2-6-4 「前から思ってた事だけど、」
2-6-4 「前から思ってた事だけど、」 耳より近く感じたい2
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成斗を親のベッドに寝かせ、兄の大智が居間に入ってくる。
母親を見る。
父親を見る。
父親は、信じられない、といった表情をしている。
大智が口を開く。
「親父、成斗の症状を見るの…初めてだろ、
見た感想を教えてくれ
ほら、何黙ってんの?
さっさと言えよ」
「…本当だったのか」
「クッ、ハハハ、第一声がそれかよ。
で? 目の当たりにして狼狽かよ…
お袋も助けないで見てただけとはな…」
大智は壁により掛かり、腕を組む。
「前から思ってた事だけど、いい機会だから聞くけどさ…、
親父って、成斗のこと、ちゃんと愛してた?
俺が物心つく頃には、親父は成斗のこと避けるようになってた。
地震の時までは、まだマシだったけど、
何で? お袋の浮気を疑ったから?
成斗が親父に似てないから?
DNA鑑定しても信じれないの?」
「…」
父親は黙っている。
大智は話を続ける。
「中1のときの事で、更に避けたよな、成斗のこと。
転勤の話を聞いたとき、俺は思ったよ。
親父は逃げるんだろうなって。
結果は大当たり。
そんな親父が単身赴任先から時々帰ってきて、成斗にきつく当たって攻撃して…
だから俺は、アンタに会わなくて済むように成斗と家を出たんだよ
高校から、必死にバイトして金をつくって…」
大智は母親のところへ移動し、母親の背中を擦る。
「お袋は協力してくれた。
手袋を何重もして、成斗に直に触れないように気を使って、成斗に料理を教えてくれた。
家事を教えてくれた。
俺は金を稼いで、貯めた。
お袋と居たって、お互い触ることも出来ない、
離れていれば、気を使わなくて済む。
お袋も疲弊してたから、成斗を連れて行くって話したら、分かったって…言ってくれた」
母親は肩を震わせながら泣いている。
必死に声を押し殺している。
「成斗が壊れないように、精気を取り戻させるために、俺が音楽にのめり込ませた。
あいつ、ドラムが好きだから、俺の仲間が教えてくれた。
スタジオ代を稼いで、一緒に居れるようにした。
成斗のやつ、男子校行くって言ってたけど、
今の高校に行って楽しめって、俺が勧めて受けさせた。
たまたま俺の受かった大学のひとつと創設者が同じで、交流もあるし、俺も成斗を見てやれるから」
父親の前に座る。
「知ってたか?
隣に住んでた佐藤さん、成斗と同級の啓太。
あいつが中1からずっと成斗のことを助けてくれてる。
高校も同じで、今も成斗のことを助けてくれてる。
啓太は、成斗が先生にやられてる現場を見てるから。
啓太が止めて、助けてくれたから。
親父、この話も知らなかっただろう?
最初から疑って、一切聞こうとしなかったもんな」
大智はフゥッと息を吐き、続ける。
「実の親より他人のほうが、成斗の苦しみを理解してる」
「…」
「お袋は触れない、守れない
親父は逃げて、避けて、守らない
だから俺が成斗を、出来る限り守らないとな」
父親は、終始ずっと下を向いて頭を抱えている。
「何、ショックがデカ過ぎて、言葉も出ないの?」
大智は大きくため息をつき、立ち上がる。
「成斗の目が覚める前に転勤先に帰ってくれ。
それか、何処か外で時間潰してくれない?
今、アンタに成斗を会わせたくない」
居間を出る前に、大智は父親に背を向けたまま言う。
「あのさ、もし、今日の成斗を見て、親父が成斗の事を本当に切るなら、
もう、金とか送ってくれなくていいよ。
大学で俺にかかった金は、働いて返す。
俺が、成斗を食わしていくから。
高校は、絶対に卒業させるから」
大智は成斗が眠っている部屋に戻っていった。




