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竜の民  作者: とんぼ
一章

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31/152

1日ぶりの再会


「伸びたり縮んだりする槍だと?」

「はい」

「ううむ…作ったことがないな、どこで知った?」

「え、と、家で」

「家?ああ、故郷という意味か。東の方はそんな奇妙な武器を使うんじゃのう」


ヴィーリンさんのいる工房裏庭にズメイと共に降り立てば、休憩中だったらしい見習いの男の子が慌てて彼を呼んできてくれた。

そこから始まった『槍』の説明に四苦八苦する。

西の言葉で伝えるのが難しい。伸び縮みする、とだけ言えば魔法でそうするのかと思われたし、からくりで、と言ってもどんな仕組みで誰が作ったと事細かく質問された。

武器の知識は全て本から。ちゃんとした武器など持ったことがない私が答えられる訳がない。


最終的に拙い絵に描いたものを渡せば、眉間に皺を寄せながらも『よし』と頷いてくれた。

魔力酔いからの胸焼けと合せて疲れてしまい、カカと笑うズメイにもたれて足を投げ出す。

私の描いた絵をひっくり返したり元に戻したりして唸っているヴィーリンさんが最初怖かったが、よくよく見ると目がとても輝いているので、全く嫌ということは無いのだろう。

例えば謎解きをするような雰囲気だろうか。その楽しさは分かるので安心する。


「おお、そうじゃそうじゃ。まだ完成しとらんが、角飾りはこちらの型で良いかの、ズメイ殿。シシーも確認してくれ。」


唸りながら工房に戻ったヴィーリンさんが、手に何かを持って戻ってきた。

白い粘土だろうか。丁寧に鱗の模様が再現された輪の部分と、おそらく宝石をはめるのであろう唐草を模した台座が象られている、私からしたら首輪にしか見えないそれは、ズメイの角飾り。

これで完成品じゃないのかと思うぐらい輝いている白いそれは、問題なければ鋳型となり、梳かした金属が流し込まれるそうだ。

上から見ても横からみても素晴らしい出来である。


「気に入った?」

「ああ。ドワーフは本当に腕が良いな」


言葉は分からなくともズメイの満足気な様子は伝わったようで、ならばこれで行こう、とヴィーリンさんが髭を撫でながら言った。

台座にはめる石は決まっている。今はベルトにはまっているファイアーオパールだ。

その大きさを再度測ったヴィーリンさんは、その場で粘土の台座を削って調整し、5日後に来てくれと伝えて工房の中に入っていった。


「…次は5日で終わると思うか?」

「…無理じゃないか。人間の親子は似るんだろう?」

「ドワーフは親子どころか種族で似てる気がするけど…」


気長に待つとしよう。急ぐ旅でもないし、シドニアまではズメイの翼を借りれば目と鼻の先なのだから。

さて、と一旦空に飛んで広場にある時計を見る。

オドさんたちと合流するまでもう少し時間があるので、せっかくならミルメコレオの居場所を探してみようと、カザンビークの町境を飛び出て、堀り広げられた地下の壁沿いを飛んだ。

お館様曰く、今も山のあちこちを食い散らかしているとのことなので、入り口となる穴があちこちにあるかと思ったのだが…


「ないな」

「這いずり回る音もしない。今は寝ているか、もっと深くにいるかだな」

「坑道の中を通った方が良いかもしれないな…そこからミルメコレオの巣に続いてる道があるかも」

「ふむ…俺が通れればいいがな」

「そうだった…」


そう、ズメイは小型の竜とはいえ大人四人分はある大きさだ。

翼を広げて飛ぶにはそれなりの大きさがいる。

お館様に聞いてみるべきだろうか。どこに巣があるか分からないと言っていたが、もしかしたら検討はついているかもしれないし。

ほどほどの所で壁沿いに飛んでもらうのをやめて、町に引き返す。

町の人たちはまだまだズメイの姿に慣れないようで、見上げるたびに驚きの声と喜びの声を同時に上げた。


ふと、赤い竜のことを伝えた方が良いか考える。

残った魔力が作り出した念が形になっているだけとはいえ、赤い竜は赤い竜だ。

崇められるのが寂しかったと前もって伝えれば、赤い竜ももっと色んな話を聞けるのではないだろうか。


「なあ、ズメイ。赤い竜のこと、皆に話した方が良いと思うか?」

「…今すぐはやめておいた方が良い」

「?どうして?」

「ミルメコレオだったか。その魔獣のせいでここが危ないんだろう?魔力の残滓とはいえ、そんな時に赤い竜が蘇ったとなったら、ここの奴らがどうなるか分からんぞ」

「…そっか、そうだよな。守護神が目の前に現れたら、もっと崇めちゃうか」


縋る気持ちもまた蘇るというのなら、きっとミルメコレオがいなくなった後に伝えた方が良いはずだ。

それが明日になるのかずっとずっと先になるのか分からないが。

…今は目先のことを考えよう。

これからオドさんたちと会う。別れの間際、確かに感じていた拒絶の色が少しでも薄くなっていたら良いのだけれど、どうだろう。

昨日来たばかりだというのにとても濃い一日を過ごした私たちだが、オドさんたちにとってはなんでもない日常が戻ってきただけ。


(…なるべく人目のつかない席にしてもらおう)


昨日の宴で、今日の朝食で、何人にも聞かれた顔を隠す口布のこと。

『宗教上の理由で』と伝えれば納得してくれたが、できれば顔を見たいという願いがあるのが手に取るように分かった。

ここにいる人たちは優しい。けれど昨日の職人街であったような、乱暴な人たちもいるかもしれないのだ。

もし見られたら、醜い顔のことがバレたら。

脳裏に、赤い竜の記憶よりも薄暗い影が過ぎり、ぎゅっと胸元の布を握る。


「まだ気持ち悪いか」

「…ん、だいぶ落ち着いてきた」


今日は食べすぎないようにする、と考えたくない未来を誤魔化したけれど、きっとズメイにはバレているだろう。

何も言ってこないズメイに甘えて沈黙し、ふ、と町に視線を落とす。


「あ」


他の建物より広い敷地を持つ建物から、オドさんとニコさん、ニーチェさんの姿が出てくるのが見えた。

もう『拳を振り上げる女亭』に向かっているようで、歩む先はそちらを向いている。

ニコさんが何かを言ったのに呆れていニーチェさんが彼を肘でつつく様子を、一歩後ろを歩いているオドさんが笑っていた。


「ズメイ、オドさんたちだ。ここで降ろしてくれ」

「分かった。掴まれ」

「うわっ、とと」


旋回してゆっくり降りてくれるということはしてくれず、一気に急降下の姿勢に入ったので、慌てて手綱を掴む。

久しぶりな気がする突風が目に入って痒い。

道に降りたズメイを中心に人の輪ができ、またもや通行を阻害してしまいそうだったので脇に避けた。それでも人だかりは消えなかったけれど。

痒くなった目を擦りつつズメイに礼を言えば、人だかりより頭二つほど飛び抜けたオドさんが私たちの姿を見つけて声を張り上げる。


「シシー!ズメイ!早かったな!」

「すっかり人気者だなー!」

「帯の刺繍できてるわよ、シシー!」


別れる間際に感じていた『壁』とも思える疎外感を三人から感じない。

それが心底嬉しいのに、なぜ消えたのかが分からなくて一人首を傾げたけれど『行かないのか』とのズメイの呼びかけに我に返って三人に駆け寄った。

籠手がついたままのオドさんの大きな手が髪をもみくちゃにしたかと思えば、慌ててニーチェさんに両肩を掴まれ引き離される。


「乱暴にしすぎ!」

「ただ撫でただけだろ…」

「いやいや、はたから見たら不審者だって」


私の頭の上で賑やかに言い争う様は、最初に会った時と同じ雰囲気。

気まずくもなければよそよそしくもない。

思わず緩んだ頬はニコさんには分かったようで、嬉しそうだなー、と肩を抱き寄せられた。


「もう腹ぺこで死にそうだ!さっさと行こうぜ!人も増えてきたしよ」

「わっ、こんなに人がいる。いつのまに…」

「ちゃんとズメイも入れる席取っといたからな、シシー」

「え」


ニコさんが歩き始めたのに合わせて足を動かす。

後に続いたオドさんが思い出したようにズメイの席もあると言った。

良いのか。あんなにズメイが近くにいると腰が引けていたのに。

まだ慣れない西の言葉で素直にそう聞けば、きょとりと目を瞬かせた三人は当然かのように一つ頷いて。


「相棒なんだろ?」

「ズメイだけ仲間外れになんてしねえよ。なあ?」

「そうそう。ちゃんと魚料理も出るから安心してね」

「う、うん。…その、ありがとう」


続けたお礼の言葉は思ったより小さい声になってしまい、すぐに町の喧噪と三人の話し声に消えてしまったけれど、ちゃんと聞こえたと示すかのように私の肩に乗るニコさんの手が優しく力強くなった。


『一緒に食べよう』

『…本当に入れるんだろうな』



『拳を振り上げる女亭』なんて面白い名前だな、と思っていたが、お店の外観も面白い。

外観というか、看板、だろうか。

緩く波打つ長髪と、豊満と言って良い女の人の像。

綺麗だけれど怖さを感じる顔つきで拳を振り上げている女の人の木彫り像が二つ、まるで門を支える柱のように入り口を固めている木造の2階建て。

中からはもう酔っ払っている人たちがいるのか、大きな笑い声と注文を飛ばす声が聞こえてくる。

モンロニアで見たことがないお店の造りに入り口で固まっていると、中々入ろうとしない私にしびれを切らしたズメイが頭を背中に押しつけてきて、そのまま上へ頭を跳ね上げた。

力任せのそれに抗う暇もなく、私の体がぽすんとズメイの背中に乗る。


『ぼんやりしてると置いていかれるぞ』

『ごめん』


呆れたように鼻を鳴らしたズメイは、店内から漂ってくる香辛料の匂いに反応して頭を左右に震わせ、舌なめずりをしてから翼を一際小さく畳んでのっしのっしと店の中に入っていった。

途端、店内のざわめきが静まりかえる。

無理もない。この国で『竜』は英雄なのだから。

けれど中には違った意味の、粘り気のある視線をズメイと共に感じて、店の奥へ消えていく三人の背を急いで追いかけた。


(何だろう、さっきの視線)


首筋の裏側がチリチリとひりつく。熱い、とは違う。針が刺さるというか。

またしても分からないことが増えてしまい一人唸っていると、外に出てしまった。


「…外?」


ヴィーリンさんの工房のような裏庭だろうか。

そう思ってぐるりと首を回せば、四方を壁に囲まれた広々とした空間だと気づく。

中庭だ。つまりまだ店内である。

中庭と言っても地面は煉瓦で固められており、草や木はない。

店側からの入り口は来た道しかないようで、入り口のある壁以外には客席と向かい合う窓はなく、唯一ある窓からは厨房が見えた。

厨房の中の人と一瞬目が合ったけれど、再び飛び交い始めた注文に応じるため、バタバタと駆け回っていく。


「テラス席だ。ここなら窓も少ないし、人目を気にしないでいいぞ」

「シシーはこっちの席ね。ズメイはどうする?」

「後ろ、いる」


いつもなら中庭にも机と椅子が並べられて人が入るのだが、今日はズメイもいるので貸し切りにしてくれたらしい。オドさんの気遣いにさっきのひりつく視線のことはすぐに頭の隅に追いやられた。

席に座るやいなや店内から取手のついた大きなコップを4つ持ってきた給仕の女の人が現れ、続いて蓋の開いていない樽を転がしながら入ってきた調理場の男の人が現れる。

飲み物を持ってきてくれたらしい。

ジョッキと呼ばれる、お酒を入れるための木のコップ。

4つが人間用なら樽はズメイのためのものだろう。

私の顔ぐらいの大きさはある量のお酒を飲めるだろうかと少しだけワクワクしていると、ニーチェさんがさっと1つ取り上げて給仕の人に別のものを頼んだ。


「1つはお酒じゃなくてジュースにしてくれない?」

「あらまあ、いつものメンバーかと思ったら竜の乗り手さんだったの!それにこんなに小さいなんて!これじゃお酒は無理ね」

「え」

「すぐに持ってくるわ。オレンジジュースでいい?」

「…お酒、ダメ?」

「お嬢ちゃん、いくつ?」

「14」


給仕の女の人が顔を覗き込みながら聞いてきた。

胸元がたいへん緩い服から胸がこぼれ落ちそうでヒヤヒヤする。

同時になんだか悪いことをしているようで視線をずらせば、女の人の両手が私の頬を挟み込んだ。


「まだまだ子どもじゃないの!ダメよ!あと2年は飲んじゃダメ!16から大人なんだから!」

「えっ、昨日は「ダメったらダメ!お酒は大人になってから!」…分かった」


よし、と頷いて離れて行った女の人は、さっとスカートを翻して店内に戻ったかと思うと、同じジョッキに果実の匂いがする飲み物を入れて私に手渡してくれた。

昨日は飲めたのに、と口布の下で唇を尖らせれば、子どもだからな、と楽しげなズメイの声。

彼のいる方を見れば、オドさんに開けてもらった樽を前足2つで囲い込み、満足気に喉を鳴らしている。ずるい。

酔っ払った時のあのフワフワとした感覚をもう一度味わいたかったのに。昨日のお酒は美味しかったのに。

あとでズメイの分を少しもらうことに決めて、さて!と手を1つ鳴らしたオドさんに向き直る。


「今日は馬車の礼と、二人…数え方は二人か?まあいいか。二人の歓迎だ!これでも稼いでるから、たくさん食ってくれ!」

「よっ!リーダー太っ腹!」

「ごちになります!」

「ご、ごちに、なるます…?」

「シシー、その言葉は覚えなくて良いぞ。ニーチェ、ニコ、自分の分は払え。シシーとズメイの分は割り勘だ」

「「えー!ケチー!」」


ニーチェさんの言う太っ腹、の意味は分かった。気前が良い、ということだ。

ならばニコさんが言った『ごちになります』が西の方でのかけ声なのかと思って繰り返すと、違う意味だったようで制された。

ジョッキを片手に文句を言い始めるニーチェさんとニコさんに青筋を立てたオドさんは、高く自分の分のジョッキを掲げて。

「うるさい!とにかく!」


プロースト!


ああ、このかけ声が『乾杯』なのか。そういえば昨日も聞いた気がする。

宴の中で何度も聞いた言葉だが、昨日は物語の中のような光景に目を奪われてよく聞き取れなかったのだ。

オドさんたちがジョッキを打ち鳴らしたのに合わせて高く上げれば、カコン、と音が鳴り響く。ズメイは音頭の代わりに首を上げて小さないななきを1つ。

私からしたら小さいのだけれど、オドさんたちからしたら驚くような鳴き声だったようで、一瞬目を丸くして固まったがすぐに笑顔になってズメイの樽にもジョッキを打ち付けた。


『乾杯、ズメイ』

『乾杯』


最後に私のジョッキも樽に打ち付けて念で伝えれば、待ってましたとばかりにズメイが舌を伸ばす。お酒の味が気に入ったようで、今後も欲しがるかもしれないなと苦笑した。

私に渡されたジュースは果実の汁を搾った飲み物で、お酒独特の舌をつくような刺激はないけれど美味しい。ワインがぶどうからできていて、こっちはオレンジだそうだ。

違う種類とはいえ同じ果実なのにお酒じゃないなんて不思議だ。


「そうだ、シシー。昨日はどこに泊まったんだ?温泉街の方に行ったって噂は聞いたけど」

「王宮、離れ」

「…王宮?」

「?うん」


乾杯の後のざわめきもそこそこに、次々と運び込まれてくる料理の1つ1つをワクワクする気持ちで見ているとニコさんが取り分けてくれながら聞いてきた。

取り皿を受け取りながら素直に答えたのだけれど、取り分けているフォークを手に握りしめたままニコさんが固まる。


「王宮って、あの王宮か?カザンビークの?お館様のいる?」

「うん。離れの、部屋、とても綺麗。びっくり、した」

「…竜専用の宿って王宮だったのかよ!?すごいなシシー!?」

「またとんでもない所に泊まってたんだな…」

「王宮からの使いが来るわけね…」

「昨日、約束、ごめんなさい」


そういえば謝っていなかったとジョッキを机に置いて頭を下げる。


「「「王宮なら仕方ない」」」


三人が心底納得したというよう、同じことを言ったので、やはりとんでもない所に泊まっているらしい。

王宮と言っても離宮だということ。昨日の夜はお館様から宴のお誘いがあったこと。

温泉街にも竜の入れる浴場があったこと。ヴィーリンさんに武器を作って貰っていること。

たった1日しか離れていないのにこんなに話す事があったのかと思う。

笑ったり感心したり青ざめたりと忙しい三人だが、三人もこの国に戻ってきてから大変だったようで。


「シシーたちと一緒に来たってバレてよ。ギルドで質問攻めにあった」

「どうせなら俺の武勇伝を聞けってんだよなー」

「全部嘘っぱちのくせによく言うわ」

「、ニコさんの、話、嘘?」

「わわ、シシー、嘘じゃない、嘘じゃないぞー。そのまま純粋に、信じてくれ。頼む」

「あんたね…」

「ほどほどにしとけよ、ニコ…」





気づいたら31話になっていて驚いている最近です。


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沢山のPVと評価をいただきありがとうございます。

とても励みにさせていただいています。


不定期更新で申し訳ないですが、

必ず最後まで書き切りますのでどうぞよろしくお願いします。

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