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竜の民  作者: とんぼ
二章

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51/152

手紙

短めです



実はカザンビークにいる人たちと手紙のやり取りは定期的にしている。

山では手に入らない調味料や、生活に必要な細々としたものを買いに町に行くついでに冒険者ギルドに手紙を預け、カザンビークまで届けて貰っていた。

もちろんズメイは町の外で待機してもらっているが。


手紙を出す町は山から一番近い大きな町、スノッリ。

赤茶色の煉瓦造りの建物が多く、町の中心に朝と昼を告げる高い鐘楼がある。

大きな町の割に人は少なく、活気はあるもののどこか『のんびりした田舎町』らしさがあるので、私は気に入っていた。

人が多すぎないのは良いことだ。


この町から西に馬車で3日行ったところに、ノードリッチの領主が住む『領都』がある。

ズメイと共に上からしか見たことがないが、行く気も起きなかった。

人はスノッリより多く、騎士や門番の数も多かったのだ。

もしズメイが見られたら、一個軍隊を率いて追いかけて来そうである。


町をぐるっと囲む壁は城壁と行っても過言ではない頑丈な造りで、きっと魔獣が入ってこないようにするためでもあり『領都』を最後まで守るためのものだ。

ノードリッチのすぐ隣は、ビザンチン王国である。

ヒュミル山脈の一番東側に古い砦があるのを見たことがあるものの、かろうじて砦と分かるぐらいに朽ち果て、雪に埋もれていた。

きっと物見櫓(ものみやぐら)程度の役割しかなく、真の砦は『領都』なんだろう。

かの国が攻め入って来た時に守らなければならないギリギリの前線が『領都』なので、堅牢にもなるはずである。

出入りする人たちもきっと注意深く見られているだろう。

私みたいに顔を半分隠しているような人は警戒されてしまうかもしれない。

そういうわけで、領主がいる町を一度見てみたくはあったけれど、危険が多すぎると判断してスノッリまでしかまだシドニア騎士王国をちゃんと回れていない。


(なんだかんだで一年か…)


思い返せば怒濤のように時間が過ぎていった。

生活を安定させるために試行錯誤し、慣れない畑仕事をし、初めて薬を調合してみて、竜という種族をもっと知ろうと研究する日々だった。

それに、ここ三ヶ月ずっとシドニア以外の場所に飛び回り、他は山に籠もって手当ての日々だったので、時間の感覚などあってないようなもの。

気づけば春が来て、夏が来て、秋が来て、また冬が来ていた。


「手紙?ああ、あれか。ちょっと待ってて」


カザンビークに送った手紙の返事が来ているだろうかといつものようにスノッリの冒険者ギルドに訪れ受付で確認すると、目の下に隈を作って気怠げに仕事をしているお姉さんが疲れた声で立ち上がり、後方の棚を振り返る。

名前は知らないが、彼女も『いつも』の人だ。

ギルドの中は冬支度をするための依頼を受けるために冒険者が多く、私を初めて見る人もいるのか好奇の目がこちらをちらちら伺っていた。

オドさんたちと出会っていなければ反応していたかもしれないけれど、少しは学んだ私は話しかけられない限り無視することにしている。

幸いなことに、話しかけるまで興味はなかったのか、わやわやとした話し声と共にそんな視線は消えていった。


「銀三枚ね」

「はい」

「…カザンビークに知り合いでもいるの?」

「え?」


財布から銀貨を取り出し、渡そうと手を伸ばした時、いつもなら話しかけられないのに、お姉さんから質問が飛んできた。

『いつも』じゃないことに驚いたけれど、世間話だと分かってすぐに頷く。

そう、とお金を受け取ったお姉さんは『ちょうどね』と言って顔を上げた。


「あそこ、去年まで大変だったけど、今なら帰っても安全みたいよ」

「…?」

「ミルメコレオだっけ?ちゃんと討伐されてるから」

「えっと、良かったです。でも、家族がこっちにいるので」

「え、こんな辺境に移住したの?」

「?」


言っている意味が分からず、どう答えたものかと悩んでいるとお姉さんは少しだけ唇を突き出し、小さく手招きする。

無愛想なお姉さんではあるが仕事は丁寧なのは知っていた。

いぶかしく思いながらも耳を寄せると、口早に耳打ちされる。


「この辺りじゃ東の人は分かりやすいから、すぐ移住って分かるのよ」

「…あ、髪と目」

「そう。あなた以外に黒髪黒目っていないでしょ?悪いことは言わないから冬の間はカザンビークにいなさい」

「なぜですか?」

「この辺りは冬になるとほんっとうに寒さが厳しくてね。食べ物が無くなると『よそ者』を狙う輩が出てくるのよ」


よそ者。

そう聞いてザワついた心臓には気づかぬふりをし、そうなんですね、と相づちを打つ。

私が他人事のように聞いていると思ったらしいお姉さんは呆れたため息をつき、子どもだからと優しくはしない輩なのだと追加した。

首元からタグを取り出し、お姉さんに見せる。


「大丈夫です。私、少しは戦えるので」


カザンビークにいる間しか冒険者の仕事はしていないが、ミルメコレオの駆除のおかげで『実績』は貯まりに貯まっている証に、お姉さんは私の顔とタグを交互に見て『うそ…』と囁いた。



ギルドで手紙を受け取った後、足早に買い出しをして門限が来る前にスノッリを出る。

空が赤く染まり始めた頃に外に出るのは私ぐらいなもので、道行く人は寒さに肩を小さくして、白い息を吐き出しながらさっさと町に入っていった。

顔見知り程度にはなった門番の人たちに、お姉さんと同じ理由で引き留められたけれど『家族が待ってるので』と押し通して外に出る。

間違ってはいない。人間の家族がいないだけで、山にいる竜たち皆、家族のようなものだ。


(そんなによそ者に厳しいのか?)


話には聞いていた。西方の国は『移民』や『異人』を受け入れない、と。

ここ1年で感じた視線は顔を隠しているからだと思っていたが、もしかしたら黒髪黒目の方が目立っていたのかもしれない。

とはいえ、私にはあまり関係のない話だ。

受け入れられなかろうが、ヒュミル山脈に普通の人間は入れない。

竜の民の村にも私一人しかいないわけだし。

竜に立ち向かおうという人間もそうそういないだろう。


特に気にする必要はないかと一人納得して、ズメイの待っている場所に駆け寄った。

雪に足跡をつけて暇を潰していたらしい相棒の背に荷物をくくりつけ、鞍に飛び乗る。

一気に空へ舞い上がるのも、ここ一年ですっかり怖くなくなってしまった。

ゴーグルの曇りを取り払ってから日がある内にと手紙を開く。

逆方向に吹いてくる風に手紙の端がはためいた。


「…………やっぱりないか」

「カザンビークからか?」

「ああ。調べてくれたみたいだけど、誰がやったか分からないって」


竜たちの手当てが一段落し、あとは毎日できるだけ青い火を当て続ける段階になった頃、お館様たちの手を借りようと思い至ったのだ。

誰が何のために竜を捕らえたのか。それを知りたくて。

あいにく、お館様たちは『調べ物』が苦手なようでできる限り、と珍しく謙虚だったけれど、それでも竜たちのために動いてくれた。

捕らわれていた場所の跡地を検証し、なぜ竜たちが捕らわれたままだったか、までは分かったのだけれど、終ぞ『誰が』やったのかは分からない。

一国の調査で分からないなら計画的なものを感じる。


「『束縛』の魔法がかかっていたんだろう?魔法使いどもを狙おう!」

「無茶だし、良い魔法使いもいる」

「いいや、魔法使いは全員敵だ!」


この相棒、自分が毒の魔法で怪我をしたからか特に『魔法使い』を嫌っているようだ。

受けた痛みを思い出して憤慨しながら飛ぶズメイを宥めながら、魔法使いねえ、と考える。

体全体を疲れさせる『束縛』の魔法が捕らわれていた竜たちにかかっていたらしい。

思考を鈍らせる作用もあるということで、逃げ出す気も起きないわけである。

はあ。吐き出した白い息が再びゴーグルを曇らせたので、袖で拭った。


捕らわれていた竜たちはまるで『生きる材料』のようで。

こう表現するのも眉をひそめるが、こう表すしかない。

剥がれた鱗や、削れた牙と爪は『武器』に、血と共に吸い出した魔力は『薬』や『毒』になる。

目的は『竜』の持つ全てだろうが、必要なものを必要なだけ得ている数じゃない。

だっておよそ20頭もの竜が、地域を問わず捕らわれていたのだ。

それがシドニアを囲むように、人の目から隠すような場所で捕らわれていたのも気になる。


「黒幕はシドニア騎士王国にいる…とか?」

「よし、潰すか」

「待った待ったそうじゃない、違うから、ただの思いつきだから」


私の独り言を真に受けたズメイが本気の声を出して方向転換しようとしたので、手綱を引っ張り山の方へ向かせる。

シドニアにいるかも?と思っただけで、どこにいるかも分からないのだ。

国全体を攻めるにはあまりに不十分である。


ひとまず、ようやく手当ても落ち着いたのでカザンビークに行こうということになった。

手紙の最後の一文に、躊躇うように書かれていたのだ。

ギータがもうすぐ召されるかもしれない、と。





沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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