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竜の民  作者: とんぼ
一章

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32/151

一緒に仕事を



もう食べれないというほど食べた後、私に取り分けられて余った分をズメイに食べて貰いつつ、こっそりズメイ用の樽からお酒を拝借したらニーチェさんにバレてすぐに取り上げられてしまった。

王宮の宴では飲んだのに、と呟くと『ドワーフに合せたら危ない』とさらに怒られる。

とにかくドワーフたちはお酒を飲む量が多すぎるほどに多く、人間が彼らに合せて飲むと一日で体を壊すんだそうだ。


「シシーは小さいから周りも抑えたみたいだけど、もっと大人だったら潰されてたわよ!」


頭の上から小さな湯気が出そうなほど怒っているニーチェさんに気圧されて頷き、もう飲まないと言う。

心の中では『なるべく』と付け足しながら。

取り上げられたお酒はニーチェさんのお腹の中に収まってしまい、名残惜しく思いながらも導かれるままに自分の席に座り直した。


1日しか離れていない私たちの話題は気づけば終わってしまう。

ニーチェさんが思い出したように、小包を1つ手渡してきた。

中を広げれば、刺繍を刺してもらっていた腰帯である。

小さな花が連なるように刺繍された腰帯はとても可愛くて、買ったばかりの無骨さがまるでない。

昨日のようなドレスも素敵だが、やはり慣れ親しんだ衣服が安心する気がした。

お酒は飲んでいないのに体がふわりと浮いた感覚のままお礼を言い、丁寧に折りたたんで持ってきていた鞄に仕舞う。


ニコさんの武勇伝なるものが語られ始めた。

オドさんとニーチェさんは壮大すぎる武勇伝に茶々を入れ、たまにお皿を下げにやってくる給仕のお姉さんと話しながら大きく口を開けて笑う。

それにつられて私も笑った。どうしたって口布は外せないけれど、楽しい感情が伝われば良いと思いながら。

ほとんどの皿の上が空になり、ズメイも口の端についた魚の脂を舐めとってその場に首を降ろした頃、オドさんが『そういえば』と追加のお酒を注文しながら私に身を乗り出した。


「シシーはこれからカザンビークに住むのか?」

「ううん。隣、シドニア、行く」

「シドニアに?故郷には帰らないのか?」

「うん」

「そうか…カザンビークじゃドラゴンは歓迎されてるから住みやすいぞ」

「??」


無理して行く必要はないと、オドさんが言うのにニーチェさんが頷く。

シドニア騎士王国を含めて西方の国は、異国の人が、特に東からの人が住むには難しい国なんだそうだ。

いわゆる、よそ者を受け入れたがらない国らしい。

それが見た目の違いのせいなのか、歴史的なものなのかは分からないそうだけれど。


(でもズメイの故郷だし…)


ズメイから時折流れ込んでくる景色は切り立つ白い山脈と、大地を覆う一面の白い森。

どの景色の中にも人間はいなかった。

『シドニア騎士王国』に住むというより、『ズメイの故郷』に住むのだ。

人と関わることが少ないどころか、全く無いんじゃないだろうか。

なら、大丈夫、きっと。


「カザンビーク、良い国、でも行きたい、シドニア」

「まあそこまで言うなら止めないが…」


オドさんがジョッキの中身を一気に煽り、一段顔を赤くさせてグッと私の肩を引き寄せた。

そのまま大雑把な手つきで頭を数度撫でられる。


「いつでも戻ってきて良いんだからな?」

「…うん、ありがとう」


くすぐったい。最近こうだ。何の壁もなく人と触れあうと胸とお腹の奥がくすぐったい。

そのくすぐったさを堪えきれずに笑っていると、話を聞かれていないことに気づいたニコさんが机を叩いて呂律の回っていない口で文句を言い始める。

その顔が真っ赤に染まっているので絶対酔っ払っているはずだ。

現に、絶対に近寄らなかったズメイに擦り寄り『仲間が冷たい慰めてくれえ』と泣きついている。

うんざりした目をしながら前足を使って器用に押しのけるズメイに笑えば、笑った恨みを晴らすかのようにお酒臭い息を吹きかけられた。

元々の硫黄の匂いと混ざって、布越しでもきつい匂いに思わず手で扇ぐ。


『そういえば、こいつらなら何か知ってるんじゃないか』

『何を?』


涙目になりながら鼻を押さえている私に念で話しかけてきたのに首を傾げた。

はて、オドさんたちが知ってることってなんだろう。

まだまだ嫌な匂いが離れないのでジュースで気を紛らわせながら考えるも、オドさんたちに聞かなきゃならないこと、聞きたいことが思い浮かばない。

体の筋を伸ばすように翼を広げ、前足2本を猫が伸びをするように突っ張ったズメイが私の背後に回り直して顎をしゃくった。


『ミルメコレオだったか、例の魔獣は』

『あ』

『俺と比べたら弱っちいったらないが、こいつらは魔獣狩りなんだろう?巣の場所を聞いてみろ』


そうだった。オドさんたちも魔獣狩り、冒険者だった。

昨日、職人街で会った男の人たちのような人が『冒険者』だと思い込んでしまったようだ。

一番身近なところに聞ける人たちがいたとは。

ズメイと私が何か話していることを察したオドさんとニーチェさんは、ひょいとつまみを口に放り込みながらも黙っている。

慌ててミルメコレオのこと、お館様から言われたことを話した。

ちなみに、ニコさんは酔い潰れてしまって、床の上で両腕両足を放り投げて眠っている。


「「ミルメコレオの駆除をお館様直々に!?」」


飲みかけのジョッキを勢いよく机に置いた二人は、身を乗り出して肩を掴んできた。

ダメなことを言ってしまったんだろうか。

ミルメコレオがやっていることはカザンビークにとってまずいことだ。それが解消される手伝いができるなら、宿代として十分だと思ったのだ。

言い訳をするようにそう付け足すも、焦ったままの二人は『そういう問題ではない』と首を振る。


「シシー、あなた冒険者登録した!?」

「え?してない、ダメ?」

「ダメだ!今すぐ登録しろ、じゃないと捕まるぞ!」

「なぜ?」

「そこからか…!」


東の方ではずいぶん制度が違うんだな、と少し息を整えて座り直したオドさんが教えてくれる。

冒険者ギルドに出された仕事は軍や騎士団であっても手を出してはいけないこと。

ミルメコレオの駆除は冒険者ギルドに依頼が出されていること。

しかもそれが中々良い報酬なこと。

元々カザンビークを拠点にしている冒険者はもちろんのこと、噂を聞きつけた余所からの冒険者たちが集まってきていること。

今回のミルメコレオの駆除は、国に関わる問題だからかたまたま遭遇した人には何の追求もいかないが、完全なる部外者…私のように冒険者登録もしていなければ王国軍に入ってもいない人間が積極的に関われば、冒険者ギルドが『利益を損なわせた』として訴えられること。


つまり、私が冒険者登録をしていなければ、ギルドだけでなく良い報酬を目的にやってきた冒険者たちからも恨みを買う。


昨日の男の人たちも余所から来た冒険者たちなんだろう。なんとなくカザンビークに雰囲気が馴染んでいなかったから。

ああいう人たちがもっと増えるのかと思うと考えるだけでゾッとする。

ズメイなんかは『また投げ飛ばしてやれ』と乗り気だけれど。


なんとか平和に過ごしたい私はオドさんとニーチェさんが言う通り、冒険者登録をすることを決める。

オドさんたちと知り合えて助かった、と胸を撫で下ろしていると『せっかくだから一緒に行くか』とオドさんに提案された。

冒険者登録をするついでに、一緒に初仕事をしようと。


「オドさんたちの仕事、私、邪魔する」

「ズメイも一緒に来るんだろ?だったら邪魔なんかじゃないさ!なあ、ニーチェ?」

「シシーとズメイがいたら百人力よ!ミルメコレオは洞窟の奥にいるの。あなたたちここのことあまり知らないでしょ?道案内もできると思うんだけど…どうかしら?」

「道案内…どうする?ズメイ」


背後にいるズメイに首を回して聞けば、俺の背に乗るのはシシーだけだ、とだけ言って顎の下を擦りつけて来たので、問題ないようだ。

初めての仕事、初めての魔獣との戦い。

怪我の心配もあるけれど、ズメイがいるから怖くない。


さっきから胸の奥から湧き上がる熱が止まらない。

一度切れたと思った縁が続いていたことに、あるはずだった壁が無くなったことに、もしかしたら私も『普通の人間』になれるんじゃないかと思えることに。

口布の下、緩みっぱなしの唇の端を噛みしめ、言葉にならない返事の代わりに目の前の二人へ頭を下げれば、決まり!と手を叩く音がした。


「ズメイも入れる大きさの洞窟に目星つけとかないとね」

「登録はすぐにできるとして、武器だな。どれぐらいで出来るって?」

「5日って言ってた」

「じゃあ最低でも7日はかかるな。よし、シシー、明日の予定は?」


やっぱり5日ではできあがらないのか、と苦笑しながら何もない事を伝えると、とりあえずの武器を見繕うということで武器屋に行くことに。

さすがにズメイは店に入れないので別行動をすることになった。

ズメイはズメイで、ミルメコレオの気配を辿ったり、赤い竜の話し相手になったりして時間を潰すと言うので放置することにならず安心する。

駆除に必要な物や、冒険者として最低限持っておいた方が良い物も、明日買い出しすることに。

何から何までお世話になりっぱなしだ。上手く駆除ができて、もし宿代に余裕ができたらお礼をしなければ。

王宮に泊まっているので余裕なんてないかもしれないけれど、その時は別の方法でお礼をしようと心に決める。

そうして明日の待ち合わせ時間を決めて、楽しい時間は終わりとなった。


「ニーコー!起きて!お開きよ!」

「ぅうん…もう飲めないっす…」

「ったく…俺も酒入ってるんだぞ…」


オドさんが背負っている大剣を前に回してニコさんを背負おうと腕に力を入れる。

普段ならニコさん一人、軽く持ち上げてしまえる力持ちのはずのオドさんが、ニコさんの両脇に手を突っ込んだまま固まってしまった。

お酒が入っている、というのは本当のことのようだ。

両脇に手を回してどうやって背負うつもりだったのか分からないが、これぐらいなら、とオドさんの代わりにニコさんを持ち上げて広い背中に乗せる。

ぐったりでろんと溶けたまま起きないニコさんが安定を得てさらに溶けた。


「すごい力ね!?」

「そんな細い体の一体どこに…」


軽々とニコさんを持ち上げた私に目を丸くして驚いているオドさんたちを見て、そういえばこの三人の前で力持ち具合を見せたことはなかったなと思い出す。

理由を聞かれたけれど、ズメイのおかげ、としか言いようがなくちゃんと説明ができないので笑って濁した。


「ニコさん軽い」

「軽いんだ…起きたら教えてやろっと」


歯を出してニシシと笑ったニーチェさんが、なぜかとても悪い顔をしている気がして後ずさる。

あれぐらいで怖がるな、とズメイが鼻で笑いながら尻尾の先を私に引っかけ、店に来た時と同じように乗せてくれた。

テラス席からそのまま飛び去っても良かったのだけれど、あの空間で翼を広げれば飛び立つ時に起きた風でガラスが割れそうだなと思ったのでやめてもらう。

再び通ることになった店内は来た時より喧噪に満ちていて、私たちを見ても静まりかえることはなかったけれど、まとわりつくような視線は変わらない。


(冒険者かな、なんでこんなに見てくるんだろ)


オドさんもニーチェさんも視線に気づいているけれど何も言ってこない。

聞けば教えてくれるかと声を出そうとしたら『明日話す』と制された。


「今日は美味い飯を食った。良い夢を見るには、さっきのは一旦忘れろ。な?」

「…分かった」

「よし。じゃあな、シシー!」


また明日




皆さんの『期末』はいつでしょう…私は8月末です(仕事の話)

大変長らく更新せず申し訳ありません…書き溜めする余裕もなく今日になりました…

あと少しで第一章(勝手に私がつけている)が終わる予定なので、今しばらくお待ちください…!


―――――――――――――


沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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