2-8-2 佐藤の言った言葉の意味
2-8-2 佐藤の言った言葉の意味 耳より近く感じたい2
ーー7月第2週、月曜日(7/6)
音波と梶は久し振りに一緒に帰る。
梶は、先週佐藤に「余計なことは話すな」と言われたものの、やはり音波には報告したいと思い、少し照れくさそうに話し始める。
「ねえ、音波、あのね…」
「うん、何?」
「あのね…アタシ、啓太とね…しちゃった」
「ん? 何をしたの?」
「…H、しちゃった///」
「えっ、そうなの?」
「…うん」
「そ、そうなんだ///」
「うん」
「…///」
音波は顔が真っ赤になる。
梶が訊く。
「ねえ、音波は?」
「えっ、」
「音波たちはドコまでいってるの?」
音波は恥ずかしそうに答える。
「えっと…キスまで」
梶は驚いた顔をして言う。
「え…、ナニそれ?
頭撫でたり、手繋いだりでラブラブなのに、まだそこまで?」
「…抱きしめてくれたことはあるよ」
「抱きしめて、それで終わり?」
「…うん、」
「ふーん、なんか意外。
片山って、音波に対して表現ストレートだから、案外ソッチも早いと思ってた」
音波は少し俯き加減で言う。
「…急がなくてもいいかなって思ってる。
人は人、私達のペースでいいかなって。
焦らないで、ゆっくりでいいと思ってる」
音波の言葉が、何かものが挟まったような言い方に聞こえたが、梶は言う。
「逆に、大事にされてるのかもね」
「うん…そうだね」
ーーその夜、
梶は考えている。
(片山は音波に手を出してない。
音波の話し方も気になる。
あ、そういえば、計画デートの前に啓太が言ってた)
『なあ梶、俺たちこうやっていつでもくっつき合えるじゃん。
それが、突然出来なくなったらどうする?
この先ずっと出来なくなったら、どうよ?』
佐藤の言った言葉、
好きだけどくっつけない。
梶の頭がピン!と働く。
(片山、もしかして…)
片山は保健室で音波の手を握っていたが、片山が他の女子に触ったり、女子が片山に触れているのを梶は見たことが無い。
(片山は言った…言っていた…
体育祭のとき、音波…おまえだから来てって、
啓太も話してた、音波は違うって。
片山は、音波しか触れることが出来ないんだ!)
梶はスマホで検索する。
「さわれない」
「接触が怖い」
「女性が怖い」
(…女性恐怖症? 接触恐怖症…)
「片山が音波に触るの、見るようになったのは…いつから?」
(最初に部室で、音波がさわった
次は体育祭で、片山がさわった
それから保健室、片山がさわった
啓太とたてた計画で…
4月の始業式からは、両想いに成ってからは片山が…
音波は最初だけ、いや2回か?)
「音波は片山にサワレナイの?
片山が女性恐怖症だから…」
(だから啓太は言ったんだ、片山が前よりも良くなったって…音波が頑張ってるって)
梶は下を向いて言う。
「年末に啓太が言ってた言葉、アタシ…今やっと解ったかもしれない…」
(もし本当にそうなら、片山もだけど…音波が可哀想だ。
触れないなんてっ、愛し合えないなんて…)
梶は、自分が何も知らないで、呑気に音波に話したコトを後悔した。
ーー翌日、火曜日
放課後、梶は軽音楽部の部室に向かう片山を追いかける。
片山が部室に着いたところで、梶が声を掛ける。
「片山、片山」
片山は振り向く。
「梶?」
片山は梶に聞く。
「…あれ、啓太は一緒じゃないの?」
梶は確かめるために言う。
「片山、…ゴメン」
「は? 俺?」
梶からの唐突な謝罪に困惑する。
「何で梶が俺に謝るの?
ちょっと待って…理由が分からない」
梶と話す時は、いつも佐藤や音波と一緒の時。
片山は、梶に対して警戒心を欠いていた。
梶は、夏服で露出している片山の右腕に向かって、素早く手を伸ばし、掴む。
「え…」
ガシッ!
不意をつかれた片山は、腕を掴まれる。
ビクッ、
「あっ!」
バッ!
片山は勢いよく腕を振り払って後退し、梶から離れ、部室の壁に背を当てる。
掴まれた箇所を押さえ、片山は謝る。
「…梶、ごめん、」
「……やっぱり、そうなんだ、
啓太の言ってた事がやっと解った。
アタシ、片山が苦しんでるのに…
全然知らないで、自分のことばっかで、
片山たちの目の前で啓太とベタベタしてて、ごめんなさい…」
「梶、」
「ごめんなさい」
梶は頭を下げる。
片山はフゥっ、と息を吐き、梶に言う。
「…梶が謝ることは何も無い。
俺は、気を使われながらお前達と一緒にいるのは嫌だ。
だから、黙ってたし隠してきた。
梶が啓太の恋人になっても、啓太にはお前に話すなと言った。
俺が、上手く立ち回ればいいだけだ。
梶は、今まで通り啓太と遠慮なしで仲良くして、分かった?」
梶は聞く。
「ねえ片山、音波からは全く触れないの?」
片山はやや俯きながら答える。
「…、最近ようやく触れられるようになった、まだまだだけど」
「片山、音波は納得してるの?」
「……音波には、全て話してある。
それでも、傍に居ると言ってくれた。
だから、俺も先のことを考えてる」
「アタシ、音波が悲しむのを見たくないっ」
「わかってる、梶が言いたいことはわかったから…。
梶、音波とは普段通り接してやってくれ、頼む」
「…わかった」
「…ん」
表情が殆んど変わらなかった片山が、今は凄く苦しそうな顔をしている。
それを見て、梶は思った。
(音波が片山を受けとめた…
片山は音波のために、先を考えて…変わろうとしてるんだ
でも、音波は…いつまで待たなきゃいけないの?)




