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竜の民  作者: とんぼ
二章

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子どもの夢



魔獣。

魔力を持って生まれた獣。

そのほとんどが怪力で、家ほどの大きさの種もいれば、極端に小さい種もいる。

知性を持つ種は特別な魔法を使い、人里には滅多に寄りつかない。

希少な種であれば高価な薬や装飾品の材料にもなるため、わざわざ『魔獣狩り』を生業にする者もいる。


竜。あるいはドラゴン。

鱗に覆われた、ヘビやトカゲを思わせる体には鋭い爪と牙があり、コウモリを思わせる翼を一対、あるいは多数持つ。

しばしば毒や火をその口から吐き出す、魔獣の頂点と言って良い存在。


そんな竜の影が空の彼方に見えた時には、『災い』がやって来たと言い伝えられる。


曰く、人里の上を飛んでは赤い火を吐き、街も人も焼き尽くす。

曰く、森で暴れようものなら翼が動いた風で木々が倒れ、くゆった尻尾で硬い岩が木っ端みじんになる。

曰く、夜な夜な家畜を空へ攫ってはそのままパクリと丸飲みする。

曰く、曰く、曰く。

竜にまつわる『災い』は、数え始めたら切りが無い。


けれど、その絶対的に強い力に、飛べない空を雄大に飛ぶ姿に、人々は憧れと畏敬の念を抱く。

それはもう、貴族の家紋や王家の象徴になるほどに。

竜に抱く感情と同じような感情を、この模様を見た者が抱きますようにと願いを込められながら。


親は子に、師匠は弟子に『竜を見たらすぐ逃げろ』と言って聞かせると同時に、『夢』もまた乗せている。

誰もが竜の言い伝えを聞いて思う。

もしその背に乗って、空を飛ぶことができたなら、と。


「乗ってみたいなあ…」

「ん?」

「父さん、おれ、ドラゴンに乗ってみたい!」

「おいおい、さっきドラゴンの怖い話をしたばかりだぞ」


今日もまた初めて竜の存在を知った、ようやく言葉の意味を理解し始めた子どもたちが自身の寝床の上で『夢』を抱く。

通りに露店が並び、人がひしめきあう大都会の豪奢な部屋の中で。

あるいは寒さの厳しい辺境の地にある小さな村の、隙間風で壁がきしむ家の中で。


かつては自分もこうだった、と大人たちは星空も負けるほど輝く子どもたちの顔を見て苦笑し、それはできないと言った。

ドラゴンに乗るどころか手なずけることさえできない、近づいたら危ないから見つけたら絶対に逃げること。

そう言いながら暖かい毛布を子どもの肩までかけ、おやすみのキスを贈る。

新しい夢を見つけてすっかり目を覚ましてしまった子どもたちに、ある者は叱り、ある者は諦めて王子様とお姫様の寝物語をする中、とある国では『昔はな』と続いた。


「ずーっと昔には、ドラゴンに乗る人たちがいたんだよ」

「そうなの!?どこに!?」

「北の山脈だ。前に話しただろ?」

「一年中雪が降ってて、凶暴な魔獣がいるっていう『お山』?そこにいるの?」

「ああ、そうらしい。『竜の民』っていってな、生まれた時からドラゴンと一緒に暮らしてて、あちこち飛び回ってたそうだ」

「すごい!『竜の民』にお願いしたら乗せてくれるかな!?」


ぱたぱたと足をばたつかせて毛布をはねのけていく子どもに穏やかに目を細め、寒さに体が凍えないようもう一度かけ直してやりながら、大人は首を振る。

その言葉にならない、申し訳なさそうな顔を見て子どもは何かを察して、もういないの、と寂しそうに呟いた。


「そうだ、もういない。じいさんが生まれるよりずっとずっと昔に、ある日突然いなくなった」

「…死んじゃったの?」

「さあ…そう言う学者さんもいれば、世界のどこかで生きてるって言う学者さんもいる」

「、もう『お山』には戻ってこない?」

「どうだろうな。…ま、もし戻ってきたとしてもついて行っちゃダメだからな」

「えー」

「ドラゴンにぺろっと食われちまうぞ」


ぶう。頬をリスのように膨らませたのを手の平で潰した大人は、ダメだからな、と念を押して子どもの胸元を子守歌のリズムで叩く。

瞼をおろしたり上げたりを繰り返しながら、子どもたちは『夢』を見る。

自分がドラゴンに乗る夢と、もういない『竜の民』に会う夢を。


「父さん、俺、竜の民にも、会ってみたい…」

「うーん…それなら、博物館に行ってみるか」

「はくぶつかん…?」

「ああ」


子どもたちにとって博物館とは『走り回らず静かに勉強をする場所』だった。

西方の国々には珍しいことに、この国では博物館は身分問わず公開されており、入場料も格安なことから文字の読み書きをするのにも打って付けの場所で、親や村の大人たちが怖い顔をして『行って勉強してこい』と放り込まれる場所。

勉強と名のつくものに腰が引けてしまう、ようやく言葉を理解し始めた子どもたちには未知の建物。

賢そうな大人が頭を抱えて出てくる時もあれば、やんちゃそうな子どもらがちょっと賢そうな顔つきになって出てくる時もあるので、博物館に行ったことのない子どもたちからしたら何を勉強しに行くのか全く分からないのだ。


「そこにいるの…?」

「ははっ、博物館にはいないが、そうだな。もしかしたら竜の民の居場所が見つかるかも」

「じゃあ、……………行く」

「よし、父さんと約束だ」

「やくそく…」


なんだか上手く乗せられた気がしないでもない、と子どもたちは大人の指から手を滑らせて眠りに落ちる。

そうして、シドニア騎士王国の子どもたちは幼心に『竜の民』の存在を刻みつけ、ああだろうかこうだろうかと夢を見るのだった。


頭の中で想像した、ドラゴンの背に乗る『竜の民』がたった一人、存在していることを知らないまま。


沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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