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竜の民  作者: とんぼ
二章

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87/152

合流

短めです



「今は砦の南側に全員います。全員、シシー・ルーと合流して、交代で砦の見張りをしています」

「…ひとまず状況は分かった。他に怪我人がいなくてなによりだが、なぜ彼女に渡した共鳴石に彼女が出ない?」

「えっと…ずっと持っているのは邪魔だと…」


そんな理由で、とシシーと話したくて共鳴石を握りしめた手にうっかり力が入る。

ずっと持っていろと言ったのに、すぐに手放すとは何事か。

いや、実際ずっと持ってはいたのだろう。でなければあんなにすぐ連絡がつくとは思わない。


(だからといって、邪魔とは)


眉間を揉みながらため息を吐き、仕方がないので話を続ける。

今は、元の野営地から少し離れたものの砦を見張るのには問題ない場所にいるらしい。

ズメイの存在があるからか野生の魔獣は寄りつかず、シシーのおかげで暖を取れているのだとか。

シシーに連絡を取って丸4日経った。

馬に無理を言わせた強行軍だが、無事に国境線を越えている。


まずやるべきは、砦にいる人間がどこに繋がっているか分からない『外』と連絡を取れないようにすることだが、それには砦の周りに結界を張る必要がある。

結界を張れば共鳴石を使っても外との連絡は取れなくなるからだ。

必要な魔法使いを揃えてきたが、捕まった騎士たちを救うに足る時間があるかどうか。

今さらながら、シシーの『ドラゴンを救いたい』という焦る気持ちを理解した。


高くそびえ立つ木々が黒い棒にしか見えない森の中、慎重な速さで馬を進めれば見えてきた赤い焚き火。

味方であることを確認して近づけば、火の番をしていたあちらも『ようやく』と気を抜いた顔を見せた。

連絡を受けて5日目、ようやく私を含めた救援が調査隊に合流。

挨拶もそこそこに現在の状況を全て聞き、焚き火の近くに見えないシシーとズメイの現在を聞けば、砦の見張りをしている最中だという。


「ここから少し離れた高所にいます。…かなり苛立っているのでお気を付けて」

「苛立っている?なぜだ」

「魔獣の唸り声をドラゴンのものではないかと怪しんでいるのと…その、6時間前ぐらいに捕まった二人が傷だらけの状態で中庭に出されて」

「、報告がなかったが?」

「も、申し訳ありません!連絡をすれば国境越えに支障があるかと、遠慮しました!」


片膝をついて頭を下げる男を睨み付けた。

たしかに6時間前といえば国境越えをしていた。が、すぐにそれを報告しなかった彼の落ち度である。

明滅するだけの共鳴石は、受け取る側が許可しなければ無視できるのだから。

大声を出して叱り飛ばしたいところをぐっと堪えて、捕らわれている二人が無事なのか確認すれば『生きてはいる』と報告された。

拷問を受けた傷があるという。その傷を手当てのないまま寒空の下で檻に閉じ込められているというから、おそらく私たちをおびき出すための策だろう。


「すぐに助けに行こうとしたのですが、ジークハイン様たちが合流するのを待つ、と彼女が言い張り…」

「シシーが?」

「は、はい。『救援が合流するまで動くな』と言われたと。ただ、そのせいで血の匂いが見張りの場所まで漂ってきているようで、ものすごく不機嫌でして…」


『なんとかしてください』と涙目になっている男を見て、ぱしん、と自分の額を叩いてうなだれる。

まさかこういう形で彼女への『命令』が活きることになるとは思わなかった。

正式な部下でもないのに、従ってくれると思っていなかったのだ。

言葉通りに実直に、彼女の故郷でもないのに『国』のために感情を押し殺して、そこまでしてくれるなんて誰が思う。

すぐに話さなければならないと馬に乗ったままシシーの元へ行こうとするが、馬のように音の出るもので乗っていけばすぐに敵に嗅ぎつけられると徒歩での移動を推奨される。

時間が勿体ないが、休む時間が惜しいので見張りをしている場所へ行くことにした。


さくり、さくり、と明かりがない森の中、雪を踏み分けながらなるべく話し声を落として、案内されるがままに近づいていくと、黒い木々の隙間で何かが動いた気がする。

腰を落として柄に手を添えるも、暗闇に慣れ始めた目が動いたその『何か』の影を捕えた。


高所を見張り場所にしているだけあって、木々の向こう側は満天の星空だ。

その光を受けて浮き彫りになる四つ足、翼が二枚、頭に角。その傍で佇む人影。

生き物が呼吸しているのが分かるよう、雲より薄い白が煙草の煙のようにそれぞれの口元から漂ってきている。

星の光に照らされて、人影と獣の輪郭が虹色に淡く瞬いた。


「…シシー」


私の声に反応してちら、と目を向けたシシーの黒い瞳と、相反するように明るいズメイの黄色い瞳が私を射貫き、シシーの方だけすぐに逸らされる。

敵じゃないのに、逆光になった影が大きくてたじろいだものの、話さないというわけにはいかず柄から手を放して一歩ずつ近づいていった。

ズメイの方からは睨みを効かされているが、襲ってくる気配はない。

手を伸ばせば触れられる位置にまで来る。

一つに結わえられた黒髪が風にたなびき、視線を砦から話さないまま『遅い』とシシーが呟いた。


「雪で手間取った。…砦の様子は」

「捕まった二人が薄着で放り出されてる。傷だらけだ。今のところ生きてるけど、早く手当てしないと凍傷になる。ズメイと私ならすぐだ」

「、待て」

「どうする」

「待て」

「待ってる時間なんてない」


顔の半分は隠れたまま。少しだけ眉をひそめたシシーが右腕を伸ばして、眼下にある砦を指差す。

不規則な間隔にある松明の明かりがぼんやりと砦の形を見せていた。

中庭を指差しているんだろうが、この暗がりで見えるはずも無い。

もしかしてシシーには見えているんだろうか。そういえば望遠鏡もない。

いや、そんなことより。


「ジークハイン様」


指を差したままのシシーが、何かを訴えかけるように砦を見ていた私を見据えた。

あまりにもまっすぐな目なものだから小さく唾を飲み込んでしまう。

悪いことをしていないのに、なぜだか責められているような気がして、視線を逸らしたかったがそれはできなかった。

黒曜石の瞳が、あまりにも力強くて。


「あんたのために待った」


指差した腕を下げないままそう問うてくるシシーが言わんとしていることは分かっている。

もう待てない。後手に回った。

『仲間』を助けたいなら『国』を思っている場合じゃない、と。

少しだけ、彼女の声が震えているのは気のせいだろうか。


「私は竜の治癒師だ。人間なんてどうでもいい」

「…」

「でもあそこにいる奴らは『私が助けた』命だ」

「、シシー」

「私のせいで死なれたら気分が悪い」


気のせいなどではなかった。たしかにシシーの声は震えている。

私には分からないが、砦から漂う『助けたはずの人間』からの血の匂いが彼女を苛立たせているのなら、この声の震えが『彼女の依頼(せい)で捕まったから』だと思っているのなら。

罪悪感、というものだろう。おそらく。

だから私の指示を待った。自分の判断が正しいのか分からなくなって。

ズメイとシシーであればすぐに砦を制圧できるのにも関わらず。

決断しなくてはならない。時間はもちろんないので、今すぐに。

伸ばしたままのシシーの腕に手を添え、そうっと下ろし声と同じく震えている指先を手の平で包んだ。


「………外部から追加の人員は来たか」

「来てない」

「声はどうだ。外と連絡を取っているような声はあったか」

「ズメイ、聞こえた?」


ゆっくり首を左右に振ったズメイが、出番を待ち構えていたかのように翼を広げたが、まだだ、と手で制す。

ぐるぐると静かなドラゴンのいななきが聞こえてきて、思わず肩が跳ねた。


「ごほん、…追加の人員なし、外部と連絡を取っている様子もなしというなら、やることは一つだ」


咳払いを一つして、もう一度シシーの手を握る。

彼女は悪くないことが、少しでも伝わるようにと願いながら。

ひゅるり、と冷たい風が粉雪を巻き込みながら下から上へ舞い上がっていったのに目を細め、シシーの手を引いて野営地へ戻る。

聞きたいことは聞けたので、頭の中で作戦を組み立てた。

もちろん『救出』作戦だし、ついでに砦の全てを暴いてやろうと思う。


「シシー。一つ聞きたいんだが」

「?なんだ」

「『こっそり』動くことはできるか?」

「こっそり…?」


シシーが首を傾げるのと同時に『ぐがう?』と妙に可愛らしい声がしたな、と思ったら、それはズメイからだった。

そんな声も出せたのかお前。



沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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