2-6-5 「兄さんのおかげで…」
2-6-5 「兄さんのおかげで…」 耳より近く感じたい2
ーー
片山の目が覚める。
「…ここは、何処だ?」
「成斗、ああ良かった」
「成斗、気がついたか?」
母親と兄の大智が声を掛ける。
「あ、兄さん、母さん…」
「成斗、大丈夫か?」
「…疲れてるけど、落ち着いてる」
「もう少し横になってろ」
辛そうな表情で、片山は話す。
「…うん、兄さんごめん、俺がいつも通り我慢出来てたら良かったけど…、
今までとそんなに変わらない話だったのに、
今日は、それが出来なかった。
どうしても我慢できなくて、
父さんに…感情を出してしまった俺が悪いんだ。
だから、母さんを責めないで、
俺の事を助けようとして、取ってくれた行動だから」
「分かってる」
母親は、申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい成斗、母さん、…つい」
片山は首を振り、言う。
「母さん、謝らないで。
俺の方こそ、怪我させたりしなかった?」
「大丈夫よ、成斗」
「そう、良かった…」
片山は、ホッとした顔をする。
片山は天井を見ながら、ポツポツと話しだす。
「…兄さん、昨日、体育祭だった」
「ああ」
「リレーで走って、勝って…
女子とハイタッチした」
「え…」
大智は驚く。
片山は自分の左手を上に上げて、見る。
「自然に出来たんだ…
誕生日に、音波が…確かめたいって言って…。
俺に触れて、確かめたんだ」
「ああ」
「頭、大丈夫、肩も大丈夫、腕を直に触られて…温かかった。
そして、手首…手、大丈夫だった」
「そうか…」
片山は左手を下ろす。
「太腿は、駄目だった…
一瞬、症状が出た…と思った。
でも、直ぐに音波が見えた。
意識が戻った」
「…そうか」
少し辛そうな顔で、片山は言う。
「触られたときに身体が反応して、音波の腕を掴んで…倒してしまった。
でも音波は、俺を怖がらなかった。
そして、また言ったんだ、また…
知れて嬉しいって、俺のこと」
「良かったな、成斗」
「前からの抱きつきは、全く駄目だ…
今日も駄目だった。
だけど、音波が確認してくれたから、女子に触れた」
「ああ」
片山は母親を見る。
右手をそばに居る母親に差し出す。
そして、笑顔で言う。
「…母さん、手を乗せて」
母親は躊躇する。
「成斗、いいの?」
片山は頷いて言う。
「うん、きっと大丈夫」
母親は片山の右手に、自分の右手をそっと乗せる。
片山は、その手を握り締める。
片山は笑顔で母親に言う。
「やっと母さんに、触れた…」
「成斗、せい…と…っ!嗚呼ぁぁ…」
母親は号泣する。
片山の目から涙がこぼれる。
そして、兄の大智を見て言う。
「兄さん、ありがとう。
兄さんのおかげで、音波に逢えた」
「!…成斗…っ…」
大智の肩が震える。
ーー
少しだけ開いているドア。
「……」
気付かれないように、そっと閉まった。
ーー
片山はベッドから起き上がる。
「母さん、そろそろ帰るよ」
「そう、わかったわ」
大智は弟に言う。
「成斗、バイクだから一緒に帰ろう」
「ああ、わかった、
…、父さんは?」
「親父は、もう居ないだろう」
「…、そう」
部屋を出て、玄関まで移動する。
靴を履く。
片山は母親に言う。
「二学期は学校の行事で忙しいから、次は年末になるかもしれない」
「ええ、わかったわ」
「じゃ」
片山は大智の後ろに跨がる。
大智はエンジンをかける。
そして、母親に手を振り、バイクは発進した。




