が出たり悪夢にうなされたり、もう完治したはずの体が痛む幻を見たりと、竜たちの後遺症は様々だ。

後ろ髪を引かれる気持ちでズメイの背に乗る。

つやつやと表面が朝露に輝く山の中の森と、その中心にある空を映した湖が小さくなっていくのを目で追いかけて。

雲の中に入る直前『気をつけてなー』と呑気な竜たちの声が聞こえて、ようやく前を向けた。


「何かあればすぐに飛んでくる。安心しろ」

「…そこは心配してないよ、相棒」

「なら何が気にかかる?」


今日は雲が分厚く、濃い灰色に染まったどんより曇りの日らしい。

雪が光に輝くことはなく、空の灰色に合わせたように重苦しい表情が見えた。

それに合わせて私も気落ちしているのかもしれない。


「竜たちに何かあったら、間に合うかな、と」

「間に合う」


間髪入れずに返ってきたズメイの答えに面食らっていると、ちら、と片目でこちらを振り返った黄色が、珍しく口端を吊り上げて笑った。


「シシーのおかげで癒やしの石も使えるようになったし、捕まっていた奴らもよく眠れるようになった。胸を張れ。シシーが頑張ったから、何も起きないし全部終わる」


もう一度驚きに目を見開いた。ズメイが、頼もしい。

いやいつも頼もしいのだけれど、言葉が頼もしいと感じるのはいつぶりだろう。

襟足の近くがくすぐったくてポンチョごと肩を竦めれば、首元に巻いている兎の毛がマスクの布を抜けて顎をくすぐってきた。

今の気分も、この兎の毛のようにふわふわだ。

嬉しい、と一言で表すにはもったいない『ふわふわ』である。


言っていて照れくさくなったのか、不機嫌そうな唸り声を小さく響かせながら前を向き直したズメイが速度を上げる。

雨が降りだしそうな空だが、胸の奥に日差しを感じた気がした。




沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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