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竜の民  作者: とんぼ
一章

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42/151

変異種



一つ、私への依頼は次の巣穴を見つけて、そこの駆除が完了出来次第、終わりということ。

二つ、冒険者ギルドへの依頼はそれを以て(もって)打ち止めとし、王国軍が引き継ぐこと。

三つ、私への依頼が完了後、国は治安の向上に努めるため、一度国を離れた方が良いということ。


『追い出すようなことになってしまい申し訳ない』と言われたが、争いの火種がない方が良いというのは分かっているし、何より私たちのためだというのも分かっている。

お館様は悪くない。カザンビークは悪くない。

ちょっとばかり冒険者が『荒くれ者』らしすぎただけで、そもそもミルメコレオが突然変わったから起きたこと。

そこにたまたま、ズメイと一緒に私が来ただけのこと。

今の状況が私にとってちょっとばかり悲しくて、寂しい。ただそれだけのこと。

言葉にしなくても思うぐらいならば、きっと許される。


「シシー、何度も言うがカザンビークの民は皆、本当に感謝している」

「、はい」

「報酬も十分出すし、旅に必要な装備も整えさせてくれ」

「ありがとう、ございます」

「…………また、来てくれるかの」


捨てられた子犬のような目をお館様がするとは思わなかった。

それだけ私が情けない顔をしていたのだろうか。

少しだけびっくりしたけれど、何だか可愛く思えたので静かに頷き、また来る、と返事をする。


「シドニア、お隣、だから、きっといつでも。…必要なら」

「何を言う!仕事をしに来てもらいたい訳なかろう!」

「…?どういう」

「休みたい時に来て良いのよ。ここには温泉も、あなた達のための宿もあるんだから」

「休みたい、時?」

「そう。今は混乱させてしまっているけど、次に来た時には本来のカザンビークを楽しんで欲しいわ」


もっと工房が動いているんだから!と胸を張るイリサ様とお館様。

今の工房も全て動いていると思うのだが、もっと動いているとはどういうことだろう。

音楽のように鎚やノコギリの音が鳴り響いているあの職人街で、もっと多く音が響いているとでもいうのだろうか。

その様子を想像して楽しみになったので、何度も頷き、次の『お休み』を約束した。


部屋に戻ってすぐ、まだ眠ったままのズメイを叩き起こして報告する。

仕事の終わりと、終わったらシドニアに行きたいことを。

蟻の相手ばかりでうんざりし始めていた彼は眠たそうな目を一気に見開き、両の翼を広げて喜びを表した。

シドニアに着いたらまずそこへ行って、次にあちらへ、と言葉でしか知らない場所を次々と列挙していく様子に、次の滞在先が決まっているというのはありがたいなと思う。


「そうと決まれば仕事だ!行くぞシシー!」

「今から!?」

「何、飯のことなら気にするな!途中の川で取ればいい!」

「待った待った!私には準備があるんだから!」


これから洞窟に籠もろうというのだ。ズメイはともかく私の方には必要なものがいくつもある。

着替えもそうだし、保存食も買い足しておきたい。

早く早くと急かすズメイの背に跨がって、まず町へ。

数日分の食料と水を買って行けば『仕事の再開』は瞬く間に知れ渡り、私たちの飛ぶ先を予想して走り出す人たちが現れた。

たぶん不満が溜まっている冒険者たちが直接文句を言いたいか、邪魔をしようというのだろう。

仕事を再開するにはギルドに一度寄らなければならないので、飛ぶ速度をあげてもらいズメイが着地するやいなや一足飛びにギルドの建物へ飛び込む。


「蟻の仕事、行ってくるます!」

「シシーちゃん!?仕事して大丈夫なのかい!?」

「大丈夫!後で告知、お城から来る、ます!」

「わ、分かった、手続きはこっちでしとくよ。き、気をつけてね」


すっかり顔見知りになった眼鏡をかけた職員さんが手早く書類を作っていくのを横目に、飛び込んだ時と同じ速さで飛びだして再び空へ。

遅れてやってきた冒険者たちが『降りてこーい!』と叫んでいるのを無視して、今まで行ったことのない坑道の方へ向かった。



どうやら『当たり』を引いたらしい、というのは本来の道である坑道からミルメコレオの作った道へずれて、上へ上へ、たまに横道に逸れて、カザンビークの町の上より山1つ分隣にずれているであろう場所を飛んでいる時だった。


「群れが多すぎる…うんざりだ…」

「さすがの俺も耳が痛い…あいつらの鳴き声だけでも何とかならないのか…」


道を一本進むごとにミルメコレオが出てくるし、ちょっと休めば十匹ほどが襲ってくる。

いくら弱いといったってこうまでしつこいと精神的に削れてくるものがあった。

オドさんが渡してくれた地図に追加の紙を糊で貼り付けながら、乾くのを待つ。


ようやく腰をおろして一心地つけたところでランタンを。

水を飲みながら、蟻が増えた原因を考えた。

一つ、巣穴が近い。

立て続けに出てくるということはそれだけ大きな巣穴があるということだろう。

けれど、その巣穴自体は見つかっていない。

一つ、『メス』が近くにいる。

ついこの間まで知らなかったのだが、襲ってくる個体は全て『オス』なんだそうだ。

蟻の体にメスの獅子の頭ということでてっきりオスメス関係ないものだと思っていたのだけれど、違うらしい。


昆虫も動物も子孫を残すメスをオスが守るもの。

ミルメコレオの生態は蟻によく似ているので、メスの数は極端に少ないはず。


(そもそも何で石を食べるようになったんだろ)


元来、繁殖の周期が短い魔獣である。

親である成体が死ぬ前に卵を生んでいなければ絶滅していたっておかしくない。

何も食べることができなければ餓死していくに違いないのだから。


(もっと繁殖できるように生態が変わった…?)


毒性のない木は、自身が脅威にさらされていることが分かると周囲に対して毒性の何かをまき散らすことがあるんだそうだ。

それを読んだのは植物図鑑だったけれど、植物であるなら動物でもあるかもしれない。

けれど変わったとして、きっかけはなんだろう。生態が変わるほどの脅威とは。

たった一匹だけなら『突然変異』だが、ミルメコレオ全てが石を食べ始めたなら『種』自体に影響が出たはず。大きなきっかけがあったはず。


あと少しで答えが出そうなのにあと一歩というところで詰まる。

感覚的に分かっちゃいるのだ。

舌の奥、喉の上の方まで、事実を照らし合わせて分かる次の『事実』が。


うんうん唸り続けている私をうるさく思ったズメイに注意されるも、思考の海に潜ってしまっている私には海面から声をかけられているように音がくもった。

海に行ったことはないが。それはさておき。


「繁殖、変わった生態、変異…?…………メス」


もし、メスが『変異種』になったなら、どうなるだろう。

変異種のメスが石を食べるようになり、そのメスが知性を得て、人が立ち入れない場所に卵を産み、その卵が同じ性質を受け継いでいるオスになったなら、その卵の内いくつかが同じ性質のメスになったなら。


石を食べるようになった『ミルメコレオ』の群れの完成になるのでは


確信と言ってもいいぐらい答えが当てはまった。

つまり、巣穴はともかくメスを今叩けば、これ以上『変異種の群れ』は産まれないということだ。

ようやく喉のつっかえが取れて息を吐き出せば、何だ何だとズメイが詰め寄ってくる。

ミルメコレオが突然変わった理由について話せば、彼もまた納得したのか『メスか…』と呟いて鼻の穴を蠢かした。


「たまに妙な蟻の匂いがすると思ってはいたが、それか?」

「………妙な蟻の匂いって?」

「ミルメコレオなのは分かってはいたが、群れの中にはいない匂いのことだ」

「それもっと早く知りたかったな?」

「知ったところで『変異種』に気づいたのは今だろう」

「ぐ、う…」


それはそう。

正しい反論に言い返せず、歯ぎしりをしながらズメイと相談して、今後は巣穴ではなく『メスの匂い』を辿ることに決まった。

メスを追いかければ巣穴にだって辿り着くだろう。

問題らしい問題といえば、より一層群れと出くわす確率が上がるということ。

ため息を吐いたのは私とズメイと、どちらが先だったろうか。


「なあ、ズメイ。シドニアは、今どんなかな」

「どんなって?」

「季節だよ。旅に出た時はたしか夏の半ばだったから、今は秋かな」


気を紛らわせるために見知らぬ場所に思いを馳せてみる。

思えば口布をずっとつけるには暑い気候だった。

カザンビークに来て地下に潜ったので過ごしやすくなったけれど。


「言っただろう、年中雪が積もっている場所だ。季節なんてない」

「そっか、じゃあずっと冬だな。…雪、雪か」


それはどんなだろう。本の挿絵でしか知らない。

フワフワとしている白い雲のようなものが空から細かく降り注ぎ、肌に触れれば水になるんだそうだ。

物語や小説の中では『雪だるま』というのを作るのが子どもたちの遊びだそう。

フワフワしているのに掴めるのかとか、触れば水になるのにどうやって『だるま』にするのか分からないが、きっと楽しいんだろう。


「楽しみだ」


くすぐったい気持ちを目を細めて落ち着かせながら、糊が乾いた地図に鉛筆を走らせる。

今通ってきた道、見つけた道、これからどちらへ進むか、それらを一通り書き記して折りたたみ、ランタンの火を吹き消した。


「メスの匂いは分かる?」

「ああ。まだ深いところにいそうだが、ここらを歩き回ってたようだ」


辿るのなんて簡単だ、と薄暗くなった視界でズメイが得意げに首を伸ばす。

ならばと道案内はズメイに任せることにし、鞍に跨がってゴーグルをつけた。

何日かかるかな。なるべく早く終わらせたいな。町がどうなってるか分からないし。

軽い足取り…翼取り?で進んでいくズメイにぴったり張り付いたまま、薄暗い道を進む。

竜の目でも暗いと感じ始めたので、明かりが欲しくなってきた。

ランタンの明かりより手の平に火をつけたほうがいざという時に戦いやすいだろうか、とまで考え始めた時、ツン、と鼻の奥を刺激する匂いが口布越しにも伝わって。


「変な匂いってこれか、?」

「この距離でようやくか。ま、あそこに残っていたのはだいぶ時間が経っていたからな、無理もない」

「きついな…」

「メスなんだからこんなものだろう」

「…まさか人間もこんな匂い?」

「安心しろ。シシーからこんな匂いがしたら振り落としてる」


言い方は遠回しだが私からはこんな刺激臭はしていないらしい。

魔獣だけのものだろうか。それとも昆虫だからだろうか。

だんだん濃くなってくる刺激臭に思わず鼻を手で押さえる。

ズメイは臭くないのかと思ったけれど、意外とけろりとしているので竜と人間の感覚は違うのだろう。


(まあ、硫黄の匂いが自分からするぐらいだ。受け取り方が違うのも当たり前か)


この事実は久しく書き留めていない日記に書いておこうと心に決める。

もう日々のあれそれを書き記すものではなく、新しく知ったことや初めて見たものを書き留める『私作の図鑑』のようになっている紙の束を思い出した。


しばらく飛んで近づいてきた刺激臭の先に目的のメスのミルメコレオはいなかった。

正しくは『生きている』状態じゃなかった。

今まで見てきたミルメコレオより二回りほど大きいが、枯れ枝のように腹をしぼませ、仰向けに倒れている蟻がいたのだ。


栄養という栄養、体力という体力を使い果たして、メスとしての役割を果たし終えたのだろう。

近くに卵はない。産み終えた、というわけではなさそうだ。

オスの蟻もここに来るまでには襲ってこなかったので、この近くに巣穴はないのだろう。


「参ったな…死んだ後でも同じ匂いがするのか」

「他の道から匂いはする?」

「こうまで強い匂いだと鼻が効かない。一旦離れるぞ」


長丁場になりそうだな、とおかしくなりそうな嗅覚をごまかすように、鼻の下を擦った。


後もう少し、あともう少しでシドニアに行ける…!


ーーーーーーーーーーーー


沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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