2-8-1 「余計なこと話すなよ」
2-8-1 「余計なこと話すなよ」 耳より近く感じたい2
ーー7月第1週、土曜日(7/4)
佐藤と梶は佐藤の部屋に一緒に居る。
佐藤の家族は居ない。
所謂、部屋デートだ。
ベッドに座り、梶の髪の毛をイジる佐藤。
「なあ、実花って何で走るの速いの?」
「えー、陸上部だったから」
「へえ、続けなかったの、何で?」
「えー、飽きたから」
「飽きたって…」
佐藤はポニーテールにしている梶のゴムを取る。
「1番にならなきゃって走って、走って…疲れちゃった。
先輩のイジメもあったけど、走るの楽しくなくなっちゃったんだよね」
「まぁ、な」
梶はベッドからぶらりと下がった足を振りながら話す。
「アタシ、何でこんなに焦って突っ走ってんだろう、後ろから迫る人に追い立てられて、独りで走るの疲れちゃった」
「…」
「だから、運動系が弱い高校選んだ」
佐藤は縛って形のついた梶の髪の毛を手櫛で伸ばす。
「実花が突っ走る理由が分かった。
あと、円井と仲がいいのも分かった」
「え、ナニそれ」
「お前、親友って呼べるヤツ居なかっただろ?」
「…そうだね」
「円井は表裏がないし、いつも真っ直ぐだからな。
多分だけど、実花の周りに居なかったタイプだろ?」
梶は頷く。
「…アタシ、素で話せる友達が欲しかった」
「ああ」
「アタシ、強引なとこあるけど、音波はいつも自然体で受けてくれる。
アタシの前でもない、後ろでもない、横に音波がきてくれた。
ずっと仲良くしてたい」
佐藤は、知らない一面を梶が見せてくれて…嬉しくなった。
「…フッ」
梶が佐藤の方を向いて言う。
「え、何でソコで笑うの?」
「んー? いや、お前が素直で可愛いと思って」
「…ナニそれ///」
梶は佐藤から目を逸らし、前を向く。
佐藤は、首から鎖骨にかけて流れた梶の髪の毛を後ろにやろうと、親指で肌をなぞる。
瞬間、梶が感じたのが分かった。
「…あーもう、我慢出来ねー!」
梶の顎に手をかけ、自分の方を向かせる。
そして、了承無しでキスをする。
「実花、欲しい…口開けて」
「…ナニそれ、…うん///」
佐藤の口が梶の口に被さる。
舌と舌が絡まる。
「フッ、はぁっ…」
梶の顔がトロンとする。
ゾクッ…
(そんな顔されたら…もう駄目だ)
佐藤は衝動を理性で必死に抑えながら、梶に言う。
「実花、俺もう限界…抱きたい。
優しくするし、ちゃんと着けるから…」
佐藤の目が梶に訴える。
「…うん」
梶は恥ずかしそうに頷いた。
梶が了承してくれたことに喜びつつも、佐藤は梶に優しく言う。
「実花…途中で怖くなったり、いやだと思ったら直ぐに言えよ。
そしたら止めるし、俺…抑え込むから」
最初に佐藤は梶の首に、次に鎖骨の下にキスをする。
そして、そのまま梶を支えながら、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
--夕方、17時半過ぎ
佐藤は梶を駅まで送る。
梶が佐藤に言う。
「ねえ啓太、夏休みの予定は?」
「んー? 軽音祭前の練習で、部活に出る以外はバイト三昧」
「え、そうなの?
なーんだ、長い夏休みだから、色々出かけられると思ってた」
「悪いな、何処にも連れてってあげられなくて。
軽音祭では会えるっしょ」
「音波、今年も行くのかな? 軽音祭」
「そりゃあ当然来るっしょ、円井はDOSE.(ドース)のファンだし。
成斗は兄貴の手伝いで来るし。
今回はステージには立たないって言ってたから、帰りは4人で飯食えるんじゃない?」
「そっか」
梶は、佐藤に訊く。
「ねえ啓太、音波と片山って上手くいってるのかな?」
「へ?」
「だって、朝一緒に登校する以外は、なかなか会えてないみたいだし。
アタシたちみたいに、デートとかしてるのかな?」
「…、」
佐藤の顔が曇る。
普段は明るくノリの良い佐藤が、ダブルデート以降は音波と片山の話になると、顔を曇らせたり困った顔をすることが多くなった。
佐藤の横顔を見て、梶は少し不安になる。
「啓太、どうしたの? そんな顔して」
「…成斗は、あいつらは大丈夫だよ。
実花、円井には余計なこと話すなよ」
「え、何で?」
佐藤は語気を少し強めにして言う。
「何でも! お前、ピンときたらすぐ突っ走るから、
何か行動する前に、ちゃんと俺に相談しろよ、分かった?」
「え、何ソレ」
「分かったかって言ってんの!」
「うん、…わかった」
佐藤に強い口調で言われたので、梶は心なしかシュンとする。
佐藤は、自分が少し冷静さを欠いていたと気付き、梶に謝る。
「実花、悪い…ちょっと強く言い過ぎた」
梶の肩に手を掛け、引き寄せる。
「成斗も前に比べたらずい分良くなってるし、円井も頑張ってる。
あいつらは上手くやれてると思うから、実花は心配すんな」
「うん」
佐藤に返事をした梶だが、釈然としない。
(音波が頑張ってるって、どういう意味?
片山が良くなってるって、何が?)
梶は佐藤に訊きたかったが、ここでまた話をぶり返すような事を言うと、今度は本当に怒られそうな気がして、訊くのを止めた。




