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竜の民  作者: とんぼ
二章

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山火事一歩手前



大きな音を立ててしまってズメイを呼んだ後、竜の前足で器用に抱えられた私は空中から地面に投げられた直前に初めて『結界』を見た。

薄い水色の膜のようなものが砦を囲むように玉の形に張られ、蛍の光のような微かさでぼんやり光っている。


「…強い人たちだったんだ」


結界というやつがどういう造りになっているか分からないが、得体の知れない膜に向かって突っ込んでいく勇猛な騎馬隊を眺めて素直に『凄い』と思う。

いや、彼らにとっては得体を知っているのか。

膝についた雪を払えば、寝かしていた男二人から呻き声が聞こえて、慌てて手に青い火を灯す。

そっと火を近づけると、二人の体がどういう状態なのかなんとなく伝わってきた。

怪我自体は浅いようだけれど、血を流しすぎている気がする。

ともかく、まず体を温めなければ。


「外の魔獣どもは蹴散らしてこよう」

「…いいのか?」

「良いに決まっている。俺はシシーの相棒だ」


ついでとばかりに口から炎を吹いて、近くにある倒れた木に火を付けてくれたズメイは、私の頭に顎を乗せてグルルと一つ鳴き、さきほど魔獣だらけだった森へと飛び立った。

ひゅるりと風切り音がしただけだが、すぐに森の端っこから火の手が上がり『あ』と声が出る。


「燃やして良かったのか…?」


砦の方角からするのはズメイの楽しそうな唸り声と、竜が現れても尚、その場を離れない魔獣たちの悲鳴に、森の木々が倒れていく音。

結界の外で暴れているからかはっきり聞こえてくるけれど、なんとなく、なんとなくだが、結界の中に突入してしまったジークハイン様たちが右往左往している気がする。

本当に、なんとなくだけれど。

中に入ってしまえば解除されるまで外に出られないとも言っていたし、ズメイが暴れ出したのに驚いているだけ、だと信じたい。うん。


少しだけ申し訳ない気持ちになりつつも、まあいいか、という気持ちが強くなる。

だってあの数の魔獣だ。いくら装備を調えているといっても変異種ばかりのあの群れを相手にするには、ジークハイン様たちの分が悪すぎる。

きっとあのままズメイに任せておいた方が生き残れるはずだ。


『燃やすのは入り口だけにしてくれな、ズメイ』

『むう…雪のせいか火が弱い。どれ、もう一回』

『待った待った待った』


頭の中に響いてきた言葉に驚いて必死で制止しようとするも、久しぶりに暴れられるのが楽しいらしく、火柱が一つ二つと上がって…いや、空中から森へ向かっているから『降りていく』が正しい。


(……見なかったことにしよう、うん、そうしよう。ジークハイン様には止められなかったって言おう、そうしよう)


今は冬。空気が乾いて、一度木に火が移れば燃え移りやすい。

が、あれだけ白に染まっている木が多いなら消えるのも早いだろう。

そう自分に言い聞かせながら、手の平の青い火を大きくさせた。

今優先させるべきは背後から聞こえる阿鼻叫喚でなく、か細く震える目の前の二人の命だ。



軽傷者はいるものの、動けなくなるほど怪我を負った者はいないことを確認し、さてこれから『聞き取り』をしようという時だった。


「ドラゴンが森を燃やしてるぞ!」

「何だって!?」

「シシー・ルーのドラゴンか!?」


砦にいる自称研究員たちの手足を縛って集めているところに、結界の外が不意に明るくなったので敵襲かと思ったのだが、ズメイが森に向かって火を吹いていた。

あまりにも景気よく燃えさかっているので面食らう。


(そんなに機嫌が悪いのか!?)


外から中へは入れる結界だ。あの機嫌の悪さのまま入って来られては困るので、背中に乗っているはずのシシーを探すが、どう目を凝らしてもいない。

つまり単独行動。つまり、あれはズメイの意志で燃やしている。

一気に全身から血の気が引いて、距離を取ろうと指示を出そうとしたらミグが私の肩に手を置いた。


「炎の中に動物みたいな影が見えます。おそらく魔獣を食い止めてくれているんじゃないでしょうか」

「だからって森ごと焼くか!?」

「人の理屈は通らない相手です。ほら、もう火を吹くのはやめてますよ」

「……山火事にならないなら、今は良い。この辺りに火の手が見える町はないからな。で、あいつらはどうだ」

「魔法と薬の研究施設って言い張ってますね」


夜にあるまじき森の明るさから目を逸らし、心の中で彼女を呼ぶ。

あとでちゃんと説明してもらうぞ、と薄目にしたせいで力の入った眉間を親指で押した。

そんなことをしても一向に皺が真っ直ぐになる気配はなかったが。

乱闘の跡が残る広場と、縄に縛られている者たちを腕を組みながら見下ろした。


「左から二番目。そう、お前だ。さっきから共鳴石をいじっているようだが、結界を張っているから外と連絡は取れないぞ」

「っ、な、なんのことだか」

「何か知っていそうだな。連れて行け」

「はっ!」


他にも事情を知っていそうな何人かを集団から離し、聞き取りを行う班と砦の調査班とに分ける。

調査班の方は順調そうで、身元が分かるような書類もいくつか見つかったらしい。

まだビザンチンと繋がっているかは分からないし、『黒の硬貨』が何の組織なのか分かっていないが、このまま進めば『何か』は分かるだろう。


(我々がシドニアの者だというのは早々にバレたが、ここに貴族はいなさそうだし見たところ『悪事をしている』という意識はあるようだ)


このまま行けば不法入国だ国際問題だと上げ足を取られる必要も無く、事が済みそうである。

ふう、と息を吐きながら、地下への通路を見つけたとの報告を受け、地下へと向かった。




沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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