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竜の民  作者: とんぼ
二章

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55/152

目覚めた場所



パイプ草の煙のような、薬草を燃やしているような、独特の匂いが鼻の奥に届いた。

目の前が真っ暗で慌てて首を振る。

と、二度目に右を見た時に、小さな焚き火が見えた。


(目が見えなくなった訳ではなく、単に暗かっただけか)


よく見ると自分の手や足の形も焚き火の明かりに照らされてぼんやりと暗闇の中に浮き上がっている。

一安心して顔を上げた。

遠くはあるが、焚き火の近くに人影がいるのが分かるぐらいなので歩いて行けない距離では無い。

今どこにいるのか、あの人影の主は誰なのか、それを聞こうと足を進めた。

歩けば歩くほど焚き火は大きく、明るくなっていく。

もちろん傍にいる人影もはっきり見えてくるのだが、影は『影』なだけで顔までは分からない。

こちらに背を向けていると分かったのはあと5歩ほどで真後ろに立てると分かった時。

私の存在に気づいた人影がこちらを振り向き、目を見開く。


誰だ、お前


確かにそう聞いてきた声は女の声。

逆光で顔がよく分からないのも相俟って、失礼なやつだな、と眉間に皺を寄せる。

人の夢に勝手に出てきておいて、と言いかけてハッとした。


(そうだ、これは夢だ)


パカン。

火の粉が弾け、薪が割れる音がして暗闇が瞼の形に薄ぼんやりと明るくなった。


「……、?」


意識が戻った。

その事実は体に染み込んだ経験から理解したが、その理由も、意識を失う前までのことも思い出せない。

体が鉛のように重い。

固定されている気もする。

まだぼんやりしている視界だが、状況を把握したくて左右に視線を投げれば、固定されているのは左足だけで、腕や胴体は包帯に巻かれていた。

右側の窓の外からは月明かりほどの淡い光が差し込んでいるのか、カーテンをうっすら白く照らしていた。

目を左に向ければ野営の焚き火のようのものが円形の部屋の中心にある。

その焚き火をぐるっと囲むように、寝台の上にいる人影がいくつも見えた。

その人影が血の滲んだ包帯だらけの部下たちということに気づき、重い体に力を入れた。

起きたばかりで気づかなかったが、私のすぐ隣にある椅子に座っていた男が、パッと立ち上がり肩に手を置く。


「起きましたか、ジークハイン様」

「、ミグ…?げほっ、げほっ、」

「おっと、ほら、水です。雪解け水なんでちょいと冷たい…って言いましたよね?」

「ぐ、っん、…うるさい」


ひどく喉が渇いていた。

差し出された木のコップから勢いよく水を通せば、キンと冷え切った液体が逆に喉を焼き、胸を貫く。

一呼吸置いてゆっくり飲み干すと、ようやく生きた心地がして息ができた。

渇きが無くなったからか回転を始めた思考が記憶を遡り始める。

ドラゴン調査、冬の森、爪熊、襲撃、そして全滅。

今生きていることがおかしいということがすぐ分かって、自然と口元に当てていた手を座り直そうとするミグの肩に置き、詰め寄った。


「何人、何人生きてる、ここはどこだ、何があった…!」


助けられたんだろう、誰かに。

けれどおかしいのだ。爪熊で襲われたのは村から馬で二時間の距離。

村の者には調査が終わるまで森への立ち入りを禁じていたし、調査隊から伝令を飛ばす時間もなかったため救助が来ること自体おかしい。

寝台は私が寝ているものも含めてきっかり16台。つまり16人の騎士。


すぐ隣の寝台はミグのものなんだろう。

寝起きを示すように中途半端にめくられた分厚い毛皮で作られたブランケットが手厚い手当てを物語っている。

私の上にも同じブランケットが掛かっており、部屋を暖めている焚き火には鉄鍋が置かれ、中の水が沸騰しているのか湯気を立てていた。

独特の匂いは部屋の四方に置かれている香炉から漂ってきているようで、匂いの強さに反して立ち昇る煙は薄い。

何の意味があるのか分からないが、薬草を燃やしているんだろう。


薬草があるということはここは『医療施設』ということ。

この人数を集めておけるだけの建物も、山小屋も、あの魔獣だらけの森にはなかったはずだ。

たとえ離れた場所にあるとしても、武具をまとっている騎士たちを運ぶ行為は一人ずつ運んだとしても無茶が過ぎる。


「落ち着いてください。ここは安全です」

「安全だと、?一体誰がこんな、うっ、」


久しぶりに痛みで声が出た。

ミグが動こうとする私の肩を再度押さえながら、寝台に背を預けるよう促す。

自分の分の枕を私の背中に差し入れてくれたことで、さきほどより楽に上半身を起こしていられた。

はあ、と安心したような呆れたような息を吐き出したミグは、椅子に腰を下ろして話をする姿勢をとる。

普段見る、立って報告をするのではなく前屈みになった気軽なものだ。

人前や戦闘時なんかにはこういうことはしない奴なので、本当に『安全』なのだろう。


「動かないでください。爪熊の襲撃で足が折れて、手は凍傷になりかけていた。今無理をすれば二度と剣を握れなくなります」

「だが、!」

「大丈夫。大丈夫ですから。住人がいて、城への手紙を託しました。スノッリから出してくれるとのことなので、すぐに連絡がいくでしょう」


さすがに俺もこの傷なので動けません、とようやくミグの現状に目が行く。

私の肩を押さえていたのは左手だった。

右手は長さを切りそろえられた枝で固定され、三角巾で首から吊られている。

頬にも塞がり始めた切り傷がかさぶたとなっていて、ちらと見た左足首も、ズボンの裾がまくられていた。

捻挫をしているのか、湿布が貼られている。


目が覚めているのはミグともう一人だけで、私が3人目だと知らされた。

他は比較的軽傷だけれど、打ちどころが悪かったり血を流しすぎたようで、衰弱こそしていないものの、いつ目を覚ますか分からないらしい。


(16人。ならば他の4人は)


そうか、とミグに相づちを打つ声に様々な思いを乗せ、今は『これだけ生き残れた』ことに注視する。

すまなかったと、彼らと彼らの遺族に謝るのはまだ早い。

胸の内で祈りを捧げてから一拍置き、聞きたいことが山ほどあるのを整理する。


「…さきほど住人と言ったな。なら、ここは村なのか?」

「あーーーー…えっとぉ…ですねぇ…」


うろん、うろん、と視線を彷徨わせる、こういう時のミグは大抵『やましい』とか『後ろ暗い』とかの理由が大半だ。

けれどもどこか違和感がある。

どちらかと言うと『言いにくい』『言葉にできない』といったような意味合いが強い。

何だ、と強く言えば『見てもらった方が早い』と右側のカーテンに手を伸ばして窓の外を見るよう促された。


(見れば分かるというのか…?森の中に村はなかったはず)


それに雪の深い木々が続く土地だ。外を見たところで目印になるようなものなどないだろうに。

『さ!どうぞ!』と言わんばかりの作った笑みを向けるミグをいぶかしく思いながら、しぶしぶ首を窓の方へ動かす。


「、花?」


月明かりに照らされて、白い花弁の花が緑の芝生のあちこちに咲き乱れていた。

外の風に揺らされて頭を動かしているのがなんとも長閑(のどか)だ。

それに『芝生』そう、芝生である。

目を凝らせば、芝生ではなく、平野に咲くような背の低い雑草が地面を覆っており、さらに視線を遠くへやれば畑らしき土の盛り上がりがあることにも気づいた。


一体どうやって、北の真冬に春のような土地を作れるというのか


一つ思い当たって窓の上の方を前屈みになってのぞき上げる。

予想は当たっていたが、現実味のない光景に思わず目を擦った。

まるで岩肌をくり抜いたかのような空間の天井部分に、大きな太陽石が埋め込まれていた。

村一つ分の豊穣を頼めそうな大きさである。

あんな大きさ、見たことがない。


『見てもらった方が早い』という意味が分かった。

ここは地下なのだ。カザンビーク王国と同じような作りになっているんだろう。

窓の外の景色をできる限り隅々まで見てなんとか受け入れつつ、私たちのいる部屋が何なのか確認するべく、窓枠が取り付けられている壁を追いかけた。

古い、古すぎるほど古い建物なのが分かる。

風化し始めてどれぐらい経つのか、元の色が分からないほど苔むして、蔦が自由に這う石材の壁。

部屋の天井より高い場所まで伸びているのと、もう3つ4つ分ぐらいの部屋があるのが分かったので、相当に大きい建物にいるようだ。

蔦に絡みついて咲く小さな黄色の花に、同じく黄色の蝶が飛んで来てパタパタと蜜を吸った後、ひらりと飛んでいく。

真っ暗な夢の中でも夢だとは思ったが、今目の前の光景だって夢に思えて仕方が無い。

前屈みの体を元に戻し、目を凝らしすぎて疲れた目頭を指先で揉んだ。


「お分かりになりました?」

「…分かった、地下にある村なんだな」

「おっとそうきたか…違います、ここは地下じゃない」

「違う…?ならどこにあると?」

「山です」

「山?」

「ヒュミル山脈を作っている山の一つ。俺らはあの高すぎるほどに高い山の『中』にいます」


驚愕で目が見開いたのが自分でも分かる。

なんなら部屋の熱気に晒されて乾いていくのさえ分かる。

にやにやと楽しそうに笑うミグは、手品のネタばらしをするように今いる場所を説明した。

詳しい場所は分からないが、目を覚まして最初に会った者に『ヒュミル山脈』にいると教えられたこと。

山脈の中は文字通り『土をくり抜いてできあがった』空間がいくつもあって、一番大きな山の中には湖があり、川もあるが、この建物の空間は奥まった所にあるそうで、小川しか流れていないこと。

そして、『ミグが目を覚まして最初に会った者』以外に住人はいないこと。

一つ情報を聞くたびにいくつも疑問が浮き上がってくるようだ。

病み上がりで整理するのは骨が折れる。


「ここからは俺の予想なんですけど、聞きますか?」

「…聞こう」

「では…おそらく、彼女は「『彼女』だと?」ああ、言っていませんでしたね。先ほど話した、ここの住人です。彼女が助けてくれた」

「………………女性なのか?」


『彼女』と聞いて割り込んでしまったが、それだけ驚いたのが伝わったのだろう。

深く頷いたミグが、三角巾の上を感謝の念が乗った左手でなぞる。

うっとりするようなその表情に鳥肌が立ったが、この人数を運んだのが女性?という疑問が強く顔に出ていたのだろう。

なぜか胸を張って誇らしそうに顎を上げたミグが『そりゃあできますよ』と意味深に。


「彼女、『竜の民』ですもん。……あ、予想ですけどね!でもほぼ確実です!」


(どこに根拠が)


呆れて物も言えないとはこのことか。

立っていた鳥肌はすっかり収まり、瞬時に虚無となった思考が、なんと返事をしようか、反論しようかとぐるぐる回り始めた時。

やけに自信満々に言い切ったミグの背後、部屋のドアが静かに開き、その隙間から覗きこんだ顔と視線がかち合った。




沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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