救出作戦
ものすごく書き進めていたのにあろうことがデータが飛びました…
思い出しながら書いています…
今までにも『こっそり』竜を助け出したことはある。
けれど今みたいに人が大勢いたわけじゃない。
少ない見張りが酒を飲んでいたり欠伸をしていたりの隙を狙って建物に入るのは至極簡単で、今みたいにあちこちの見張りの目を盗み、隠れる場所のない敵地のど真ん中に入り込むなんてやったことがない。
鞍に結びつけた縄を掴みながらズメイの片側にしがみつく。
『もっと前からこのやり方をやってたらな』
『やってたって大したことを知ってる奴らはいなかったさ。重くない?』
『軽いもんだ』
重心を変えることもしない相棒が鷹揚に頷き、さて、と眼下に広がる砦を見たのに合わせて私も視線を下げた。
あちこちに松明の光がチラつき、その中心、屋根も壁もない場所には頑丈な鉄の檻が置かれている。
その中に、ジークハイン様の仲間が二人いるのだ。
傷だらけで、凍えながら。
最低限の水も食事も与えられちゃいるが毛布はない。
血を流していたのはとっくの昔で、今は傷さえ凍り始めたのか血の匂いは薄い。
あのままだとまずいことぐらい、よく考えなくても分かる。
はあ、と自然と出たため息をそのままに、合図を待った。
■
「まず、シシーが人質を救出する」
上空から私が飛び降りれるかを確認したジークハイン様は、ズメイに括り付けた縄から人質の傍まで飛び降りて、檻の鍵を壊してそのまま砦の外に出るというもの。
私が飛び降りる隙を作るため、ジークハイン様たちが注意を逸らしてくれて、救出後、魔法使いたちが『結界』という中から外へ出れない透明の壁のようなものを張る。
それで共鳴石では外部と連絡が取れなくなるらしい。
その後、ジークハイン様たちが砦に乗り込み制圧する。
焚き火の近くに置かれた板を、色んな人が囲んで覗き込んだ。
砦の周囲が記された簡易的な地図の上にトン、トン、と駒が置かれていき、最後に結界が張られるのであろう範囲に大きく丸がつけられる。
「飛び降りるより先に結界ってやつを張れば良い」
「人質二人の命が危険だ。君には砦を出た後、怪我の治療を優先して欲しい。安全な場所で」
「人間を治すのは苦手だ」
「頼む。ここに治癒魔法を使えるのは君しか「治癒魔法も使えるのか!?」…ロルフ、今は好奇心を抑えろ」
どういうわけか魔法使いのロルフもここにいる。
必要な人間だからとのことらしいが、再び目が合ってからずっと目が輝いているので正直会いたくなかった。
気持ち悪いのだ。ずっと変な目で見られて居心地が悪い。
そっと人影に隠れてやり過ごしたが、治癒魔法の言葉を聞いてあっちが身を乗り出してきたので、後ろにいたズメイにすがりついた。
『お前な…』と呆れた声を出されたけれどこればっかりはしょうがないと思うのだ。
「おっと、つい。後でもっと詳しく教えてくれ」
「断る」
「そんなこと言わずに…!ようやく仮説が二つ浮かんだんだ、ぜひとも君に話したい!」
「嫌だ」
「はいそこまでー!話が進まない!で、ロルフ、結界を張るのにどれぐらい時間がいるんだ?」
ロルフの肩を抑えて私から離したミグの姿を前も見た気がする。
きっとこれからも見ることになるんだろうな、と視線の先が遠くなったが『はて、また見るんだろうか』とそっと心の内で首を傾げた。
また見る、とは。なぜそう思ったのか。
確かに黒い硬貨の件が片付かない限りは付き合いが長くなるだろうけれど、さっきの気分はもっとこう、何年も続くような気分だった。
(うん?)
短い付き合いになるはずである。少なくとも一生よりは。
なのになぜそう思ったのか。
一人首を傾げている間に話があっという間に進んでいたようで、配置についたら合図を送ると説明をされているところだった。
過ぎった疑問は深く考えないことにして、今に集中する。
軽く頬を叩いてズメイの背に乗り、渡された縄と毛布二枚を持って砦の上に待機したのだった。
■
砦の外で光がちらちらと光っているので、あれがジークハイン様の言っていた『注意を逸らす』と『救出の合図』だと思った。
『合図だ』
『何かあったらすぐに呼べ』
『うん』
とぐろを巻いている縄を下ろせば、先っぽが地面に当たった音がする。
ズメイの爪先に乗せていた足を空中に放り投げ、縄を掴む腕だけの力でぶら下がった。
いつもとは違って、風に煽られて左右にぐらりぐらりと揺れる体は不安定だけれど、初めてズメイから落っこちた時に比べたら全く怖くない。
掴める縄もあるからだろうか。
『行ってきます』
小さく深呼吸して手の力を緩めれば、真っ直ぐに垂れた縄に沿って落ちていく。
シュルルルル、と縄を擦る甲高い音が見張りに聞こえてやしないかと思ったけれど、あちらには聞こえていないらしく見張りの目はずっと外に向いている。
問題は檻の近くにいる見張り一人だ。
檻の近くにいる見張りとは反対方向に縄を下ろしたけれど、さすがに私が着地した音で気づかれるだろう。
(魔法使いじゃありませんように)
剣とか槍とかなら痛くないのだが、魔法だったらちょっと痛いのだ。
とはいっても肌がひりつく程度だが。
もうすぐ地面だ。着地のために少し落ちる速度をゆっくりにしつつ、足に響くであろう衝撃を和らげるべく膝を曲げた。
「…、……?」
確かに『どす』と音がした。だのに、檻の近くにいる見張りは寒さを誤魔化すように体を上下に揺らし、交代まだかな、と呟いている。
私の耳が人間より良いから聞こえた小さな音、というわけじゃない。
いくらなんでもそんな芸当はできない。暗殺者じゃあるまいし。
首を傾げながら檻の中の二人を見れば、意識が朦朧としているのか片目しか開いていないし、それもうっすらだ。
視線だってあっちこっちに飛んでいる。
声を出せないのは分かっちゃいるが、口元に人差し指を立てればしっかり頷いたのでまだ間に合いそうだ。
一人だけの見張りに近寄れば、ようやく音が聞こえなかった理由が分かった。
綿要りの帽子が耳まで覆っているのだ。
周りが騒いでいる時に『こっそり』した音が聞こえない訳である。
こんな奴らに竜たちは良いようにされていたのかと苛立ったが、今は作戦通りにすべき、と理性で押さえつけ、見張りの背中側から飛びかかって口を塞ぎ、心臓のある辺りに槍を当てた。
閉じたままの槍を密着した状態で開いても、肉を貫けると知ったのはいつだったか。
少なくとも最初の相手は魔獣だった。けれど魔獣より人間の方が脆いと気づいて、たまに使うようになった。
大立ち回りが出来ない今はこれが適当だろう。
ひゅ、と最後に息を大きく吸い込んだ男を地面に横たえ、檻に向き直る。
ただの鉄格子。ただの錠前。
魔法も罠も何もなさそうなので、錠前を掴んでねじ切り、檻の扉を軋まないようにそうっと開けた。
霜が降っているのかと思うほど肌が白くなっている二人にすぐに毛布を巻き付けたかったが、先に檻から出る方が先だろう。
肩に担ぐには檻が狭く、一人ずつ引きずって檻の外へ。
助けが来たことに安堵したのか一人が眠りそうだったので、思わず頬を叩いた。
うっすらと開いた両目に、眠い、と書いてある。
「ここで寝たら死ぬぞ」
もう一度叩けば気合いを入れたのか眉間に皺が寄った。それでも時間の問題である。
さっと二人に毛布を巻き付け、肩に担いで指示された『出口』へ。
注意を引いてくれている方向とは逆の小さな扉。
扉といっても廃墟らしく継ぎはぎのものだけれども。
外に見張りはおらず、そっと開けてそっと出ればすぐに森の中に潜める、そんな場所に続いている。
扉の取手があると厄介だなと思っていたが、押せば開くような作りだった。有り難い。
ひどく古いので木が軋まないようにゆっくり押そうと半身を押しつけた時。
あろうことか扉がそのまま反対方向に倒れて、盛大に音が出てしまった。
いくら古いといったってそれはない。
頭を抱えたいけれど今は両手が塞がっているのでできるはずもない。
「何の音だ!?」
「おい、人質がいないぞ!」
「あそこだ!弓で狙え!」
こうなっては仕方がないので走って森に隠れようとしたのだが、森の方から唸り声がした。
夜行性の何かがいるのか黄色や赤の目がこちらを見つめている。
こちら側の森には見張りが少ない代わりに魔獣が配置されていたようで、次々にその姿を現しては私たちを狙っていた。
ち、と舌打ちした時に、すぐ横の壁に矢が刺さる。
森に走り出したくともそこには魔獣。
中には大勢の人間、しかも武装済み。
両手には怪我人、しかも死にかけ。
ああ、今回は相棒に頼るつもりはなかったのに。
『ズメイ頼む!』
『おう!』
砦の広い場所をじぐざぐに走って矢を避けていると、バサ、と待っていた音がした。
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